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ランキング最高順位51位!『異世界に転移したので、もう我慢するのはやめました ~固有能力《自由》で好き勝手に生きる~』  作者: くんくん
選んだ道の先へ

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崩れた先

穴の前に立つと、森の中より空気がひんやりしていた。


 地面が大きく崩れ、その下に隠れていた空間が露出している。入口は人が二、三人並んで通れそうな幅があり、奥はすぐに暗闇へ飲み込まれていた。


 ハヤトはしゃがみ込み、崩れた土の下から覗いている黒い岩肌に触れようとして、途中で手を止めた。


「これ、岩……か?」


「違うの?」


 セラも隣へしゃがむ。


「分かんない。ただ、妙に平らなんだよな」


 土を少し払うと、表面にはほとんど凹凸がなかった。自然に割れた岩というより、誰かが削った石に見える。


 さらに端を追うと、真っ直ぐな線まで残っていた。


「作られたものっぽいね」


「俺もそう思う」


 森の地面の下に、何かが埋まっていた。


 それが最近の崩落で表に出てきたらしい。


 レグは入口のすぐそばに立ち、奥から流れてくる空気をじっと感じ取っている。


「匂いは?」


「いっぱいする」


「昨日のやつ?」


「うん。それもある」


「それも、か」


 森へ入ってから何度か聞いた言葉だった。


 この奥には、少なくとも一つではない何かがある。


「入る?」


 セラが聞いてきた。


 ハヤトは暗い入口を見る。


「ここまで来て帰る?」


「ハヤトなら言わないと思った」


「聞いた意味ある?」


「一応」


 セラが少し笑う。


 レグはもう入るつもりらしく、入口へ一歩近づいていた。


「レグ、待て」


「まだはいってない」


「今入ろうとしてただろ」


「ちょっとだけ」


「そのちょっとが危ないんだって」


 ハヤトは鞄から灯りを取り出した。


 魔力を流すと、白い光が周囲を照らす。


「今度こそ行くぞ」


「うん」


 三人でゆっくり中へ入る。


 最初の数歩は、崩れた土と石が足元に積もっていた。だが少し進むと地面の感触が変わった。


 土ではない。


 平らな石。


「やっぱり道だね」


 セラの声が洞窟の中へ小さく響く。


「それも、かなりちゃんとした」


 壁も自然な岩ではなかった。


 大きな石を積んだものではなく、一枚の岩を削り出したように滑らかだ。ところどころひび割れてはいるものの、少なくとも普通の洞窟ではない。


 通路は緩やかに下へ続いていた。


「遺跡かな」


「ありそうだな」


「森の下に?」


「埋まったんじゃない? いつからあるのか知らないけど」


 何百年も土の下にあったのか。


 それとも、もっと最近まで入口が別の場所にあったのか。


 まだ判断できない。


 奥へ進むにつれ、外の光が届かなくなる。ハヤトの灯りだけが三人の周囲を照らし、その先には黒い通路が続いていた。


 レグはさっきからほとんど喋らない。


「大丈夫?」


 セラが声をかける。


「うん」


「嫌な感じする?」


「ちょっと」


 レグがそう答えるのは珍しかった。


「戻る?」


 ハヤトが聞くと、レグはすぐ首を横に振った。


「いく」


「無理しなくていいぞ」


「しりたい」


 短い返事だった。


 ハヤトはそれ以上止めなかった。


 レグ自身が行くと決めているなら、今は隣にいればいい。


 少し進んだところで、通路の壁に何かが見えた。


「待って」


 セラが足を止める。


「ここ、何か書いてない?」


 灯りを近づける。


 壁の一部に、浅く彫られた線が残っていた。


 文字。


 ただし、ハヤトがこれまで見てきたものとは違う。


「読める?」


「無理」


「私も」


 いくつもの記号が横に並んでいる。文字だとは思うが、形そのものが見慣れなかった。


「レグは?」


「わかんない」


「さすがに無理か」


 レグは文字より、壁そのものを見ていた。


「でも、ここ……」


「何?」


 レグが指先で壁を触る。


「しってる?」


「わかんない。でも……へん」


 また曖昧な答え。


 ただ、今までとは少し違う。


 匂いではなく、場所そのものに何かを感じているようだった。


「昔来たことあるとか?」


 ハヤトが半分冗談で聞く。


 レグはすぐには答えなかった。


「ないと、おもう」


「思う?」


「おぼえてない」


 その返事に、ハヤトは言葉を止めた。


 レグには、幼い頃の記憶がほとんどない。


 ガルドとミレアのことも、断片的にしか覚えていない。


