↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死ななかった人たち ~あの日から、もう一人の私がいる~  作者: 白川 透


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
34/37

第三十四話

 火曜の朝、澪は出勤前に一通の文面を書いた。


 三枝に宛てたものだった。三枝とのやりとりは、最初から朝倉の連絡先でしている。今度も澪が書いて朝倉が送ることにした。


 書いては消した。三度目で、ようやく短くなった。


〈一度だけ伺わせてください。


 先日、三枝さんが許してくださった範囲で、録音の一部と相談室とのメールを久世さんにお見せしました。久世さんは、録音の声が自分のものだと認めました。メールも読んだと話しました。要約については「検討する」と言いました。続けるのをやめる基準は一律にはないと言われ、何があればやめるのかは確認できませんでした。


 このことを木曜に接触を予定している方へ口頭でお伝えしてもよいでしょうか。三枝さんのお名前は出しません。録音とメールそのものは見せません。


 だめな場合は、お返事は一言で構いません。お返事がない場合も、伝えません。〉


 読み返して、澪は「一度だけ」の四文字を見た。


 頼むのは、これで最後にする。三枝はもう自分の生活に戻っている。戻った人を、こちらの都合で何度も呼び戻すわけにはいかなかった。


 朝倉へ送った。


〈このまま送ってください。直すところがあれば言ってください。〉


 返事は五分後に来た。


〈直すところはありません。送ります。〉


 澪は携帯を鞄にしまった。


 ゆうべ朝倉から届いた五行の報告が、画面の下にまだ残っていた。最後の一行は「次に行く日は決めていません」だった。その一つ前に、「蓮のことを全部話すから次も来い、と言われました。断りました」とあった。


 「受け取りました」と返したのは澪だった。それ以上は書かなかった。


---


 三枝の返事は昼休みに転送されてきた。


〈いいですよ。俺の記録で言えることなら。


 録音のことと、メールのことまで。久世さんが何を言ったかは、二人が聞いたことなので、二人の言葉で伝えてください。俺が言ったことにはしないでください。


 それと、これで終わりにしてください。俺の記録からは、これ以上出しません。聞かれても答えません。


 要約がどうなったかだけ、あとで知らせてもらえれば、それでいいです。〉


 澪は二度読んだ。


 「いいですよ」で始まっていた。朝倉に見せてもらった前の返事も、同じ言葉で始まっていた。けれど、今度は終わりの線が引いてあった。


 これで終わりにしてください。


 澪はノートを開いた。許された範囲の下に、二行だけ書いた。


 これ以上は求めない。

 要約がどうなったかを知らせる。


 朝倉からも一行だけ来た。


〈三枝さんの分は、今日で終わりですね。〉


〈はい。〉


 澪はそれだけ返した。


---


 榊原から朝倉へ連絡が来たのは、日曜の夜だったという。


 久世を通さず、本人から直接だった。火曜の夜、家に来てほしい。居間のあれにも、直接聞いてもらって構わない。先生には、自分から伝えてある。


 朝倉はその文面を、月曜の昼に澪へ転送していた。澪は「行きます」とだけ返した。


 六時半、榊原の家の最寄り駅で、澪は朝倉と落ち合った。


 駅前の喫茶店に入った。二人ともコーヒーを頼んで、ほとんど飲まなかった。


「三十分だけ、並べさせてください」


 澪が言うと、朝倉は手帳を開いた。


「榊原さんに伝えることは、三つです」


 澪はノートを朝倉の方へ向けた。


「一つ目は、三枝さんが許してくれた範囲。二つ目は、榊原さんのお手元の要約が今も同じかどうか。これは伝えるんじゃなくて、確かめることです。三つ目は、木曜に私たちができることと、できないこと」


