第13話
目の前には、 5年前に俺の村を襲撃してきた魔族…。 村を襲撃した魔族は全てあの日にじいちゃんが殲滅したので、 ガウラの身体を使用している魔族ではないが、 やっと…仇を自らの手で果たすことが出来る。 そして、 それを出来るだけのスキルは身に付けた。
「全力で戦ってやりたいところではあるんだが…生憎俺のスキルは他人にバレちゃいけないもんでね…」
『ふむ…それでは興が削がれてしまう。 ならば、 我が認識阻害の魔術を張っておこう』
やはり昔調べた本の通り、 魔族が使用するのは『スキル』ではなく『魔術』。 人間にはない魔素を使用して発動させるものらしい。
『……これでよかろう、 今から30分はこの場所を認知することすら出来ん。 だが、 それはつまり貴様は少なくとも30分は我の相手を1人で行わなければ行けないということだが……』
「願ったり叶ったりだ──『焔壊弾』ッ!!」
開始の合図など待たずに、 すかさず遠距離からの攻撃を放つ。 しかし魔族はそれを、 さも何も無かったかのように片手で受け止めた。
魔族は魔素を身体全体を覆うように纏うことで、 それを人間が使う鎧のように出来ると書いてあったが、 まさかそれが人間に乗り移っている状態でも使用出来るとは…。
『名乗りもなく始めるとは…貴様はそれでも騎士か?』
「魔族が騎士を語るなんてな…悪いが俺はお前ら魔族に聞かせる名前は無ぇってこった!! 『重力魔弾』!」
ゆっくりとこちらに動いてくる魔族に、 俺はすかさず追撃を開始する。
『全く…同じ手で我に攻撃が通じるとでも──む?』
かかった。
魔族に決定打を与えるには『聖』のスキルでしか不可能だということも承知の上だ。 だからこそ、 そこを突いた。
口調、 発言、 立ち振る舞いからして、 この魔族は自分に絶対的な力があると思っているようなので、 相手の攻撃をどう捌くのか…結果受け止めた。
『重力魔弾』は、 ダメージ自体は目的ではない。 このスキルは当たった標的の重力を跳ね上げさせるスキルなのだ。 その効果は1発につき倍々式になっている。 4発放った重力魔弾全てを受け止めれば────魔族への重力負荷は16倍になる。
『……ぐ、 成程…初めの1発目は囮…か…』
16倍の重力に耐えきれず、 地面に突っ伏した魔族は、 まんまと嵌められた事に気付くが、 遅い。
「そういうこった…お前にはなんの恨みもねぇけどよ…5年前の恨み、 晴らさせてもらうぜ」
俺は未だ気絶しているアランの召喚させたエクスカリバーを拾い上げ、 警戒しながら魔族の方へ歩み寄る。
…待て。
……弱すぎじゃないか?
これくらいの魔族なら、 大人全員でスキルを駆使すればまだ倒せていたかもしれない。
あの時襲撃してきた魔族は一体だけで、 他は魔族が使役している魔獣達だけだった。
致命傷を与えるためには『聖』のスキルが必要だが、 鎮圧なら別だ。 他のスキルでもダメージは入るし、 戦闘不能状態にまで追い込むことは出来る。
ならば、 わざわざ馬を駆り出してまで聖騎士を呼ばなければならなかった理由があるはずだ。
何だ…何をまだ隠している?
俺は歩み寄る足を止め、 進んだ分後ろへ後退し、 再び距離を取る。
『……流石だな。 観察力は長けているようだ』
そういって、 魔族は何事も無かったかのように立ち上がった。
「…効いていないのか?」
『いや、 効いているさ…少し重いが、 問題ない』
「…っち、 デタラメだな」
16倍の重力を浴びておいて、 それを少し重いで片付けられるとは思っていなかった。
『では、 次は我がいこう…呪縛ノ棘』
その瞬間、俺の足元の影がウネウネと動き出し、 鋭い棘となって俺へと攻撃を始めた。 魔族を攻撃するために拾っていたエクスカリバーで上手く去なす事に成功したが、 攻撃は止まらず俺を襲ってくる。
『フハハハハハ! 自分の影に殺されそうになる気分はどうだ?』
こちらは攻撃を去なす事で手一杯で、 隙だらけだと言うのにそれを見て笑える程の余裕を見せつけられる。
「…そうか、 影だ」
この影の棘は、 自らの影ゆえにいくら距離を取ろうとしても追いかけてくる。 ならば、 影そのものを消してしまえばいい。
「まさか、 こんな使い方があったなんてな…『ホーリーソード』!」
瞬く間にエクスカリバーが『聖』の効果で光り輝き、 その光により俺の影は一瞬だけ消滅する。 予想通り一瞬でも影が消滅すれば術は解除出来るようで、 再び出来た影が動くことは無かった。
『…やりおるな、 やはり勝負はこうでなくてはなっ!』
体制を立て直す暇を与えまいと、 一気に俺との距離を詰め、 打撃を繰り出してくるが、 その打撃をエクスカリバーの腹で受け止める。 しかしその威力は想像以上で、 衝撃を殺すことは出来ず後方へ弾き飛ばされる。
…なんて威力の打撃だ。 モロで喰らえばひとたまりもない事は、 衝撃で痺れている手からひしひしと伝わってくる。
『まだまだ終わらんぞっ!』
再び一蹴で距離を詰め、 次は乱撃を繰り出す魔族。 それを俺は拳聖スキル『完全回避』で躱す。
