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世界最強の観察者  作者: 十卡一
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第30話

俺達のチームは、 『沈黙の剣』団長レーゼを筆頭に『ローザアイズ』に向けて移動していた。 俺とモノがローザアイズに任務クエストで出向いた道のりと同じ道を移動していたのだが、 前回とは違いまだ日が登っている時間帯での道のりは、 夜とは全く違う雰囲気を醸し出していた。

「モノ、 どう思う?」

「…前は、 人払いのスキル…か、 なにか使ってた…のかも…」

そう、 前回と違う大きな点は魔獣がチラホラ生息している点だ。 魔獣にとって夜は、 正に格好の狩の時間に他ならないにも関わらず、 1度も見かけなかったのだ。

その人払いのスキルか魔道具を使用していないという事は、 もう盗賊団『アギト』はこの一帯には居ないのかも知れない…。

「来たよ、 ゼン君、 モノ君! 魔獣だ!」

2人で考え事をしている最中さなか、 アランの掛け声のお陰で魔獣がこちらに攻撃態勢をとっていることに気が付くことが出来た。

「狼型に尾が2本の魔獣…ということは『ダークウルフ』です!」

この日の為と、 一日中魔獣の生態情報を漁っていたキアラは、 魔獣の種類、 攻撃方法等は頭の中に入れているようだった。

「ダークウルフは素早い動きで翻弄しながら連携して攻撃してきます! 幸い4体なので、 各一体ずつ相手をすれば大丈夫です!」

キアラの的確な指示の元、 俺、 モノ、 アラン、 キアラの全員がそれぞれ別の個体に向けて臨戦態勢をとる。

かくいうレーゼは…。

「ぼ、 僕は陰ならが応援しているよぉ〜…」

岩陰に隠れて手を振っていた。

「…あいつ本当に強いのか?」

「あっはは…久しぶりの任務なんじゃないかな…?」

苦笑しながらもフォローするアランだが、 真意の程はその苦笑が物語っていた。

「それと、 俺の職業ジョブの事はレーゼは知らないから、 全力は出せない。 手が空いた人は手伝ってくれ」

「…まかせて、 こっちは…終わった…」

「「「…え?」」」

俺達がモノの方を見ると、 モノが対峙していたダークウルフは見るも無惨に丸焦げだった。

「僕達も負けてられないね…はぁっ!」

モノの瞬殺に当てられたアランは、 既に顕現させていた『聖剣エクスカリバー』を手に、 ダークウルフに突っ込んで行った。 それに続けてキアラもダークウルフに攻撃を仕掛けてる。

「な、 成程…あれが『聖剣エクスカリバー』なのかぁ〜…」

先程まで物陰から手を振っていただけのレーゼは、 アランのエクスカリバーを見るや、 そそくさと出てきてそのエクスカリバーをキラキラとした目で眺めていた。

やはり剣の世界ではエクスカリバーは伝説級の宝具なだけあり、 手にすることが憧れのようなものなのだろう。

「…ゼン、 終わった…」

「あぁ、 ありがとな」

じぃ〜っと俺を眺め、 頭を差し出しているモノ。 この体勢の時は頭を撫でろという合図らしい…。

俺の代わりにダークウルフを片付けてくれたモノにわしゃわしゃと頭を撫でてやると、 ご満悦な表情を見せる。

「レーゼ…さんは戦わないんですか? 1度お手並み拝見したかったんですけど」

物陰に隠れながらも自らの剣は大事に抱えているところをみると、 恐らく少なくても戦う意思はあると思っている。

「…もしかして、 俺と同じで戦えないんじゃなくて、 ()()()()んですか?」

力がなく()()()()のではなく、 俺と同じで()()()()理由があるのかもしれない。

「そう…だね、 僕の戦いにチームは不必要なのは事実だね…でも、 チームが嫌いって訳ではないんだよ、? 僕が戦う時は…僕1人の時だけって決めてるんだ…」

深刻そうな表情の中には、 どこか寂しげな顔も混じっている…そんな風に俺には見えた。

「それより…き、 君も戦えない理由があるのかい?」

「いやぁ、 そんな人に話せるものじゃないんですよ…ただ、 僕、 職業ジョブが剣士なもので、 あまり役にたたないんですよね」

これで引き下がってくれるだろう…。

なんてったって、 この世界で優秀な職業とは絶対的優位に立つ事が出来ると言っても過言ではない程に、 個人の評価に関わってくる。 そんな中、 剣士は最底辺と言ってもおかしくは無い程の職業だ。 ましてや『剣聖』と謳われているレーゼからすれば、 興味など斯程かほども湧かないだろう。

