第14話
「…さぁ、 起きるんだ…ゼン君」
トントンと肩を優しく叩かれ、 俺は唸りながらも目を覚ます。 目の前には金髪のどちゃくそイケメンの顔。
「……お前が美少女ならなぁ」
「何を寝言を言っているんだ…さぁ、 早くしないと朝食を摂る時間がなくなってしまうよ」
魔族から襲われて約1週間がたった今、 目覚まし勇者から起こされた理由は主に2つある。
今日から学校側から任されるクエストの授業が始まる事。
そして、 単純に俺とイグニスが起きられない事。
目覚まし勇者のお陰で、 俺とイグニスは無事朝食にありつけることが出来、 お腹を膨らました後、 学校へと向かう。
学校が全寮制ということもあり、 この時間帯は大抵聖職業学校の生徒達で溢れていた。
国を上げて賞賛を浴びたアランは、 もちろんこの上界の街では一躍人気者なので、 「見て見て! アラン様よ!」「きゃー! すっごいイケメン!」「私アプローチしてこようかしらっ!」 等と、 街の女性達から黄色い声が浴びせられていた。
「いやー、 今日もすげぇな…アラン」
「本当にそんなんじゃないんだけどね…ははは」
そんな事を言いながら、 バツが悪そうに俺の顔をチラリと見やる。
やめろ、 こっち見んな。
俺の職業、 観察者が広まらないようにする為に利用したとはいえ、 男性なら皆が喜んで踊り出すレベルの待遇を受けている訳なのだが、 根っからの善人なのだろう…アラン本人はこの状況があまり気に入ってはいないようだった。
そもそも根っからの善人でなければ、 『勇者』という職業にはなる事が出来ないのかもしれない。
現に、 話しかけられた全員に言葉を交わし、 握手までファンサービスしている。 そんなてんやわんやのアランを俺とイグニスは少し遠くの方で見守っていた。
「──さて、 昨日の授業で話した通りだが、 本日からは『任務クエスト』を達成してもらい、 その報酬で自分達の寮費を支払う事となる」
担任のガイルが言うには、 『任務クエスト』は学校側が認めた、 安全面、 難易度、 クエスト達成までの時間、 全てのボーダーラインを達成している依頼のみを生徒にまわす様なので、 怪我などは多少したとしても、 死には至らないものが殆どらしい。
しかし、 中には極めて危険な依頼もあるようだが、 そちらは学校側から選ばれた生徒のみが受けることを許されているようだ。
依頼は1週間に1つは受諾するよう義務づけられており、 達成出来なかった者は、 次の週に新しいものを受諾出来るが、 任務を達成出来なかった場合、 勿論報酬が出るはずもなく、 寮費や食費が賄われなくなってしまうという訳だ。
「ちなみに補足説明だが、 もし任務クエストを1週間以内に達成出来た場合は、 別の任務クエストを受諾することも可能だ」
成程…つまり、 1週間に1つは受諾しなければいけないが、 何も1つだけで終わる必要はないということか。
その時、 クラスの1人が手を挙げた。
「質問か…なんだ、クロム」
以前の模擬戦で、 不死鳥の『変身士』の職業だった。
「せんせぇ! 任務クエストはいつやればいいんですか!」
勢いよく立ち上がった反動で、 桃色の三つ編みが激しく揺れている。
朝一から元気なものだと少し感心する。
「授業は勿論、 今まで通りだ。 つまりそれ以外の時間で…という事になる」
つまりは放課後や、 夜…もしくは登校するまでの朝に依頼を達成して行かなければならない。
任務クエストの難易度にもよるが、 あまり時間を掛けすぎると睡眠不足で授業が頭に入ってこない…なんてことも有り得る。
サラッとえげつない課題出してくるもんだ…。
「──説明は以上だが、 他に質問はあるか?」
ガイルが生徒達を見渡すが、 先程のクロムの他には挙手する生徒はいなかった。
「よし、 ならボードに任務クエストを貼っていくから、 各々《おのおの》好きな任務を取って俺に提出してくれ」
そういって、 目の前のボードに任務クエストを貼っていくガイル。 そして生徒達は貼っていく最中にもかかわらず席を立ち、 任務クエストの周りに集まり出した。
さて俺も…と席を立った瞬間、 袖をぐっと引かれる。
犯人の正体はモノだった。
「…ゼン、 一緒に任務クエスト…行こう」
そういって見せてきた任務クエストは、 上界から少し下りた街からの依頼で、 内容は『盗賊団の撃退』だった。 難易度はCと記載されており、 目的の盗賊団さえ叩けばクリアの簡単な依頼だ。
