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ランキング最高順位51位!『異世界に転移したので、もう我慢するのはやめました ~固有能力《自由》で好き勝手に生きる~』  作者: くんくん
第1部 自由への一歩

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第40話 初めての実戦


それから数日。


俺たちの王都での生活にも、少しずつ決まった流れができ始めていた。


朝になればセラは治癒術院へ向かい、俺とレグは訓練場へ行ったり、王都の中を見て回ったりする。夕方には三人で宿へ戻り、その日あったことを話しながら飯を食う。


セラは小さな傷なら治癒術で閉じられるようになってきた。ただし、先生からは毎日のように「できるからといって無理に大きな傷を治そうとしないこと」と言われているらしい。


俺の受け流しも、訓練ならかなり形になってきた。


レグも、人の姿で力を抑える感覚を少しずつ掴み始めている。


そこで。


「そろそろ依頼行くか」


朝食の席で俺が言うと、セラがパンを食べる手を止めた。


「三人で?」


「ああ。今日は授業休みだろ?」


「うん」


レグもすぐに顔を上げる。


「まもの?」


「まだ依頼決めてない」


「つよいやつ?」


「だから決めてないって」


「おにく?」


「なんで依頼の話から肉になるんだよ」


セラが笑う。


「でも私も行きたい。最近、授業ばっかりだったし」


「じゃあ決まりだな」


今までなら、なるべく簡単な依頼を選ぶところだが、今日は少しだけ考えが違った。


危険すぎるものを選ぶつもりはない。


ただ。


訓練場でできることと、実際の戦いでできることは別だ。


それを一度、確かめておきたかった。


    ◇


冒険者ギルドの掲示板を眺めていると、ちょうど良さそうな依頼が見つかった。


王都から少し離れた村まで、荷馬車を護衛する仕事だ。


日帰り。


最近、街道の途中でゴブリンが出ることがあるらしい。


「これどう?」


俺が依頼書を見せると、セラが内容を読む。


「護衛か……悪くないんじゃない?」


「だろ?」


「ただ、ゴブリンが出るかどうかは分からないのね」


「何も起きなきゃ、それはそれでいいだろ」


レグが横から覗き込む。


「ゴブリン?」


「たぶん出るかもしれない」


「たおす?」


「襲ってきたらな」


「わかった」


やる気は十分らしい。


受付で依頼を受けると、依頼主は東門の外で待っていると教えられた。


俺たちはそのまま向かう。


門を出たところには、小さな荷馬車と一人の男がいた。


「冒険者ギルドから来ました」


声をかけると、男はほっとした顔をする。


「助かった。今日は荷物が多くてな」


荷馬車には木箱がいくつも積まれている。


「村までどのくらい?」


「二時間半くらいだ。何もなければ昼前には着く」


「分かりました」


俺は周囲を見る。


街道は人通りがあるが、王都から離れるほど少なくなるらしい。


「じゃあ出発しよう」


男が御者台へ座る。


俺たちは荷馬車の横についた。


レグは今日も人の姿だ。


王都から出た以上、竜に戻ってもいいのだが、本人がこのままがいいと言った。


最近は、人の身体で動くことそのものが練習になっているらしい。


「レグ」


「ん?」


「もし戦うことになっても、いきなり全力はなしな」


「わかってる」


「本当に?」


「しつこい」


「最近よく言うな、それ」


「ハヤトがしつこいから」


セラが笑う。


俺が悪いのか?


