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ランキング最高順位51位!『異世界に転移したので、もう我慢するのはやめました ~固有能力《自由》で好き勝手に生きる~』  作者: くんくん
第1部 自由への一歩

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第2話 俺の職業ないんですけど?


ラーデンの街に入ったところで、ハヤトは早くも現実にぶつかった。


金がない。


助けてくれた商人――ドルフが入街料を立て替えてくれたおかげで中には入れたものの、当然、それだけで生活できるわけではない。


門をくぐった先には石造りの建物が並び、通りには露店が軒を連ねていた。


焼いた肉の匂い。


色鮮やかな果物。


見慣れない形の武器。


ローブ姿の男の横を、小さな角の生えた獣が荷車を引いていく。


どこを見ても、ハヤトの知っている街とは違う。


できることなら一日中歩き回っていたかった。


しかし腹が減れば飯がいるし、夜になれば寝床も必要になる。


異世界だろうと、その辺りは現実的だった。


「まず冒険者ギルドへ行け」


ドルフはそう教えてくれた。


身元の分からない人間でも登録でき、働き口も紹介してくれるらしい。


「本当に何から何までありがとうございます」


「構わん。今度、うちの商品を買ってくれればな」


「金持ちになったら大量に買いますよ」


「言ったな?」


笑いながら握手を交わす。


突然知らない世界へ放り出されたというのに、人間そのものは元の世界と大して変わらないらしい。


そのことに、ハヤトは少し安心した。


教えられた道を進むと、三階建ての大きな建物が見えてきた。


入口の上には、剣と盾を組み合わせた看板。


おそらく、ここが冒険者ギルドだ。


ハヤトは扉を開ける。


もっと酒場のような場所を想像していた。


昼間から酔っ払った大男が喧嘩していて、隅では怪しげな連中が睨み合っている――そんな光景だ。


だが実際には、役所と宿屋を足したような場所だった。


壁には依頼書が整然と貼られ、冒険者らしい男女が受付の前に並んでいる。


「意外とちゃんとしてるな……」


「何がですか?」


思わず漏らした声を、受付の女性に拾われた。


栗色の髪を後ろでまとめた、二十代半ばくらいの女性だ。


「あ、いや。もっと荒っぽい場所を想像してて」


「喧嘩なら夜の酒場でたまにありますよ。やった人は罰金ですが」


「そこはちゃんとしてるんですね」


ハヤトは受付で事情を説明した。


日本という国から来たこと。


気づいたら森にいたこと。


身分証も金も持っていないこと。


女性は途中から、何とも言えない表情になっていた。


「国籍不明、身分証なし、所持金なし……」


「並べられると結構ひどいですね」


「よく生きてここまで来られましたね」


「自分でもそう思います」


幸い、この辺りでは身元不明者そのものは珍しくないらしい。


国境に近いため、戦や災害で故郷を失った人間が流れてくることもあるという。


冒険者として登録できれば、簡易的な身分証にもなる。


「では、職業の確認をします」


「職業?」


「はい。登録情報に必要ですので」


受付嬢が机の下から透明な水晶球を取り出した。


「こちらに手を置いてください」


言われた通りに触れる。


水晶の奥で、淡い光が揺れた。


しばらくして文字のようなものが浮かび上がる。


受付嬢が紙へ書き写そうとして――手を止めた。


「……あれ?」


「何かまずいですか?」


「もう一度お願いします」


言われるままに手を置く。


結果は同じ。


受付嬢は水晶を持ち上げ、角度を変え、最後には軽く指で叩いた。


「壊れてる?」


「それ叩いて大丈夫な物なんですか?」


「普通はやりません」


奥から別の職員を呼び、今度は違う水晶で試す。


しかし表示された内容は変わらなかった。


職業――なし。


ハヤトは表示を眺める。


「無職……」


異世界に来て最初にもらった称号が無職。


妙に現実的で嫌だった。


だが受付嬢は笑わない。


それどころか、かなり真剣な顔をしている。


「おかしいですね」


「そんなに?」


「成人して職業を持っていない方なんて、普通はいません」


「職業って自分で決めるものじゃないんですか?」


受付嬢は少し驚いたように瞬きをした。


「十五歳の職業選定で決まります。そこで授かった職業を、生涯使うことになります」


剣士。


魔術師。


神官。


商人。


鍛冶師。


他にも数多く存在するらしい。


一度決まった職業は、基本的には変えられない。


