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ランキング最高順位51位!『異世界に転移したので、もう我慢するのはやめました ~固有能力《自由》で好き勝手に生きる~』  作者: くんくん
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残った違和感

翌朝。


 ハヤトが目を覚ましたときには、すでにセラの姿が部屋になかった。


 窓から差し込む光を見る限り、寝過ごしたわけではない。むしろまだ少し早いくらいだ。隣の寝台ではレグが毛布にくるまったまま丸くなっている。


「……よく寝るな」


 昨日あれだけ歩いて、森では魔物まで殴り飛ばしたのだから、疲れていても不思議ではない。


 そう思って眺めていると、毛布の中から声がした。


「おきてる」


「起きてたのかよ」


「いま、おきた」


「じゃあ起きてないじゃん」


 毛布の中でもぞもぞ動いたあと、レグが顔だけ出す。


「セラいない」


「俺も今気づいた」


「ごはん?」


「なんでセラがいないだけで飯になるんだよ」


「朝だから」


「それはそうだけど」


 反論しづらい。


 レグはようやく身体を起こすと、髪をあちこち跳ねさせたまま部屋を見回した。


「セラ、どこ?」


「さあ。先に下行ったんじゃない?」


 ハヤトも上着を羽織り、二人で一階へ降りる。


 宿の食堂にはすでに何人か客がいた。商人らしい男が朝食を取り、奥では宿の主人が忙しそうに皿を運んでいる。


 セラはその中にいた。


 ただし食事をしているわけではない。


 入口近くの席で、昨日ネイトを運んだ村人と話していた。


「おはよ」


 近づくと、セラがこちらを見た。


「おはよう。ちょうどよかった」


「何してたの?」


「ネイトのこと聞いてた」


 村人がハヤトたちへ軽く頭を下げる。


「夜中に一度熱が出たらしいが、今は落ち着いてるそうだ。治療師も、もう命の心配はないって言ってたよ」


「そっか」


 その言葉を聞いて、ハヤトも肩の力が抜けた。


 昨日の傷を思い出せば、無事だっただけでもかなり運がいい。


「セラのおかげだな」


「私だけじゃないよ。ちゃんと治療してくれた人がいたから」


「でも、最初に血止めてなかったらまずかっただろ」


「それは……まあ」


 素直に褒められるのがまだ少し苦手なのか、セラは視線を逸らした。


 レグがその横から顔を出す。


「ごはんは?」


「話聞いてたのに、そこ?」


「おなかすいた」


「はいはい。先に食べよ」


 結局、詳しい話は朝食のあとになった。


 パンと卵、それに薄いスープという簡単な朝食だったが、レグは妙に満足そうだった。昨日買った焼き菓子の残りまでしっかり食べている。


「それ、まだあったんだ」


「あとでたべるっていった」


「ちゃんと残してたの偉いな」


「えらい?」


「うん」


 褒められたのが嬉しいのか、レグは少し得意そうな顔をした。


 食事を終えると、三人はまずネイトの様子を見に行くことにした。


 治療師の家は村の中央から少し外れたところにある。扉を叩くと、中から年配の女性が出てきた。


「ああ、昨日の子たちだね。入んな」


 通された部屋には、ネイトとラウルがいた。


 ネイトは寝台に横になっているものの、昨日より顔色はかなりいい。ラウルは椅子に座り、包帯を巻かれた足を前へ投げ出していた。


「お、来たか」


「その足でまだここにいるの?」


 セラの第一声に、ラウルが苦笑する。


「ちゃんと座ってるだろ」


「帰った方がよくない?」


「ネイトが目を覚ますまではな」


「頑固だね」


「昨日それ、あんたにも思ったぞ」


「私は動けたからいいの」


「そういう問題か?」


 二人が言い合っている横で、ハヤトはネイトの方を見る。


「どう?」


「さっき目ぇ覚ましたよ」


 ラウルが答えた。


「今はまた寝てる。意識もしっかりしてた」


「ならよかった」


 治療師の女性も頷く。


「傷自体は深かったけど、最初の処置がよかったね。あんた、治癒術使えるんだろ?」


 セラを見る。


「まだ少しだけです」


「少しであれだけ塞げりゃ十分だよ。無茶はしたみたいだけどね」


「……分かります?」


「分かるよ。顔見りゃね」


 セラは少し気まずそうに黙った。


 ハヤトは横目でそれを見る。


 昨日、あれ以上続けていたら本当に倒れていたかもしれない。


「次からはちゃんと止めるからな」


「ハヤトに言われたくないんだけど」


「なんでだよ」


「自分のことになると無茶するじゃん」


「俺は状況見てるって」


「それ、本人だけが言うやつ」


 ラウルが笑った。


「仲いいな、あんたら」


「普通だよ」


 セラがすぐ返す。


「普通なんだ」


「何?」


「いや、別に」


 変なところを掘ると面倒そうなので、ハヤトは話を戻した。


「ネイトが起きたら、昨日のこと聞いてもいい?」


「大丈夫だと思うよ。ただ、長話はさせないでおくれ」


