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ランキング最高順位51位!『異世界に転移したので、もう我慢するのはやめました ~固有能力《自由》で好き勝手に生きる~』  作者: くんくん
第1部 自由への一歩

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第6話 やりたいなら,やればいい


森の奥へ進んでから、しばらくは何も起きなかった。


鳥の鳴き声と、風に揺れる葉の音。


それだけが続く。


ハヤトは周囲を警戒しながら歩いていたが、隣のセラはさっきから妙に静かだった。


治癒魔法の話をして以来、ほとんど口を開いていない。


気まずくなったのかと思ったが、表情を見る限り怒っているわけでもなさそうだった。


何かを考えている。


そんな顔だった。


「さっきの話、気にしてる?」


ハヤトが聞くと、セラは前を向いたまま答えた。


「少しだけ」


「余計なこと言ったかな」


「そういう意味じゃないわ」


しばらく間が空く。


「ただ……あんなふうに言われたの、初めてだったから」


「どんなふうに?」


「やりたいなら、やればいいって」


ハヤトは首を傾げた。


「そんな変なこと言った?」


「この世界じゃ、結構変よ」


セラは苦笑した。


「職業は、その人の人生そのものだから。向いていることを伸ばして、向いていないことは諦める。それが普通」


「効率は良さそうだけどな」


「そうね。たぶん正しいわ」


セラはそう言ってから、少しだけ視線を落とした。


「でも、正しいことと、納得できることって違うのね」


その言葉には、ハヤトも少しだけ考えさせられた。


元の世界でも似たようなことはあった。


安定しているから。


せっかくここまで続けたから。


今さら変えるのはもったいないから。


正しい理由はいくらでもあった。


そして、その正しさに流されているうちに、自分で選ぶことを忘れていた。


「まあ、俺も偉そうなこと言える立場じゃないけどな」


「どうして?」


「俺だって元の世界じゃ、やりたいこと後回しにしてばっかだったし」


「元の世界?」


セラが怪訝そうに見る。


しまった。


まだそこまで詳しく話していなかった。


「俺、たぶんこの世界の人間じゃないんだよ」


「……は?」


「気づいたら森にいた。国も知らない。魔法も見たことなかった」


セラは立ち止まった。


「それ、本気で言ってる?」


「本気」


「そんなことって……」


「あるみたいだぞ。俺が一番驚いてる」


セラはしばらく何も言えない様子だったが、やがて小さく息を吐いた。


「職業なしで、変な固有能力を持ってて、そのうえ別の世界から来た?」


「並べると怪しいな」


「怪しいどころじゃないわよ」


それでも、セラはそれ以上疑わなかった。


ハヤトの《自由》を見た後では、多少おかしな話にも耐性ができているのかもしれない。


二人が再び歩き始めて数分。


前方の茂みが揺れた。


セラの表情が変わる。


「来る」


ハヤトも短剣へ手をかけた。


飛び出してきたのはグレイウルフ。


一匹。


依頼の残りは二匹だが、単独で動いている個体もいるらしい。


「俺が前に出る」


「分かった」


ハヤトが構える。


狼が低く唸り、そのまま突進してきた。


さっきの三匹と比べれば落ち着いて見える。


盾で進路を逸らし、横へ回る。


短剣を振る。


浅い。


狼がすぐに向きを変えた。


だが、その瞬間にはセラの詠唱が終わっていた。


「《火球》!」


炎が直撃する。


狼はその場に倒れた。


「これで四匹」


セラが杖を下ろす。


「あと一匹だな」


ハヤトは討伐証明を回収しようと近づいた。


その時だった。


少し離れた場所から、重い唸り声が聞こえた。


先ほどまでとは明らかに違う。


二人が同時に顔を上げる。


木々の間から現れたのは、最後のグレイウルフだった。


だが。


「……でかくない?」


ハヤトが呟く。


通常の個体より一回り以上大きい。


肩の高さはハヤトの腰を超え、背中の毛は灰色ではなく黒に近い。


口元から覗く牙も長い。


セラの顔から余裕が消えた。


「変異種よ」


「強い?」


「普通のグレイウルフとは比べない方がいい」


「逃げた方がいい?」


ハヤトが聞く。


セラは少しだけ考えた。


「討伐できれば、追加報酬が出るわ」


「……気が合うな」


「今のは聞かなかったことにして」


変異種が地面を蹴った。


速い。


ハヤトは盾を構えた。


直後、強烈な衝撃。


「ぐっ……!」


身体ごと押し飛ばされる。


どうにか転倒は免れたものの、左腕が痺れた。


「重すぎるだろ!」


通常個体とはまるで違う。


正面から受けたら持たない。


変異種が再びこちらを見る。


ハヤトは盾を下げた。


「受けるのは無理だな」


「なら避けて!」


「そうする!」


二度目の突進。


《身体強化》。


正面から受けず、ぎりぎりまで引きつける。


