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ランキング最高順位51位!『異世界に転移したので、もう我慢するのはやめました ~固有能力《自由》で好き勝手に生きる~』  作者: くんくん
第1部 自由への一歩

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第4話 一つしか選べないなら、俺は全部やる


翌朝。


ハヤトはギルドへ向かう前に、道具屋へ寄っていた。


目的は装備――ではない。


「これと、これ。それから……こっちもください」


店主が眉を上げる。


ハヤトが指差したのは、棚に並んだ三冊の薄い技能書だった。


《身体強化・入門》


《水魔法・初歩》


《盾術・基礎》


「兄ちゃん、職業は何だ?」


「ないです」


「……は?」


ここ数日ですっかり聞き慣れた反応だった。


事情を説明するつもりはない。


ハヤトは代金を払い、買った本を鞄へ入れた。


昨日稼いだ金の半分近くが消える。


本来なら、先にまともな防具を買うべきなのだろう。


それは分かっている。


ただ。


知らないことができるようになる。


その感覚が、どうしようもなく面白かった。


ギルドへ到着すると、ミレイがハヤトの持っている本を見て呆れた顔をした。


「また買ったんですか?」


「はい」


「装備は?」


「そのうち」


「死んだら技能も使えませんよ」


「それは困るな」


「なら真面目に考えてください」


言われてみればもっともだった。


とはいえ、せっかく買ったのだから試したい。


訓練場を借り、まず《身体強化・入門》を読む。


内容は単純だった。


魔力を全身へ薄く巡らせ、筋肉の動きを補助する。


剣術と違って感覚的な説明が多く、最初は何を言っているのかよく分からない。


それでも何度か試すうちに、身体の内側を何かが流れる感覚が生まれた。


次の瞬間。


技能《身体強化・初級》を習得しました。


「よし」


地面を蹴る。


普段より身体が軽い。


試しに走ってみると、数歩で明らかな違いが分かった。


「おお……速い」


ただし十秒もしないうちに息が上がった。


解除すると、全身に一気に疲労がくる。


「便利だけど、使い放題ってわけじゃないのか」


次は水魔法。


初歩教本に載っていた《水生成》を試す。


掌の上に水球が浮かび上がった。


量はコップ一杯程度。


飲んでみる。


「普通の水だ」


「普通じゃなかったら困ります」


いつの間にか見に来ていたミレイが言った。


さらに盾術。


これは技能書だけでは感覚が掴みにくく、ギルドにいた冒険者へ銅貨を払って教えてもらった。


盾は受け止めるのではなく、逸らす。


足を止めるな。


相手の武器だけを見るな。


一時間ほど木剣で打ち込まれ続け、腕が痺れた頃。


技能《盾術・初級》を習得しました。


「……やっぱり覚えたな」


教えていた冒険者が複雑そうな顔をする。


「普通はどれくらいかかるんです?」


「早い奴でも数週間。使えると言えるようになるなら、もっとだ」


「俺も使えるってほどじゃないですよ」


技能を得ても、身体が勝手に最適な動きをしてくれるわけではない。


知識と感覚を掴むきっかけが生まれるだけだ。


実戦で使えるかどうかは、自分次第。


その辺りはむしろ好都合だった。


最初から何でもできてしまったら、たぶんすぐ飽きる。


できなかったことが少しずつできるようになる。


ハヤトは、その過程そのものを楽しみ始めていた。


それから一週間。


依頼を受けては街の外へ出て、戻れば技能の練習。


そんな生活が続いた。


短剣。


盾。


身体強化。


水魔法。


《灯火》も、火を灯すだけではなく少しずつ大きさを調整できるようになった。


まだどれも初歩。


それでも、最初の日とは比べものにならない。


その成果を試す機会は、草原で突然やってきた。


「三匹か」


前方にいたのは角兎。


一週間前、森で追い回された魔物と同種だ。


今回は逃げない。


短剣を抜き、左腕に小盾を構える。


一匹目が地面を蹴った。


速い。


けれど、前ほど怖くはなかった。


《身体強化》。


脚に力が巡る。


突進を半歩だけずらしてかわし、横腹へ短剣を入れる。


一匹。


二匹目が背後から跳ぶ。


振り返る暇はない。


盾を斜めに構えた。


衝撃。


腕が痺れる。


それでも直撃は避けられた。


角兎が地面へ落ちた瞬間、踏み込んで仕留める。


残り一匹。


正面から突っ込んできた。


ハヤトは掌を向ける。


「《水弾》」


《水生成》を戦闘用に応用したものだ。


威力は弱い。


当たったところで倒せない。


だが顔面に水をぶつけられた角兎は、一瞬だけ動きを止めた。


その隙を逃さず距離を詰める。


短剣を振り下ろした。


静かになる草原。


ハヤトは周囲を確認してから、ようやく息を吐いた。


「……勝てた」


楽勝ではなかった。


盾を持つ腕はまだ痛い。


身体強化のせいで脚も重い。


けれど一週間前、自分を追い回した魔物を三匹同時に倒した。


その事実が素直に嬉しい。


「ずいぶん変な戦い方するな」


少し離れた場所から声がした。


振り返る。


大きな槍を背負った、四十代ほどの男が立っていた。


装備の傷を見る限り、かなり経験を積んでいる冒険者だろう。


「剣士かと思えば魔法を使う。魔術師かと思えば盾も持つ」


「全部まだ初心者ですけど」


「そういう話じゃない」


男は近づきながら、ハヤトの装備を眺めた。


「職業は?」


「ありません」


男の足が止まった。


やっぱり同じ反応か。


ハヤトが簡単に説明すると、男はしばらく黙っていた。


「なるほどな。職業の制限を受けない、か」


「たぶんそういう能力です」


「だったら一つ忠告しておく」


男の声から、先ほどまでの軽さが消えた。


「目立ちすぎるな」


「目立つ?」


「珍しい力を持った人間を放っておくほど、この世界は親切じゃない」


ハヤトは何も言わず続きを待った。


「貴族、商人、軍、教会。力を欲しがる連中はいくらでもいる。便利だと知られれば、使おうとする奴も出てくる」


なるほど。


考えてみれば当然だ。


何でも覚えられる人間。


自分が権力者なら、確かに興味くらいは持つかもしれない。


「隠した方がいいってことですか?」


「そこまで言わん。決めるのはお前だ。ただ、自分の力を見せる相手くらいは選べ」


男はそれだけ言い残し、街道へ戻っていった。


ハヤトはその背中をしばらく見送った。


目立つな。


利用される。


言っていることは分かる。


むしろ善意の忠告だろう。


だから忘れるつもりはない。


ただ――。


「使うなって言われたら、たぶん無理だな」


せっかく覚えられるのだ。


興味のあることを、自分から諦める気はなかった。


もちろん、何も考えず力を見せびらかすつもりもない。


やりたいことをやるのと、考えなしに行動するのは別だ。


短剣を鞘へ戻す。


次は何を覚えようか。


弓も面白そうだ。


治癒魔法も気になる。


料理なんかにも技能があるのだろうか。


考え始めると、候補はいくらでも浮かんでくる。


この世界では、一人に一つの道が与えられる。


それを極めるのが普通らしい。


ハヤトは空を見上げた。


「一つしか選べないなら――」


少しだけ笑う。


「俺は全部やってみるか」


まだ何者でもない。


だからこそ、何にだってなれる。


今のハヤトには、それが何より面白かった。

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