「…でも、 依頼を2人でした所で、 報酬は半分としても達成ノルマがクリアしないだろ?」
俺のその言葉を、 待ってましたと言わんばかりに依頼用紙を少しずらす。 すると、 もう1枚後ろから依頼用紙が現れる。
その用紙を受け取り、 目を通すと…同じ様な内容で、 依頼主のみ名前が違っていた。
成程、 同じ街の住人が被って依頼を出していたのか。 確かにこれなら達成ノルマもクリア出来、 尚且つ《なおかつ》報酬も折半しなくていいという事になる。
「これなら俺達でやれそうだな…でも、 なんで俺なんだ?」
俺の質問に、 モノはきょとんとした表情になり、 少し考える。
「…わかならい…何故か、 一緒にいたい…と、 思ったから?」
「…っ! そ、 そうか……ほ、 ほら…早く申請しに行くぞ」
深い意味など無いのだろうが、 俺も立派な男の子だ。 流石にあんなことを言われてしまえば…。
何とかその場を誤魔化し、 モノの背中を押しながらガイルの元へ向かい、 申請を終わらせた。
今日1日の授業を終え、 任務クエストのための準備をするため1度寮に戻ると、 どうやらアランもイグニスも、 今日から早速任務クエストに向かうようだった。
「そうか、 ゼン君はモノ君と行くのか」
「同じ街の依頼があったんだよ…2人は?」
「俺ァ、 ボディーガードだな。 商人が馬車を引いて隣町まで行くみたいでよ、 それの護衛だ」
任務クエストの時間までまだ余裕があるようで、 イグニスは自慢の一振を熱心に砥石で研いでいた。
「僕は国宝倉庫の見張りだよ…ほら、 この前の魔族の一件から、国宝倉庫のセキュリティに懸念が出ていたからね」
確かに、 魔族を倒した勇者に見張りを頼めるのであれば国としても安心だろう。
「…でも、 ボードにそんな重要な任務クエスト貼ってあったか?」
イグニスの言う通り、 場合によってはアランが受けていたとは限らない…。
「…ゼン君のおかげだよ」
「…ん? あ、 あぁ…成程」
珍しく嫌味を感じたと思ったが、 『魔族を倒した勇者』だから、 という事か。
つまりは学校側…ひいては国から名指しで依頼が入ったという訳だ。
「なんか分からんが…良かったな、 アラン!」
真実を知らないイグニスは、 アランに更に追い討ちを掛け、 それに苦笑するアランだった。
そんな事を話しているうちに準備を終え、 俺は2人よりも一足先に寮を後にし、 モノとの集合場所へと向かう。
集合場所に指定していたのは、 この王都の出入口に当たる門で、 ここから目的の街までは徒歩で向かう。 本来なら馬車などを使って移動するのだろうが、 今回の目的が盗賊団なだけに、 派手に動くと相手から先に察知されてしまい、 身を隠されてしまうだろう。 そうなってしまえばそう簡単に見つけられなくなり、 任務クエストを達成する事が出来なくなってしまう。
集合場所に着くと、 既にモノは準備を終え、 先に待っていた。
「すまん、 待たせたな……なんだそれ」
先に待っていたモノは、 フード付きの真っ黒いローブで身を包んでいた。
「…ん、 モノ特製魔道具…認識阻害の効果がある」
確かに、ローブを留めるボタンに位置する箇所には魔石が使用されており、 魔道具だと言うのは間違いないのだろうが…。
俺が懸念している事を見抜いたのか、 少しドヤついた面持ちで、 ローブの内側から同じような素材の布を取りだした。
「…大丈夫、 ゼンのも…ある…」
ブイサインを送るモノだが…。 やはり俺の懸念は伝わっていなかった。
いや、 普通に恥ずかしいだろ……。
「お、おう…ありがとな……」
性能こそ今回の任務クエストにはうってつけの代物で間違いない。 魔道具の仕組みを理解していない俺からしたら、 腕輪やリングだったり、 そういった装飾品で機能してくれれば1番いいのだが…。
しかし、 自作のローブに身を包み、 裾をフリフリしているモノを前でそんな無粋な事は言わない。 有難く使わせてもらう。
だが、 受け取ったローブに袖を通して、 その性能はすぐに気づく。 本人は認識阻害としか言っていなかったが、 他にも多数の付与がされていた。
加速、 重力負荷耐性、 スキル攻撃耐性、 物理攻撃耐性…把握出来る範囲でもこれ位は付与されている…。改めてモノの技術力、 知識力に驚かされた逸品だ。
「…ありがとな、 よし…向かおう」
モノの頭をぽんぽんと優しく撫で、 俺達は目的の街へと足を動かした。




