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ランキング最高順位51位!『異世界に転移したので、もう我慢するのはやめました ~固有能力《自由》で好き勝手に生きる~』  作者: くんくん
第1部 自由への一歩

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第44話 方は向かう準備


翌日の昼過ぎ。


俺とレグが冒険者ギルドから宿へ戻ると、受付で呼び止められた。


「ハヤトさん。お手紙を預かっていますよ」


「手紙?」


受け取る前から、何となく差出人の予想はついた。


白い封筒。


裏返す。


グレイ・ノルマン。


「きた?」


隣にいたレグがすぐに覗き込んでくる。


「ああ。思ったより早かったな」


部屋へ戻ってから封を切ると、中には前回より少し長い手紙が入っていた。


俺は椅子に座り、レグにも分かるよう声に出して読む。


神殿の名前は《ルディア旧神殿》。


王都から北へ街道を進み、途中の町で一泊。翌日、街道を外れて山側へ向かえば辿り着くという。


順調なら二日。


神殿の調査に一日使ったとして、往復で五日ほどを見ておけばいいらしい。


そして最後には、


『行くのであれば、私も同行したい。正確な入口を知っている者がいなければ、現地で探すだけでも時間がかかる』


と書かれていた。


「グレイもくる?」


「そうみたいだな」


レグの顔が微妙になる。


「やだ?」


「……ちょっと」


前ほど露骨に嫌がってはいない。


青葉亭で直接話したことで、少しだけ印象が変わったのかもしれない。


「でも、場所知ってるのグレイだしな」


「ん」


「一緒でも大丈夫そう?」


レグは少し考えてから頷いた。


「ハヤトとセラいるなら」


「じゃあ、あとはセラだな」


治癒術院の都合がつけば、話は早い。


俺自身はいつでも動ける。


冒険者ギルドで何か長期の依頼を受けているわけでもない。


装備も、王都へ来る旅である程度揃っている。


不足しているものを買い足せば、二、三日で出発できるだろう。


「ハヤト」


レグが手紙を見ながら聞く。


「ん?」


「しんでん、なにある?」


「それを見に行くんだよ」


「おにくは?」


「神殿には期待するな」


「じゃあ、もってく」


「それは必要だな」


食料は大事だ。


レグの場合、一般的な旅人の基準で考えない方がいいかもしれない。


俺は心の中で、保存食の量を多めにすることを決めた。


    ◇


夕方。


宿へ戻ってきたセラへ手紙を渡すと、彼女は最後までじっくり読んだ。


「五日くらい……」


最初に気にしたのは、やはりそこだった。


「治癒術院、大丈夫そう?」


「先生に聞いてみないと分からない。でも前に相談したときは、数日なら事前に言えば大丈夫って話だったから」


「じゃあ明日聞く?」


「うん」


セラはもう一度手紙を見る。


「二日かけて行って、調査して、二日で戻る……予定通りなら五日ね」


「予定通りならな」


「そういう言い方しないでよ」


「旅なんだから何があるか分からないだろ」


「それはそうだけど」


レグがベッドの上から俺たちを見る。


「ながくなる?」


「もしかしたらな」


「ごはん、いっぱい?」


「そっち?」


「だいじ」


セラが笑った。


「確かに、そこはちゃんと準備しないとね」


「でしょ?」


「レグが偉そうに言うことじゃないだろ」


俺は手紙を受け取る。


「グレイは同行したいらしいけど、どう思う?」


セラは少し考えた。


「私はいいと思う。正確な場所を知ってるなら、一緒に来てもらった方が早いでしょ」


「俺も同じ」


「レグは?」


「いい」


さっきより返事が早かった。


「ただし」


レグが続ける。


「へんなことしたら、やだ」


「それは俺たちも同じ」


セラも頷いた。


「本人にも言っておきましょ」


グレイに対する警戒が完全になくなったわけではない。


でも。


だからといって、最初から疑い続けるだけでも話は進まない。


同行中に変な動きをすれば、その時点で止めればいい。


俺たち三人が一緒なら、それくらいはできる。


「じゃあ、治癒術院の許可が出たら行く方向で」


俺が言うと。


セラとレグが同時に頷いた。


「うん」


「ん」


決まった。


    ◇


翌日。


セラはいつも通り治癒術院へ向かい、俺とレグは旅の準備を始めた。


最初に向かったのは冒険者向けの雑貨屋だ。


「保存食、水袋、火起こし用の道具……寝具は今のでいいな」


必要なものを確認しながら店内を歩く。


レグは俺の横で籠を持っていた。


