↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランキング最高順位51位!『異世界に転移したので、もう我慢するのはやめました ~固有能力《自由》で好き勝手に生きる~』  作者: くんくん
選んだ道の先へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
73/175

風のある方へ

別の出口を探すと決めたものの、問題はどこから探すかだった。


 目の前には、壁いっぱいに浮かんだ古い地図がある。いくつもの印や線が重なり、この施設だけでなく東方一帯らしき地形まで描かれているが、現在地がどこなのかまでは分からない。


「これ、持って帰れたら楽なんだけどな」


「壁ごと?」


 セラが聞く。


「無理なのは分かってる」


「じゃあ覚えるしかないね」


「そんな簡単に言う?」


「ハヤト、こういうの得意そうじゃん」


「どこでそう思ったんだよ」


 カイルは二人のやり取りを気にする様子もなく、地図の端を眺めていた。


「この辺りが今いる場所だと思う」


 指しているのは、いくつもの線が集まった小さな印だった。


「分かるの?」


「外の地形と川の位置が合う。正確じゃないが、大きくは外してないはずだ」


「さっきまで役に立たないって言われてたのに」


 セラが小さく笑う。


「誰が言った」


「ハヤト」


「冗談だって」


「覚えてるからな」


 根に持たれたらしい。


 カイルが指を少し動かす。


「もしこの印が入口なら、こっちにも通路がある」


「でも地図自体が昔のものなんだろ?」


「ああ。残ってる保証はない」


 結局、行って確かめるしかなさそうだった。


 ハヤトが地図を頭に入れようとしている横で、レグは部屋の奥を歩き回っていた。壁を見たり床を見たりしているが、今回は何かに呼ばれている様子ではない。


「レグ、何してる?」


「みてる」


「何を?」


「でぐち」


「見つかった?」


「まだ」


 そのまま壁際まで行き、何気なく顔を上げる。


「でも、こっち涼しい」


 その一言に、ハヤトが振り返った。


「涼しい?」


「うん」


 レグのいる場所へ行ってみる。


 最初は分からなかった。


 だが手を壁へ近づけると、ごくわずかに空気が動いている。


「……風?」


 セラも気づき、髪を耳にかけながら壁へ近づいた。


「本当だ。ちょっとだけ来てる」


 地下深くに完全に閉ざされた部屋なら、風が流れているのは妙だ。


 カイルが壁を確認する。


「隙間があるな」


 石と石の間。


 目を凝らすと、一本だけ他より幅の広い線が入っている。


「また隠し扉?」


「いや」


 カイルがしゃがみ、下の方まで確認する。


「これは扉じゃない。壁の向こうに空間があるだけだ」


「壊せる?」


 レグが聞く。


 三人が同時に彼女を見る。


「待って」


 セラがすぐ止めた。


「何で?」


「レグが壊すって言うと、本当に壁全部なくなりそうだから」


「なくしたら、いける」


「そういう問題じゃない」


 レグは納得していない顔をした。


 ハヤトも壁を軽く叩いてみる。


 中が空洞なのか、少し鈍い音が返ってきた。


「この先に通路があるなら、どっかに入口もあるはずだろ」


「普通ならな」


 カイルが周囲を見る。


「でも、ここはさっきから普通じゃない」


「それは分かる」


 四人で壁沿いを調べ始めた。


 今回はレグが近づいても光らない。


 手形もない。


 古い文字がいくつか刻まれているだけだった。


「これ読めない?」


「待て」


 カイルが一つずつ確認していく。


「……これは名前っぽいな」


「人の?」


「多分。ただ、同じ言葉が何度も出てくる」


「何て?」


「『空』……いや、『外』に近いか」


 カイルは別の文字へ指を移した。


「こっちは『息』か『風』」


「風?」


 ハヤトとセラが顔を見合わせる。


 方向は間違っていなさそうだ。


「じゃあ、この先が外につながってる?」


「可能性はある」


「なら入口探そう」


 その後もしばらく探したが、扉らしい場所は見つからなかった。


 石台の下。


 壁の端。


 床。


 何か動かせそうなものもない。


「ないね」


 セラが壁に背を預ける。


「やっぱ壊す?」


 レグが言う。


「まだ早い」


「ずっとはやいっていう」


「最終手段だから」


「さいしゅう?」


「ほかに何もなかったら」


「じゃあ、もうなにもない?」


「もうちょっと待って」


 完全に壊す気でいる。


 そのとき、ハヤトはふと石台を見る。


「……カイル」


「何だ」


「さっきの映像出した台、あれだけ真ん中にあるの変じゃない?」


「何が言いたい?」


「この部屋に入るのもレグが手形触っただろ。そのあと映像が出て、地図も出た」


「だから?」


「出口も、何か操作するんじゃない?」


 カイルが少し考える。


 セラも石台へ目を向けた。


「さっきは手形しか触ってないよね」


「そうだな」


 四人で石台へ戻る。


 上面には古い文字。


 側面にはレグが触れた手形。


 その周りをよく見ると、小さな窪みがいくつかある。


