第21話
────俺の職業について、 アラン達に公表したあの日から3日がたった。 部隊編成に難儀しているのか、 それとも何かの作戦があってなのかは分からない。 ガイルからも他言無用を強いられている今、 この話題について知っている生徒は俺とアランとモノだけだ。
今は行動出来ない俺たちは、 訓練所で特訓をする他なかった。 勿論俺の職業を知らない人物から見られないようにする為、 ガイルが俺たち以外の訓練所の使用を禁止している。
訓練を初めてまだ3日だが、 アランもモノも急成長を遂げている…。 俺はオリジナルスキルの向上と、 スキル習得に力を入れてきた。 スキル習得は、 他の学年やクラス等の戦闘訓練を積極的に観戦し、 より多くのスキルを習得する事が出来た。
そして、 スキルの融合を可能とする魔道具の複製はモノに協力してもらい、 新しいデザインと共にそれなりの数を確保する事が出来た。
いつまでも『顎』のエンブレムが刻まれたナイフを使う訳にもいかず、 モノには感謝している…。
「はぁぁっ! 『顕現せよ、 神槍ゲイ・ボルグ』」
「…ダメだ、 もっとイメージするんだ!」
アランの特訓は、 基礎鍛錬や近接格闘の技術は勿論だが、 それよりも『想像力』を増やす必要がある。
勇者の固有スキル『覇王道』で様々な武具を顕現させるのに必要な条件は、 その武具への知識と具体的なイメージが必要なのだ。 知識の方はモノの伝を使って資料をかき集めることが出来たものの、 肝心なイメージ力がアランには足りなかった。 恐らく、 今まで現実主義に囚われ過ぎて型にはまり、 想像するという事をしてきてこなかったのだろう…。
結局イメージ力が足りず、 神槍ゲイ・ボルグは完全に顕現する前に消えてしまった。
「はぁ、 はぁ…だ、 ダメだ。 どうしても完成しきれない…っぐ」
体内魔力を使い切ったのだろう、 アランは
息切れを起こしながら膝から崩れ落ちてしまった。 アランの潜在魔力量は一般人とさほど変わらない量なので、 回復まで半日とかからないくらいだろうが、 どちらにせよ今日のスキル使用での訓練は出来ないだろう… 。
「今日の『覇王道』の訓練はこれくらいにしておこう…。 一通り体力回復出来たら、 体術の方の特訓に切り替えよう」
いつガイルからチーム編成の通達が来るか分からない今、 できる限りのレベルアップをしておく必要がある。
「体術の特訓をしてくれるのはありがたいのだが、 ゼン君の方が特訓出来ないだろう?」
「…確かに、 俺もスキル取得と熟練度も上げたい…オリジナルスキルも作成したいが……人手が足りていないな」
「それなら、 クラスのみんなから手を貸して貰うのはどうだろう」
確かに、 特訓の人手を借りるのであればSクラスに頼むのが1番いいのだろうが…守秘義務がある上に、 ただでさえ俺達だけ授業を休んでいる。 これ以上巻き込む訳にはいかないだろう。
「俺はあまりクラスに馴染んでいないから、 誰が何の職業なのか、 レベルがどれくらいなのかも分からないんだ……あっ」
そうか、 レベルさえあれば同じクラスである必要はない訳だ。 更に信用度もあるというお墨付き。
俺の何かを閃いた顔に、 アランは小首を傾げている。
「1度ガイルに聞いてみた方がいいけど…俺の知り合いに凄腕の『格闘家』がいる」
「格闘家…という事は、 他のクラスの人かい?」
「あぁ、 俺の知る限りでは…こと格闘に関して言えば、 ばあちゃんの次に強いかも知れない」
あの時は実践不足で盗賊のリーダーに遅れをとっていたが、 こと対人格闘になると、 彼女は強い。
「…よし、 時間もそろそろお昼頃だし、 1度昼食を挟んだ後でまた特訓しよう。 その時までに手を貸してもらえるか聞いてみておくよ…モノ! 昼食に行こう!」
俺達の特訓を見ながら訓練所の隅っこでずっとノートにペンを走らせていたモノにも声を掛け、 食堂に向かう。
────────────『顎』隠れ家。
山の横に空いた穴を根城としている『顎』の隠れ家には、 現在1人を除く団員が勢揃いしており、 リーダーである白髪の少年、 イギルを待っている団員達は、 丸い大きな石机を囲んだ状態で各々の表情を伺っていた。
それもそのはずであり、 団員の中には入団して他の団員と会ったことのない団員も居り、 いくら同じ団員とはいえ信用性はないのだ。