 本人ですら知らない何かが、この場所に残っている可能性はある。


「まあ、今はいいか」


「うん」


 三人は先へ進んだ。


 しばらくすると、通路の幅が少し広がった。


 左右の壁に、等間隔で金具が埋め込まれている。


「これ……」


 セラが近づく。


 黒ずんだ輪。


 そこから、切れた鎖が垂れていた。


 三人の動きが止まる。


「鹿についてたのと同じか?」


 ハヤトは直接触れず、灯りだけ近づけた。


 大きさは違う。


 だが形はよく似ている。


 壁には同じものが何個も並んでいた。


 低い位置。


 高い位置。


 中には鎖そのものが残っているものもある。


「何か繋いでたってこと?」


 セラの声が少し硬くなる。


「多分」


 人間なのか。


 動物なのか。


 魔物なのか。


 そこまでは分からない。


 レグが一つの金具へ近づく。


「匂い、これ」


「同じ?」


「うん」


 昨日倒した魔物。


 鹿。


 森の中で拾った金具。


 そしてこの場所。


 全部が、ここへつながった。


「じゃあ、あの魔物もここにいた?」


「可能性はあるな」


「誰かが飼ってたとか?」


「飼うっていうより……」


 ハヤトは並んだ鎖を見る。


「閉じ込めてたように見える」


 セラは何も言わなかった。


 通路の先には、さらに大きな空間が見えていた。


 三人は警戒しながら進む。


 やがて、広い部屋へ出た。


 天井は高く、灯りを上へ向けても全体が見えない。壁際には崩れた棚や木箱らしき残骸が並び、中央には石造りの台がいくつも置かれている。


「……何ここ」


「分からん」


 一番近い台へ寄る。


 表面には深い傷が残っていた。


 三本。


 昨日の魔物と同じような爪痕だ。


「ここにもいたんだね」


「ああ」


 台の周囲には、古い鎖が散らばっている。


 床にも何かを引きずったような跡が何本も残っていた。


 ただ、全部が古いわけではない。


「これ」


 ハヤトはしゃがみ込む。


 床の上に黒いものが落ちている。


 毛だった。


 まだ乾ききっていない血も付いている。


「最近だな」


「じゃあ、今もここ使われてる?」


 セラが周囲を見る。


「誰かに?」


「それが分からない」


 遺跡そのものは古い。


 けれど、魔物がここにいたのは最近。


 誰かが昔の施設を使っているのか、それとも閉じ込められていたものが、崩落をきっかけに外へ出たのか。


 後者なら、一月ほど前から魔物が出始めた時期とも合う。


 レグは部屋の奥へ歩いていた。


「レグ、離れるなよ」


「ハヤト」


 声の様子が違う。


 ハヤトとセラがすぐにそちらへ向かう。


 レグは壁の前で立ち止まっていた。


「どうした?」


「これ」


 灯りを近づける。


 壁に、大きな絵が彫られていた。


 ずいぶん削れている。


 それでも輪郭は分かった。


 翼。


 長い尾。


 角。


「……竜?」


 セラが呟く。


 間違いない。


 壁に彫られていたのは、一体の竜だった。


 その周囲に人の姿が何人も並んでいる。


 ただの装飾なのか、何かの記録なのか。


 ハヤトには分からない。


 レグは黙ったまま竜の絵を見ていた。


「何か分かる?」


「……しらない」


 返事は小さい。


 けれど、目は離れない。


 ハヤトはその隣へ立つ。


「無理に思い出さなくていいからな」


「うん」


 少しだけ間を置いて、レグが口を開いた。


「でも」


「ん?」


「これ、みたことある」


 ハヤトとセラが同時にレグを見る。


「どこで?」


 レグは壁を見たまま首を横に振った。


「わかんない」


 そこまでは出てこないらしい。


 ただ、今までの「知っている気がする」とは違った。


 レグははっきりと、見たことがあると言った。


 そのときだった。


 部屋のさらに奥から、金属が床を擦るような音がした。


 ガリ――。


 三人とも動きを止める。


 もう一度。


 ガリ、ガリ。


 暗闇の向こうから聞こえる。


 ハヤトはゆっくり剣を抜いた。


「レグ」


「いる」


「昨日の魔物?」


 レグは奥を見つめた。


 しばらくして、首を横に振る。


「ちがう」


 金属を引きずる音が、少しずつ近づいてくる。


 セラも杖を構えた。


「じゃあ、何?」


 レグは答えなかった。


 ただ、いつもより少しだけハヤトの近くへ寄った。


 暗闇の奥で、何かが動いた。

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