このままではダメだ…。 何か策を考えないと、 押されてばかりでは勝負に勝つことは出来ない。 だが、 そんな暇すら与えない程の連撃で、 俺は回避することで精一杯だった。
その時、 何かに気付いた様子の魔族は、 自ら後方へと距離を取る。
その原因は、 ガウラの身体にあった。
いくら魔素を纏い、 身体の強度を上げたとはいえ、 先程まで行っていた行動に身体がついていけていない様で、 腕や脚がひび割れ始めていた。
…だとするならば、 狙うは────脚。
それも、 回避出来ない程の強力なスキルで破壊すれば…勝てる。
「そろそろお前も限界なんだろ?」
『どうやらそのようだな、 軟弱な人間に憑依したことが間違いであったようだ…是非とも貴様の身体が欲しい所だ』
不気味にニタァと笑い、 構えを取る。
魔族も俺の大技を受け止め、 その上で俺に憑依するつもりのようだ。
こちらとしても好都合だ。
「…この一撃で決着をつけてやる」
俺は、 体制を低くし、 エクスカリバーを弓を引くような状態で構える。
すると、 周囲から白い光がエクスカリバーの切先に集まり始める。
『……ほぅ、 貴様…『聖騎士』であったか。 ならばその一撃を受け止めた上でその身体を頂戴することにしよう…』
俺の体制に、 俺が繰り出すスキルを把握したようで、 魔族は自分の前にいくつもの魔法陣を描き、 俺の攻撃を正面から受け止める準備を始める。
周囲から集まった白い光は、 やがてエクスカリバーだけではなく、 俺の周囲にまで巡る。
じいちゃんから教えられた、 魔族を伐つ《う》為のスキル。
「…行くぞ、 魔族────
────『瞬速ノ断罪』」
俺が踏み込んだ場所からは、 まさに爆発ともとってもおかしくは無い程の音を発し、 その威力を利用し、 魔族へ突進する。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
エクスカリバーの切先と、 魔族の作り出した魔法陣による防御壁との衝突により、 激しく火花が飛び散る。
しかし、 防御壁を展開していた魔法陣が次々と破壊されていくも、 その一撃は最後の1枚を破壊し終えたところで効力を失ってしまった…。
『フハハハハハハハハハッ! どうやらここまでだったようだな!!』
まさに勝ち誇ったかのような笑い声をあげ、 自分の前で力尽き、 地面に膝を付いている俺目掛けて拳を下ろす────。
────が、 その拳が俺を捉えることは出来なかった。
「──残念だったな」
魔族は視界を回転させながら俺の姿を自らの後ろで捉える。
ボトリ、 という音で、 自分の首が切られたことに気付く。
『……成程、 我は…負けたか』
驚くことに、 身体自体はガウラ…つまり人間だが、 首を切られた断面からは血の一滴も出ることは無かった。
『もうじきこの身体と共に我は消滅する…最後に教えてくれ、 どうやって我の後ろに回り込み、 首を斬った』
「簡単な事だ…だが、 これは『観察者』じゃないと完成しない技だ」
そう、 聖騎士スキルの『瞬速ノ断罪』と、 拳聖スキル『反撃回避』を使用出来るのは、 観察者の俺だけなのだから。
防御壁の魔法陣の数からして、 瞬速ノ断罪だけでは防御壁を破壊することで限界だろうと思い、 先に『反撃回避』を使用しておいたのだ。
『反撃回避』は、 相手から攻撃を受けた際に発動する遅延型スキルで、 一瞬で対象の後方へと移動できる、 拳聖の中でも1体1に特化した強力なスキルだ。 そして、 瞬速ノ断罪の勢いが停止したと同時に、 その隙を狙って魔族が攻撃を仕掛けてくるのは容易に予測できる。 相手の後方へと移動した際に、 すぐさま斬れるように体制を整えていた…という訳だ。
俺の説明を受け、 魔族は吐血することも出来ずに苦笑する。
『……そうか、 貴様は選ばれたのだな…』
「選ばれた…?」
その一言だけ言い残し、 ガウラの身体はボロボロと崩れ始める。
「おい! 選ばれたって、 誰にだ! 俺のこの職業と関係があるんだろ!」
自分の謎の職業について、 この魔族は何かを知っている…。 しかし、 その問いに答える訳もなく、 完全に身体は崩れ去ってしまった…。
「……くそ、 後味わるいな…」
魔族が消滅したことにより、 同時に認識阻害の結界も消滅したようで、 直ぐにイグニスと、 担任のガイルと数人の教師がこの場に駆け付けてきた。
そして、 少し前に目覚めたアランには、 話せる範囲で今までの事を話しておいた。
魔族は俺が撃退させたこと。 血剣レーヴァテインは回収したこと。 そして、 魔族を撃退したのは、 アランだと言うことにして欲しいこと。
もちろんアランは断ってきたが、 ここは1つ命の恩人として脅迫してやると、 嫌々ながらも承諾してくれた。
当然ながらアランは国を上げて称えられたが、 その際に贈呈されたお金は全額俺へと渡してきた。
これは受け取っておかないと、 アラン自信手柄を横取りしているような状況自体が不服だろうと思い、 有難く受け取り、 半分はじいちゃんとばあちゃんに、 今回の出来事、 そして魔族が言い残した『選ばれた』という内容の手紙と共に送ることにした。
…そして、 魔族が言っていた『目的』というのは────達成していた。




