↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランキング最高順位51位!『異世界に転移したので、もう我慢するのはやめました ~固有能力《自由》で好き勝手に生きる~』  作者: くんくん
選んだ道の先へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
77/175

森に残すもの

村へ戻るころには、辺りはほとんど暗くなっていた。


 入口にはすでに何人もの村人が集まっていて、ハヤトたちの姿が見えるなり一斉に顔を上げる。その中から、昼間案内してくれた見張りの男が駆け寄ってきた。


「どうだった?」


「見つけられなかった。でも、途中までは追えた」


 期待した顔が曇る。


「それと、ミナさんは一人じゃなかったみたいです」


 セラが続けると、周囲がざわついた。


「誰か一緒だったのか?」


「分からない。ただ二人分の足跡があった。それと、その先に罠が仕掛けられてた」


「罠?」


「ああ。細い金属線を地面すれすれに張ってた。暗い中で走ったら、まず気づかない」


 ハヤトが説明すると、村人たちの表情が一気に硬くなる。


 ただ遭難しただけではない。


 それが分かったからだろう。


「じゃあ誰かに連れていかれたってことか?」


「そこまではまだ分からない」


「でも、今から行った方が――」


「やめた方がいい」


 村人の一人が言い終える前に、カイルが遮った。


 視線が集まる。


 村人からすれば、突然増えた知らない男だ。怪訝な顔をされるのも当然だった。


「誰だ、あんた」


「説明すると長い」


「それ俺がよく言うやつ」


「今いらないから」


 セラに止められ、ハヤトは黙る。


 カイルは気にせず続けた。


「相手は追われることを想定して罠を置いてる。森の中を知ってる可能性も高い。暗くなってから人数だけ増やして入れば、遭難者が増えるぞ」


 反発されるかと思ったが、村人たちは黙った。


 そこへ、狩人のガルドが人をかき分けて出てきた。


「そいつの言う通りだ」


「ガルド」


「今から入っても足跡は見えねえ。罠まであるなら、明るくなってから追った方がいい」


「でもミナが……」


「だからこそだ。急いで全員動けなくなったら、誰が助ける」


 長くこの村で狩りをしてきた男の言葉には重みがあるらしい。


 不満そうな者もいたが、今夜の捜索は見送ることで話がまとまった。


「明日の朝、俺も出る」


 ガルドが言う。


「いや、村に残ってくれない?」


 ハヤトが返すと、ガルドが眉を寄せた。


「俺の方が森を知ってるぞ」


「だからだよ」


「どういうことだ?」


「今日のやつが一人とは限らない」


 カイルがわずかにこちらを見る。


 ハヤトはそのまま続けた。


「もし相手が村のことまで知ってるなら、みんなで森に入るのは危ない。ガルドにはこっちにいてもらった方が安心できる」


 ガルドはすぐには答えなかった。


 やがて小さく息を吐く。


「……お前、思ったより考えるんだな」


「今日それ何回目?」


 隣でセラが吹き出した。


「みんなハヤトのこと何だと思ってるんだろうね」


「セラまで言う?」


「私はちゃんと知ってるよ」


「その言い方もなんか嫌なんだけど」


 少しだけ空気が和らいだ。


 話がまとまると、ハヤトたちは宿へ戻る前にガルドの家へ寄った。


 森の地図をもう一度確認するためだ。


「足跡が消えたのはこの辺」


 ハヤトが場所を指す。


 ガルドはしばらく地図を見ていたが、やがて少し先へ指を滑らせた。


「なら、この辺りに古い小屋がある」


「小屋?」


「昔、炭焼きに使ってた場所だ。今は誰も使ってない。俺も何年か行ってないが、建物は残ってるはずだ」


「人が隠れるには?」


「十分だろうな」


 カイルが地図を覗き込む。


「今日見た人影が進んだ方向とも合う」


「やっぱり?」


「ああ」


 目的地が一つできた。


 ミナの匂いがそこまで続いている保証はないが、闇雲に森全体を探すよりずっといい。


「明日はまずそこだな」


「うん」


 セラが頷く。


 レグは地図を見ながら、少しだけ不安そうだった。


「ミナ、だいじょうぶ?」


「分からない」


 曖昧にごまかす気にはなれなかった。


「でも、血の匂いはなかったんだろ?」


「うん」


「争った跡もなかった。だったら、まだ大丈夫だと思って探そう」


 レグは少し考えて頷いた。


「うん」


 宿へ戻る途中、村の外れまで来たところでレグが立ち止まった。