正確には。


最初は持っていた。


「レグ」


「ん?」


「その籠、どこいった?」


「おもかった」


「まだ保存食二つしか入ってなかっただろ」


指差す。


少し離れた場所に、籠が置かれている。


「持てるって言ったの誰?」


「レグ」


「じゃあ持とう」


「ハヤトがもったほうがはやい」


「妙に賢くなったな」


最近、言い訳まで上手くなっている。


結局俺が持った。


「保存食は……これくらい?」


店に並んでいる干し肉を見る。


普通なら十分。


でも。


隣を見る。


レグが干し肉を見ている。


「……もう少し買っとくか」


「いっぱい?」


「お前のせいだからな」


「やった」


「褒めてない」


保存食を多めに買い、水袋も予備を追加する。


山側へ向かうなら、街道沿いほど補給できる場所も多くないだろう。


薬や包帯も少し買い足した。


セラが治癒術を覚え始めたとはいえ、それだけに頼るつもりはない。


むしろ今のセラなら、治せる範囲より治せない範囲の方が圧倒的に多い。


普通の準備は必要だ。


「ハヤト」


「ん?」


レグが店の隅を指差した。


「これいる?」


見ると、小さな鍋だった。


「今のやつあるよ」


「ちいさい」


「十分だろ」


「おにく、いっぱいはいらない」


「旅先で何を作るつもりなんだよ」


「にく」


「知ってた」


必要なものだけ買う。


そう決めていたのに。


なぜか店を出るとき、少し大きめの鍋が荷物に増えていた。


……まあ。


五日使うなら便利だろう。


たぶん。


    ◇


昼を過ぎた頃、今度は武器屋へ向かった。


俺の剣は数日前に手入れしてもらったばかりなので問題ない。


セラの装備も、旅に出る前に確認すれば十分だろう。


問題はレグだった。


人の姿で戦う機会が増えるなら、何か武器を持たせた方がいいのか。


そんなことを考えた。


「レグ」


「ん?」


「武器欲しい?」


店内に並ぶ剣や槍を指差す。


レグはしばらく眺めたあと、自分の両手を見る。


「いらない」


「やっぱり?」


「こっちのほうがつよい」


それは知っている。


木剣を軽く振って、俺を吹き飛ばしかけるくらいには。


「でも人の姿で全力出すと目立つぞ」


「よわくする」


「練習中だもんな」


最近はかなり上手くなってきた。


ゴブリンとの戦闘でも、相手を必要以上に吹き飛ばすことはなかった。


完全ではないが。


確実に進歩している。


「じゃあ武器はいらないか」


「ん」


店を出ようとして。


レグが止まる。


「どうした?」


「あれ」


指差したのは武器ではなかった。


革製の手袋。


冒険者向けらしく、手の甲や指の一部が補強されている。


「欲しい?」


「これなら、ていたくない?」


なるほど。


素手で戦うつもりなら、悪くないかもしれない。


レグの場合、攻撃する力よりも、むしろ人の姿の手を傷つけないためのものになる。


試着させてみる。


「どう?」


レグが手を握ったり開いたりする。


「いい」


「じゃあ買うか」


「いいの?」


「ああ」


レグが少し嬉しそうに手袋を見る。


食べ物以外で自分から欲しがるものは珍しい。


そのまま購入した。


「ハヤト」


店を出てからレグが言う。


「ありがと」


「おう」


「これで、いっぱいたたける」


「用途が怖いんだよ」


    ◇


夕方。


宿へ戻ると、セラはすでに帰っていた。


「早かったな」


「今日は先生に相談したかったから、終わってすぐ戻ってきた」


「どうだった?」


俺が聞くと、セラは少しだけ得意そうに笑った。


「大丈夫だって」


「ほんと?」


レグが近づく。


「うん。五日くらいなら大丈夫。ただし、戻ってきたら遅れた分はちゃんと補うこと」


「そりゃそうだな」


「それと」


セラが鞄から何枚かの紙を取り出した。


「休んでる間の課題」


「結構あるな」


「言わないで……」


見ただけで嫌そうな顔をする。


「旅先でやる?」


「時間あったら」


「やらないやつだな」


「やるわよ!」


レグが紙を覗き込む。


「いっぱい」


「そうなの」


「レグ、てつだう?」


セラが一瞬だけ嬉しそうな顔をする。


「ほんと?」


「よめない」


「じゃあ何を手伝うの!?」


レグは首を傾げた。


「もつ?」


「ありがとう。気持ちだけもらっとく」


俺は笑いながら、今日買ってきたものを広げた。


保存食。


水袋。


薬。


道具。


少し大きくなった鍋。


「……鍋、大きくなってない?」


セラがすぐ気づいた。


「レグが」