 朝倉は手帳に書き写していた。書き終えて、ペンを止めた。


「久世さんの家のことは」


 澪は朝倉の手帳を見た。


 手帳の端に小さく「土曜」と書いてあった。その上から一本の線が引かれていた。


「使いません。久世さんから、まだ返事がありません。返事が来ても、あれは久世さんの家のことです。食卓にいた人に、榊原さんへ伝えていいか、誰も聞いていません」


「僕も、そう思います」


 朝倉は線の引かれた「土曜」を見下ろした。


「榊原さんを止めるのに、使えそうだと思ったんです。土曜に聞いたことは。……だから、使わない方がいいと思いました」


 澪は、それには何も言わなかった。


「それから、私たちはあちらの方に何かを聞きに行くんじゃありません。木曜のことをどう思っているか。それだけを確かめます。娘さんの場面のことは、聞きません」


「はい」


 朝倉は手帳に書いた。娘さんの場面は聞かない。


 書いてから、その一行を少し長く見ていた。


---


 榊原の家は、駅から十二分ほど歩いた住宅地にあった。


 門灯がついていた。呼び鈴を押すと、すぐに扉が開いた。


 榊原は背広ではなかった。紺のカーディガンを着ていた。それでも背筋は、ラウンジで見たときと同じようにまっすぐだった。


「どうぞ。散らかっていますが」


 散らかってはいなかった。玄関の靴は揃えてあった。廊下の床がよく磨かれていた。


 居間は廊下の突き当たりだった。


 榊原が扉を開けた。


 ソファと低いテーブル。テレビ。壁際の棚。窓のそばに一人掛けの椅子が一つあった。


 その椅子の後ろに、男が立っていた。


 榊原と同じ顔だった。髪がもう少し黒かった。頬に、今の榊原より肉がついていた。白いワイシャツを着て、ネクタイはしていなかった。両手を椅子の背に置いていた。


 澪は入口で足を止めた。


 朝倉も止まっていた。


「見えますか」


 榊原が言った。


「はい」


 澪が答えた。


「……そうですか」


 榊原は小さく息を吐いた。安心したのか、そうでないのか、澪には分からなかった。


「どうぞ、座ってください」


 榊原はソファを示した。自分はソファの端に座った。


 一人掛けの椅子は、空いたままだった。


---


 澪はノートを膝の上に開いた。


「先に、お伝えしたいことがあります。前にお会いしたとき、要約に書かれていないことをお話ししました。その方の経過です」


「覚えています」


「そのあと、その方が許してくださった範囲で、録音の一部と相談室とのメールを久世さんにお見せしました」


 榊原の顔がわずかに動いた。


「先生に」


「はい。久世さんは、録音の声が自分のものだと認めました。その方からのメールも、読んだと話しました。要約については、検討する、と言いました」


 澪はノートを見ずに続けた。


「どういうときなら続けるのをやめるのか。それも伺いました。基準は一律にはない、そのつど考える、というお答えでした。何があればやめるのかは、私たちには確認できませんでした」


