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ランキング最高順位51位!『異世界に転移したので、もう我慢するのはやめました ~固有能力《自由》で好き勝手に生きる~』  作者: くんくん
第1部 自由への一歩

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第41話 届いた紹介状


村から王都へ戻ったのは、日が傾き始めた頃だった。


帰り道ではゴブリンに襲われることもなく、そのまま冒険者ギルドで依頼の完了報告まで済ませた。護衛した荷馬車にも被害はなく、依頼そのものは問題なく達成扱いになった。


そして翌朝。


「……腕、ちょっと痛いな」


宿の部屋で右腕を回すと、肩の辺りに鈍い張りを感じた。


昨日の戦闘そのものというより、ここ数日の受け流しの訓練が効いているらしい。相手の力を逃がす技術のはずなのに、まだ余計なところに力が入っているのだろう。


「なおす?」


向かいで朝食のパンを食べていたセラが言った。


「これを?」


「練習になるかなって」


「筋肉痛みたいなもんだぞ」


「……じゃあやめとく」


即座に引き下がった。


「試したかっただけだろ」


「だって、昨日ちゃんと自分の傷を治せたんだもん。もう少し練習したいじゃない」


昨日、街道でできた浅い傷を自分の治癒術で塞いだことが、相当嬉しかったらしい。


気持ちは分かる。


俺だって受け流しが実戦で決まった瞬間は、かなり嬉しかった。


「でも先生にはちゃんと話すんだろ?」


「もちろん。今日言うつもり」


「怒られそう?」


「……少し」


急に声が小さくなる。


レグが隣からセラを見る。


「おこられる?」


「分かんない」


「じゃあ、にげる?」


「逃げないわよ!」


レグは本気で助言したらしい。


俺が笑うと、セラがこちらを睨んだ。


「ハヤトも笑ってないで、今日は身体休めなさいよ」


「分かってる。今日は訓練場行かない」


「珍しい」


「俺だって休むときは休むよ」


「ほんと?」


「二人とも俺を何だと思ってるんだ」


セラとレグが一瞬顔を見合わせた。


「むちゃするひと」


「無茶する人」


ほぼ同時だった。


「……仲いいな、お前ら」


朝から二対一だった。


    ◇


セラを治癒術院へ送り出したあと、俺とレグは冒険者ギルドへ向かった。


今日は依頼を受けるつもりはない。


身体を休めるついでに、今後どんな依頼があるか掲示板を眺めるくらいのつもりだった。


「ハヤト」


「ん?」


「きょう、たたかわない?」


「たぶんな」


「じゃあ、なにする?」


「何もしない日があってもいいだろ」


レグは少し考える。


「ごはん?」


「お前にとって休みってそれしかないの?」


「ねるのもある」


「二択かよ」


王都の大通りを歩きながら、そんな話をする。


人の姿で街を歩くことにも、レグはすっかり慣れていた。


最初の頃は周囲の店や人をいちいち珍しそうに見ていたが、今では普通に俺の隣を歩き、気になる屋台があれば立ち止まる程度だ。


……やっぱり食い物には止まる。


ギルドへ入ると、朝の混雑は少し落ち着いたところだった。


掲示板の前で依頼を眺める。


護衛。


採取。


魔物の駆除。


数日かかる仕事。


王都には相変わらず色々な依頼がある。


「これ、つよい?」


レグが一枚を指差した。


「んー……討伐依頼だな」


街道から外れた森に出る大型の魔物らしい。


「いく?」


「今日は行かない」


「なんで?」


「休む日だから」


「……」


「そんな残念そうな顔するなよ」


最近、レグも戦うことそのものを少し楽しむようになっている。


強い相手と戦いたいと言っていたのも本気なのだろう。


ただ、力加減を覚え始めたばかりだ。


急ぐ必要はない。


「そのうちな」


「ん」


依頼書を戻したところで、受付の方から声がした。


「ハヤトさん」


俺は振り返る。


以前にも何度か対応してくれた女性職員が、こちらへ手を上げていた。


「俺?」


「はい。少しよろしいですか?」


何だろう。


依頼を受けた覚えはない。


レグと一緒に受付へ向かうと、職員は机の下から一通の封筒を取り出した。


「こちらを預かっています」


嫌な既視感があった。


「……手紙?」


「はい。昨日の夕方、こちらへ届けられました」


「誰からです?」


「封筒に差出人のお名前があります」


受け取る。


少し厚手の白い封筒だった。


前にロイドから宿へ届いたものとは違う。


そして。


表には俺の名前。


裏には――。


グレイ・ノルマン。


その文字があった。


「……」


隣のレグが、俺の手元を覗き込む。


「ハヤト」


「ああ」


「グレイ?」


「そうみたいだな」


ロイドから聞いた名前。


人化できる竜を探していた研究者。


まさか、向こうから直接連絡してくるとは思わなかった。


「これを持ってきた人は?」


受付の女性へ聞く。


「使いの方だと思います。手紙を渡してほしいと言われただけですので、詳しいことまでは」


「俺の居場所は教えてないですよね?」


「もちろんです」


即答だった。


「冒険者の宿泊先などを、本人の許可なく外部へお伝えすることはありません。今回はハヤトさん宛ての手紙を預かってほしいという依頼だけでした」


それを聞いて少し安心する。


少なくとも、宿まで突き止められたわけではないらしい。


