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第35話 大会一回戦 2

「あ、よ、よろしくお願いします」


イリスが丁寧にお辞儀をしてくる。一回戦から身内と当たったのだ。確率は4分の1だった。出来ればこんなに早くから仲間内で当たりたくはなかったのだが。


「ああ。よろしく」


俺は素っ気なく返す。無駄に考えると余計な気持ちになって、本番ミスするかもしれないからだ。

大丈夫。落ち着いてやればいい。それにこれなら少なくともどちらかは二回戦にいける。そう思えばいいじゃないか。


『それでは! 第一回戦、一試合目を始めたいと思います! 1の数字を引いた方はステージに残り、それ以外の方は一度控え室におかえりください!』


俺たちが控え室に戻ると、観客が湧き上がる。どうやら課題曲が発表されたらしい。ちなみにゲームの様子はこちらにも映し出されている。本当に音ゲーに関してだけ、技術力が高いのだ。


「カヅキさんとですか……。これじゃあ勝負になりませんね……」


イリスは肩を落としてベンチに座っている。俺としてかける言葉はなくただ淡々と時が進んでいくのを待つ。会場ではステージの上で予選2位のてすらんと予選14位だった人がゲームを始めている。

モニターをよく見ていなかったからわからないが、曲が半分終わった時点では2位の人の方が優勢のようだ。


「そういえば他の人たちは何試合目だったんだ?」


俺は近くに来ていたプシケに尋ねる。プシケは指を口に当てながら思い出そうとしている。


「僕は、五試合目だったよ。確かテュケーは六試合目? あとはガイアって君が呼んでた人が八試合目かな」


そういうとプシケは俺の隣に座って来た。プシケに緊張している様子はなかった。


「プシケは緊張しないのか?」


「うん。それよりも楽しみだよね。正直あまり上の方にいけるとは思ってないけど、精一杯やってあわよくば結果って感じだからね」


プシケはいつものように返事をする。そういえばプシケって物腰が軽いというかなんだかふわふわしているというか不思議な感じがするな。

そう思いながら見つめていると、どしたの?と首を傾げてくる。


「あっ。一試合目終わったみたいだよ」


プシケが声を上げる。どうやら普通に2位の人が勝ったようだった。まあ、予選が得意曲だと言っても2位を取っているのだから、実力は十分なものだろうな。


次に二試合目が始まる。モニターを見るとアドニスがステージに上がっていた。そうか。あいつ二試合目か。

対戦相手は11位の人。ちょっとレベルが高い気もするけど。どうだろうか。


曲は『ライトニングボルテッシモ』だった。一回戦から人気曲をしっかりと使っていくんだな。難易度も丁度いいくらいなのだろう。


アドニスはしっかりとperfectを取っている。これならば、一回戦突破をも容易いだろう。

控え室の奥の方を見ると、ガイアが座っていた。俺はガイアに話しかけようと近づく。ガイアはしんどそうに壁にもたれかかっていた。


「なぁ。なんでそんなにしんどそうなんだ? 風邪でも引いてるのか?」


すると、ガイアは微かな声で答える。


「能力が……高い人には………やっぱりきつい……」


そう言って目を閉じた。何がなんやらさっぱりわからないので、俺ができることなどなかった。

ガイアを覗き込むと、顔の横にやはり何かが付いているように見えた。細長い何かが付いていたのだ。


一体なんなんだろうか。ガイアについては全くいっていいほど知らない。今度詳しくテュケーに聞くとでもしようか。

そんなことを思っていると、控え室が少しだけ湧き上がる。どうやら二試合目の結果が出たようだ。結果はもちろんアドニスの勝ち。その結果が入ると同時に俺とイリスの名が呼ばれる。俺はイリスと顔を合わせるとゆっくりと、ステージへと向かう。イリスも大分落ち着いているようだった。


「いい勝負をしたいですね」


イリスはそっと耳元で囁く。勿論その通りだ。手を抜いたりはしない。何があるかわからない。気を引き締めて、挑むことにしよう。階段を降りると、ステージには音ゲーが用意されている。観客たちが湧き上がる。


「どっちが勝つと思う?」

「そりゃ4位のやつだろうよ」

「まあ、相手16位だしなぁ」

「それに4位のやつは確か魔王軍幹部と渡り歩いたとも言われているんだぞ」

「でも、聞いた話によるとランクはそんなに高くないらしいぞ」


観客の間から聞こえてくる話が偶然に耳に入る。俺が魔王軍幹部と戦ったのは知られているようだが、イリスのことはほとんど知られていないようだった。実際イリスの活躍はかなりのものだったと思う。俺じゃ到底できないくらいの。

だが、それが知られていないのはとても残念なことだと思い歯をくいしばる。

イリスはすでにスタンバイしている。

俺はイリスの元へ向かうと司会の指示に従って握手を交わす。イリスの手は緊張からかかなり冷えていた。


「よろしくお願いします」


だが、イリスは軽く微笑んで俺に挨拶をかけた。




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