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ランキング最高順位51位!『異世界に転移したので、もう我慢するのはやめました ~固有能力《自由》で好き勝手に生きる~』  作者: くんくん
選んだ道の先へ

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声のない道

礼拝堂の地下から戻ると、目を覚ました人たちはまだ状況を飲み込めずにいた。


 橋の兵士たちは互いの顔を確認し、旅人たちは自分の荷物を探している。何日ここにいたのか分からない者もいて、セラは水を飲ませながら一人ずつ状態を見て回っていた。


「一気に飲まないでください。ゆっくりで大丈夫です」


「……すまない」


「立つのもまだ待ってくださいね」


 さっきまで虚ろな顔で祭壇を見ていた人たちが、少しずつ普通の表情へ戻っていく。


 レグはその様子を眺めながら、ハヤトの横へ来た。


「もう、声しない」


「ああ。俺も聞こえない」


「おかあさんも」


「……そっか」


 少し寂しそうに聞こえた。


「残念?」


「ちょっと」


 レグは正直だった。


「でも、にせものだった」


「うん」


「ほんもの、さがす」


「そうしよう」


 それでいいらしい。レグはすぐセラのところへ行き、水の入った容器を運び始めた。


 ハヤトはその背中を見てから、礼拝堂の入口へ向かう。


 カイルが一人の兵士と話していた。


「全員いる?」


「今数えてるところだ」


 兵士はまだ顔色が悪い。


「橋から渡った兵が五人。俺たちで全部だ。ほかに旅人が七人、それとノルドの村人が三人いる」


「村人?」


「ああ」


 それを聞いて、ハヤトが近づく。


「ノルドの人いるの?」


「そこにいる三人だ」


 長椅子の近く。


 二人の若い男と、一人の女性が座っている。


「もしかして、森を調べに行った三人?」


 老人から聞いた話を思い出した。


 兵士が首を傾げる。


「俺は知らん」


「聞いてくる」


 三人のところへ行くと、女性が水を飲んでいるところだった。


「大丈夫?」


「ああ……いや、まだ頭がぼんやりするけど」


「ノルド村の人?」


「そうだ」


 答えたのは隣の男だった。


「三人で東の森を調べに来た?」


 三人が顔を見合わせる。


「なんで知ってる?」


「村の人から聞いた。宿場にいるお爺さん」


「……バル爺か」


「多分。三日前に村を出たって言ってた」


「ならそうだ」


 ハヤトは少し安心した。


「村は無事?」


「無事って言えば無事だが……」


 男の表情が曇る。


「何人かいなくなってる」


「やっぱり?」


「最初は家出かと思ってた。次に森へ入った猟師が戻らなくなって、それから二人。みんな夜にいなくなった」


「声を聞いて?」


「今ならそうだと思う」


 女性が自分の腕を抱く。


「私たちも鐘を調べるってここまで来た。途中で……弟の声が聞こえて」


「俺は親父だった」


「俺は昔の仲間」


 三人とも別々。


 それでも辿り着いた場所は同じだった。


「礼拝堂に入ってから覚えてる?」


「ほとんどない」


「ただ……」


 女性が少し考える。


「誰かいた気がする」


 ハヤトの表情が変わる。


「俺たち以外?」


「うん」


「どんな人?」


「分からない。本当に夢みたいで……」


 額を押さえる。


「鐘のそばに立ってた気がする。地下じゃなくて、ここ」


「男? 女?」


「男……だったと思う」


「顔は?」


「見てない」


 そこでカイルも話を聞きに来た。


「服は覚えてないか?」


「暗い色だったような……」


「何か持ってた?」


 女性はしばらく黙っていた。


「……杖?」


「杖?」


「違うかも。細長いもの。私、その人に何か言われた」


「何て?」


「それが……」


 思い出そうとしても出てこないらしい。


 カイルが追及しそうになる前に、セラが横から止めた。


「今は無理に思い出さなくていいですよ」


 カイルが口を閉じる。


「……そうだな」


 女性も小さく頭を下げた。


「ごめん」


「謝ることじゃないです」


 全員が動けるようになるまで、しばらく礼拝堂で休むことになった。


 その間にハヤトとカイルはもう一度地下を確認した。


 止めた管。


 黒い鐘のような装置。


 最近削られた壁。


「この先、掘れると思う?」


 ハヤトが壁の穴を見る。


「やめとけ」


「即答?」


「今掘ってどうする」


「先に何あるか気になるじゃん」


「十五人近く地上にいる。先に全員帰す」


「……まともだ」


「何で残念そうなんだ」


「いや、俺より先に言われたから」


「張り合うな」


 カイルは管の一部を布で包んだ。


「これは持っていく」


「調べられる?」


「設備があればな」


「修道院にある?」


「ない」


「じゃあどこ?」


「もっと東に知り合いがいる」


「また増えた」


「俺にだって知り合いくらいいる」


「ヴァンみたいな?」


 カイルの手が止まった。


「……あいつとは違う」


「どんな人?」


「道具を作るやつだ」


「信用できる?」


「少なくとも、お前より慎重だ」


「比較対象そこ?」


 管を回収し、地上へ戻る。


 昼を過ぎるころには、ほとんどの人が歩けるまで回復していた。


「まず橋まで戻るか」


 兵士の一人が言う。


「ノルドへ行く人は?」


 ハヤトが聞くと、三人の村人が立ち上がる。


「俺たちは村へ戻る」


「なら俺たちもそっちへ行くよ」


「いいのか?」


「元々東へ行く予定だったし」


 橋へ戻る組と、ノルドへ向かう組。


