第18話
ガイルの放送を受けた俺は、 指定された場所『訓練所』まで足を運ぶ。 1度教室を覗いて見たものの、 やはりモノとアランは既に訓練所へ向かっている様で、 教室には居なかった。
教室では様々な噂がされており、 聖騎士団に所属が決まっただったり、 逆に何か仕出かして退学なのでは…と。
この様子を見るからに、 アランとモノは今回の出来事をまだ誰にも話していない事が伺える。
流石アランの手腕が光っているといえよう。 モノはそもそも誰かに自分の話をする奴じゃないからな。
…そんな推測は置いといて、 国王が来ているとなれば俺もそろそろ急がねば首が飛びかねない。
訓練所まで全力疾走で階段を飛ばし、 入口のドアを開けると…。
「よっ! えらい遅かったの」
「時間は守れとあれだけ…やれやれだね」
アラン、 モノ、 ガイルは勿論の事、 複数の教師がチラホラと、 俺に認識阻害のスキルを教えてくれた大魔道士のお姉さんと、 現国王様。
…そして、 俺のじいちゃんとばあちゃんがそこに居た。
「な、 なんでじいちゃんとばあちゃんがここに…?」
そもそも国王がこんな場所に護衛もなしで来ることもおかしいのだが、 そんなことよりも俺はじいちゃんとばあちゃんの突然の再会に驚きを隠せなかった。 今回の事は、 勿論俺はどちらにも報告していない。 2人とも心配症だから何するか分からないからだ。
「なぁに、 国王伝でガイルの坊主から連絡がきたもんでな…」
じいちゃんが言うには、 元々現役で聖騎士団長を務めている時にガイルの指導を行っていたらしく、 2人は師弟関係にあたるらしい。 現国王『アーノルド・デンゼル・グロリア』も、幼少期はじいちゃんから剣術、 槍術、弓術、斧術、 ばあちゃんからは武術、 体術と、 様々な術を教えこまれたのだとか…。
つまり国王は俺の兄弟子にあたる。
「よく来た、 ゼンよ。 キミの活躍ぶりは耳にしている」
アーノルド国王は、 その類稀なる才覚から25歳にしてこの国を収めている。 実際に目の当たりにした事がなかった俺ですら、 先程の一言で悟らされる程の才覚だった。 言葉一つ一つが心地よく耳に入ってくる…そんな声だ。
「…お、 お初にお目にかかります、 ゼン・アルファです…え、 えぇと……」
「ふふふ…そう畏まらなくてもいい。 師匠の息子に畏まられると私もむず痒い…ここは『兄弟子』として接してくれ」
俺の緊張を汲み取ってか、 優しく言葉を投げかけてくれる。
「小話はこれくらいにして…アル、 実際どうだ?」
『アル』というのは、 恐らくじいちゃんがアーノルド国王を呼ぶ際の愛称なのだろうが…流石じいちゃん、 国王を愛称呼びとは…。
「どう、 というのは…今後『顎』をどうするか…という事ですね。 勿論私としても見過ごす訳には行きません…ですが、 現状では情報が少な過ぎます」
その通りだ。
現状で把握している事は、 『顎』の団員は現在8人で、 まだ職業も把握していない団員もいる。
何かを成す為には俺の存在が絶対ではないにしろ必要だ、 という事。
そして、 必要なのは俺個人ではなく、 俺の職業『観察者』である、 という事。
その時、 全員が難儀している中、 一人の手が上がった。
「キミは…バエル家の脳とまで言われた若き天才、 モノ・バエルだね」
国王を前に『天才』とまで言わせるとは…よくよく考えてみたらとんでもない奴と一緒にいるのかもしれない…。
国王の認識に こくりと小さく頷いた後、 次なる一手を打つための策を弄じる。
「…もう一度、 あの街周辺を…調査…すべき…」
確かにそれは今最も先に行動すべき事だろう。 情報が少ない今、 俺達自身で行動を起こしかき集めなければいけない。 そして、 『顎』が現れたあの周辺になら、 何か手がかりがあるかもしれない。
しかし、 その案に待ったをかけたのが、 以外にもアランだった。
「…確かに名案ではありますが、 問題は『誰が』行くのか…ではないでしょうか」
