第36話 大会一回戦 3
『それでは! みなさん注目の課題曲はぁぁぁ!』
司会が大声を張り上げてポケットから紙を取り出す。そしてそれを観客の前に広げる。
『出ました! 『薔薇バラ事件簿??』です!』
観客からはさらに大きな歓声が湧き上がる。
『薔薇バラ事件簿??』は中盤が恐ろしいほどの暗記譜面だ。それもそのはず。普通ならば一定の速度で流れてくる音符が、音符ごとで変わってくるのだ。つまり曲の中で音符が抜かされたり抜かしたりするのだ。
正直これを初めに見た時は度肝を抜かされた。現実世界にもそのような曲はあったのだが、まさか、こちらの世界にもこんなことになっているとは思ってもいなかったのだ。
現実世界の似たような曲は、出た時にかなり色々言われていた気がする。初見で落ちるのは当たり前のようになっていたからな。こっちの世界だとどうだったんだろうか? それでも話題になっていたとは思うのだが。
ただ、もっと驚いたことがある。これが一回戦の曲に選ばれたのだ。決勝に選ばれても良いほどの難易度。それでも周りの人たちは何も疑問に思わない。流石だなと思いつつ、筐体の前に立つ。
だが、この曲の中盤は記憶がものを言う。イリスは暗記譜面が得意だったはず。それがどれくらい効いてくるか。そんな勝負になるだろう。
『では! 始めてください』
筐体がゆっくりと流れていく。BPMはそんなに早くはない。前半でミスはできないと思い、丁寧にプレイする。ただどうしても中盤のことを考えてしまう。余計な考えが出てミスらなければいいが。
なんとか前半最後の三連符を突破して、中盤に差し掛かる。
ぐっ。やはりきつい。あまりプレイしていないだけあって、簡単に突破させてくれない。まさかこんなに難しいのが一回戦に出るとも思っていなかったのだ。
さらに言えば、現実世界の方だと、この手の曲は使用禁止だったはずだ。それを普通にぶち込んでくるあたり、流石だなと思うしかない。
結果、かなりのmissを出しながら突破した。無理矢理叩いたところもあり、greatやgoodの数も増えただろう。
終盤は難しいところはない。強いて言うならラスト前の長複合だろうか? だが、BPMか早くないため、そんなに気を使わなくても簡単に裁くことができる。
と、曲が終わる。あとは結果発表を待つだけだ。ちょっとmissが多かった気がするが、大丈夫だろうか。
『それでは結果発表!』
るな!?
perfect 563
great 35
good 26
miss 9
あいーりす
perfect 351
great 121
good 99
miss 62
うぐっ。大会でmiss9は多い気がするな。こんなんじゃダメだな。1位のやつに敵う気がしない。
『勝者は、るな!?さんです!』
観客が一層沸き立つ。だがそれに紛れてやはり小声が聞こえてくる。
「やっぱダメだな。よくまぁ予選を突破したもんだ」
「なんか裏でしてたんじゃねぇの?」
「ありえる」
ちっ。くそが。俺は言いたいことを口に出そうとした時だ。イリスが腕を掴んできた。
「戻りましょう」
ただ冷静な一言だった。特に何も思っていないかのように淡々と述べた一言。だがそれに強い何かを感じ俺は圧倒されてそのまま、控え室に戻る。
次の四戦目にはあの1位である、くろのすが出る。だがそれよりも大事なことがある。
「なぁ。なんでさっきは止めたんだ? 別に俺がなんて言おうと関係ないだろ?」
「そういうことじゃないんです。実際に私が実力不足だったのもあるので」
「だけど、あんなに言われて悔しくないのか?」
「それは勿論悔しいですよ。でも次に上手くなって見返してやればいいんです。観客がどう思っていたも全く関係ないんですよ。重要なのは自分がどうだったかです」
「じゃあ、どうだったんだ?」
「勿論楽しかったですよ。かなり緊張しましたし、あまりプレイしていない曲だったのでほとんど思うようにできなかったですけど。それでも私の心は十分に満たされました」
イリスは間髪入れずに返してくる。かなり強く述べてくる。
「そう……か。それならいいんだ」
俺がそういうとイリスは1人、隅の方のベンチに座った。そこにプシケが近づいて何かを話している。もう俺が近づく必要もないだろうと思い、モニターを眺める。どうやらちょうど曲が終わったところのようだ。
と、終わった瞬間にかつてないほどの歓声が上がる。
そしてその直後、スコア発表と同時に、司会が叫ぶ。
『all perfect!! all perfectを達成しました!』
そう叫んだ先には、くろのすが立っていた。
くろのすは一つ綺麗なお辞儀をすると、控え室に戻っていく。対戦相手の10位の人もそれなら仕方ないと、満足そうな顔だった。
降りてくる、くろのすと目があった。くろのすはこちらを一瞥すると、少しだけ口元を緩ませた。それが挑発の意味なのかはわからない。だが、その行為は俺を一層やる気にさせた。
「じゃあ行ってくるよ」
プシケが会場に向かっていく。対戦相手は6位の人。明らかに格上だろう。だが、プシケは笑いながら向かう。それが一番いいと思っているのだろう。
そして、五戦目が始まる。




