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ランキング最高順位51位!『異世界に転移したので、もう我慢するのはやめました ~固有能力《自由》で好き勝手に生きる~』  作者: くんくん
選んだ道の先へ

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村の灯り

エルナ村へ着いたころには、空がすっかり夕方の色に変わっていた。


 村そのものは大きくない。街道沿いに家や店が並び、その周囲を畑が囲んでいる。ラーデンのような高い外壁はなく、入口に簡単な柵と見張り台がある程度だった。


 ただ、近づくにつれてハヤトは少し妙なことに気づいた。


「……静かだな」


「うん。まだこんな時間なのにね」


 セラも同じことを感じていたらしい。


 日が沈むにはまだ少し早い。それなのに畑から戻る人の姿はほとんどなく、村の外で遊ぶ子供もいない。入口には男が二人立っていて、こちらの荷馬車を見つけるとすぐに駆け寄ってきた。


「ドルク! 見つかったのか!」


「ああ。二人とも生きてる!」


 その声を聞いた途端、村の空気が動いた。


 近くの家から何人かが出てきて、あっという間に荷馬車の周りへ集まる。ネイトはそのまま担架へ移され、治療師のいる家へ運ばれていった。ラウルも歩こうとしたが、セラに睨まれて大人しく肩を借りている。


「自分で歩けるんだが」


「さっきもそれ言ってましたよね?」


「いや、でも今は――」


「転んだら治した意味なくなるので」


「……分かった」


 知らない相手にはちゃんと丁寧なのに、言っていることは容赦がない。


 ハヤトが少し笑っていると、セラが振り返った。


「何?」


「いや、なんでも」


「絶対なんか思ったでしょ」


「思ってないって」


「怪しい」


 第一部の頃から何度も繰り返してきたやり取りに、少しだけ気が抜ける。


 レグはそんな二人には興味がないらしく、村の中をきょろきょろ見回していた。荷物を運ぶ人、井戸から水を汲む人、店先で片づけをしている人。その視線が最後に止まったのは、やはり食べ物を売っている店だった。


「ハヤト」


「駄目」


「まだなにもいってない」


「どうせ食べたいだろ」


「うん」


「認めるの早いな」


 レグは店先に並んだ焼き菓子を見つめたまま動かない。


「あとでね」


 セラが声をかけると、ようやくレグが振り返った。


「あと?」


「ちゃんと宿が決まってから」


「じゃあ、はやくきめる」


「そこだけ急ぐんだ」


 三人でそんな話をしていると、荷馬車を運転していた村人が戻ってきた。


「本当に助かったよ。ドルクたちを見つけてくれて」


「俺たちはたまたま通っただけだから」


「そのたまたまがなきゃ、どうなってたか分からん」


 男は何度も頭を下げたあと、村の奥へ目を向けた。


「宿なら話をつける。今日は村でゆっくりしてってくれ」


「それはありがたいけど……いいの?」


「いいも何も、礼くらいさせろ」


 断る理由もなかった。


 案内された宿は、二階建ての小さな建物だった。旅人向けというより、近くを行き来する商人や行商人が泊まるための場所らしい。部屋は簡素だったがきれいに整えられていて、三人で泊まるには十分だった。