「……そうですか」


「これは、その方の記録ではなくて、私たちがその場で聞いたことです。その方のお名前も、録音そのものも、お見せできません」


 榊原は頷いた。


「一つ、伺ってもいいですか。榊原さんのお手元の要約は、前にお会いしたときから変わりましたか」


 榊原は棚の方へ立った。


 開いた扉の中段に、薬局の白い紙袋が置いてあった。袋に印刷された病院の名前の下に、循環器内科、と小さく書いてあった。


 榊原はその横からクリアファイルを一つ取って戻ってきた。中の紙を出して、頁をめくった。


 一時休止の後、接触を再開。その後、睡眠と日常生活の安定が得られた。


 澪はその行を見た。前に自分が受け取ったものと、同じ文だった。


「変わっていません。新しいものも届いていませんし、先生からも、直したという話は聞いていません」


「分かりました」


 澪はノートに書いた。榊原さんの手元の版、変更なし。訂正版・訂正の連絡は受け取っていない、と本人。


 榊原はファイルを膝に置いた。手をその上に重ねた。


「先生は、悪い人ではないんです」


 澪は顔を上げた。


「お二人がそう思っていないことも、分かっています。……ただ、私は何年も、先生に話を聞いてもらってきた。それは、本当にあったことです」


「はい」


 澪は否定しなかった。助けられた経験も、要約に載らなかった負傷も、どちらもあった。それは、三枝の頁を並べたときから変わっていなかった。


「それでも」


「木曜は、やりたいんです」


 居間が静かになった。


 椅子の後ろの男は、動かなかった。


---


 澪は朝倉の顔を見なかった。


 朝倉がどうするかを、見ないでいようと思った。見れば、自分が先に何か言ってしまいそうだった。


「分かりました」


 朝倉が言った。


 榊原が朝倉を見た。


「朝倉さんは、止めた方がいいと思っている」


「心配はしています。前にお会いしたときと、同じです」


 朝倉はそこで少し黙った。


「でも、知りたいと思う気持ちを、僕が消すことはできません。……僕にも、あるので」


 澪はノートの上でペンを止めた。


 朝倉は、それ以上を言わなかった。何があったのかも、どこで知りたいと思ったのかも。


 昨日の夜、実家の部屋で何をして、何をしなかったのか。澪が知っているのは、五行の報告だけだった。


 朝倉は、自分の経験を、榊原をやめさせる理由としては語らなかった。


「決めるのは、榊原さんです」


 榊原はしばらく朝倉を見ていた。


「前にも、そう言いましたね」


「はい」


「……そこは、変わらないんですね」


 榊原は少し笑った。ラウンジのときと同じ笑い方だった。


 それから、膝の上のファイルを閉じた。


「一つ、お願いがあります。木曜に、いてもらえませんか」


「先生も来ます。先生のことは信頼しています。でも、お二人にもいてほしい。……前にお会いしたとき、大丈夫だとは言わない、とおっしゃった。そういう人に、いてほしいんです」


 澪は朝倉と顔を見合わせた。


 朝倉が小さく頷いた。澪が答えていい、という頷きに見えた。


「いることは、できます。でも、先に決めておきたいことがあります」


「どうぞ」


「私たちは、何も保証できません。安全も、娘さんのことが分かるかどうかも。私は臨床心理士ですが、榊原さんの担当ではありません。木曜も、治療をする立場では行きません」


「分かっています」


「それから、終わりにするときのことです」


 澪はノートの新しい頁を開いた。


「木曜に、終わりと言えるのは誰ですか」


「先生と、私です」


 榊原は答えてから、少し間を置いた。


「……だと、思っていました」


 澪は椅子の後ろの男を見た。


 男も、澪を見ていた。


「あちらの方に、直接伺ってもいいですか。木曜のことだけです」


「どうぞ。そのために、来ていただいたので」


 澪は男の方へ体を向けた。


 何から聞くかは、喫茶店で決めてあった。それでも、声を出す前に一度、息を吸った。


「水城です。木曜のことをどう思っていらっしゃいますか」


 男は、すぐには答えなかった。


 椅子の背に置いた手を少しだけ握り直した。


「手伝いたいと思っています」


 榊原の声だった。今の榊原より、わずかに張りがあった。


「この人が知りたいことは、私も知りたい。……ただ」


 男はソファの端の榊原を見た。


「私が覚えているのは、一つだけです。この人に話したとおりです。娘が入ってきて、この椅子のそばに立って、お父さん、と言った。そこから先は、何度考えても、出てこない」


