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ランキング最高順位51位!『異世界に転移したので、もう我慢するのはやめました ~固有能力《自由》で好き勝手に生きる~』  作者: くんくん
選んだ道の先へ

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閉じた先の光

最初に穴へ入ったのはエドだった。


 木の根に隠れた石穴へ身体を滑り込ませ、腰に結んだ縄を引きながら暗闇へ消えていく。少しして、穴の奥から声が返ってきた。


「ここまでは大丈夫だ。次!」


「俺が行く」


 カイルが続こうとしたが、エドの声が飛んだ。


「待て。ハヤトから来い」


「何でだ」


「お前、昔ここで足滑らせただろ」


「いつの話だよ」


「五年以上前」


「覚えてんじゃねえか」


「だから言ってる」


 カイルが不満そうな顔をする。


 ハヤトは穴の中を覗いた。


「俺、初めてなんだけど」


「だから変な癖がない」


「その評価うれしくないな」


 腰に縄をつけ、身体を横向きにして穴へ入る。


 入口こそ狭いが、数歩進むと少し広くなった。


 その先。


「うわ……」


 ほぼ垂直だった。


 地下へ続く細い縦穴。


 壁には古い鉄杭が何本か打ち込まれているが、半分以上が錆びている。


 下からエドの灯りが見えた。


「これを降りたの?」


「ああ」


「初めて落ちたとき死んだと思ったって言ってたな」


「落ちたからな」


「本当に落ちてたの!?」


「生きてるだろ」


「結果論すぎる!」


 エドの笑い声が下から返ってきた。


 縄を使いながら慎重に降りる。


 高さは家の三階分ほどだろうか。


 下へ着くと、エドが縄を支えていた。


「結構あるな」


「だから言った」


「もっとちゃんと説明しろよ」


「次来るぞ」


 上からセラの声。


「降りるよー!」


「ゆっくり!」


「分かってる!」


 セラ、レグ、イリス、最後にカイル。


 一人ずつ降りてくる。


 レグだけは途中で「飛べる」と言い出したが、穴が狭いので普通に縄を使わせた。


 全員が下りたところで、レグが上を見上げる。


「クロ」


 穴の外で待っている。


「ちゃんと戻るから」


「うん」


 返事をしながらも、少し気になるようだった。


 エドが先へ灯りを向ける。


「ここからだ」


 石造りの細い通路。


 壁にも床にも埃はほとんどない。


「最近人が通ってる?」


 セラが聞く。


「俺とヴァンが使った。それより前にも跡はあったけどな」


「誰の?」


「分からん」


 またそれか、と言いかけてハヤトはやめた。


 この一帯では「分からない」が普通になりつつある。


 通路を進む。


 しばらくして、エドが立ち止まった。


「ここから先、変なものには触るな」


「それ今までずっと言われてる」


「じゃあ特に触るな」


「分かった」


 レグを見る。


「レグも」


「わかってる」


「本当に?」


「このまえから、ちゃんときいてる」


「確かに最近はそうだな」


 少しずつ学んでいる。


 ハヤトより慎重になっている可能性すらあった。


 エドが壁の一部を押す。


 石が少し沈み、その奥で何かが動く音がした。


「知ってるんだな」


 カイルが言う。


「一年いたからな」


「ここに?」


「違う。造りが似てる」


「全部同じ?」


「同じじゃない。ただ、共通する仕掛けがある」


 イリスが壁の線を見ながら頷く。


「私も見たことある」


「どこで?」


「目を覚ました施設」


「じゃあヴァンも分かる?」


「多分」


 石壁がゆっくり開く。


 その先は、急に広くなっていた。


「……でか」


 ハヤトは思わず見上げる。


 外から見えた遺跡の規模とはまるで違う。


 円形の大きな空間。


 二階、三階ほどの高さまで壁が続き、そこから複数の通路が枝分かれしている。


 中央には巨大な石柱。


 そして、その周囲。


 床にいくつもの円が刻まれていた。


「これ……」


 セラが足を止める。


 円は六つ。


 ほぼ同じ大きさで、中央の石柱を囲むように並んでいる。


 カイルとイリス。


 そしてエド。


 三人とも、同じように顔を強張らせた。


「見たことある?」


