第28話
隣街の決行日は、 日付が回っていたとはいえ俺とモノが会話をした次の日だった。 時間がないので、 イグニスには悪いが先に俺とアランだけで登校すると伝え、 その間に昨日辿り着いた結論をアランに伝えるべく、 登校途中でモノと落ち合い、 説明をしながら街を歩いていた。
「──成程、 その御伽噺が現実とリンクしているなら、 僕達『律者』と呼ばれる人間が後6人は存在する…という事なのか」
「俺とモノの見立てではそういうことになる。 しかし、 俺が聞いた話でこのグロリアの初代国王を最後に勇者以外の『律者』は今まででも確認されていなかった…」
先日じいちゃんから聞かされた、 昔読んだ国宝級書物によれば、 初代国王以外に『観察者』の出現は無かった様だし、 その書物には他の『律者』と思われる特殊職業の記載は何も無かったらしい。
「…なぜ、 今まで出現しなかった…『律者』が…今になって複数出現しているのか…」
そう、 それが今回分かったことで増えた謎だ。 俺達の職業の謎については理解することが出来たとはいえ、 なぜ今、 なぜ俺達に出現したのかということ。
「御伽噺通りに行くと、 僕達が生き延びるためという事になると思うんだけど…」
アランは御伽噺の内容から糸を解いていこうと考えているようで、 モノから語られた御伽噺の1文1文を口ずさみながら考えていた。
『禁忌』のお陰もあり、 争い等もあまり起こらなくなったこの世界では、 まず普通に生活していれば命を落とすような事態に陥ることの方が少ないように思える。
だが、 御伽噺の律者と同じ理由で出現しているのなら…。
「生き延びるために神々から与えられたものが『律者』ならば、 それに伴うような事態が起きている…もしくは起きようとしているのかも知れない」
「ゼン君…それって…」
これも仮説ではあるものの、 理由としては成り立っていると思う。 しかし、 一体その脅威が何なのか…。
「…今の現状で、 考えられるのは…魔族の侵入…そして、 先日の盗賊団を、 名乗る『顎』…」
もし俺達の職業が御伽噺と同じ脅威の為に出現したのなら、 俺たちはそれを果たす義務があるのかもしれない。
「とりあえず、 ここで考えたってしょうがねぇ…今は調査の事だけを考えよう」
「そうだね、 君を攫おうとしていた所を見ると、 まだ計画は途中という訳だろう…そして、 何故か君の職業の事を知っている」
「そういうことになるだろうな。 俺はこれといって剣術に長けていたり、 悪の道に走るような素行の悪さでもないと自分で自負している」
「…昨日、 屋敷に侵入した…」
ぎくり。
「…半裸の妹を、 襲った…」
「おいまて、 それは違うぞ」
「そ、 その慌てっぷりは…本当なのかい? ゼン君」
「だから誤解だって!!?」
俺はこの時ハッキリと思った。
こうして何気ない毎日があるのは、 御伽噺に出てくる『律者』と、 それに従ってきた民が作り出した平和なのだと。
友と冗談を言いながら笑い合い、 学校に通って、 切磋琢磨する。
この平和は崩しちゃいけない。
────────────『顎』隠れ家。
団員達はイギルの指示で別々に行動しており、 今この隠れ家にいるのは、 団長のイギルの他に2人。
魔道具の製造を得意とする少女、 ティンゼルと竜人と人との実験体、 ニルヴだった。 ニルヴは洞窟に住む蝙蝠を器用に尻尾を使って捕え、 もぐもぐと咀嚼している。
そしてティンゼルは、 イギルに依頼されていた情報を伝えに来ていた。
「団長、 先日の調査結果ですが…どうやら団長の予想通り、 グロリア王国は実力のある聖騎士数名…そして『律者』が3名でチームを編成するようです」
「そうかい、 やはり僕の予想通り…といったところだね。 それで、 グロリア王国が動くのはいつだい?」
くく、 と自分の予想通りの動きになっている事に笑いが込み上げてくるのを抑えきれずに笑うイギル。
