↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランキング最高順位51位!『異世界に転移したので、もう我慢するのはやめました ~固有能力《自由》で好き勝手に生きる~』  作者: くんくん
第1部 自由への一歩

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
43/175

第43話 知りたいこと


《青葉亭》でグレイと会った翌日。


朝食の席には、いつもより少し静かな空気が流れていた。


原因は分かっている。


昨日見せられた、百年以上前の記録。


黒に近い緑の鱗。


金色の目。


そして、人の姿では銀色の髪。


偶然と言うには、レグと似すぎていた。


「レグ」


向かいに座るレグへ声をかける。


「ん?」


「昨日のこと、まだ気になる?」


レグはパンを持ったまま少し考えた。


「きになる」


「神殿のこと?」


「それも」


「他にも?」


レグは自分の胸へ手を当てた。


「レグ、どこからきた?」


俺もセラも答えられなかった。


俺たちがレグと出会ったとき、こいつは一人だった。


それ以前にどこで生まれ、どうやってあそこまで来たのか。


俺は知らない。


セラも知らない。


そして何より、レグ自身がほとんど覚えていない。


「おとうさんとか、おかあさんとか」


レグが続ける。


「レグにも、いる?」


「……いると思う」


俺が答えると、セラも静かに頷いた。


「普通に考えたら、いるはずよ」


「どこ?」


「それは分からない」


レグは少しだけ俯いた。


こういう話をするレグを見るのは初めてだった。


今まで、自分の過去について聞いてくることはほとんどなかったからだ。


俺たちと一緒に飯を食って、寝て、旅をして。


それで満足しているように見えていた。


たぶん、本当に楽しかったのだと思う。


でも。


昨日、自分とよく似た竜の記録を見たことで、初めて意識したのかもしれない。


自分にも、ここへ来る前があったことを。


「レグ」


セラが優しく呼ぶ。


「知りたい?」


「……ん」


今度は迷わなかった。


「しりたい」


俺は椅子へ背を預けた。


それなら。


俺たちが考えることは一つだった。


「じゃあ調べるか」


レグが顔を上げる。


「いいの?」


「なんで駄目なんだよ」


「とおい」


「それはまあ、調べてから考える」


「きけんかも」


「それも調べる」


「ハヤト」


「ん?」


「いっしょにいく?」


俺は笑った。


「一人で行かせるわけないだろ」


レグの表情が少しだけ明るくなった。


「セラも?」


今度はセラを見る。


セラはすぐに答えなかった。


治癒術院。


ようやく入学し、治癒術を覚え始めたばかりだ。


簡単に何日も離れるわけにはいかない。


レグもそれが分かったのか、少し不安そうにセラを見ている。


やがて。


セラが息を吐いた。


「行くわよ」


「ほんと?」


「レグのことなんだから、私だって知りたいもの」


「でも、がっこう」


「そこはちゃんと相談する」


セラは少し笑った。


「勝手に休んで退学になったら、金貨五十枚がもったいないでしょ」


「そこなんだ」


「そこも大事よ!」


俺は笑う。


でも実際、その通りだ。


神殿がどこにあるのか。


何日かかるのか。


危険度はどれくらいなのか。


まだ何も分かっていない。


「だから、いきなり出発はなしだな」


俺は言った。


「まず情報集める。グレイにも詳しい場所を聞く。それから準備して行くか決める」


セラが頷く。


「それがいいと思う」


レグも少し遅れて頷いた。


「ん」


「じゃあ今日はいつも通り。セラは治癒術院」


「うん」


「俺とレグはギルドで北方の情報を調べる」


「レグも?」


「もちろん」


「わかった」


話は決まった。


その途端。


レグが自分の皿を見る。


「ハヤト」


「今度は何?」


「パンなくなった」


「急にいつものレグに戻るな」


「もういっこ」


思わず笑ってしまう。


少し安心した。


    ◇


セラを見送ったあと、俺とレグは冒険者ギルドへ向かった。


今日は依頼を受けるためではない。


北方について調べるためだ。


受付で事情をぼかしながら、「王都の北にある古い神殿跡へ向かう場合、どんな準備が必要か」と尋ねると、職員は少し考えたあと、奥から一枚の地図を持ってきた。


「神殿跡と言っても、北側にはいくつかあります。名前は分かりますか?」


「分からないんです」


「それですと特定は難しいですね」


やっぱりグレイに聞くしかないか。


「ただ、王都から北へ向かうなら、この辺りから先は旅人も少なくなります」


職員が地図を指差す。


王都から伸びる街道。


いくつかの町。


そこからさらに北へ行くと、道は細くなっていた。


「魔物も増える?」


俺が聞く。


「場所によります。ただ、王都周辺ほど安全ではありません。遺跡や古い建造物の周辺は、長く人が入っていないことも多いので、護衛なしで向かうのはお勧めしません」


「なるほど」


「ハヤト」


隣からレグが小声で呼ぶ。


「ん?」


「まもの、いる」


「地図見ただけで嬉しそうにするな」


「つよい?」


「知らない」


職員が少し笑っている。


俺は地図へ視線を戻した。