 ハヤトが聞く。


 エドがゆっくり頷いた。


「五年前と同じだ」


「同じって?」


「最初の施設にも、これがあった」


「六個?」


「ああ」


 ハヤトは床の円を見た。


 嫌でも数が気になる。


「六人だったんだよな」


 カイルがすぐ答えた。


「だからって俺たち用とは限らない」


「分かってる」


 だが、誰も完全には偶然だと思っていない。


 レグが一つの円へ近づく。


「レグ」


「さわらない」


 先に言われた。


「見るだけ」


「ならいい」


 レグはしゃがみ込み、床の線を見る。


「これ、ちがう」


「何が?」


「ここだけ」


 一つの円。


 ほかの五つより、中央の石がわずかに黒い。


 エドが顔を近づける。


「……最近動いた跡だ」


「どうして分かる?」


「周り見ろ」


 黒い石の周囲だけ、細かな埃が吹き飛んでいる。


「ヴァン?」


 イリスが聞く。


「かもしれない」


 エドは立ち上がる。


「昨日、あいつとはここで別れた」


「何があった?」


「中央の装置が動いた」


 エドが巨大な石柱を指す。


「急に?」


「俺たちが来たときにはもう半分起きてた。ヴァンが止めようとして、俺は外側を見ろって言われた」


「それで追い出された?」


「正確には、扉が閉まる直前にヴァンが俺を押し出した」


「本人は残った」


「ああ」


 カイルの顔が険しくなる。


「昔から一人で格好つけるところだけ変わってねえな」


「それ本人に言えよ」


「生きてたらな」


 イリスがすぐカイルを見る。


「生きてる」


「何で分かる」


「そう思って来たから」


 カイルが黙る。


 エドも何も言わなかった。


 ハヤトは中央の石柱を見上げる。


「止める方法は?」


「分からん」


「ヴァンが知ってた?」


「知ってるっていうより、試してた」


「何を?」


「この施設が何を待ってるのか」


 エドの答えに、レグが顔を上げる。


「まってる?」


「ああ」


「誰を?」


 エドは六つの円を見る。


「それを知りたかった」


 カーン。


 突然、音が響いた。


 全員が身構える。


「鐘?」


 セラが周囲を見る。


「違う」


 レグが即座に答えた。


「もっと下」


 低い。


 鐘というより、巨大な石同士がぶつかったような音だった。


 中央の柱に一本の光が走る。


「離れろ!」


 エドが叫ぶ。


 全員が円から距離を取った。


 一本。


 二本。


 三本。


 光が石柱の表面を上へ伸びていく。


 そのまま天井付近まで達すると、今度は床へ向かって広がった。


 六つの円のうち、一つが光る。


 次にもう一つ。


 さらに一つ。


「何これ」


 セラが杖を構える。


「前もこうなった?」


「いや」


 エドが答える。


「こんなの初めてだ」


 四つ目。


 五つ目。


 そして。


 最後の一つだけが光らない。


 部屋の中に、声が響いた。


 レグだけに聞こえる声ではない。


 今度は全員に聞こえた。


 古い言葉。


 低く、感情のない声。


「何て言ってる?」


 ハヤトが聞く。


 誰も分からない。


 ただ一人。


 レグだけが小さく呟いた。


「……たりない」


 エドの顔色が変わる。


「またか」


「同じ言葉?」


「五年前と?」


「多分」


 声がもう一度流れる。


 今度は少し長い。


 レグが聞き取ろうとしている。


「無理に分かろうとしなくていいぞ」


 ハヤトが声をかける。


「うん。でも……」


 レグが光っていない円を見る。


「ここ」


「何?」


「『帰ってこない』って」


 カイルが一歩前へ出る。


「誰が?」


「わかんない」


 すると突然、石柱の一部に映像のような光が浮かんだ。


 人影。


 一つ。


 二つ。


 次々と増えていく。


 全部で六つ。


「……六人」


 セラが息を呑む。


 人影には顔がない。


 ただ輪郭だけ。


 そのうち五つが白く光る。


 最後の一つだけが暗い。


「俺たちじゃない」


 カイルが言った。


「何で分かる?」


「人数が同じだけだ。決めつけるな」


 そう言う声には、普段より力がなかった。


 エドは映像をじっと見ている。