……そう思っていたのだが。

「えぇ!? それじゃあ君は、 剣士なのにSクラスに入っているって事なのかい!?」

失念していた。

俺が所属している『Sクラス』というものがどういう意味を表しているかを忘れてしまっていた。 『剣聖』が憧れる『勇者』や、 この国では初めて発現したであろう『研究者』や、 他にも変身士ヴァリアントの中でも希少な不死鳥や言霊使いがゴロゴロいる様な粒揃いのクラスだった。 そりゃあ聖騎士団の中でも話題になっていても不思議ではなかった。

「団のみんなが言っていた『謎の剣士』は君の事だったのか! まさかこんな所で一緒に戦えるなんて思ってもいなかった!」

いや、 あんたさっき戦ってなかったじゃないか。

…と言いたい気持ちを抑え、 今はレーゼをどう丸く収めるかが先決だ。

「是非とも僕と1度手合わせしてくれ! よし、 今からやろうっ! 行くよぉ────」

「待て待て待て待てっ!? さっきまでの挙動不審はどこいった! しかも、 さっきあんた戦う時は1人の時だけって言ってただろうが!?」

レーゼは俺の制止も聞かずに大切そうに抱えていた剣の柄に手をかけ始める。

「…ゼン、 聖騎士団長に…口が悪い…」

「そりゃ悪くもなるわ! 急に俺に向けて剣を抜こうと来てきたんだぞ…そんなの『禁忌違反』だろ!?」

『禁忌違反』を理由に回避しようとしたが、 アランとキアラは苦笑いを浮かべている…。

その答えは、 今にも血相を変えて切りかかろうとしているレーゼが答えた。

「大丈夫っ! 聖騎士団長には正式な決闘を行う権利が与えられているんだ! なんてったって団の訓練に必要だからね! さぁ! やろう!!」

成程、 それでアランとキアラは苦笑していたのか…。 しかし、 こんな事に油を売っている暇はない。 一刻も早く調査しておかねば、 またいつ『顎』の団員達が来るかも分からない。

「……分かりました。 全てが無事に終わったら、 正式に決闘を受けます。 なので、 今は調査に集中して────」

「っ!?」

その時、 その場の全員の感覚が張り詰めた。

その理由はその場の全員が理解し、 そして死を覚悟する程だった。

確かに向けられた殺気。 そしてその殺気の主は、 すぐ側まで来ていた。 殺気の主は3人、 ゆっくりとこちらに歩いて来ており、 戦闘態勢と言えるような体勢は一切とっていない。

「全班、 緊急連絡っ! 『アギト』の団員と思しき3人を確認、 真っ直ぐ僕らの班に向かって歩いてきています!」

張り詰める緊張の中、 レーゼはすぐに通信魔道具で全班に連絡を入れる。

しかし、 時は既に遅かった。

「無駄だよぉ〜ん? 俺様のスキルでここ一体に妨害結界貼っといたから♪」

装飾品をジャラジャラと鳴らしながら語る男性は、 輪状の魔道具らしき物を指で回しながらこちらの行動をあざけるように笑っていた。

「しまった…完全に通信経路を経たれてしまったみたいだ…」

意外にも、 レーゼの行動はこの状況下では最も正しく、 こちらに歩みを寄せてくる3人を前にしても、 冷や汗こそ垂らしているが、 パニックには陥っていなかった。

「どうしますか、 レーゼ団長」

アランは、 レーゼにこの状況を打破する策を聞くが、 それには答えなかった。 勿論、 聞こえていなかった訳ではないだろう。 今すぐには策を講じる事が出来ない程に、 気の抜けない状態だった。