 荷物を置いた途端、レグが自分の鞄を床へ下ろす。


「ついた」


「ついたな」


「じゃあ、たべる」


「それが最初かよ」


「セラが、あとっていった」


「言ったけど、覚えてたんだ」


「だいじだから」


「食べ物に関してだけ記憶力いいよな」


 結局、焼き菓子を買いに行くことになった。


 宿を出ると、村の中央付近には人が少し戻ってきていた。ドルクたちが無事だったという話が広まったらしく、先ほどより空気も明るい。


 それでも、村の外へ向かう人はいない。


 何軒かの家では、まだ日が落ちきっていないうちから戸締まりを始めていた。


「やっぱり変だね」


 セラが小さな声で言う。


「ああ」


 ハヤトも頷く。


 魔物の話が出始めたのが一月ほど前。


 今日襲われたドルクたち。


 村の様子を見る限り、すでに生活にも影響が出ているらしい。


 焼き菓子を買う店へ着くと、レグが急に元気になった。


「これ」


「一個な」


「ふたつ」


「一個」


「ふたつ」


「交渉するようになったな」


「ふたつ」


 譲る気はないらしい。


 店番をしていた年配の女性が、そのやり取りを見て笑った。


「二つくらい買ってやんなよ。今日は村を助けてくれたんだろ?」


「もう話広まってるんですか?」


「こんな小さい村だよ。隠し事の方が難しいさ」


 結局、二つ買うことになった。


 レグは満足そうに一つ目を食べ始める。


「うまい?」


「うまい」


「よかったね」


 セラが笑う。


 店の女性はそんなレグを見ていたが、ふと森の方向へ顔を向けた。


「しかし、あんたたちも災難だったね。あの森へ入ったんだろ?」


「はい。見たことのない魔物がいました」


 セラが答えると、女性の表情が少し曇った。


「やっぱりいるんだねぇ」


「最近多いんですか?」


「私は見ちゃいないよ。でも、狩りに行った連中が何度か見てる。森に入らなくなった人も多いね」


 なるほど。


 あの静けさはそのせいか。


「前からこの辺にいる魔物じゃないんですか?」


「少なくとも私は知らないね。ここで生まれてずっと暮らしてるけど、そんな話が出始めたのは本当に最近さ」


 ハヤトはセラを見る。


 村人にとっても、突然現れた魔物らしい。


「何か変わったことってありませんでした?」


「変わったこと?」


「魔物が出始めたころに」


 女性は腕を組み、少し考え込んだ。


「さあねぇ……森の奥で獣が減ったとか、狩人が言ってたくらいかね。あとは――」


 そこで一度言葉を止めた。


「東から来る商人が減ったかな」


「東?」


 思わずハヤトが聞き返す。


「ああ。この街道をずっと行けば、いくつか町があるだろ。前は向こうから来る行商人も多かったんだけど、最近は随分減ったよ」


「理由は?」


「知らないねぇ。道が危ないとか、そんな話じゃないのかい?」


 その程度の話だった。


 魔物と関係があるかどうかも分からない。


 ただ、これから東へ向かう三人にとっては少し気になる情報ではある。


「ありがと」


「いいってことさ。それより暗くなる前に宿へ戻りな。今は夜に村の外へ出ない方がいいよ」


「そうします」


 店を離れ、三人は宿へ戻る。


 レグは二つ目の焼き菓子を手にしていたが、まだ食べていない。


「食べないの?」


 セラが聞く。


「あとで」


「珍しい」


「あとでたべるのも、いい」


「成長したな」


「せいちょう?」


「いや、なんでもない」


 ハヤトは少し笑いながら、さっき聞いた話を頭の中で整理する。


 一月ほど前から現れた見たことのない魔物。


 森から減った獣。


 少なくなった東からの商人。


 そして、レグが森で感じた妙な匂い。


 全部がつながっているとは限らない。


 今のところ、無理につなげる必要もないだろう。


「明日どうする?」


 セラに聞かれ、ハヤトは少し考えた。


「まずネイトの様子見に行こう。そのあと村で話聞いて、普通に東へ行くか決める」


「森には?」


「今すぐ戻る必要はないだろ」


 セラが少し意外そうな顔をする。


「何?」


「いや。ハヤトなら、気になるから行くって言うかと思った」


「俺を何だと思ってるんだよ」


「気になったらすぐ行く人」


「……否定しづらいな」


 確かにそういうところはある。


 ただ、今回は旅を始めたばかりだ。何でも見つけた瞬間に追いかける必要はない。


 それに――。


「レグ」


「なに?」


「さっきの匂い、まだ気になる?」


「うん」


「思い出しそう?」


 レグは少し考えたあと、首を横に振った。


「まだ」


「なら、急がなくていい」


「いいの?」


「思い出したら教えて」


「うん」


 それで話は終わった。


 宿へ戻るころには、村のあちこちに灯りが点き始めていた。


 夕食の匂いが流れてきて、レグがすぐに反応する。


「ハヤト」


「分かった分かった」


「まだなにもいってない」


「飯だろ?」


「うん」


 セラが隣で笑った。


 東への旅はまだ始まったばかりなのに、もう予定とは違う場所で足を止めている。


 それでも、不思議と焦る気はしなかった。


 明日になれば、また何か分かるかもしれない。


 何も分からなければ、そのまま先へ進めばいい。


 ハヤトは宿の扉を開け、二人と一緒に中へ入った。

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