    ◇


最初の一時間ほどは、何事もなかった。


天気もいい。


街道も歩きやすい。


途中で何台か別の荷馬車とすれ違っただけだ。


「平和ね」


セラが言う。


「護衛なんてこんなもんでいいんだよ」


「ハヤト、退屈?」


「少し」


「ほら」


「でも何か起きてほしいとは言ってない」


「その顔が言ってる」


最近、本当に顔で全部判断される。


そのときだった。


前を歩いていたレグが止まる。


「ハヤト」


声が変わった。


「どうした?」


「いる」


「何が?」


レグが街道の左側へ顔を向ける。


少し離れたところに、木々が集まっている。


「いっぱい」


俺とセラはすぐに表情を変えた。


「魔物?」


「ん」


御者へ声をかける。


「一度止めて!」


荷馬車が止まる。


俺は剣を抜いた。


セラも後ろへ下がりながら周囲を警戒する。


数秒。


何も起きない。


「どこ?」


俺が小声で聞く。


レグが指差す。


「そこ」


次の瞬間。


木々の間から、小さな影が飛び出した。


一体。


二体。


さらに奥から続く。


緑色の肌。


小柄な身体。


錆びた剣や棍棒を持っている。


「ゴブリン!」


セラが声を上げる。


数は――七。


聞いていたより多くはない。


「俺が前に出る。セラは荷馬車の近く!」


「分かった!」


「レグは?」


レグが俺を見る。


「たたかう」


「じゃあ右側頼む。ただし――」


「よわくする」


先に言われた。


「よし」


俺は前へ出る。


ゴブリンもこちらへ向かって走ってきた。


一体目。


棍棒を大きく振り上げる。


いつもなら避けて、そのまま斬るところだ。


でも。


今日は違う。


木剣じゃない。


実戦。


失敗すれば普通に痛い。


「……来い」


棍棒が振り下ろされる。


俺は剣を合わせた。


正面から止めない。


角度をつける。


力を――。


横へ。


ガッ、と鈍い音が響く。


棍棒が剣の表面を滑り、そのまま俺の横を通り抜けた。


「できた!」


思わず声が出る。


「ハヤト! 前!」


セラの声。


「あ」


二体目が来ていた。


「危なっ!」


慌てて避ける。


「戦闘中に喜ばないで!」


「ごめん!」


一体目を斬り倒し、そのまま二体目と向き合う。


今度は受け流しにこだわらない。


避けられるものは避ける。


使えるところだけ使う。


訓練したからといって、それ一つで全部戦う必要はない。


三体目。


剣を持ったゴブリン。


横から振ってくる。


今度は余裕を持って合わせる。


滑らせる。


体勢が崩れたところへ一撃。


「……よし」


訓練場より難しい。


相手は同じ場所を狙ってくれないし、同じ速さでもない。


でも。


使える。


それが分かっただけでも十分だった。


    ◇


一方。


「レグ!」


セラが思わず叫ぶ。


ゴブリンが二体、同時にレグへ向かっていた。


レグは武器を持っていない。


片方が棍棒を振る。


レグは身体を横へずらして避けると、ゴブリンの腕を掴んだ。


「えい」


軽く。


本当に軽く押したように見えた。


それなのにゴブリンは地面を転がり、そのまま動かなくなった。


「……」


レグが自分の手を見る。


「できた」


嬉しそうだ。


「いや、それでも結構飛んでるから!」


セラが言う。


「でも、きのうよりよわい」


「比較対象がおかしいのよ!」


もう一体がレグへ飛びかかる。


レグは振り返ると、今度は腕ではなく肩を軽く押した。


ゴブリンが横へ倒れる。


そのまま意識を失った。


「……」


セラが何とも言えない顔をする。


「レグ」


「ん?」


「それ以上弱くできる?」


「やってみる」


頼もしいのか不安なのか分からない。


そのとき。


「セラ!」


俺が叫ぶ。


一体のゴブリンが、俺たちを避けて荷馬車へ向かっていた。


セラが振り返る。


「止まって!」


手を上げる。


火炎魔術。


ただし、荷馬車が近い。


強く撃てない。


セラは一瞬だけ迷ったが、すぐに魔力を抑えた。


小さな火球が飛ぶ。


ゴブリンの足元へ。


「ギャッ!」


驚いて動きが止まる。


その隙に。


俺が追いついた。


「よし!」


一撃。


倒れる。


残りは一体。


最後のゴブリンは状況を見て、逃げ出した。


追うか?


