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ランキング最高順位51位!『異世界に転移したので、もう我慢するのはやめました ~固有能力《自由》で好き勝手に生きる~』  作者: くんくん
第1部 自由への一歩

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第3話 初めて稼いだ金は自分のために使う


冒険者登録そのものは、無事に終わった。


職業欄だけは空白のままだったが、固有能力持ちということで例外的に処理してもらえたらしい。


ギルドカードを受け取ったハヤトは、しばらくそれを眺めていた。


薄い金属板に、自分の名前。


神崎ハヤト。


異世界へ来て初めて手に入れた、まともな身分証だった。


「これで今日から冒険者です」


受付嬢――ミレイが言う。


「なんか響きいいですね、冒険者」


「最初だけですよ」


「夢壊すの早くないですか?」


ミレイは小さく笑ったあと、すぐに真面目な顔へ戻った。


「その前に一つ。昨日《剣術・初級》と魔法を覚えたからといって、自分が強くなったと思わないでくださいね」


「そこは分かってます」


剣の振り方が分かる。


魔法の使い方も分かる。


だが、それだけだ。


筋力も経験も足りないし、本気で襲ってくる相手と戦ったこともない。


技能を覚えた瞬間に達人になれるほど、現実は都合よくできていなかった。


「なので、最初はこれがおすすめです」


ミレイが掲示板から一枚の依頼書を外す。


薬草採取。


ハヤトは少しだけ黙った。


「……異世界に来て、最初の仕事が草むしり?」


「安全第一です」


「まあ、昨日魔物に追いかけ回されたばっかだしな……」


文句を言いつつも、依頼は受けることにした。


金は必要だ。


今のハヤトには宿代すらない。


必要な道具を借り、街の外へ出る。


昨日は命からがら通った門だったが、今日は少しだけ気分が違った。


自分の意思で外へ出る。


それだけで、不思議と冒険らしく感じる。


指定された薬草は、街から歩いて一時間ほどの草原に生えていた。


「これか?」


手元の見本と見比べる。


細長い葉。


根元に青い斑点。


似た植物も多く、思ったより面倒だった。


一株。


二株。


間違えないように確かめながら採っていく。


しばらくすると、周囲を見る余裕も出てきた。


遠くには巨大な山脈。


空には見たことのない鳥。


足元では、淡く光る小さな虫が草の間を飛んでいる。


「……すげえな」


昨日は生き延びることで精いっぱいだった。


改めて見ると、本当に知らない世界なのだ。


子供の頃なら、きっと一日中歩き回っただろう。


社会人になってからは、休みの日に知らない場所へ出かけることすら減っていた。


疲れている。


金がかかる。


明日も仕事だ。


そんな理由を並べて、結局何もしない。


今思えば、やらない理由を探す癖までついていたのかもしれない。


「今日は仕事だけどな」


そう呟いて、また薬草を摘む。


三時間ほどで必要量は集まった。


そろそろ戻ろう。


そう思った時だった。


草むらが揺れた。


昨日の記憶が蘇り、ハヤトは反射的に腰の短剣へ手を伸ばす。


姿を現したのは、大きな鼠だった。


猫ほどの体格。


前歯が異様に長い。


ギルドでもらった資料に載っていた。


大牙鼠。


農作物を荒らす害獣で、討伐部位を持ち帰れば追加報酬が出る。


「……こいつなら」


角の生えた獣ほど怖くは見えない。


だが、野生動物と本気で戦った経験なんて当然なかった。


大牙鼠が威嚇する。


ハヤトは短剣を抜いた。


手汗で柄が滑りそうになる。


「ゲームだったらボタン押すだけなんだけどな……」


相手が地面を蹴った。


「うおっ!」


思ったより速い。


慌てて横へ避ける。


牙が革靴のすぐ横を通過した。


心臓が跳ねる。


「普通に怖いじゃん!」


鼠は止まらない。


向きを変え、再び突っ込んでくる。


今度は逃げるだけではなく、昨日覚えた構えを思い出した。


足を開く。


腰を落とす。


敵を見る。


焦るな。


二度目の突進。


ハヤトは身体を横へずらしながら短剣を振った。