「…おい、 新入りぃ〜、 自己紹介位したらどうだぁ〜?」
皆が警戒体勢の中、 団員の中でも古株と言っても過言ではない人物、 金髪をオールバックに整え、 耳や首には無数の装飾品をぶら下げている。
「落ち着け、 ハスタ。 毎度毎度新人いびりをするのはやめろ」
巨体をもつガブラスに言い宥められた『ハスタ』と呼ばれた男は、 目立つように舌打ちを鳴らして口を閉じる。
「ハスタの言いたい事も分かる…2人とも、 とりあえず自己紹介しておいて貰えるか?」
イギルがいない今、 本来ならばこの場を仕切るのはNo.2である『ハオ』の役目だが、 肝心のハオは石机の上に足を上げ、 分厚い本を顔に開いて置いており、 完全に周りを無視する体勢だ。
こう言った場合は、 No.4のガブラスが取り仕切る事が多い。
「は、 はいっ!! だ、 団員No.7番…ナナですっ! 職業は変身士です!」
年齢は16歳と幼げではあるものの、 ナナと名乗る彼女もここにいるという事は、 紛れもなく『顎』の団員だと言うことを物語っている。
「君もここにいるという事は、 同じ境遇の同志という事だ…過去は聞くまい」
「…けっ、 そんな女に人が殺せるのかよぉ?」
せっかくガブラスが場をまとめている中、 ハスタはナナに煽るような口調で質問をする。
「ガブラス…俺達は決して人を殺す為に集まっている訳ではない…。 目的の為ならば手段は選ばないが────」
「────殺せますけど? ていうか、 もう殺してます」
先程までの慌てようとは打って変わって、 強い口調でハスタを見つめる。
「……あ゛? 」
「ま、 まぁまぁ…そろそろ僕も自己紹介したいんだけど、 いいかなぁ?」
たまらずアハトは間に入り、 自己紹介を始めようとした時、 ピタリと全員が静かになる。
シンとした空間に、 遠くから足音が近付いてくる。
「…やぁ、 みんな。 よく集まってくれたね」
隠れ家にやってきたのは『顎』のリーダー、 イギルだった。 イギルが喋り始める前に、 新人であるナナとアハト…そして寝てしまっているハオ以外の全員が跪いていた。
「今日はもう1人、 団員に加わる事になったから紹介しておくよ…おいで」
そういって、 イギルは後方に向けて手を招くと、 奥の方から1人の…いや、 1匹の少女が現れた。
人とは似つかわしくない、 白く太い尾を揺らし、 赤黒く歪に曲がった角を一対生やしていた。
「…リーダー、 この子は?」
イギルの連れて来た少女を一瞥したガブラスは、 見たことの無い容姿に戸惑いつつも確認する。
「変身士…では無さそうですね…」
今まで静かにしていたおさげで眼鏡をかけた少女、 ティンゼルが眼鏡の位置を戻しながら答える。 彼女のかけている眼鏡は、 彼女が職業のスキルで作りだした魔道具で、 相手の職業を把握出来るという効果がある。
「その通り、 この子のこの姿は生まれつきのものさ…つまり、 人間と竜人のハーフだよ」
「「っ!?」」
この世界に存在する『人間』『魔族』の勢力と、 その2つのどちらにも族さない種族…それが『竜族』であり、 その中でもより長寿の竜族のみが可能とする『竜人化』というものがある。
「し、 しかし…人間と竜族とで子供は出来ないのでは…」
「その通りだよ、 恐らくこの子は人間の遺伝子と竜人の遺伝子から作られた…人工的な交配によって生まれたのではないかと推測している。 この子を保護した場所は、 隣の国の『ヴィルヘルム』にある廃れた研究所で発見したからね…さぁ、 自己紹介を」
イギルは、 竜人の少女の背中を優しく押すと、 少女は目の前に並んでいる人間をゆっくり見渡した後、 イギルに向かって口を開いた。
「……くっていいのか?」
「ははは、 ダメだよ。 彼らは僕の大切な仲間達だからね…そして、 君も今から仲間だ」
「そうか、 くってはならぬのか…われのなは『ニルヴ』という。 よろしくたのむぞ!」
ギラリと光る牙を見せ、 満面の笑みを浮かべる竜人『ニルヴ』を団員として迎え入れたイギルは、 洞窟の外に1人で歩いて行くと、 曇っている空を見上げながら深呼吸し、 言葉を漏らす。
「もう少しだよ…もう少しで、この世界を母に授けられる」