「ハヤトも賛成した」


「裏切るの早いな!」


セラが呆れた顔をする。


「まあ、使えるからいいけど」


「だろ?」


「レグ、これも」


新しい手袋を見せる。


セラが目を丸くした。


「買ったの?」


「ん」


「似合うじゃない」


「ほんと?」


「うん」


レグが嬉しそうに笑う。


「これでいっぱいたたける」


セラの顔が止まった。


「ハヤト」


「俺も同じこと言った」


「ならいいわ」


よくない気もするが。


    ◇


その日の夜。


俺たちは《青葉亭》へ行った。


前回と同じように店の人へグレイの名前を出すと、今日は二階にいると言われた。


案内された小さな部屋に入る。


グレイは机いっぱいに地図を広げて待っていた。


「来たね」


「ああ」


「ということは」


グレイがレグを見る。


「行くと決めたのかな」


俺たちは席につく。


「そのつもりです」


俺が答える。


「ただ、何日かかるかはちゃんと確認しておきたい」


「もちろんだ」


グレイが地図をこちらへ向ける。


王都。


北へ伸びる街道。


そして、その先にある小さな町。


「一日目はここまで進む。町で一泊して、翌朝から山へ入る」


指が地図の上を動く。


「街道を外れてからは半日ほどだ。順調なら二日目の昼過ぎには神殿へ着ける」


「そこで一泊?」


セラが聞く。


「神殿の近くに野営できる場所がある。以前私が行ったときにも使った」


「神殿の中で寝るわけじゃないのね」


「勧めない。崩れている場所もあるからね」


グレイはさらに説明を続けた。


神殿はかなり古く、地上部分は大半が崩れていること。


資料が残されていたのは地下。


そこへ入るための通路を、グレイは知っている。


「魔物は?」


俺が聞く。


「いる」


「やっぱり」


「数までは分からない。前回は小型のものが何体かいた程度だが、同じとは限らない」


「強い?」


レグが聞いた。


グレイがレグを見る。


「少なくとも、君が本気を出す必要はないと思う」


「そっか」


少し残念そうだ。


「なんで残念そうなの?」


セラが呆れる。


「つよいやつ、たたかいたい」


「旅の目的忘れないでよ」


「わかってる」


本当に分かっているだろうか。


「グレイは戦えるんですか?」


俺が聞く。


「最低限は」


「最低限?」


「逃げる時間を稼ぐくらいだと思ってくれ」


「じゃあ戦力には数えない方がいい?」


「その方が安全だね」


正直で助かる。


俺とレグ。


セラ。


戦闘になれば基本はこの三人で対応することになる。


ただ、セラも今は以前とは少し違う。


治癒術を覚え始めたことで、戦いながら魔力をどこへ使うか考える必要が出てくる。


俺もそこは意識しておいた方がいい。


「出発は?」


グレイが聞く。


俺はセラを見る。


「治癒術院は?」


「明後日からなら大丈夫」


「じゃあ」


俺はグレイへ向き直る。


「明後日の朝で」


「分かった」


グレイが頷く。


「北門で待ち合わせよう」


話は決まった。


    ◇


宿へ戻る道。


夜の王都を三人で歩く。


「明後日か」


セラが言う。


「早い?」


「ううん」


少し考える。


「ちょうどいいと思う」


レグは俺の横で、新しい手袋を何度も見ている。


「そんな気に入った?」


「ん」


「明日までに無くすなよ」


「なくさない」


「寝るときも付けそうだな」


「つける」


「外せ」


セラが笑う。


王都へ来てから。


ここで少し落ち着くのかと思っていた。


実際。


セラは治癒術院に通い始め。


俺も新しい技能を練習し。


レグも人の姿での生活に慣れてきた。


それでも。


俺たちはまた旅に出る。


今度の目的は依頼でも、金でもない。


レグ自身のことを知るためだ。


何が見つかるのかは分からない。


古い記録とレグが、ただ似ているだけかもしれない。


何も分からず帰ってくる可能性だってある。


それでも。


「レグ」


「ん?」


「楽しみ?」


聞くと。


レグは少し考えた。


「ちょっとこわい」


「ああ」


「でも」


俺とセラを見る。


「たのしみ」


俺は笑った。


「そっか」


セラもレグの隣へ並ぶ。


「じゃあ、ちゃんと準備して行こう」


「ん」


出発まで、あと二日。


王都で始まった新しい生活を少しだけ離れて。


俺たちは北へ向かう。


百年以上前の記録が残された。


《ルディア旧神殿》へ。

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