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ランキング最高順位51位!『異世界に転移したので、もう我慢するのはやめました ~固有能力《自由》で好き勝手に生きる~』  作者: くんくん
選んだ道の先へ

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古い光

男が走れと叫んだ直後、通路の壁に浮かんだ光が一気に広がった。


 細い線だったものが文字のような形を作りながら次々と奥へ伸び、天井、床、さらに隣の部屋へとつながっていく。遺跡全体に血が通い始めたような、不気味な光景だった。


「こっちだ!」


 男が先に走り出す。


「待て、出口そっちじゃないだろ!」


「来た道はもう使えない!」


「なんで分かるんだよ!」


「見れば分かる!」


 言われて振り返った瞬間、遠くで大きな音が響いた。


 石と石がぶつかる鈍い音。


 来た方向の通路で、天井から分厚い壁が落ちている。


「……ほんとに塞がってる」


「だから言った!」


「先に理由言えよ!」


「走りながら説明できるか!」


 できなくはないだろ、と言い返したかったが、今は黙ってついていく方がよさそうだった。


 セラとレグもすぐ後ろに続く。クロは誰より早く状況を理解したらしく、鎖を鳴らしながら男の横まで走っていた。


 遺跡の揺れは少しずつ大きくなっている。


 崩れるような揺れとは違う。


 どこか遠くで巨大な歯車でも動いているような、一定の振動だった。


「これ、遺跡が動いてるの?」


 走りながらセラが聞く。


「そうだ!」


「何が起きてるの!」


「封鎖だ!」


「それだけじゃ分かんないって!」


「俺も全部は知らん!」


 男が角を曲がる。


 三人も続く。


 さっき通った場所とは違う。壁に並んでいた小部屋も鎖もなく、細い通路がひたすら下へ続いていた。


「下行ってない?」


 ハヤトが気づく。


「出口は?」


「この先に別の通路がある!」


「あるんだな?」


「前に来たときはあった!」


「前に来てんじゃねえか!」


「今それ重要か!?」


「あとで絶対聞くからな!」


 男は答えなかった。


 やはり、この遺跡を知っている。


 しかも一度や二度ではなさそうだった。


 しばらく走ったところで、突然クロが足を止めた。


「クロ?」


 レグも止まる。


 男が数歩先で振り返った。


「何してる、急げ!」


「まって」


 レグは横の壁を見ていた。


 何もない。


 少なくともハヤトにはそう見えた。


「レグ、何かいる?」


「いる……じゃない」


「じゃあ何?」


 レグが壁へ一歩近づく。


 その瞬間だった。


 壁に新しい光が走った。


「触るな!」


 男の声が飛ぶ。


 だがレグは触っていない。


 目の前の石壁が、低い音を立てて左右へ割れ始めた。


「……何だこれ」


 隠し扉だった。


 奥には別の通路が続いている。


 ハヤトは男を見る。


「これも知ってた?」


「知らない」


 今度は即答だった。


 男自身も驚いている。


「じゃあなんで開いたの?」


 セラが聞く。


「俺に聞くな」


 男の視線がレグへ向く。


 三人とも同じことを考えた。


「レグ、何かした?」


「してない」


「本当に?」


「みただけ」


「見ただけで開く扉って何だよ……」


 レグは首を傾げている。


 そのとき、元の通路の奥から音がした。


 金属。


 いや、鎖。


 大量の鎖が一度に引きずられるような音が、こちらへ近づいている。


 クロが全身の毛を逆立てた。


「話はあとだ!」


 男が隠し通路を指す。


「入るぞ!」


「そっち出口につながってる?」


「知らん!」


「さっきより悪化してるじゃん!」


「ここに残るよりましだ!」


 確かにそうだった。


 ハヤトはセラとレグを先に入れ、自分も続く。男とクロが最後に飛び込んだ直後、扉は勝手に閉まり始めた。


 隙間が狭くなる。


 その向こうの暗闇から、何かが姿を見せた。


 四つ足。


 一匹ではない。


 二匹。


 三匹。


 さらにその後ろにもいる。


 森で戦ったものと同じように身体の形が崩れ、前脚や背中が異常に発達した魔物たちだった。


「まだあんなにいたのかよ」


 ハヤトが剣を抜くより先に、扉が閉じた。


 鈍い衝撃音が向こう側から響く。


 一度。


 二度。


 石壁は揺れたが、開く気配はない。


「……助かった?」


 セラが息を整えながら壁を見る。


「今のところは」


 男も壁から少し離れた。


「ここの扉は厚い。すぐには壊れないはずだ」


「知らないって言ってなかった?」


「構造見ればそれくらい分かる」


「便利だな、その言い方」


 ハヤトが返すと、男は一度だけこちらを睨んだ。


「それより、そいつだ」


 指した先にはレグがいる。


「何?」


「今の扉をどうやって開けた?」


「だから、なにもしてない」


「そんなわけ――」


「レグが嘘つく理由ないだろ」


 ハヤトが間に入る。


 男は言葉を止めた。


「……それはそうだな」


 意外と引くのが早い。


 セラが息を整えながら壁の光を見る。