「…団長ならもう気付いているのではないですか?」
ティンゼルは自分がかき集めた情報があまり役に立っていない事に落ち込みながら、 団長に問う。
「そうだね…僕の予想では、 今日…なんじゃないかな?」
コウモリを咀嚼しているニルヴを見ながら答えるイギルだったが、 それに対してティンゼルはため息を吐く。
「私の調査、 必要でしたか?」
少し呆れを見せながら眼鏡の位置を戻すティンゼル。 その表情からはイギルの予想が全て当たっていた事を物語っていた。
「それが…団長の職業の能力の1つなのですか?」
「いいや、 ただの勘…さ。 僕の職業は情報集めなんかには向いているとはいえ、 情報を操作することが出来る訳じゃないからね。 予想はあくまで予想さ」
洞窟内にあった岩を使って作られたであろう椅子から腰を上げ、 右腕を小石に翳す。
「『配下』」
イギルがスキル名を口にすると、 途端に右腕に痣が発現し、 小石はみるみる形が変わり始める。 元々小石だったものは飛龍の形を象り、 そのサイズはわずか3センチ程の高さしか無いものの、 駆動させる魔力根源はそこらの魔獣よりも遥かに強力だ。
「これくらいの大きさならバレないだろうし、 偵察に役立つだろう…ほら、 行っておいで」
イギルがその飛龍に命令すると、 小さく鳴いた後に洞窟の外へと飛翔していった。
「さて、 ティンゼル…転移魔道具で団員全員を今すぐ転移させてくれ」
「それは構いませんけど…転移魔道具は今2つしか残ってないですよ? 」
ティンゼルの創り出した転移魔道具に必要な素材は、 とてもそうそう手に入るものではなく、 創り出せる転移魔道具にも限りがある。
しかし、 ティンゼルの話を待ってましたと言わんばかりにニコニコするイギルだった。
「大丈夫ですよ、 その為にはまず初めに『ナナ』をここに転移してくれないかい?」
団員No.7 ナナ。
先日新しく盗賊団に加入した新人だ。
しかし、 自信ありげに答えるイギルの真意を把握することは叶わず、 ティンゼルは未だに疑念の表情のままである。
「失礼ですが団長…『変身士』の彼女を1番に転移させる意図はなんなのでしょうか?」
ティンゼルの疑問は当然の事だと言えよう。 仮にナナの変身士が飛翔系のものだったとしても、 散り散りに行動している団員を全て集めてくることは不可能に近いだろう。 しかも、 イギルは団員全員を転移させてくれと言っていた…。
人物を転移させられる生き物など存在しない限り、 変身することが出来ない。
その疑問をイギルは丁寧に答えてくれる。
「彼女…ナナの変身士は『カメレオン』の変身士なんだ。 その特性は『捕食』」
「特性…『捕食』?」
変身士は、 生物から力を授かる際にその生物の特性を取得することができる。 例えば『不死鳥』の特性は『超回復』。 受けた傷をたちまち回復する事が可能だが、 回復にも魔力を要求される為に無限という訳ではないが、 不死鳥としての不死性を生かした特性といえよう。他にも『麒麟』の特性は『帯電体質』といい、 ありとあらゆる雷属性の攻撃を無効化、 吸収する事が出来、 吸収した電撃は放出することも、 魔力に変換することも可能になる。
そして、 ナナの変身士の特性は『捕食』。
「『捕食』は、 ありとあらゆる万物を捕食する事が可能で、 捕食した対象に変化することが可能となる。 そして、 その捕食を職業をもつ人間に使用した際…どうなると思う?」
イギルの質問に少し考えるも、 その答えはすぐに導き出された。
「ま、 まさか…」
「そう、 捕食した人間の職業のもつスキルを使用出来るという訳さ。 そして、 ナナは一度『複製師』の職業の人間を捕食している」
つまりは、 ティンゼルが創り出した転移魔道具を複製する術をもっている、 という事だ。
「ふふふ…さて、 団員を皆集めてください。 今からは狩りの時間ですよ」




