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第62話 異変

「しかし、南の大陸の町に来たはいいもののなんだか人が少なくないか?」


そんなことをつぶやきながらあたりを見まわした。人影はまばらで、港町にしては活発ではない。

店なども殆どしまっているし、それに船すらも行き交っている様子はない。


「確かにおかしいわね。こんなにさびれた町じゃなかったはずなんだけど」


テュケーも不思議そうにつぶやく。

あれ? テュケーってこの町に来たことがあるのか。以外にいろいろなところに行ってるんだなぁ……

すると船で残った仕事を終えた船長さんが驚きの声を上げる。


「いったいどうなってんだ!? 人がほとんどいないじゃないか」


そのまま船を下りるとこちらに向かって


「とりあえず俺は荷物を受け取りに行ってくる。君たちは何がこの町に起きているのかを調べてくれ」


そういうと船長さん海沿いの道を東へ進んでいった。


「どうしようか?」


「そうねじゃあ私とガイア、あとはテスラで海沿いの道を逆に進んで人に会ったら話を聞いてみるわ。君たちは中央の道から町の中心部に向かって進んでちょうだい。これでどうかしら」


テュケーがそれぞれの役割を決めて、提案してくる。


「うん。いいんじゃないかな。じゃあ一時間後にまたこのあたりに集まろうか」


「そうね。そうしましょう。あまり遅くなって船長を待たせるのも悪いしね」


そんなわけでこの町がどうしてこんなにも人気がなくなったのか、別れて調べることにした。


「うーん。今日が何かの記念日とかで休んでいる人が多いだけじゃないの?」


プシケがそんなことを言ってくる。


「いやさすがにそれはないと思うぞ。休日なら普通人が持っといてもいいんじゃないか? 特に子供連れとか」


「あー。そうか。確かにそうだね。やっぱり何かあるのかな」


「この町だけの記念日かもしれませんよ」


こんどはイリスが声を上げた。


「この町だけ? うーん…… そうだとしてもさすがに人が少なすぎじゃないか? あっ……でも子供たちはちらほらいるな。学校なんかは休みなんだろうか?」


「ほら。言ったじゃないですか。ただの休みですって」


うーん。そうなのか? なんだか釈然としないな。

そんなことを思っていると庭先で花に水をやっている老婆に出くわした。その老婆はなんだか浮かなそうな顔をしている。


「あのちょっと聞きたいのですが。大丈夫でしょうか?」


老婆はその声に驚いた様子でこちらを見るが、すぐに納得したかのような表情で軽くうなずいた。


「あの、俺たちは東の大陸から渡ってきたのですが……」


「ええ。わかってますよ。あなたぐらいの歳でここにいるとしたら別の大陸からのものしかありえませんから」


「ありえない? それってどういうことですか? もしかして今この町に人が少ないのと関係していますか?」


その言葉に老婆は何かを思い出したかのように悲しそうな顔をした。そしてしばらく黙っていたがやがてゆっくりと口を開いた。


「今この大陸に起きている異変を知らないのかね? まあ聞いたところによると、この大陸のリーダーはほかの大陸に援助を要請してないらしいのぉ」


異変 その言葉を聞くと、西の大陸で起こっていることを思い出す。


「いったい何が起こっているのですか」


「戦争じゃよ」


老婆が間髪入れずに答える。


「戦争? でもこの大陸って国は一個しかないって聞いたんですが…… もしかして他種族との戦争ですか?」


「いやいや。そんなことはない。昔からこの大陸はほかの種族とも仲良くやってきておるよ。今だって共闘しておるらしいの」


「え? じゃあいったいどことの……」


「そりゃ決まっておるじゃろ。魔王軍とじゃよ。魔王軍もこの大陸が一番襲いやすいと思っておるのじゃろうの。そりゃ国が一つしかないのじゃからリーダーさえ殺してしまえばとったようなもんじゃしの」


そういうとおばあさんは悲しそうな眼をして大陸の中心のほうを眺める。そのリーダーとやらは大陸の中心に住んでいるのだろう。


「じゃあつまりこの村の若者たちは、その戦争に駆り出されているということですか?」


「そういうことじゃ。わしの息子もつい先日出発したわい。無事だといいんじゃが」


「そうですね」


おれはゆっくりとうなずいた。しかし次の瞬間おばあさんのテンションがうってかわった。


「ところがじゃ! なんといっても我々には騎士様がおられるのじゃ。騎士様は一人で魔物の群れ1000匹をやっつけたとも、魔王軍幹部を撤退させたともいわれておる、ものすごいお方なのじゃ。騎士様さえいてくれれば、魔王軍にだって負けはせんぞ!」


そういって笑いながらおばあさんは家の中に入っていった。しかしその笑いが作り笑いだということはすぐに見抜けた。おばあさんも気づいているのだろう。わざわざこんな端の町からです徴兵されているのだ。明らかに魔王軍の優勢だということに。

俺はなんだかいたたまれなくなってその場を後にした。


その後、ほかの人に出会うも大体おばあさんが言っていたことと同じ内容だった。

そして1時間が経過した。


集合場所に戻るとテュケーたちのグループと船長さんが戻っていた。


「すまんおくれたかな」


「いえ、私も、船長も今来たところよ」


そういってテュケーはゆっくりと腰を上げる。


「で、どう? 何かわかった?」


テュケーの質問に俺たちはおばあさんから聞いたことをほとんどそのまま伝える。


「なるほど。大体私たちが聞いてきたことと同じね」


俺たちがこれからどうすればいいのか頭を悩ませていると、船長さんが突然


「出航の準備は整ったぞ。早く乗れ」


と、大声で言ってきた。


「え? ちょ、ちょっと! この件について何もしない気ですか!?」


「当たり前だ。逆になぜ何かしたがるんだ?」


「だって! 戦争が起きているんですよ! しかも魔王軍と! 手助けに行くべきでしょう!?」


すると船長さんは落ち着いた声で、


「あのな…… 俺たちは西の大陸を調べて来いって言われたんだぞ。南じゃないんだ。それに救援依頼も出してないみたいじゃないか。それなりの事情があると思ったほうがいい。余計なことはするべきじゃないんだ」


「いやっ! でも」


「一旦この大陸は離れましょう。ここにいても仕方ないわ。まずは西の大陸、そしてそれが片付いたら、こっちについて考えましょう」


テュケーもそういってくる。

確かに優先事項は西の大陸だ。しかしそれよりも大切なことなんじゃないかと思ってしまう。

だが、ここでそのわがままを通せば、必ず、ほかのみんなに迷惑をかけることとなる。……それだけは避けたいな。


「わかったよ。先に進もう」


その言葉にみんなが納得したかのようにうなずいた。

そして俺たちは再び西の大陸を目指すべく、船に乗り込むのだった。



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