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ランキング最高順位51位!『異世界に転移したので、もう我慢するのはやめました ~固有能力《自由》で好き勝手に生きる~』  作者: くんくん
選んだ道の先へ

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2話 旅の途中で

ラーデンを出てから、しばらくは何事もなく街道を歩いた。


 東へ伸びる道は思っていたより整っていて、荷馬車が二台すれ違えるくらいの幅がある。左右には低い草原が続き、その向こうに小さな森や畑が見えた。町の外へ出たばかりだというのに、振り返ればラーデンの外壁はもうずいぶん小さくなっている。


「ほんとに歩くんだね」


 セラがそんなことを言ったので、ハヤトは隣を見る。


「今さら?」


「いや、馬車に乗るのかなって思ってたから」


「俺もそのつもりだったんだけど、次の馬車、昼過ぎらしい」


「待てなかったんだ」


「なんか出る気になったら、もう行きたくならない?」


「それはちょっと分かるけど」


 セラは笑いながら肩にかけた荷物を直した。


 少し前では、レグが道の端を歩いている。最初こそ珍しそうに辺りを見回していたが、今は地面に生えている草の方が気になるらしく、何歩か進むたびにしゃがみ込んでいた。


「レグ、あんまり離れるなよ」


「これなに?」


「聞いてる?」


「ハヤト、これ」


 レグが指差したのは、道端に咲いている小さな黄色い花だった。


 知らない。


 正確には、この世界へ来てから何度か見た気はする。ただ、名前まで気にしたことはなかった。


「セラ、分かる?」


「私に振るの?」


「こういうの詳しそうじゃん」


「どういう偏見?」


 そう言いながらも、セラはレグの横へしゃがんだ。


「たぶんミナ草。薬草じゃないよ」


「たべれる?」


「レグは最初にそれ聞くよね」


「だいじ」


「大事じゃない」


「だいじ」


 二人が同じ目線で言い合っているのを見て、ハヤトは少し笑った。


 結局、花は食べないことになったらしい。レグは少し残念そうだったが、すぐ別のものを見つけて歩き出した。


 こうしていると、旅に出たという実感があまりない。


 町を出て、知らない土地へ向かっているはずなのに、やっていることはいつもと大して変わらなかった。セラがレグを止め、レグが気になるものを見つけ、ハヤトがその後ろを歩く。