「ありがとうございます」


受付を離れ、ギルドの端にある空いている席へ移動した。


レグも隣に座る。


「ひらく?」


「開ける」


封を切る。


中には一枚の紙。


文章は思ったより短かった。


ハヤト殿へ。


突然の連絡を詫びる。


私はグレイ・ノルマン。

おそらく、すでに私の名は聞いていることと思う。


あなたの連れについて、一度話をしたい。

無理に会うつもりはない。

こちらから彼女へ危害を加える意思もない。


もし話を聞く気があるなら、三日後の昼、北区《青葉亭》へ来てほしい。

人目のある店を指定したのは、少しでも警戒を減らすためだ。


来るかどうかは、あなた方に任せる。


グレイ・ノルマン


読み終える。


「……意外と普通だな」


もっと怪しい内容を想像していた。


研究所へ来いとか。


レグを一人で連れてこいとか。


そんなことを書かれていたら、その場で破り捨てるつもりだった。


だが、指定されたのは人目のある店。


しかも来るかどうかは俺たちに任せる、と書いてある。


「レグ」


「ん」


「どう思う?」


レグは手紙を見る。


当然、全部読めているわけではないので、内容を簡単に説明した。


すると。


少し考えてから、首を横に振る。


「わかんない」


「だよな」


「グレイ、レグみたい?」


「見たいというか……話したいらしい」


「なんで?」


「それを聞きに行くかどうかって話」


レグが黙る。


俺は急かさなかった。


これはレグ自身のことだ。


俺一人で勝手に決めるつもりはない。


やがて。


「セラにもきく」


レグが言った。


「そうだな」


俺も同じつもりだった。


三人で決めればいい。


手紙を畳み、鞄へ入れる。


今日は休むだけのつもりだったのに。


どうやら、また一つ考えることが増えたらしい。


    ◇


夕方。


宿の扉が開き、セラが帰ってきた。


「ただいま」


「おかえり」


「おかえり」


いつものように俺とレグが返す。


セラは鞄を置くと、すぐにこちらを見た。


「先生に話した」


「ああ、昨日の治癒術?」


「うん」


「怒られた?」


レグが聞く。


セラは少しだけ唇を尖らせた。


「怒られはしなかった。でも注意された」


やっぱり。


「何て?」


「浅い傷だったから今回はいいけど、自分で勝手に『これくらいなら大丈夫』って判断する癖をつけるなって」


「まともな先生だな」


「ほんとにね」


セラも納得しているらしい。


「それと、ちゃんと治癒できてたことは褒めてもらった」


「お、良かったじゃん」


「うん」


嬉しそうに笑う。


「でも今は、とにかく小さい傷で練習しなさいって」


「じゃあ俺が怪我したら――」


「大きい怪我は駄目!」


言い切る前に止められた。


「冗談だって」


「ハヤトは冗談か本気か分からないの!」


そのやり取りを終えてから。


俺は鞄から手紙を取り出した。


「で、こっちも今日ちょっとあって」


「なに?」


封筒を見せる。


差出人を読んだ瞬間。


セラの表情が変わった。


「……グレイ・ノルマン?」


「ああ」


「来たの?」


「本人じゃない。ギルドに手紙が届いた」


内容を読ませる。


セラは最後まで目を通すと、もう一度最初から読み直した。


「どう思う?」


俺が聞く。


「怪しい」


「だよな」


「でも……思ったよりちゃんとしてる」


「俺もそう思った」


ロイドの話では、人化できる竜を見つけたと知った途端、かなり食いついてきたという。


その印象だけなら、もっと強引な人間を想像していた。


「レグは?」


セラが聞く。


「セラにも聞いてから決めるって」


レグが頷く。


「セラ、どうする?」


真正面から聞かれ。


セラはすぐに答えず、ベッドへ腰を下ろした。


「私は……会ってもいいと思う」


「理由は?」


「何も分からないまま警戒し続けるのも嫌だから。でも条件はある」


「条件?」


「三人で行く。レグを一人にしない。それと、少しでもおかしいと思ったらすぐ帰る」


俺は頷く。


「全部賛成」


それからレグを見る。


「どうする?」


レグは俺とセラを交互に見た。


少し考えて。


「いく」


「いいの?」


「ふたりいるから」


セラが笑う。


「いるよ」


俺も頷く。


「じゃあ決まりだな」


三日後。


グレイ・ノルマンと会う。


ロイドから名前を聞いたときには、わざわざこちらから会いに行く必要はないと思っていた。


その考えは今も変わっていない。


ただ。


向こうが何を知っているのか。


なぜ人の姿を取れる竜を探しているのか。


そして。


どうしてレグにそこまで興味を持っているのか。


話だけなら、聞いてみてもいい。


「ハヤト」


「ん?」


レグが手紙を見ながら聞く。


「そこ、ごはんある?」


「……店だから、たぶん」


「じゃあいく」


「最後にそれで決めるなよ」


セラが吹き出した。


「結局そこなのね」


不安が消えたわけじゃない。


むしろ。


これから何が分かるのかを考えれば、少し緊張する。


それでも三人でなら。


何かあっても、そのとき考えればいい。


三日後。


俺たちは初めて。


グレイ・ノルマン本人と会うことになった。

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