「でも、レグが近づいたら開いたのは確かだよね」


「うん」


「壁の絵も、冊子の印も何か知ってるって言ってたし……」


 レグは自分でも分からないようで、閉じた扉を見つめている。


「ここ、へん」


「どういう意味?」


「レグのこと、しってるみたい」


 さっきの魔物に対しても似たようなことを言っていた。


 今度は場所そのもの。


 ハヤトは何も答えず、周囲へ灯りを向けた。


 隠し通路は今まで歩いてきた場所と雰囲気が違う。壁に傷や鎖はなく、床にも埃がほとんど積もっていない。


 何より、壁に走る光が消えていない。


 一定の間隔で、淡い白色の線が奥へ続いている。


「これ、道みたいだな」


「奥へ行けってこと?」


 セラが言う。


「そうだったら嫌だな」


「でも戻れないよ」


「それなんだよな」


 後ろでは今も魔物が扉へ体当たりしている。


 なら進むしかない。


「ちょっと待て」


 男が口を挟んだ。


「その前に確認したい」


「何?」


「お前たちは、あの女をどこで見つけた?」


 ハヤトの表情が変わる。


「女ってレグ?」


「ああ」


「何で?」


「答えてくれ」


「先にあんたが誰なのか言えよ」


 今まで何度もはぐらかされている。


 さすがにこれ以上、一方的に話すつもりはなかった。


 男はハヤトを見たあと、セラ、そしてレグへ順番に視線を移した。


 少し考える。


「……カイル」


「ん?」


「俺の名前だ」


「名前聞いてないけど」


「まずそこからだろ」


「まあ、それはそうか」


 ようやく名前が分かった。


「俺はカイル。この遺跡を調べてる。正確には、ここみたいな場所をいくつか追ってる」


「いくつか?」


「ああ。ここだけじゃない」


 ハヤトは少し眉を寄せた。


「同じ遺跡がほかにもある?」


「似た施設が、東に点々と残ってる」


「何の施設?」


「それを調べてる」


「またそれかよ」


「本当に全部分かってないんだ」


 カイルは苛立つでもなく答えた。


「分かってるのは、生き物を弄っていたこと。獣だけじゃない。それから――」


 その視線がレグへ向く。


「竜も対象だった」


 空気が少し重くなった。


 レグは何も言わない。


 ハヤトはカイルから目を離さなかった。


「だからレグを見てた?」


「そうだ」


「人の姿なのに?」


「だからだよ」


 カイルの返事は早かった。


「何?」


「人の姿を取る竜について、古い記録がある」


 三人の間に沈黙が落ちる。


 ハヤトが東へ向かうきっかけになった記録。


 まさにそれだった。


「その話、どこで知った?」


「逆だ。俺が聞きたい」


 カイルの顔から、それまでの曖昧な態度が少し消えた。


「お前たちは、何を追ってここまで来た?」


 ハヤトはすぐには答えなかった。


 この男を信用していいのかは、まだ分からない。


 ただ少なくとも、自分たちと無関係な人間ではなさそうだった。


「……人の姿を取った竜」


 セラが先に口を開いた。


 カイルが彼女を見る。


「東に古い記録が残ってるって聞いた。それで私たちは旅に出たの」


「どこでその記録を?」


「それはまだ言わない」


 セラははっきり返した。


「そっちだって全部話してないでしょ?」


 一瞬、カイルが黙る。


 それから小さく笑った。


「確かに」


 ハヤトも少し驚いた。


 普段は柔らかいセラだが、こういうところは意外と譲らない。


「じゃあ一つずつだ」


 カイルが言う。


「俺が一つ話す。そっちも一つ話す。それでどうだ?」


「取引?」


「そんな大げさなもんじゃない」


「でも悪くないか」


 ハヤトはセラを見る。


「私はいいよ」


 レグにも目を向ける。


「レグは?」


「よくわかんない」


「だよな」


 本人が一番関係しているのに、話だけなら一番置いていかれている。


 レグが少し考え、カイルを見る。


「レグのこと、わかる?」


 真っ直ぐな問いだった。


 カイルはすぐに答えなかった。


「少しだけなら」


「じゃあ、きく」


「……分かった」


 その返事を聞いて、レグは頷いた。


 話を始めようとした、そのとき。


 通路の奥で光が強くなった。


 一番先の壁。


 そこに、また新しい線が浮かび上がる。


 今度は文字ではない。


 形だった。


 大きな翼。


 長い尾。


 そして、その前に立つ人の姿。


「また竜……」


 セラが呟く。


 レグが一歩前へ出る。


 壁の光がさらに強くなった。


 カイルの顔色が変わる。


「近づくな」


「でも」


「レグ、待て」


 ハヤトも声をかける。


 その直後。


 光の中から、声が聞こえた。


 低く、掠れた声。


 古い言葉なのか、ハヤトにもセラにも意味は分からない。


 ただ一人。


 レグだけが動きを止めた。


「……レグ?」


 振り返った顔は、驚いていた。


「いまの」


「分かったの?」


 レグはゆっくり頷いた。


「レグ、っていった」


 通路から、もう一度声が響いた。

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