「クロ」


「見に行く?」


「うん」


「俺も行くよ」


 ハヤトがそう言うと、セラもついて来ようとした。


「セラは休んどけって。今日何回治癒術使ったと思ってんの」


「別に歩くくらい――」


「明日もある」


 セラが言葉を止める。


「……じゃあ、先に戻ってる」


「そうして」


「ハヤトも長居しないでね」


「分かってる」


「本当に?」


「何その確認」


「一応」


 最後まで信用されていなかった。


 カイルも宿へ向かい、ハヤトとレグだけが村の外へ出る。


 クロを待たせていた木立へ近づくと、呼ぶ前に黒い身体が茂みから現れた。


「クロ」


 レグが駆け寄る。


 クロもゆっくり近づき、レグの手に鼻先を押しつけた。


「ちゃんといた」


「約束したからな」


「クロ、えらい」


 通じているのかいないのか、尾がゆっくり動く。


 ハヤトは少し離れたところに腰を下ろした。


 今日は長かった。


 朝に村を出て、森の地下で古い施設を見つけた。レグの人化につながる記録を知り、カイルと出会い、クロまで増えた。


 そのうえ村へ戻れば、今度は人が消えている。


「全然東に進まないな」


「ひがし?」


「いや、こっちの話」


 旅を始めたときは、気になる場所があれば寄り道すればいいと思っていた。


 まさか最初の村でここまで足止めされるとは思っていなかったが。


 それでも、不思議と嫌ではない。


 ミナが無事に戻れば、という条件つきではあるけれど。


「ハヤト」


「ん?」


 レグがクロの横で何かを持っていた。


 細長い布。


「それ何?」


「クロがもってた」


「クロが?」


 立ち上がって近づく。


 茶色い布だった。


 端が千切れている。


 かなり汚れているが、自然に落ちていたものを拾ったようには見えない。


「どこで見つけたんだ?」


 もちろんクロは答えない。


 レグが布を鼻へ近づける。


 すぐに目を見開いた。


「ミナ」


「え?」


「ミナのにおい」


 ハヤトの眠気が一気に消えた。


「朝借りた上着と同じ?」


「うん」


「クロ、これどこで拾った?」


 問いかけても、クロはこちらを見るだけだ。


「案内できる?」


 レグが聞く。


 クロの耳が動いた。


 森の方へ顔を向ける。


「ちょっと待て」


 ハヤトが止める。


 今から行くつもりなのか、クロが歩き出そうとした。


「今日は駄目」


 クロが振り返る。


「レグも。行かないぞ」


「でも、クロわかる」


「だからこそ、朝ならもっと早く行ける」


「……いまは?」


「暗いし、相手がいるかもしれない。二人だけで行くのはなし」


 レグは布を握ったまま森を見る。


 今までなら「いく」と言い張ったかもしれない。


 けれど今回は、少し考えたあとで頷いた。


「わかった」


「よし」


 ハヤトは布を受け取る。


「クロ、明日の朝案内してくれ」


 クロが分かっているかは知らない。


 ただ、森を見たあと再びその場へ伏せた。


「待つって」


「今回は俺もそう見える」


「わかってきた?」


「ちょっとだけな」


 レグが嬉しそうに笑った。


 翌朝。


 空が明るくなり始める前には、三人とも準備を終えていた。


 宿の前にはカイルもいる。


「早いな」


「そっちも」


「昨日の布の話を聞いて寝坊できるほど図太くない」


「誰に聞いた?」


「セラ」


「私が話した」


「いつの間に」


「ハヤトが寝てる間」


 どうやら最後に起きたのはハヤトだったらしい。


「寝坊?」


 レグが聞く。


「違う。予定の時間には起きた」


「さいごだった」


「それは寝坊じゃない」


「さいご」


「そこ強調しなくていいから」


 村の入口では見張りとガルドが待っていた。


「気をつけろよ」


「ああ」


「何かあったら無理に助けようとするな。一度戻れ」


「分かってる」


 ガルドがセラを見る。


「本当に?」


「なんで私に聞くんですか」


「一番まともそうだから」


「俺ここにいるんだけど」


 誰も拾わなかった。


 四人で村を出る。


 森の手前では、クロがすでに待っていた。


 レグの姿を見るとすぐ立ち上がる。


「クロ、おはよう」


 尾が一度動く。


「おはようって」


「それまで分かるようになったの?」


 セラが笑った。


「わかる」


「本当かなぁ」


 クロへ昨日の布を嗅がせる必要はなかった。


 最初から目的が分かっているかのように森へ入っていく。