簡単な旅ではなさそうだ。


でも。


死者の森へ行ったときのことを思えば、未知の場所へ向かうこと自体に今さら驚きはしない。


大事なのは。


ちゃんと準備することだ。


「北へ行く冒険者向けの依頼ってあります?」


「ありますよ。護衛や物資運搬が多いですね」


なるほど。


目的地次第では、途中まで依頼を受けながら移動することもできるかもしれない。


「ありがとうございます」


必要なことだけ確認し、受付を離れた。


「どうだった?」


レグが聞く。


「グレイから場所聞かないと何とも言えないな」


「じゃあ、グレイいく?」


「今日は行かない」


「なんで?」


「いきなり家押しかけるのも嫌だろ」


それに。


まだセラと話してからだ。


「じゃあ、どうする?」


「連絡する方法を聞いてなかったから……」


そこまで言って。


俺は気づいた。


《青葉亭》。


前回、グレイはあの店を待ち合わせ場所に選んだ。


店の人が知り合いなら、手紙くらい預かってくれるかもしれない。


「行ってみるか」


「ごはん?」


「違う」


「青葉亭、ごはんある」


「目的変えるな」


とは言ったものの。


ちょうど昼時だった。


    ◇


《青葉亭》へ行き、店の人にグレイの名前を出すと、予想通り知り合いだった。


頻繁ではないが、ときどき店を利用するらしい。


手紙も預かってもらえるという。


俺は紙を借りた。


内容は短くした。


昨日の話を三人で考えたこと。


北方の神殿について、もう少し詳しく聞きたいこと。


そして。


レグ自身が、自分のことを知りたいと言っていること。


最後に、次に会える日を教えてほしいと書いた。


「これでいいか」


横を見る。


レグが俺の書いた手紙をじっと見ている。


「レグのこと、かいた?」


「ああ」


「しりたいって?」


「書いた」


「そっか」


満足そうに頷いた。


店員へ手紙を預ける。


これで、あとは返事を待てばいい。


「じゃあ帰る?」


レグが聞く。


「まだ昼だぞ」


「じゃあ」


レグの視線が店の奥へ向く。


「ここでたべる?」


「結局それが目的になってるじゃん」


「ちがう」


「ほんとか?」


「ちょっとだけ」


妙な言い方を覚えたものだ。


結局。


俺たちは《青葉亭》で昼を食べてから帰ることになった。


    ◇


夕方。


治癒術院から戻ったセラへ、今日分かったことを話した。


王都より北は、街道から外れるほど人の往来が減ること。


神殿の位置次第では、ある程度の日数を見た方がいいこと。


そして、グレイへ手紙を預けてきたこと。


「そっか」


セラは少し考える。


「私も先生に聞いてみた」


「何を?」


「何日か王都を離れることになった場合、授業はどうなるのか」


「もう聞いたの?」


「聞くだけならいいでしょ」


セラらしい。


「どうだった?」


「今は基礎をやってる途中だから、長く休むのは勧めないって。でも事前に相談して、戻ってから遅れた分を補うなら、数日程度は大丈夫だって」


それなら。


少し道が見えてきた。


「ただし」


セラが指を立てる。


「本当に行くなら、いつから何日休むかちゃんと決めてから相談する」


「了解」


「ハヤトが『明日出発しよう』とか言い出さないように先に言ってるの」


「俺そんなに行き当たりばったり?」


セラとレグが俺を見る。


「……何?」


「ハヤトだから」


レグが言った。


「説明になってないぞ」


セラは笑っている。


でも。


三人の中で。


少しずつ方向が決まり始めていた。


俺たちは神殿へ行く。


まだ場所も。


出発日も。


何日かかるのかも分からない。


それでも。


行く理由はもうできていた。


レグ自身が。


自分のことを知りたいと言った。


なら。


俺たちが一緒に調べればいい。


それだけだった。


    ◇


その日の夜。


レグはいつもより早く眠った。


人の姿のまま、ベッドで静かに寝息を立てている。


俺とセラは少し離れたところで、小さな声で話していた。


「ねえ、ハヤト」


「ん?」


「昨日までだったら、私もそこまで気にしてなかったと思う」


「レグの過去?」


「うん」


セラは眠っているレグを見る。


「今まで普通に一緒にいたから。レグはレグで、それでいいって思ってた」


「今もそれは変わらないだろ」


「もちろん」


すぐに答える。


「でも、自分から知りたいって言ったでしょ」


俺もレグを見る。


「だったら、ちゃんと知れるところまで調べてあげたい」


「同感」


何が分かるかは分からない。


何も分からないかもしれない。


古い記録とレグが本当に関係している保証もない。


それでも。


最初から諦める理由はなかった。


「まあ」


俺は少し笑う。


「何が出てきても、こいつがレグなのは変わらないけどな」


セラも笑った。


「それ、本人にも言ってあげたら?」


「もう似たようなこと何回か言ってる」


「じゃあいいか」


静かな夜だった。


王都へ来てから。


セラの治癒術院。


俺の訓練。


レグの人化。


それぞれが少しずつ前へ進んでいた。


そして今度は。


レグの過去へ向かうための一歩を。


三人で踏み出そうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。