 榊原の手が、ファイルの上で動いた。


「先生は、出てくるとおっしゃる。続けていれば。……私も、そうかもしれないと思っています。思いたい、のかもしれない」


 澪はノートに書いた。手伝いたい。覚えているのは一場面。その先は出てこない、と本人。出てくるかもしれないと思いたい、と本人。


「もう一つ、伺います。木曜に、あなたが、もうやめたいと思ったら。そのときは、どうしますか」


 男は澪を見た。


「……言っていいんですか」


「言えます。あなたが、終わりにしたいと言うことは」


 澪は榊原の方を向いた。


「榊原さん。この方が終わりと言ったら、そこで終えることに、同意していただけますか」


 榊原は、椅子の後ろの男を見ていた。


 長いあいだ、見ていた。


「……終える」


 榊原は言った。


「おまえが言ったら、私はそこで終える」


 男は少し目を伏せた。


「先生は、途中でやめると、もったいないとおっしゃる」


「はい」


「それでも、言っていいなら。……言います」


 澪は、ペンを持つ手に力が入っているのに気づいた。


---


「書いておきませんか。木曜の前に。誰が何を言えるか。私たちが何をしないか」


 榊原は棚から便箋を一束持ってきた。自分の万年筆を出した。


「私が書きます。書かないと、覚えられない人間なので」


 ラウンジで聞いたのと同じ言葉だった。


 榊原が書き、澪と朝倉が一行ずつ確かめた。椅子の後ろの男も、テーブルの方へ顔を向けていた。


 一、朝倉さんと水城さんは同席する。安全も、結果も、保証しない。

 二、終わりは、私も、居間の私も言える。

 三、終わり、と言われたら、ほかの言葉に言い換えない。休憩や一時休止にしない。その日の質問も、再現も、記録も、そこで終える。

 四、朝倉さんと水城さんは、娘の場面の続きを引き出す質問をしない。

 五、この紙は、木曜の前に、私から久世先生に渡す。


 三行目を書くとき、榊原の万年筆が一度止まった。


「一時休止」


 榊原は、その四文字を声に出した。


「要約の、あの言葉ですね」


「はい」


 榊原は何も言わずに、続きを書いた。


 四行目は、朝倉が言い出したことだった。


「僕たちが娘さんのことを何か聞けば、それが、もう一つの質問になります。木曜に娘さんのことを聞くのは、榊原さんと久世さんだけにしてください。僕たちは見ていて、書いて、終わりと言った人に、そう聞こえたことを確かめるだけです」


「それは、止めるということですか」


「終わりと言われたら、その日の接触を終える。それを守るだけです。続けるかどうかは、決めません」


 榊原は少し考えてから書いた。


 書き終えて、便箋を両手で持った。声に出して、一度読んだ。


 読み終えると、椅子の後ろを見た。


「これでいいか」


「……はい」


 男は答えた。


 澪は、さっきの棚を思い出していた。白い紙袋。循環器内科の文字。


「一つ、足したいことがあります」


 榊原が澪を見た。


「体調が変わったら、誰が何を判断するか。それを、紙に書いておきませんか」


 榊原は少しのあいだ黙っていた。棚の方へ一度だけ目をやった。


「先生がいますから。……それに、自分の体のことは、自分で分かります」


 穏やかな声だった。けれど、それ以上は聞かないでほしい、という声にも聞こえた。


「分かりました。紙には書きません。その代わり、私たちの条件として、今言っておきます。榊原さんの様子が変わったら、私たちは記録をやめます。接触を続けるための同席も、そこでやめます。そのうえで、必要なら連絡をします。救急でも。……それは、続けるかどうかを決めることとは別です。続けるかどうかは、榊原さんとあちらの方が決めることです」