 レグがその横につき、三人が後ろを追う。


 昨日の捜索で入った道を進み、籠が落ちていた場所を越える。


 罠を見つけた場所も通った。


 金属線はそのまま残っている。


「切らないの?」


 セラが聞く。


「帰りに場所分からなくなると危ないから、目印だけつけとこう」


 ハヤトは少し手前の木へ布を結んだ。


 カイルも罠の位置を確認している。


「昨日より増えてない」


「じゃあ戻ってきてない?」


「少なくとも、ここにはな」


 クロは立ち止まらない。


 罠を大きく迂回し、そのまま奥へ進む。


「昨日見た人影もこっちだったな」


「ああ」


 やがて、道らしいものが完全になくなった。


 それでもクロとレグは迷わない。


「匂い、ある?」


「ある」


「近い?」


「きのうより」


 少しずつ近づいている。


 昨日ガルドが教えてくれた古い炭焼き小屋の位置とも合っている。


 森に入って一時間ほどしたところで、カイルが手を上げた。


「止まれ」


 三人が足を止める。


「何?」


「ここ」


 木の幹に小さな傷があった。


 刃物で一度だけ削ったような跡。


 すぐ先の木にも同じものがある。


「誰かが目印つけてる?」


「多分な」


 セラが辺りを見る。


「ミナさん?」


「可能性はある」


 ハヤトが次の木を探す。


 あった。


 同じ高さ。


 同じ削り方。


「自分がどこ通ったか残してるのか」


「だったら、ミナさん自分で歩いてたんだね」


「少なくともここまではな」


 無理やり運ばれていたわけではない。


 それだけでも少し希望が持てる。


 クロが再び歩き出す。


 さらに何本か目印を追ったところで、今度はレグが立ち止まった。


「ある」


「何が?」


「あそこ」


 木の枝に、小さな白い布が結ばれていた。


 自然に引っかかったものではない。


 明らかに誰かが結んだものだ。


 セラが近づく。


「これ……服の切れ端かな」


 レグが匂いを確かめる。


「ミナ」


「じゃあ、わざと残したんだ」


 ミナはただ連れていかれているだけではない。


 誰かに見つけてもらうため、少しずつ痕跡を残している。


「思ったよりしっかりしてるな」


「森に慣れてるんでしょ」


「なるほど」


 その先にも、目印は続いていた。


 やがて森の中に、古びた建物が見えてくる。


 木造の小さな小屋。


 屋根の一部は崩れ、壁にも蔦が這っている。


「炭焼き小屋?」


「多分ここだ」


 カイルが低い声で答える。


 クロが止まった。


 毛が少し逆立っている。


「中にいる?」


 レグが鼻を動かす。


「ミナ、いる」


「もう一人は?」


「……いる」


 ハヤトは剣の柄へ手をかけた。


「生きてる?」


 レグが少し黙る。


「ミナはいきてる」


 まず一つ安心する。


「もう一人は?」


「わかんない」


「匂いはあるんだよな?」


「うん。でも、へん」


 カイルが小屋をじっと見る。


「正面から行くな」


「罠?」


「昨日の相手なら、そのくらい考える」


 四人は少し距離を取ったまま小屋の周囲へ回る。


 窓は一つ。


 裏口はない。


 建物の脇には新しい足跡が残っている。


「誰か出入りしてる」


 セラが小声で言う。


「それも最近だな」


 カイルが答える。


 ハヤトは窓の位置を確認した。


「俺、ちょっと見る」


「気をつけて」


 身体を低くして壁際まで近づく。


 罠は見当たらない。


 窓の下へしゃがみ、ゆっくり顔を上げる。


 中は暗かった。


 最初は何も見えない。


 目が慣れてくる。


 椅子。


 机。


 床に置かれた荷物。


 そして、奥。


 人がいた。


 一人は女性。


 両手を後ろで縛られ、壁際に座っている。


 意識はある。


 顔には見覚えがないが、状況から考えて間違いない。


 ミナだ。


 その少し離れたところに、もう一人。


 外套を着た人間が椅子に座っていた。


 顔は見えない。


 ただ、動いていなかった。


「……見つけた」


 ハヤトが小さく呟く。


 その瞬間。


 小屋の中の男が、ゆっくりこちらへ顔を向けた。


 窓越しに目が合った。


 ハヤトが反射的に身体を引く。


「気づかれた!」


 その声とほぼ同時に、小屋の扉が内側から勢いよく開いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。