「分かった」


 まだ時間がかかりそうだったため、三人は一度外へ出ることにした。


 昨日と違い、朝の村には人がそれなりに出ている。畑へ向かう人や店を開ける人の姿も見えるが、それでも村の外へ向かう人数は少なかった。


「昨日の話、もう少し聞いてみる?」


 セラが言う。


「うん。狩人が何か知ってるかも」


「じゃあ、聞いてみよ」


 レグもついてきたが、途中でパン屋の前に視線を奪われた。


「買わないぞ」


「みてるだけ」


「本当に?」


「うん」


「珍しい」


「あとでかう」


「結局買うんじゃん」


 レグは気にせず店を見ながら歩いている。


 昨日話を聞いた焼き菓子屋の女性に尋ねると、狩人なら村の西側に住んでいる男が一番詳しいらしい。


 三人で向かうと、家の前で弓の手入れをしている男がいた。


 年は五十前後。日に焼けた顔に短い髭を生やし、こちらを見るなり手を止める。


「あんたらが昨日の冒険者か」


「話早いな」


「ここじゃ昨日からその話ばっかりだよ」


 男はガルドと名乗った。


「ガルド?」


 レグが反応する。


 ハヤトも一瞬だけ引っかかった。


 同じ名前。


 ただ、それだけだ。


 レグの父親とされるガルドとは年齢も見た目も違う。珍しくない名前なのかもしれない。


「どうした?」


「いや、知り合いと同じ名前で」


「そうか。俺はこの辺じゃ昔からガルドだ」


「そりゃそうだろ」


 男が笑った。


「で、何を聞きたい?」


「最近出てる魔物のこと」


 ハヤトが特徴を説明すると、ガルドの表情が変わった。


「やっぱり、あれか」


「見たことある?」


「遠くからな。俺は近づかなかった」


「いつ頃?」


「最初に見たのは三週間くらい前だ」


 昨日聞いた話より少し具体的だった。


「森の奥で鹿を追ってたときに見た。最初は大きな狼かと思ったんだが、歩き方がおかしくてな」


「歩き方?」


「ああ。前脚だけ重そうだった。身体の形も妙だったし、何より臭いが違った」


 その言葉に、レグが顔を上げた。


「におい?」


「分かるのか?」


「うん」


 ガルドは少し驚いたものの、話を続ける。


「獣臭さだけじゃない。鼻につくような臭いが混じってた。薬品……いや、焦げた石みたいな感じだったか」


 ハヤトはレグを見る。


「同じ?」


 レグは少し考える。


「ちょっと、にてる」


 初めて少し具体的なものが出た。


「それで、その魔物はどこから来たんですか?」


 セラが聞く。


「そこまでは分からん。ただ、妙なものを見つけた場所はある」


「妙なもの?」


「穴だよ」


 三人の視線が集まる。


「森の奥に、前までなかった穴が開いてる。洞窟って感じじゃない。地面が崩れて、その下が出てきたみたいなやつだ」


「いつから?」


「一月くらい前だと思う」


 今度は時期が合った。


「魔物が出始めた頃と同じ?」


「多分な。俺も最初は関係ないと思ってた」


「今は?」


「分からん。ただ、あの辺りから獣が減ったのは確かだ」


 ガルドは弓を置き、家の壁に立てかけてあった古い地図を持ってきた。


「ここだ」


 指した場所は、昨日ハヤトたちが入った森よりさらに東側だった。


「昨日いた場所より奥だな」


「ああ。村から歩けば半日以上かかる」


 セラが地図を覗く。


「この街道からも少し外れるね」


「そうだな」


 東へ向かうだけなら、わざわざ寄る必要はない。


 ただ、魔物。


 森の異変。


 時期。


 そしてレグが感じた匂い。


 少しずつ、同じ場所を指している気はする。


「行く?」


 セラが聞いた。


 ハヤトはすぐには答えなかった。


 地図を見る。


 東へ伸びる街道。


 その途中から少し外れた森の奥。


「ネイトの話を聞いてから決めよう」


「うん」


 セラはそれ以上言わなかった。


 レグは地図より、ガルドの弓の方を見ている。


「それ、つよい?」


「弓か?」


「うん」


「俺が使えばな」


「レグもつかえる?」


「使ったことあるのか?」


「ない」


「なら、まず練習だな」


 レグがハヤトを見る。


「やりたい」


「今?」


「うん」


「今はやめとこうな」


「なんで?」


「話の途中だから」


「そっか」


 すぐ納得した。


 ガルドは笑いながら弓を置き直す。


「また時間あるとき来い。少しくらいなら教えてやるよ」


「ほんと?」


「いいぞ」


「やる」


 目的が一つ増えたらしい。


 ハヤトは少し苦笑した。


 森の異変を調べるのか。


 そのまま東へ進むのか。


 それ以前に、レグが弓を覚え始めるのか。


 まだ何も決まっていない。


 けれど、旅なんてそれくらいでいいのかもしれない。


 予定になかったことが増えていく。


 その中から、どれを選ぶのか。


 それを決めるのも、自分たちだった。

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