一瞬迷う。


だが。


「ハヤト」


セラが呼ぶ。


「護衛」


そうだった。


俺たちの仕事はゴブリン討伐じゃない。


荷馬車を守ることだ。


「追わない」


剣を下ろす。


逃げていく一体を見送り。


ようやく周囲が静かになった。


    ◇


「大丈夫ですか?」


御者の男へ駆け寄る。


「あ、ああ。こっちは平気だ」


荷馬車にも被害はない。


馬が少し怯えている程度だ。


「怪我は?」


「俺はない」


俺も大丈夫。


レグも平気。


「セラは?」


「大丈夫――」


言いかけて。


セラが左腕を見る。


服が少し切れていた。


「セラ!」


「大丈夫。かすっただけ」


近づいて見ると、本当に浅い傷だった。


戦っている間に、いつの間にかゴブリンの武器が掠ったらしい。


血が少し滲んでいる。


「痛い?」


レグが心配そうに覗き込む。


「これくらい平気よ」


セラはそう言ったあと。


傷を見る。


そして。


少し考えた。


「……やってみてもいいかな」


「治癒術?」


「うん」


先生から言われている。


無理に大きな傷を治そうとしないこと。


でも。


これは浅い。


治癒術院で練習しているものと、ほとんど変わらない程度だ。


「無理するなよ」


「分かってる」


セラは道の端へ座った。


俺とレグも近くで見守る。


左腕の傷へ右手を近づける。


一度。


ゆっくり息を吐く。


「焦らない……必要な分だけ」


小さく呟く。


手のひらに淡い光が生まれた。


魔力が傷へ流れる。


一気に治るわけではない。


少しずつ。


ほんの少しずつ。


開いていた傷が閉じていく。


やがて。


セラが魔力を止めた。


「……どう?」


俺が覗く。


血は止まり、傷もほとんど分からなくなっている。


「できたな」


「うん」


セラ自身が一番驚いていた。


「実際に自分の傷を治すと、なんか違う」


「痛かった?」


「少し。でも……ちゃんとできた」


レグがセラの腕を見る。


「なおった」


「うん」


「すごい」


セラが笑った。


「ありがと」


小さな傷だ。


命に関わるようなものでもない。


それでも。


訓練じゃない。


実際の戦いでできた傷を。


セラは自分の治癒術で治した。


「先生にちゃんと話せよ」


俺が言う。


「怒られるかな」


「なんで?」


「勝手に実戦で使ったから」


「浅い傷だけって言えば大丈夫じゃない?」


「……たぶん」


「俺の真似するな」


「何が?」


「今の『たぶん』」


セラが笑う。


    ◇


それから先は、何事もなく村へ到着した。


荷物を届け終えると、御者の男が何度も礼を言ってくれた。


「途中はどうなるかと思ったが、助かったよ」


「護衛ですから」


「しかし、あの嬢ちゃん……」


男がレグを見る。


レグは少し離れたところで村の屋台を眺めていた。


「強いな」


「まあ……強いです」


詳しくは説明しない。


人の姿のレグをただの小柄な女性だと思っているから、余計に驚いたのだろう。


「それに治癒術まで使える奴がいる。良いパーティーだな」


今度はセラを見る。


セラは少しだけ照れた。


「まだ覚え始めたばかりです」


「それでも十分だ」


男の言葉に。


セラが嬉しそうに笑った。


俺も何となく嬉しくなる。


訓練場で覚えた受け流し。


人の姿での力加減。


覚えたばかりの治癒術。


どれも、まだ完成には程遠い。


それでも今日。


三人とも。


実戦の中でちゃんと使うことができた。


「ハヤト!」


遠くからレグが呼ぶ。


「何?」


「おにくある!」


……感動は長く続かなかった。


「仕事終わったし食うか」


俺が言うと、セラが笑う。


「結局そうなるのね」


「今日はいいだろ」


「まあね」


俺たちはレグのいる屋台へ向かった。


今日の依頼は。


ただ荷物を届けるだけの護衛だった。


でも。


俺たちにとっては。


少しだけ。


自分たちが前へ進んでいることを実感できた一日になった。

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