「五年前も、これに近いものを見た」


「近い?」


「俺たちが分断される直前、六つの影が出た。あのときは全部暗かった」


「じゃあ今は五つ点いてる」


「そうなる」


 イリスが顔を上げる。


「五人見つかったってこと?」


「待て」


 カイルが止める。


「俺、ヴァン、イリス、エド。それで四人だ」


「ノアかディルが一人?」


「だから俺たちだと決まってない」


 分かっている。


 だが数が合いすぎている。


「六人のうち五人」


 セラが小さく呟く。


「あと一人……」


 その瞬間。


 暗かった最後の人影の横に、文字が浮かんだ。


 カイルたちにも読めない。


 レグがじっと見る。


「分かる?」


 ハヤトが聞く。


「……ちょっと」


「何て?」


 レグは迷いながら言った。


「『遠い』」


「遠い?」


「あと……」


 文字が追加される。


 レグの表情が変わった。


「『まだ、ねむってる』」


 イリスが息を呑んだ。


「眠ってる……」


 彼女自身。


 目を覚ましたのは二か月前。


 五年間の記憶がない。


 全員が同じことを考えたのだろう。


「ノアかディルが、まだどこかで?」


 ハヤトが言う。


「待てって言ってるだろ」


 カイルが強めに返す。


「まだ何も――」


 そこで声が止まった。


 映像も消える。


 五つの円の光だけが残った。


「……終わった?」


 セラが周囲を見る。


「分からない」


 エドが中央の柱へ近づこうとする。


「待って!」


 イリスが止めた。


「何か来る」


「何で分かる?」


「左腕」


 黒い金属が埋め込まれた部分を押さえている。


「熱い」


 カイルがすぐイリスのところへ行く。


「大丈夫か?」


「まだ」


「まだって何だよ」


「今は立てる」


 イリスが顔を上げる。


「でも、魔力が急に増えてる」


 レグも同じように何かを感じたらしい。


「下」


「また?」


「うん」


 床のさらに奥。


 何かが上がってくる。


 ゴン。


 重い衝撃。


 六つの円が一瞬だけ強く光る。


 ゴン。


 もう一度。


 セラが杖を構える。


「これ、本当にヴァンが止めようとしてたもの?」


「多分な」


 エドが剣を抜いた。


「じゃあ、止まってないね」


「ああ」


 中央の石柱。


 その根元に一本の亀裂が走った。


 中から光が漏れる。


 ハヤトも剣を抜く。


「レグ、後ろ――」


「ハヤト」


「何?」


 レグは柱ではなく、奥の通路を見ていた。


「人いる」


「ヴァン?」


「たぶん」


「動いてる?」


 レグが鼻を動かす。


「……ちょっと」


 イリスがすぐ走り出しかける。


「待て!」


 カイルが腕を掴んだ。


「でも!」


「俺も行く。全員でだ」


 ハヤトは少し驚いた。


 カイルがこちらを見る。


「何だ」


「いや。ちゃんと待ったなと思って」


「今それ言うか?」


「ごめん」


 エドが奥の通路を指す。


「ヴァンが残ったのはあっちだ」


 その後ろでは、石柱の亀裂が少しずつ広がっている。


 ヴァンを先に助けるか。


 装置を止めるか。


 迷っている時間はなさそうだった。


「セラ」


「何?」


「ヴァンのところ行こう。生きてるなら先に回収する」


「うん」


「エド、案内」


「分かった」


「カイルとイリスは?」


「行く」


 二人とも即答だった。


 レグだけが石柱を振り返る。


「これ、だいじょうぶ?」


「大丈夫じゃないと思う」


「じゃあ置いてく?」


「人助けてから戻る」


「間に合う?」


 ハヤトは答えられなかった。


 そのとき。


 奥の通路から、かすかな音がした。


「……おい」


 人の声。


 全員が止まる。


「聞こえた?」


 セラが言う。


 もう一度。


「誰か……いるのか」


 弱い。


 だが確かに。


 イリスの顔が変わった。


「ヴァン!」


 返事はない。


 それでも十分だった。


「生きてる」


 カイルが小さく言った。


 今度は誰も止まらなかった。


 全員で、暗い通路へ走り出した。

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