刃先が背中を浅く切る。


大牙鼠が甲高い声を上げた。


仕留められていない。


むしろ怒らせた。


三度目。


今度はハヤトから一歩踏み込んだ。


牙を避け、そのまま短剣を首元へ突き込む。


手に嫌な感触が伝わった。


大牙鼠が何度か足を動かし、やがて静かになる。


「…………」


ハヤトはすぐには短剣を抜けなかった。


勝った。


そのはずなのに、達成感より先に気持ち悪さが込み上げてくる。


生き物を殺した。


ゲームの敵を倒すのとはまるで違う。


血の匂いも。


手に残った感触も。


全部、本物だった。


「……こういうのも慣れないとダメなのか」


好きに生きる。


冒険者になる。


言葉にするのは簡単だった。


だがこの世界で生きるなら、楽しいことだけでは済まない。


ハヤトはしばらく座り込み、それからゆっくり立ち上がった。


目を逸らしたところで、起きたことは消えない。


せめて自分で選んだことくらい、自分で受け止める。


血を拭い、資料に書かれていた討伐証明の牙を回収した。


夕方。


ギルドへ戻る頃には、足がかなり重くなっていた。


薬草を受付へ並べる。


ミレイが一株ずつ確認していった。


「全部正解です。初回にしては優秀ですね」


「結構迷いましたけどね」


「それと……大牙鼠まで?」


「一匹だけ」


牙を見せると、追加報酬が上乗せされた。


ハヤトの前へ、銀貨が数枚置かれる。


「これが報酬になります」


掌に乗せてみる。


ひんやりとして、思ったより重い。


元の世界では、給料は数字だった。


働けば月に一度、口座の残高が増える。


当たり前すぎて、受け取った実感などほとんどなかった。


だがこれは違う。


今日、自分で外へ出て。


歩き回って。


危ない目にも遭って。


それで手に入れた金だ。


「これが異世界で最初の給料か」


少しだけ嬉しかった。


「宿はもう決めていますか?」


ミレイに聞かれる。


「いや、まだです。一番安いところを――」


そこまで言って、ハヤトは止まった。


安い宿。


安い飯。


なるべく使わずに貯める。


それは悪いことじゃない。


むしろ堅実だ。


けれど、今までの自分も似たようなことばかり考えていた。


せっかくの休みなのに、金がもったいない。


食べたいものがあっても、また今度。


欲しいものがあっても、本当に必要なのか考える。


そして気づけば、その「また今度」はほとんど来なかった。


ハヤトは銀貨を握る。


「ミレイさん」


「はい?」


「この辺で、一番飯がうまい店ってどこです?」


ミレイが瞬きをした。


「宿じゃなくて?」


「先に飯で」


少し考えてから教えてもらった食堂は、ギルドから歩いて数分の場所にあった。


店へ入った瞬間、肉の焼ける匂いが鼻を刺激する。


炭火で焼いた鳥肉。


山盛りの芋。


野菜の入った濃いスープ。


そして、この世界へ来て初めて飲む麦酒。


金額を聞けば、今日の稼ぎのかなりの割合が消える。


昨日までの自分なら、たぶんやめていた。


ハヤトは迷わず注文した。


運ばれてきた肉へナイフを入れる。


香ばしい匂いが立ち上る。


一口。


「……うま」


思わず声が漏れた。


高級料理でも何でもない。


働いた人間が仕事帰りに腹いっぱい食べるための料理。


それなのに、妙にうまかった。


自分で働いた。


自分で稼いだ。


そして、自分が食いたいと思ったものに使った。


たったそれだけだ。


「俺、こんなことで満足できたんだな」


誰かに選ばされたわけじゃない。


誰かに合わせたわけでもない。


自分で決めただけ。


ハヤトは麦酒を一口飲む。


少し苦い。


でも嫌いじゃない。


明日は何をしよう。


また薬草を採ってもいい。


別の依頼でもいい。


剣を練習するのも面白そうだ。


魔法も覚えたい。


何一つ決まっていない。


それなのに、不安より楽しみの方が大きかった。


「最高じゃん」


誰に聞かせるでもなく呟き、もう一度肉を頬張る。


異世界生活二日目。


神崎ハヤトは初めて、自分で選んだ一日を終えた。

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