極めて特殊な方法で転職できる例もあるが、大金が必要なうえ、成功する保証もないという。


「じゃあ、剣士になった後で魔法をやりたくなったら?」


「簡単な生活魔法程度ならともかく、本格的な魔術技能は習得できません」


「逆に魔術師が剣を極めるのも?」


「ほぼ不可能です」


「……途中で別のことをやりたくなったら?」


受付嬢は当たり前のように答えた。


「諦めます」


ハヤトは眉を上げた。


「マジで?」


「適性のない技能は習得できませんから」


十五歳で決められた道を、そのまま一生歩く。


もちろん、それが合っている人間もいるのだろう。


だが自分なら嫌だ。


そんなことを考えた、その時だった。


水晶が再び光った。


「え?」


先ほどまで空白だった場所に、新しい文字が浮かび上がる。


受付嬢が身を乗り出した。


「固有能力……?」


「何です、それ」


「生まれつき特別な能力を持つ方が、ごく稀にいるんです。数千人に一人いるかどうかですが……」


水晶に表示された文字は、たった一つ。


固有能力《自由》


その下に短い説明が続く。


自身に課された制限を解除、または無視する。


「自由……」


ハヤトはその名前を眺めた。


昨日、自分が決めたことを見透かしたような名前だった。


「具体的には、何ができるんです?」


「分かりません」


「分からないんですか」


「固有能力は人によって全く違いますから。ただ……職業が表示されない原因は、これかもしれません」


受付嬢はしばらく考え込むと、席を立った。


数分後。


戻ってきた彼女の手には、一冊の薄い本と木製の訓練剣があった。


「試してみましょう」


「何を?」


「これは剣士用の初歩技能書です」


本を机へ置く。


「剣士以外が読んでも、内容を理解することはできます。でも技能として身につくことはありません」


「へえ」


ハヤトは本を開いた。


基本的な構え。


足の位置。


剣を振る時の体重移動。


専門的ではあるが、読めないほど難しい内容ではない。


数ページ目を読み終える頃には、何となく身体の動かし方が頭に入ってきた。


「これ、振ってみても?」


「どうぞ」


木剣を握る。


当然、剣など使った経験はない。


映画やゲームで見るくらいだ。


本に書かれていた通り、足を開く。


腰を落とす。


そのまま前へ振った。


ぶん、と木剣が空気を切る。


上手いとは思えない。


むしろ格好悪いだろう。


だが受付嬢の表情が変わった。


「もう一度お願いします」


「はい」


再び振る。


受付嬢は水晶を確認し、目を見開いた。


技能《剣術・初級》習得。


「……習得しています」


「今ので?」


「普通はあり得ません」


いつの間にか、近くにいた職員まで集まってきていた。


ハヤトは木剣を見る。


「じゃあ魔法は?」


受付嬢が黙った。


周囲の職員たちも黙る。


ハヤトは少しだけ笑った。


「気になりますよね?」


結局。


数分後には、ギルド裏の訓練場へ移動していた。


今度渡されたのは、魔術師向けの初歩教本。


最も簡単な火属性魔法が載っている。


短い詠唱を覚え、掌を前へ向けた。


「《灯火》」


ぽっ。


小さな炎が指先に灯った。


「おお……!」


ハヤトは思わず声を上げた。


小さい。


蝋燭より少し大きい程度。


それでも魔法だ。


人生で初めて、自分の手から炎が出ている。


「すげえ……」


感動しながら振り返る。


誰も喋っていなかった。


受付嬢と職員三人が、何とも言えない顔でこちらを見ている。


「……そんなに変です?」


受付嬢が額に手を当てた。


「変なんてもんじゃありません」


普通なら絶対に交わらないはずの技能。


剣と魔法。


ハヤトは、その両方を習得した。


もちろん、まだどちらも初心者だ。


木剣を持ったところで剣士には勝てないだろうし、《灯火》では魔物一匹倒せない。


だが、それでも一つだけ分かった。


この世界では、誰もが何か一つを選ばなくてはいけない。


その代わりに、何かを諦める。


けれど自分は――。


「選ばなくていいのか」


ハヤトは指先に浮かぶ炎を見つめた。


剣をやりたければ剣をやる。


魔法を使いたければ魔法を覚える。


その先で別のものに興味を持ったなら、それもやればいい。


今までとは真逆だった。


何かを選ぶために、何かを諦めなくてもいい。


口元が自然と緩む。


「……これ、かなり面白い能力かもな」


異世界へ来て二日目。


神崎ハヤトは初めて、自分に与えられた《自由》の意味を知った。

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