「1度引いた方がいいでしょうが、 相手がそれを許してくれるかどうか…ですね」

キアラの言う通り、 逃げるが得策だろう。 しかし、 先んじて通信遮断を行っているような用意周到な相手だ。 そう簡単には逃がしてくれないだろう。

そして、 意外にも交渉を仕掛けてきたのは、 先日遭遇した『顎』の1人、 団員No.4のガブラスだった。

「聞け、 俺達の目的はただ1つ…お前だ」

そう言って指を指してきたのは、 紛れもなく俺だった。

一定の距離まで近づいて来た3人は足を止め、 交渉の答えを待つように黙ったままだ。

「…君は一体何者なんだ? あんな連中から目をつけられるような事でもしたのかい?」

「まぁ、 心当たりはありますけど…正直、 理由は分からない…っていうのが本音ですね」

先日遭遇した時も、 俺だけを狙ってやってきていたようにも思えたが、 やはりその予想は正しかったようだ。 勿論俺の職業ジョブである『観察者』が目的だろう。

「俺に何をさせるつもりだ!」

「…答える義理はない、 交渉に答えられないなら、 全力で連れて帰るだけだ」

そうガブラスが言うと、 無精髭を生やした男性が背中に拵えている大太刀の柄に手を掛ける。

「へぇ〜…君、 結構いいモノ持ってんじゃん♪」

「「…っ!?」」

決して無精髭の男性に気を取られていた訳ではない。 しかし、 装飾品をジャラジャラ付けた男は既に俺達の間合いを完全に詰めており、 キアラの後ろに回り込まれていた。

それに気付いた時には遅く、 キアラの両手を右手のみで拘束し、 高く持ち上げ、 完全に無防備な状態となってしまっていた。

「キアラーっ!」

「おいおい、 あんまり勝手に動いてんじゃねぇぞ? 」

ギロリとこちらを睨めつける眼光には、 紛れもなく殺意が宿っており、 その殺意に当てられた俺達

は、 蛇に睨まれた蛙の如く身動きひとつ取れない状態になってしまった。

「や…やめて、 下さい…」

「えぇ〜、 やめるわけないじゃん? こんなデカいやつそうそう居ないって〜♪」

そういってキアラの抵抗も虚しく、 無防備な胸部を鷲掴みにする。

「んっ…や、 やめ…て…」

アランと俺は、 勇者固有スキル『強者の意思』のお陰で、 ありとあらゆる状態異常系は効果を成さない。 なので、 今俺達が動けないのは強大な殺意のみの『生物的本能』によるもの。


