第31話
「やぁ、 元気だったかい? ゼン・アルファ」
「…お陰様でな」
ハオの斬った空間とやらを通ると、 そこは既に『顎』の隠れ家らしき所に移動していた。 ハオ本人曰く、 ワープや瞬間移動とは似て非なるものらしいのだが、 体験した俺からしたらそんな小さなことは気にならない程に常軌を逸したスキルだった。 『スキル』とは言ったものの、 目の前で使用されたにも関わらず俺の『観察者』の対象から外れていた所を考えると、 スキル単体で行ったものではなく、 何かしらの魔道具を使用していた事は明らかだ。 だとすると、 遠くからハスタの腕を斬り、 空間を斬った芸当から考えられるのは、 ハオが使っているあの大太刀に何かしらの仕掛けを施している…あるいはあの大太刀自体が魔道具としての役割なのかもしれない。
何れにせよ、 警戒しておくに越したことはない。 もし、 運良く逃げられたとしても、 あの瞬間移動にも等しいスキルを使用されれば一瞬で距離を詰められるだろう。
ここは、 今のところは潔く指示に従って行動した方がよさそうだな。
「…それで、 俺に何の用があって狙ってきたんだ? あの場で殺さなかったって事は、 俺に何かしらして欲しい事があるんだろ?」
俺の素直な反応に、 意外なことにイギルは驚いたような表情を見せる。
「へぇ…意外だね。 恐怖は無いのかい? その年頃の男の子だと、 恐怖に支配されて何も言えない…それか、 助けて下さいと懇願する事の方が多いと思うんだけどね」
俺のあっさりとした態度に驚いている様だが、 それなりの覚悟を決めて着いてきている。 こんな所でくたばるつもりのも無いので、 指示に従うつもりで来ていたのだが…。
「こちとら魔族とも戦ったからな…命の取引は済ませた所だ。 そして、 俺は仲間を信じてる」
心配かけたくないので、 出来ればじいちゃん達の耳には入らない事を願うが、 今回の作戦の隊長はガイル…そして国王も介入している所を鑑みると、 恐らくその願いは叶わないだろう。
そうなれば、 現役を退いていたとはいえ、 俺の特訓を毎日相手してくれていたので、 衰えてはいないだろう。 国家級戦力を引き連れて、 どうにかここを突き止めてさえくれれば問題ない。
「仲間…ね」
俺の発言に少し暗い顔をするイギル。
「でも、 ここは見つけられないと思うよ? その為にハオにお願いしたんだからね」
空間から移動する事で、 追跡を遮断したと言いたいのだろう。 だが、 甘く見てもらっては困る。
「余談はこれくらいにして、 早速本題に入ろうか…君を拉致した目的だが、 勿論君の職業、 『観察者』目当てだ」
どこからその情報が漏れてしまっていたのかは、 恐らく考えても無駄だろう。 今回の調査情報ですら漏洩していたのだ。 内部にスパイのような事をしている人物がいるか、 もしくは盗聴出来る魔道具等を用いている可能性が高い。
「そして、 僕ら『顎』の目的…それは────
────大いなる母、 『MOTHER』の復活だ」
『MOTHER』。
とある御伽噺に登場する、 遥か昔に大陸の半分を破壊したとされる邪神。『破壊』を司るとして描かれている存在であり、 神が創り出したとされる邪神の一体で、 創造した神でさえ支配することは出来ず、 勇者に封印されるまで破壊の限りを尽くしたとされている。
御伽噺の通りならば、 かつての勇者に封印された…と記されていたハズだ。
「『MOTHER』って言ったって、 御伽噺の邪神だろ? 本当に存在する…わ…け……」
自分で口にした途端、 急に信憑性が増した。
そう、 俺達『律者』も御伽噺の登場人物として存在しているからだ。 そして、 その御伽噺が最早御伽噺という言葉だけでは片付けられないモノだと言うことも身をもって知っている。
…つまり、 神話上のみにしか存在しないと思われている『MOTHER』という存在は、 本当に封印されているだけなのかもしれない。
「…そう、 今君が気づいた通りだ。 MOTHERは実在する」
「……仮に、 MOTHERが実在するとして、 お前達は一体何をするつもりだ?」
俺の質問に、 少し笑みを浮かべながら答える。
「MOTHERの司る『破壊』を利用し、 この世界を破滅へと導くのさ」
笑みを浮かべたのは一瞬で、 その目的を話す際の表情からは憎しみと怒りしか見えなかった。 この世界そのものに確固たる憎しみを抱いている…そんな表情だった。
「MOTHERの封印を解いたとしても、 神でさえ手がつけられなかった邪神だぞ! 利用するなんて出来るわけないだろ! そんなことしたら…お前達だって死ぬんだぞ!! お前らだって……っ!?」
俺は、 他の『顎』の団員達に目をやるも、 全員がイギルの見せた憎しみと怒りの表情をしていた。 その目からは、 自分の『死』など予め覚悟しているかのようだった。
「僕達、 『顎』の団員は全員がこの世界に酷い仕打ちを受けている。 虐げられた者、 家族を皆殺しにされたもの、 人体実験された者、 大切な人を壊された者、 友に裏切られた者、 奴隷として家族に売られた者、 罪を擦り付けられた者、 全員がこの世界に憎しみを抱いているんだよ…」
…成程、 それが『顎』の団員の絆のようなものになっているのか。
どこか腑に落ちないでいたのだ。
何故、 このような少年に皆が忠誠を誓い、 手足となって動くのか。 ハオからしてみれば、 もしハオに子が居れば自分の子供と同じくらいの少年だろう。 そこまでの年齢差がありながらも『顎』のリーダーはイギルなのか。
それは、 イギルには目標を達成させられるだけの力があるということなのだろう。
「…お前も『律者』なのか?」
そして俺は今更にもなって、 イギルの右腕にあった紋様が無くなっている事に気が付いた。
つまり、 前回見た呪いの紋様のようなモノは、 俺と同じようにスキルを使用した際に生じるものだろう。
「そう、 僕も君と同じく神話上で『律者』と称されている者だ。 そして、 律者の中でも強力な職業、 『支配者』だよ」