「これ、何だ?」


 ハヤトが指を近づける。


 円形の窪み。


 その横に似た形が三つ並んでいた。


「押す?」


「ハヤトが?」


「なんで俺?」


「レグばっかり触らせるのもどうかと思って」


「それはそうだけど」


 セラに言われると、確かにそうだった。


「じゃあ俺がやる」


「待て」


 今度はカイルが止める。


「何?」


「俺がやる」


「なんで」


「こういう場所を追ってるのは俺だ。危険があるなら、俺が触る方が筋だろ」


 一瞬、ハヤトはカイルを見る。


「意外とちゃんとしてるんだな」


「お前は俺を何だと思ってる」


「怪しい人」


「まだそこか」


「まだ一日も経ってないだろ」


「それもそうだな」


 カイルは諦めたように窪みへ指を押し込んだ。


 何も起きない。


「……」


「間違えた?」


「うるさい」


 二つ目。


 変化なし。


 三つ目。


 石台が小さく光った。


「当たり」


「偶然だ」


「当たりは当たりだろ」


 淡い線が石台から床へ伸びる。


 今度は部屋全体ではなく、レグが風を感じた壁へ向かって一直線に続いていく。


 その先で、石の一部が沈んだ。


「お」


 低い音とともに、壁がゆっくり横へ動き始めた。


 人一人が通れる程度の細い隙間が現れる。


「開いた」


 レグが嬉しそうに言う。


「壊さなくてよかったね」


 セラが笑う。


「レグでもできた」


「できるかどうかじゃないんだって」


 隠されていた通路は狭かった。


 これまでの石造りとは違い、ほとんど手入れされていない。天井も低く、ところどころ木の根が石の隙間から入り込んでいる。


 それでも風は確かに奥から来ていた。


「外につながってそうだな」


「かなり上に向かってる」


 セラの言う通り、通路は緩い坂になっている。


 四人は一列になって進んだ。


 先頭はハヤト。


 その後ろにレグ、セラ、最後をカイルが歩く。


「クロ、どうする?」


 少し進んだところでレグが立ち止まった。


 忘れていたわけではない。


 クロはまだ、光の道が始まった場所で待っている。


「戻れると思う?」


 セラが聞く。


 後ろを見る。


 来た道そのものはまだ閉じていない。


「迎えに行くか」


「魔物が扉の向こうにいるぞ」


 カイルが言う。


「でもクロ置いてくのもな」


「クロ、ここにこれる?」


 レグが誰にともなく呟く。


 当然返事はない。


 ハヤトは少し考えた。


「出口だけ確認しよう。外に出られるのが分かったら、戻れる範囲まで戻る」


「危険なら?」


「そのとき考える」


 セラが後ろから顔を覗かせる。


「またそれ?」


「今はそれしかないだろ」


「まあ、今回はそうだね」


 再び歩き始める。


 通路は長かった。


 何度か曲がり、さらに上る。


 途中で崩れた場所もあったが、通れないほどではない。


 少しずつ空気が変わる。


 湿った地下の匂いが薄れ、代わりに土と木の匂いが強くなった。


「近い」


 レグが言う。


「分かる?」


「そとのにおい」


 そのままさらに進む。


 やがて、ハヤトの持つ灯りとは別の明るさが見えた。


「光だ」


 セラの声が弾む。


 出口は大きな岩と木の根に半分隠されていた。


 ハヤトが枝を押し退けると、森の緑が目に入る。


 地下に長くいたせいか、夕方前の日差しでも眩しかった。


「出た……」


 セラが大きく息を吐く。


 カイルも外へ出て周囲を確認する。


「ここは……施設の北側だな」


「分かる?」


「あの山が見える。入口からかなり離れてる」


 つまり、遺跡には少なくとも二つの出入口があったことになる。


 こちらは長い間使われていなかったらしい。


「クロ」


 レグが後ろの暗い通路を見る。


 ハヤトも同じ方向へ目を向けた。


「迎えに行くか」


「今から?」


「待たせるって言っただろ」


 レグがすぐ頷く。


「いく」


 セラも特に反対しなかった。


 カイルだけが少し呆れたように三人を見る。


「魔物一匹のためにまた地下へ戻るのか?」


「クロだよ」


 レグが答えた。


「……そうだったな」


 カイルは一度森を見て、それから通路へ向き直った。


「なら俺も行く」


「来るんだ?」


「一人で森に残る方が嫌だ」


「そっち?」


「こっちの森に何がいるか知ってるからな」


 確かに正しかった。


 四人は来た道を戻り始める。


 出口は見つかった。


 なら、あとはクロを連れてここへ戻ればいい。


 そう思っていた。


 ところが、しばらく進んだところでレグが足を止めた。


「……クロ」


「どうした?」


「きこえる」


 三人も耳を澄ませる。


 遠く。


 通路のずっと下から。


 一度だけ、獣の吠える声が聞こえた。


 続いて、何かが激しくぶつかる音。


 レグの表情が変わる。


「クロ!」


 今度は止めるより早く、レグが走り出した。


「レグ、待て!」


 ハヤトもすぐその後を追った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。