第63話 竜人
南の大陸を後にして数日後、俺たちを乗せた船は西の大陸が見えるところまでやってきていた。
しかしすぐに船は進路を変え、北へ向かって進み始めた。
「ちょっと! どうしたんですか!? もう目の前なのに……」
するとその声に返事をするのは船長さんではなく、テュケーだ。
「あの町は人間の町じゃないわ。遠くだからよくはわからないけれど、たぶん狼人間の町。あんな所に行ったら、間違いなく無事じゃすまないでしょうね」
狼人間? そういえば西の大陸はいまだに種族間の争いがあるって言ってたな。そう考えると確かに危険かもしれない。
「確かにそうだな。狼人間と戦って勝てるとは思わないしな」
そんなことをつぶやくと、テュケーは不思議そうな様子で、首をかしげながら
「え? 別に勝てるわよ。人数が多いから戦っても無駄みたいなものだから戦わないだけだし」
「は? 狼人間だろ? 普通人間よりもかなりの力を持ってるんじゃないのか?」
するとそれに答えるのは、近くで話を聞いていたイリスだ。イリスはいつ大陸についてもいいようにすでに服を着替えていた。少し服を整えながら、俺の質問に答える。
「確かに狼人間は人間の数倍の力を持っています。しかしそれは、ランク1の状態です。そもそも他種族で音ゲーができるのは限られているんですよ。狼人間はかなり下のほうの分類なので、ほとんど音ゲーはできないと思います」
そういってイリスは大陸のほうを眺める。
「でも、人間の港町があるのはかなり北のほうですよ。いったい後どれくらいかかるのでしょうか?」
「それは心配いらないぞ」
突然後ろから声が聞こえる。振り返ると船長さんが堂々と立っていた。
「あれ? 運転はどうしたんですか?」
「運転? 運転なんてそもそもほとんどやってないぞ。大体は部下に任せている」
え!? じゃあいったいこの人は何をやっていたのだろうか。まあ船長さんにはそれなりの仕事があるのだとは思うが…… なんだか勘違いしていたのが恥ずかしいな。
「で、人間の町は遠いんじゃないかって質問だな。確かにここからさらに1週間以上かかるな。でだ、代わりのところに止めるぞ。この先に俺の知り合いが船の管理をしている竜人の町がある。そこに止めようと思うんだが」
「「りゅ、竜人!?」」
驚きの声を上げたのは、イリスとテュケーだ。プシケはあまり驚いていなかったし、テスラとガイアは二人で何か会話していてこっちの話はあまり聞いていなかったみたいだ。
しかし竜人か。かなり驚いているな。やっぱり強いんだろうか。
すると俺が竜人のすごさが分かっていないのが見て取れたのだろうか、テュケーが竜人について話したそうにこちらを見ている。じゃあとりあえずその期待に応えてあげようか。
「竜人ってそんなにすごいのか?」
「もうすごいってもんじゃないわよ! 人間がかなわない種族の一つなんだから!」
ほう。人間でもかなわないのか。確かにそれはすごそうだな。
「竜人の身体能力は本当に恐ろしいもので、反射神経は0、001秒とか言われているのよ。どんなに高速な譜面でも見極めちゃうんだから。それに1秒当たりの連打数は80を軽く超えるというわ」
……化け物だな。
「でもそれなら、東の大陸のエルフ狩りのところで黙っちゃいなかったんじゃないか? なんで襲われていないんだ?」
「うーん。詳しいことはわかっていないけど、エルフは薬を作るためにドラゴン系を狩っていたって言うし、別にエルフが狩られても気にならなかったんじゃないかしら?」
「半分あってるな」
テュケーの憶測に船長が反応する。俺たちがどういうことだという顔をすると、船長さんは軽く答えてくれる。
「あれな、我々人間は、そもそも2つの種族にはそれ相応の権利と土地を残していたんだ。人間がかなわないと思う種族2つにな。まあ結局離れて行ってしまったが」