 朝倉が隣で頷いた。


「僕も同じです」


 榊原は二人を順に見た。


「それは、お二人が決めることですね」


「はい」


 榊原は便箋を二つに折って、クリアファイルに入れた。要約の上に重ねた。


「明日、先生にお渡しします。先生がこれでいいとおっしゃるかは、分かりませんが」


「はい」


「だめだとおっしゃったら、お二人に連絡します。……それで、どうするかは、そのとき私が決めます」


 澪は頷いた。


 接触するかどうかは、榊原が決めることだった。


「そのときは、私たちが同席するかどうかも、改めてお伝えします」


 澪が言うと、榊原は頷いた。


---


 玄関で、榊原は二人に頭を下げた。


「木曜は、二時からです。先生は一時半に来られます」


「一時半に伺います」


 朝倉が言った。


「ありがとうございます。……来てくださって」


 榊原は扉の前に立っていた。門を出て振り返ると、もう扉は閉まっていた。


 居間の窓に明かりがついていた。カーテン越しで、中は見えなかった。


 駅までの道を、二人は並んで歩いた。


 しばらく、どちらも話さなかった。


「止めませんでしたね」


 ラウンジの帰りにも、澪は同じことを言った。あのときは、止められなかった、と言った。


「はい」


「止められると、思っていましたか」


「……少しだけ」


 朝倉は前を向いたまま言った。


「土曜のことを話せば、止められたかもしれない。喫茶店で、そう思いました。だから線を引きました」


 澪は何も言わなかった。


 あの居間で朝倉が言ったのは、心配していることと、知りたい気持ちを消せないことと、決めるのは榊原だということだけだった。


 ラウンジでも、朝倉は止めなかった。けれど、あのときの朝倉は、自分の部屋の扉を知りたいことの方へ開けようとしていた。澪には、そう見えていた。


 今日の朝倉が何を思っていたのかは、分からない。分かるのは、何を言わなかったかだけだった。


「水城さん」


「はい」


「木曜、仕事は」


「午後から休みを取ります。明日、出します」


「僕もです」


 駅の明かりが見えてきた。


 改札の手前で、澪は立ち止まった。ノートを出して、今日の頁の一番下に書いた。


 木曜。一時半。榊原さん宅。同席。

 保証しない。娘さんの場面は聞かない。終わりは言い換えない。


 書いてから、少しだけ迷って、もう三行足した。


 続けるかどうかを、榊原さんに代わって決めない。

 私たちの同席と記録は、決めた範囲で終える。

 体調が変わったら、記録と同席をやめる。必要な連絡をする。


 朝倉は隣でそれを見ていた。何も言わなかった。


 電車が来る音がした。


 澪はノートを閉じた。接触は明後日だった。


---


 部屋に帰ると、窓際の女がこちらを向いた。


「遅かったね」


「うん」


 澪はコートを掛けた。鞄からノートを出して、机に置いた。


「お姉ちゃんのとこ、いつ行くの」


 女が言った。


 澪は、机の前に立ったまま答えた。


「決めたことがあるの。聞いて」


 女は黙っていた。


「伝言は、一回行ったら一往復。あなたの言葉を一つ持っていって、お姉ちゃんの返事を一つ持って帰る。それ以上は運ばない。行く日は、私の仕事と、今の件が片づいてから決める」


 女の顔が、少し動いた。


「今の件って、朝倉さんの?」


「……それと、もう一つ」


 女は窓の方を見た。外は暗かった。電線も見えなかった。


「そっちの都合だけで決めないで」


 低い声だった。


「一往復って、誰が決めたの。いつ行くかって、誰が決めたの。……私は、一往復でいいって言ってない」


 澪は何か言おうとした。


 女は背中を向けた。窓に額を寄せるようにして、外を見た。


「ねえ」


 澪は言った。


 返事はなかった。


「話、まだ終わってない」


 返事はなかった。


 澪は、それ以上は言わなかった。言えば、自分の決めたことを、相手に頷かせるための言葉になりそうだった。


 机の前の椅子に座った。ノートを開いた。木曜の頁を、もう一度読んだ。


 窓際の背中は、澪が明かりを消すまで一度もこちらを向かなかった。

お読みいただきありがとうございます!

「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマーク・評価・リアクションをいただけると嬉しいです。

Xでも更新情報などを発信しています。

よろしければこちらもフォローいただけると嬉しいです!

https://x.com/st_shosetsu

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。