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世界最強の観察者  作者: 十卡一
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第32話

ゼン・アルファが盗賊団組織『アギト』に連れていかれてしまった後、 報告と今後の対策、 ゼンの奪還に向けて1度グロリア王国へと帰還したレーゼ班。

しかし、 グロリア王国の凱旋通りの広場に戻った時にはまだ大半の班が帰還していなかった。 そしてその場の雰囲気からは、 未だ戻っていない班が永久に帰還する事はないという事を悟った。

「こ、 これは…やはり他の班も『顎』からの襲撃を受けていたという事でしょうか…?」

アランはこの光景についてレーゼに問うが、 そのレーゼすら言葉を失ってしまっていた。 目の周りを赤く腫らしながらも今は無事に泣き止んだキアラだったが、 再び瞳を潤しながら膝から崩れてしまっていた。

「…お前達()無事だったか……良かった」

レーゼ班が帰還した事を見つけると、 ガイルが無事を安堵する言葉を漏らすが、 その言葉にキアラはキッとガイルを睨みつける。

「これが…これが無事に見えますか!! ゼン君だって…私を庇って……連れていかれたんですよっ!!」

キアラはガイルの身体を拳で殴りつけるが、 スキルを使用している訳でもなく、 ましてやガイルは鎧に身を包んでいる。 そんな状態ではガイルに痛みを与えることなど出来ないが、 それをガイルは止めなかった。

「やめるんだキアラ君! ガイル先生だって、 僕達と同じ気持ちだ…」

殴り続けるキアラを止めるアランだったが、 既にキアラの拳からは血が流れていた。鎧をスキルもなしに素手で殴ればこうなること位分かっている。 ガイルも分かってはいるが、 ここでキアラの怒りを受け止めなければという意思の中、 受けていた。

「本当にすまない…全ては俺の責任だ」

「いえ、 あの場にいながら自分は何も出来ませんでした…自分は、 無事にゼン君を奪還した後…聖騎士団を脱退します…」

レーゼは拳をキツく握りしめ、 その拳からは血が滴り落ちていた。 この凄惨たる光景の中、 全員無事に帰還出来た事だけでも偉業と讃えられるかも知れないが、 結果的には『顎』は目標を達成し、 こちらは男子生徒を1人拉致された…という事が現実だ。

「レーゼ…お前の意思は理解出来る。 しかし、 何よりも先にゼンの救出に向かうための作戦を練らねばなるまい」

「そんな悠長な事してる暇なんてありませんっ! 今すぐにでも向かうべきですっ!」

この場においてガイルの提案が最も的を射ている事は明白だが、 目の前で自分のせいでゼンが連れていかれてしまったという現状に囚われ過ぎているキアラは、 まともな判断が出来ていなかった。

「キアラ君、 君の気持ちも理解出来るが…相手の実力を知ってしまった以上、 そうもいかないだろう」

「なら、 私は1人でも────」

パァンッ!!

その時、 凱旋通りの広場中に聞こえるほどの乾いた音が響き渡る。 広場の人間の殆どがその音の正体を知ることがなかったが、 レーゼ班とガイルには理解していた。

その音は、 正常な判断が出来ていなかったキアラの頬をモノがはたいた音だった。

「…いい加減に、 してっ!! そんな事…ゼンが望んでない事、 くらい…わかるでしょ…っ!」

それは、 誰も聞いた事のないモノの叫びだった。

大粒の涙を零しながら…自分自身も何も出来なかった悔しさからの叫びだった。 今にも号哭ごうこくしそうな表情だが、 そんな事をした所で何も始まらない…それを分かっているから、 しない。

「…ゼンは、 別にあなたの為に…犠牲になったんじゃない…っ! 皆を助ける為に、 モノ達を死なせない…為に、 行ったんだ…っ!」

モノの心からの叫びに正気を取り戻したキアラは、 モノをぎゅっと抱きしめる。

「ごめんなさい、 モノちゃん…。 ありがとう」

深呼吸をし、 1度感情を立て直し、 ガイルに向けてハッキリとした声で言い放つ。

「ガイル先生、 指示をお願いします」

「…よし、 レーゼ班は全員1度聖騎士団用の会議室に集まるように。 俺はまだ動ける人員と、 その他の聖騎士団長に声を掛けてくる」

「「「(…)はい!(…)」」」

ガイルの指示通り、 レーゼ班全員が聖騎士団会議室へと向かうと、 ガイルは空を見上げながらゼンの事を思う。

「…お前もいい仲間をもったな、 無事でいてくれよ」

そう言うと、 通信魔道具を取り出し、 ある所に連絡する。


「…ガイルです、 緊急事態です。 招集願えますか…」



──────────────


「…お前達の事情も、目的も分かった…だが、 俺が素直に従うと思ってるのか?」

イギルから、 『アギト』の団員がこの世界に何故なにゆえそこまでの憎しみを抱いているのかは理解したが、 その目的については納得しかねる。 俺には守りたい人達が沢山いる。 そして、 俺にはそれを成し得る為の職業ジョブも持っている。

「そうだろうね、 僕達の過去も、 事情も君には関係ないからね…でも、 忘れた訳ではないだろう?」

『支配者』

名前からしても厄介そうな職業である事は間違いないだろう。とある条件を達成すれば、 問答無用で相手を支配出来るようなスキルなのだろうか。 もしかすると、 既に俺との間にその条件は達成されているのかもしれない。 だが、 それならばもう既に俺の事を支配し、 目的のために利用していてもおかしくない…。 だとするならば、 まだその条件は達成されていない…?

いずれにせよ、 警戒しておくに越したことはない。

「…さて、 与太話もこれくらいにして、 そろそろ君には僕のあやつり人形になってもらうよ…?」

そういって、 イギルは俺に向けて右手を向けてくる。 恐らくその右手が何か条件の一部なのだろう。

しかし、 後方には団員のメンバーが洞窟の入口を塞ぎ逃げる事が出来ない。

「…いくよ、 ゼン。 『支配』」

『支配』と唱えると、 イギルの右腕を紋様が覆い尽くし始める。


俺もこれで…結局世界を破壊するための手助けをしてしまう訳か…。

ごめんな、 皆。


ごめんな、 じいちゃん、 ばあちゃん。

俺は、 意識が遠のいていく感覚に恐怖した。

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