 それが妙に心地よかった。


「そういえばさ」


 少し歩いたところで、セラが口を開いた。


「東に行くって決めたのはいいけど、最初はどこまで行くの?」


「一応、今日はエルナって村まで」


「一応?」


「地図だと夕方前には着く」


「その地図、ちゃんと合ってる?」


「たぶん」


「またそれ」


「大丈夫だって」


「その自信どこから来るの?」


 ハヤトは少し考えた。


「今までなんとかなったから?」


「一番危ない考え方じゃん」


 もっともだった。


 だが実際、今までなんとかしてきた。もちろん全部がうまくいったわけではないし、痛い目にも何度か遭った。それでも今こうして三人で歩いている。


 だったら、今回も似たようなものだろう。


 そんなことを考えていると、前を歩いていたレグが突然立ち止まった。


「どうした?」


「おなかすいた」


「まだ昼前だぞ」


「あるいた」


「それだけで?」


「いっぱいあるいた」


 まだ町を出て二時間も経っていない。


 セラが笑いながら道の先を指差した。


「もう少し行ったら木陰あるし、そこで休もっか」


「たべる?」


「休むだけ」


「……たべない?」


「その顔やめて」


 結局、食べることになった。


 街道から少し外れた大きな木の下に腰を下ろし、朝のうちに買っておいたパンと干し肉を出す。レグは自分の鞄を開けると、中から包みを三つも取り出した。


「やっぱり食べ物じゃねえか」


「たいせつ」


「何持ってきたの?」


 セラが覗き込む。


 パンが二つ。


 干した果物。


 それから、どう見ても菓子らしい小さな包み。


「全部食べ物だね」


「うん」


「荷物ほとんど食料じゃない?」


「だいじだから」


 朝と同じ答えだった。


 レグにとっては本当に大事なのだろう。


「まあ、自分で持ってるならいいけど」


「もってる」


「そのうち俺に渡すだろ」


「わたさない」


「絶対?」


「ぜったい」


「覚えたからな」


 レグは干した果物を口に入れながら、こくこく頷いた。


 その様子を見ていたセラが、ふと思い出したようにハヤトを見る。


「そういえば、東の記録ってどれくらい古いの?」


「結構古い。少なくとも百年以上前」


「そんなに?」


「正確な年代は分からないけどな。写しらしいし」


「じゃあ、行ったところで何も残ってないかもしれないんだ」


「それはある」


 ハヤトはパンをちぎりながら答えた。


 むしろ、その可能性の方が高いと思っている。


 百年以上も前の話を追いかけて、当時のことを知っている人間に会えるはずもない。建物が残っているかも分からないし、記録そのものがどこかで失われているかもしれない。


「でも、行くんだ」


「気になるし」


「それだけ?」


「それだけじゃ駄目?」


 セラは少しだけ考えたあと、首を横に振った。


「別に。ハヤトっぽいなって思っただけ」


「そう?」


「前よりね」


 それがどういう意味なのか聞こうとしたが、セラはもう自分のパンを食べ始めていた。


 前より。


 確かに、以前ならもう少し理由を探していたかもしれない。行く意味があるか、得るものがあるか、危険に見合うか。何かをする前に、自分を納得させる理由が必要だった。


 今は、気になるから行く。


 それでいいと思っている。


「ハヤト」


「ん?」


「これ、いる?」


 レグが干した果物を差し出していた。


「珍しいな。くれるの?」


「ひとつだけ」


「じゃあもらう」


「ほんとにひとつ」


「分かってるよ」


 受け取った瞬間、レグの視線が果物を追ってきた。


「……やっぱり食べたい?」


「ちょっと」


「返さねえぞ」


「もうレグのじゃないから、いい」


 そう言いつつ、まだ見ている。


 ハヤトが口に放り込むと、レグは少しだけ寂しそうな顔をした。


「そんな顔するなら最初からくれるなよ」


「レグ、優しくしたかった」


「じゃあ後悔すんな」


「むずかしい」


 セラが耐えきれずに笑い出した。


 昼には少し早い休憩を終え、三人は再び街道へ戻った。


 空はよく晴れている。風も弱く、旅を始めるには悪くない日だった。


 しばらく歩くと、反対側から何台か荷馬車がやってきた。商人らしい男たちと軽く挨拶を交わし、そのまますれ違う。


 何も起きない。


 魔物も出ない。


 妙な依頼を持ちかけてくる人間もいない。


 それでいい。


 旅に出たからといって、毎日何かが起こるわけではないのだ。


 そう思っていたのは、さらに一時間ほど歩くまでだった。


「……あれ」


 最初に気づいたのはセラだった。


 街道が少し曲がった先で、一台の荷馬車が道を塞ぐように止まっている。


 馬の姿はない。


 荷台は大きく傾き、片方の車輪が外れていた。


 それだけなら、ただの事故にも見える。


 だが近づくにつれて、ハヤトは足を少し緩めた。


 荷物が道に散らばっている。


 箱は壊され、中身が辺りに転がっていた。


 なのに、人がいない。


「誰もいないね」


 セラの声から、さっきまでの軽さが消えていた。


「レグ、こっち来い」


「うん」


 今度は素直に、レグがハヤトのそばへ来る。


 風が吹き、倒れた荷馬車の布がぱたぱたと音を立てた。


 ハヤトは周囲へ目を向ける。


 街道。


 草原。


 少し離れたところにある森。


 見える範囲には、誰もいない。


 ただ、荷馬車のそばの地面だけが、不自然に荒れていた。


「……事故じゃなさそうだな」


 ハヤトはそう呟き、ゆっくりと荷馬車へ近づいた。

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