「つまり竜人がそのうちの一つの種族だということですか?」
「そうだな。まあ実際、竜人の奴らもエルフが気に入らなかったらしいから、その点ではあってるんだけどな」
「じゃあ人間が勝てない種族ってその二つだけなんですか?」
その質問に船長は少し頭を悩ましながら、
「うーん。それは何とも言えないな。結局は音ゲーのうまさだからな。まあその点を考えると、狼人間や、妖精たちはあまり音ゲーがうまくないから絶対的に格下だとは思うがな」
なるほど。結局は音ゲーのうまさで決まるからそんなに考えなくてもいいってことか。
「ちなみにもう一種族って何ですか?」
「ヴァンパイアだよ!」
突然大声でプシケが答える。プシケは誇らしげにヴァンパイアについて語っていく。
「なんてったって全種族の中だと最強って言われているからね。竜人だってそんなに怖くはないよ」
「でもプシケはほとんど人間だろ?」
「うっ…… まあそうだけど」
まあ実際、本気を出したプシケもそもそも魔王軍幹部のタルポもかなり強かったしな。ヴァンパイアが最強で間違いないのかもしれないけど。
「おっ! 見えてきたぞ。あれが竜人の町、ペプンだ」
そういって船長が指をさした方角にはかなり大きな町が立っていた。ラクトの町じゃないにしろ、いままで見てきた街の中では一番大きい。
「一般的な見た目は人間と変わらないし、言語も同じだから町の中を見て回ることができるぞ」
船長さんは積み荷を降ろしながらアドバイスをくれる。船長さんがゆっくりと積み荷を降ろしているところに一人の少女が近づいてくる。
「あ、あぶなーー」
そう言いかけたときに、少女は後ろから船長さんに飛びついた。
「あぶねっ! ってなんだ。ヨードュンか。ちょうどいい。この荷物を運ぶのを手伝ってくれ」
そう、ヨードュンとよばれた少女はなんだか不服そうに船長さんの荷物を受け取る。
そしてそれを軽々片手で持ち上げたのだ。
「……持つのはいいけどさぁ。せっかくならよっくんって昔みたいに呼んでくれたらいいのに」
「あれはお前が男だと思ってたからそう呼んでただけだ。毎回そういってるだろ」
「えーでもさぁ…… まあいいけど」
今目の前で起きている光景がいまだに理解できない。あの少女は間違いなく竜人なのだろうが、あの体格で船長さんが重そうに持っていたものを軽々持ち上げるとは…… いったいどんだけ化け物なんだよ。竜人って種族は。
すると、ヨードュンと呼ばれていた少女がこちらを向いて、少し微笑むと
「あれ? お客さん? いったいどうしたの?」
「ああ。いろいろあって連れてきたんだ。大丈夫だよな?」
船長さんが、積み荷を船から降ろし切ったところで返事をする。
ヨードュンはしばらくこちらをじっと見つめると、うん。問題ないよ。と呟いて、笑顔を見せた。
「それでだ、これからこいつらを最寄りの人間の町まで連れて行くんだが、俺は、ここで荷物の整理をして、さらに北の別の竜人の町に荷物を届けなければならない。だからそこまで案内を頼めるか?」
それに対して、ヨードュンはあからさまにいやそうな顔をした。
「あ、そうそう。頼まれていた、リーフドラゴンの尻尾、多めに入れておいたぞ」
その一言で、ヨードュンの目の色が変わった。
「え? ほんとに? すごく助かる! ありがとう! 案内をすればいいんだよね? まっかせといてよ!」
そう言ってヨードュンは胸をたたいた。
……リーフドラゴンの尻尾でこんなに喜ぶものなのか? そもそもドラゴン関係のものってなんだかダメそうな感じがするのに。いったい何に使うのだろうか?
そんなことを思いつつ、ヨードュンの行く方向についていくことにした。