「そこは我が聖騎士団に任せるのが得策だろうね。 彼等なら万が一の場合でも対処する心得がある」
罠の可能性を考えても、 再び生徒を向かわせる訳にもいかないので、 聖騎士が参加してくれるのはありがたい…。
だが……。
「…国王、 失礼を承知で言いますけど…ただの聖騎士じゃあいつらには勝てないです…」
瞬間、 集まっていた数人の教師達がざわめき始める。
そりゃあそうだ。
俺が言っている意味は、 この国の一般兵力ではあいつらに勝てない、 といっているのと同じなのだから。
勿論この国の聖騎士をバカにしている訳でも、 ましてや舐めている訳でもない。
何故ここまで言いきれるのか、 俺の職業を知っているじいちゃん、 ばあちゃん、 大魔道士のお姉さん、 モノ。 そして、 魔族戦で、 結果のみ知っているアラン達は分かっている様だったが、 俺の発言に耐えきれずに1人の教師が声を荒らげて襟を掴みかかってきた。
「おい、 貴様ァ! 一体何を言っているのか分かっているのか!! 貴様はたった今、 この国の聖騎士全員を侮辱しているのだぞ…っ!」
初対面の教師にここまで怒鳴られる日がくるとは思っていなかった…。
「侮辱などしていません、 事実を言った迄です…今からその理由を──」
「──減らず口を…ふざけるなぁ!!」
そう怒号を上げながら拳を握る教師。 俺は名も知らない教師からの鉄拳を甘んじて受けた。 それを受ける義務があると思った。
ボコンッ! と、 訓練所に響き渡る拳と頬の衝突音の後に、 口の中に血の味が広がる。
「…ヒール…」
すぐにモノが治癒スキルを使用してくれたおかげで、 小さな切り口はすぐに治った。
「…申し訳ございません、 アーノルド国王様。 如何なる処罰も受ける覚悟でございます」
そういって掴んでいた襟から手を離し、 国王の前に片膝をついて自らが行った行動への意志を述べる。
だが、 その意志すら生温いとでも言わんばかりに憤怒に燃えていたのが…じいちゃんだった。
「ザラトーよ、 お前さんの言いたい事も気持ちもよく分かる。 だがな…今お前さんが手をあげた子供が、 わしらの子供だと知っての愚行か…?」
じいちゃんの周囲の大気が陽炎の如く揺らめいている様に見え始め、 実践訓練の時の衝撃すら耐えていた壁がピシピシと音を立てながらヒビを伸ばしていく。
「…じ、 じいちゃんっ!?」
こうなる予感は多少していた…だからこそ何も報告していなかったのに…。
……ここまでとは思ってなかったけど。
じいちゃんの発する重圧に耐えきれず、 ザラトーと呼ばれていた教師は完全に顔を上げられず地面に項垂れ、 冷や汗を尋常ではないレベルで垂らしまくっている。
この現状に見かねて動いたのは、 他の誰でもないばあちゃんだった。
「はぁ……ふんッ!」
ばあちゃんは大きくため息を付くと、 じいちゃんの後頭部を思い切りぶん殴って正気を戻させた。
「いい加減にしな、 ゼンは殴られてもいいと思ったから避けなかったんじゃろう…ならあたしらがどうこう言う立場にはないよ!」
ばあちゃんの怒りの鉄拳により、 ざわめいていた周囲が一瞬にして静まり返った。
「話の腰を折ってすまんかったの、 アル坊…とりあえずは作戦会議じゃな。 それで、 頼みたい事があるんじゃが…」
「な、 なんでしょう…」
拳聖の不意打ち打撃には聖騎士長も耐えられなかった様で、 未だにじいちゃんは地面に突っ伏している。
そんなじいちゃんを横目に、 ヒヤヒヤとした表情のアーノルド国王は、 ばあちゃんの台詞に反応した。
「ゼンの秘密を教える…ただ、 関係者は極力少なくしたいんじゃ」
その台詞に反応したのは、 国王以外にも2人いた。 既に俺の秘密を知っているモノと、 本当は知りたくてたまらなかったアランだ。
『顎』戦の時の借りもあるので、 アランにも教えてやってもいいかもしれない…。
俺は、 遂に決意する。