 礼拝堂を出て街道へ戻るところまでは全員一緒だった。


 森の中を歩いても、もう声は聞こえない。


 鐘も鳴らない。


 ただの静かな森だった。


「普通になると、逆に変な感じするね」


 セラが言う。


「さっきまでうるさかったからな」


「ハヤト、だれの声だった?」


 レグが突然聞く。


「今聞く?」


「うん」


「……家族」


「だれ?」


 答えに迷う。


 隠すほどのことでもない。


「母親」


「ハヤトのおかあさん?」


「そう」


 レグが少し考える。


「どこにいる?」


「すごく遠いところ」


「東?」


「東とか西とかじゃないんだよな」


「じゃあ、どこ?」


「説明難しいな……」


 セラが横から助け舟を出した。


「ハヤトの故郷は、ここから歩いて行ける場所じゃないんだよ」


「ふーん」


 レグは分かったような、分かっていないような顔をした。


「あいたい?」


 今度の問いには、少し時間がかかった。


「……会えるならな」


「じゃあ、さがす?」


「それはいい」


「なんで?」


「今は別の旅してるから」


 レグが首を傾げる。


「帰りたくない?」


「帰りたくないっていうより……」


 うまく言葉が出てこない。


 セラは何も言わず、隣を歩いている。


「今すぐ決めなくていいんじゃない?」


 その一言に、ハヤトは少し笑った。


「そうだな」


 帰れる方法すら分からない。


 なら、今ここで答えを出す必要もない。


 しばらくすると、街道の分かれ道に出た。


 西へ行けば橋。


 東へ行けばノルド村。


「ここだな」


 兵士たちと旅人は足を止める。


「本当に助かった」


 一人の兵士が頭を下げた。


「俺たちだけだったら、まだあそこにいた」


「こっちも偶然通っただけだから」


「それでもだ」


 何人かの旅人も礼を言い、橋へ向かって歩き始めた。


 橋の守備隊に事情が伝われば、封鎖も近いうちに解かれるだろう。


「道、もどった?」


 レグが聞く。


「多分な」


「じゃあ東いける」


「最初から行くけどな」


 ノルドの三人と一緒に東へ進む。


 街道にはまだ人がいない。


 それでも、さっきまでとは違って不気味な静けさではなかった。


 鳥が鳴いている。


 風も普通に吹いている。


 クロがいれば少し違いが分かったのかもしれないが、今は橋で待っている。ノルドへ着いたあと迎えに戻る必要があるだろう。


「レグ、クロ気になる?」


「うん」


「村着いたら俺が迎えに行くよ」


「レグもいく」


「じゃあ一緒に」


「私も行くよ」


 セラまで言う。


「全員戻るなら、最初から連れてくればよかったな」


「嫌がってたでしょ」


「そうだった」


 カイルがため息をつく。


「お前ら三人で戻るなら、俺は村で待ってる」


「一人になるぞ?」


「子供じゃない」


「寂しくない?」


「殴るぞ」


「冗談」


 ノルドの三人が笑っていた。


「仲いいんだな」


「最近よく言われる」


 ハヤトが答えると、カイルだけが嫌そうな顔をした。


「俺まで含めるな」


「仲間って言ったの誰だっけ」


 レグがすぐ振り返る。


「カイル、なかま」


「……分かったから前向け」


「うん」


 完全に逃げられなくなっている。


 午後もかなり回ったころ、ノルド村が見えた。


 村の入口には簡単な木柵がある。


 その向こうから人がこちらを見つけ、すぐ大声を上げた。


「帰ってきた!」


 何人もの村人が走ってくる。


 三人が囲まれる。


 泣き出す者までいた。


 ハヤトたちは少し離れ、その再会を眺めていた。


「よかったね」


 セラが言う。


「ああ」


 これで一件落着。


 そう思いたいところだった。


「……ハヤト」


 カイルが小さく呼んだ。


「何?」


 視線の先。


 村の奥に、一軒だけ妙な建物があった。


 普通の民家ではない。


 石造り。


 かなり古い。


 壁の大半は蔦に覆われているが、その一部だけが新しく削られていた。


「礼拝堂と似てない?」


 セラも気づく。


「ああ」


 レグが鼻を動かす。


「においする」


「何の?」


「さっきの」


 黒い鐘につながっていた管。


 そして、エルナの森で嗅いだ異常な魔物の匂い。


「どの建物?」


 ハヤトが聞く。


 レグは迷わず石造りの建物を指した。


 ちょうど村人の一人がこちらへ来た。


「皆さんが三人を助けてくださったんですか?」


「まあ、そうなんだけど」


 ハヤトは建物から目を離さない。


「あれ、何?」


 村人も振り返る。


「あれですか? 古い倉庫ですよ」


「今も使ってる?」


「いえ。何年も使ってません」


「最近、誰か入った?」


「まさか」


 男は笑いかけた。


 だが、ハヤトたちの顔を見て笑うのをやめた。


「……何かあるんですか?」


「まだ分からない」


 カイルが建物を見る。


「ただ、壁が最近削られてる」


「え?」


 村人の表情が変わった。


「そんなはずは……」


 そのとき。


 レグがハヤトの袖を引いた。


「中にいる」


「人?」


「うん」


「何人?」


 少し鼻を動かす。


「ひとり」


 ハヤトは古い倉庫を見る。


 礼拝堂の仕掛けは止めた。


 声も鐘も消えた。


 それでも、この一帯で動いていた誰かまで消えたわけではないらしい。


「カイル」


「ああ」


 今度は全員、剣を抜かなかった。


 ただ静かに、村の中にある古い建物へ向かって歩き始めた。

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