横へ跳ぶ。


爪が服を掠めた。


セラが魔法を放つ。


「《火球》!」


変異種は身体を捻ってかわした。


「避けた!?」


「普通の個体より頭もいいわ!」


変異種がそのままセラへ向かう。


まずい。


「こっちだ!」


ハヤトは《水弾》を撃った。


顔面へ直撃。


一瞬だけ変異種の動きが止まり、こちらへ注意が戻る。


だが、それだけだ。


威力が足りない。


次の瞬間、再び突進が来る。


ハヤトは後退しながら周囲を見る。


倒せる火力を持っているのはセラ。


なら自分の仕事は、当てられる状況を作ること。


足元。


土。


そして、自分が使える水。


「……やってみるか」


ハヤトは地面へ掌を向けた。


「《水弾》!」


狙ったのは敵ではない。


変異種が走る、その先の地面。


水が土へぶつかり、一部が泥に変わった。


「何してるの!?」


セラの声。


変異種が飛び込んでくる。


前脚が泥を踏んだ。


ほんのわずか。


本当に一瞬だけ、足が滑る。


だが。


それで十分だった。


「今!」


ハヤトが叫ぶ。


セラはすでに杖を構えていた。


詠唱は終わっている。


「《炎槍》!」


圧縮された炎が一直線に飛ぶ。


避ける余裕を失った変異種の肩を貫いた。


大きな身体が横倒しになる。


それでも終わらない。


変異種は立ち上がろうとした。


「しぶといな……!」


ハヤトは走った。


短剣を握り直し、傷口へ刃を突き込む。


暴れる身体。


腕に衝撃が伝わる。


それでも離さなかった。


数秒後。


変異種の力が抜けた。


ハヤトはゆっくり短剣を引き抜いた。


静寂が戻る。


しばらく、二人とも何も言わなかった。


ハヤトはその場に座り込む。


「……勝った?」


「勝ったみたい」


セラも近くの木へ背を預けた。


盾を見る。


表面には大きなひび。


腕もまだ痛い。


楽勝とは程遠い。


「もう一回やれって言われたら嫌だな」


「同感」


しばらくして、セラが小さく笑った。


「水魔法を地面に撃つ人、初めて見た」


「敵に撃っても効かなかったからな」


「普通、水魔術師ならもっと強い術を覚えるのよ」


「俺、水魔術師じゃないし」


セラが一瞬黙ったあと、また笑った。


今度はさっきより自然だった。


討伐証明を回収し、二人は街へ戻ることにした。


帰り道。


小川のそばで休んでいると、セラが突然口を開いた。


「王都に、治癒術院があるの」


「治癒術院?」


「本来は神官系の職業を持つ人間が通うところ。でも、ごく少数だけど別職の人間も治癒魔法を研究してる」


ハヤトは水筒を置いた。


「あるじゃん」


「何が?」


「方法」


セラは少し不満そうに眉を寄せる。


「簡単じゃないわ。入学するだけで金貨五十枚よ」


ハヤトは、この十日ほどで覚えた金銭感覚を思い出す。


「……高いな」


「でしょ?」


初心者冒険者が普通に働けば、数年かかってもおかしくない金額だ。


「だから諦めたの?」


「現実的じゃないもの」


「稼げばいいじゃん」


セラが呆れた顔をする。


「あなた、本当に簡単に言うわね」


「簡単だとは言ってない」


ハヤトは小川の水へ視線を落とした。


「大変なのと、無理なのって違うだろ」


セラは何も言わない。


「数年かかるなら数年やればいい。途中でやっぱり違うと思ったら、その時やめればいいし」


「……それでいいの?」


「いいんじゃない?」


ハヤトは肩をすくめた。


「少なくとも俺は、やらなかったことの方を後悔したくない」


元の世界で、自分は何度もそうしてきた。


また今度。


そのうち。


落ち着いたら。


結局、やらないまま終わったことはいくつもある。


今度は同じことをしたくない。


「俺はそうする」


セラはしばらく黙っていた。


それから、小さく息を吐く。


「金貨五十枚か……」


さっきまでとは少し違う声だった。


諦めた人間の声ではない。


どうやって稼ぐか考え始めた人間の声だった。


ハヤトは何も言わなかった。


本人が決めればいい。


それで十分だ。


夕方。


ラーデンの街が見えてきた。


門へ続く道を歩いていると、後ろから呼ばれる。


「ハヤト」


「ん?」


振り返る。


セラは少しだけ視線を逸らしていた。


「次の依頼」


「次?」


「内容によっては……また一緒に行ってあげてもいいわ」


ハヤトは数秒黙った。


「それ、誘ってる?」


「違うわよ。あなた一人だと危なそうだから」


「はいはい」


「何その返事」


昨日まで一人で仕事をしていた。


それが今日は、次の予定を一緒に考える相手がいる。


悪くない。


むしろ、かなり楽しい。


ハヤトは前を向き直った。


「じゃあ、報酬高いやつ探そうぜ」


「まず内容を見なさいよ」


二人の声が、夕暮れの街道に重なった。

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