動けば確実に来る『死』への恐怖。


「────ハスタ、 止めろ」

装飾品をジャラジャラと付けた、 ハスタと呼ばれた男を制止させる発言をしたのは、 俺達の誰かではなく、 無精髭を生やした男性だった。

「なぁに言ってんですか、 ハオの旦那。 こんな上玉目の前に置かれておいて、 手ぇ出すなっつーほうが無理でしょ♪」

しかし、ハオと呼ばれた男性の制止も聞かず、 ハスタはキアラを弄んでいた。

恥ずかしさと恐怖から涙を流すキアラを前にしても、 俺達の誰一人として動く事が許されない状態の中、 俺は歯噛みした。


こんな事になるのなら、 キアラに声をかけるべきでは無かった。


「──わかった、 お前達について行く…だから、 キアラを離してくれ」

「…だ、 だめ…です…。 ゼン君…っ!」

俺の決断に、 班の全員が納得していない表情を見せるが、 今はこれが最前であり、 キアラを解放する為ならば…俺はこれでいいと思っている。

「彼もこういっている。 だから離せ、 ハスタ」

「そのガキがついてこようが、 俺様はこの女を俺のモノにする♪ ハオの旦那の命令に従う言われはないってことっすよ」

そういって、 ハスタは今まで動かしていた手をゆっくりと下腹部の方へと移動させていく。

「それ以上やめろ! 俺が目的なら、 俺がお前らに同行するなら文句ねぇだろ!」

「ハスタ、 これで最後だ……離せ」

「やなこった♪ それじゃあ…いっただっきまぁー────っ!?」

途端、 キアラは()()()を付き、 ハスタの手から解放されていた。

それもそのはず、 キアラを拘束していた手は、 今や()()()()に転げ落ちていたのだ。

「──キアラっ!」

俺は『高速移動』を使用してキアラを抱え、 後方へ移動する。 キアラは涙を流しながら、 何も言わず俺に抱きついて来た。

「ごめんな…俺は動くことすら出来なかった…」

優しく背中をさすり、 ハスタを睨み付ける。

「いってぇ〜…何も俺の手斬らなくてもいいじゃないっすか〜」

自分の手が斬られているにもかかわらず、 ハスタは飄々《ひょうひょう》とした口振りで愚痴を漏らす。

「クレアに治してもらえ…それと、 二度と俺の前で同じ真似をするな」

「へいへ〜い…あ〜あ、 砂まみれじゃん」

あの距離から…ハスタの腕だけを斬ったのか?

いくら大太刀だからといって、 俺達との距離は15メートル程あった。 なのに、 キアラの腕は斬らずにハスタの腕のみを切断した…という事なのか?

スキルであることは間違い無いのだろうが、 目で捉えていないスキルは『観察』外だ。 なんのスキルを使用していたのかすら不明だ。

「約束通り、 その娘は解放した。 ゼン・アルファ、 ついてこい」

「…あぁ、 わかった」

「ダメだ、 ゼン君! 」

「すまねぇな、 アラン…でも、 ここで全員殺されるよりかマシだろ?」

納得はしていない。 しかし、 俺の方法意外にこの場を切り抜けられる選択肢が無い。 そんな葛藤をしている表情のアランの肩をぽんと叩き、 俺は『顎』の団員達の方へ歩き出す。

「…あら、 意外に止めてくれるんだな」

俺の袖を掴み、 行かせまいとするモノ。 しかし、 俺が笑いかけると、 その手を離してくれる。

「ゼン君…すぐに応援を呼んで、 君を救出に向かう。 それまで絶対に死なないでくれよ」

レーゼは、 自分の無力さからか、 拳を握る力のあまり、 その手からは血が滴っていた。

「それ、 敵の前で言うことですか…? まぁ、 ここで殺さないあたり、 利用価値があるって事でしょう…そう簡単には殺されませんよ」

「ゼン君…いや、 私のせいで…いやです…っ!」

泣きながら俺の方へ駆け寄ろうとするが、 それをアランとレーゼが制止させる。

「やめてください…離してっ!行かないで下さい…っ! 私…ゼン君が、 す────」

何かを伝えようとしたキアラは、 モノのスキル『睡魔コールドスリープ』によって遮断されてしまう。

「…こうするしか、 なかった…」

「いや、 ありがとう…モノ」

こういう状況になって、 俺がどれだけあいつらと絆を育んできたのか…実感した。

そんなことをしているうちに、 俺はハオの前までようやく到着した。

「…いい仲間をもっている。 大事にするといい」

「言われなくてもそうするさ、 てか、 おっさんは良いのか? 仲間の腕ぶった斬って」

未だに「いてぇー」とボヤいているハスタの方を指さしながら問うと、 その答えはガブラスが答えた。

「ハオ様の団員ナンバーは俺達より上、 団長がいない今、 リーダーはハオ様だ。 リーダーの指示に背いたハスタが悪い」

結構シビアなんだな、 『顎』。

「それで、 俺は今からどこに連れていかれるんだ?」

後ろに居た班の全員が無事に退避出来たことを確認し、 俺は潔く『顎』の連中について行く事にした。

「歓迎しよう、 『顎』の隠れ家だ」

ハオがそう言うと、 大太刀を抜き、 俺達の前方を長方形に空斬りする。

すると、 微かに斬られた長方形の形に()()()()()()()()()()様にみえる。


「俺の職業はまだ教えられないが、 ざっくり説明すると、 俺の太刀で空間を()()()のさ」


かくして、 俺は盗賊団『顎』に拉致され、 隠れ家に連れていかれた。

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