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ランキング最高順位51位!『異世界に転移したので、もう我慢するのはやめました ~固有能力《自由》で好き勝手に生きる~』  作者: くんくん
第1部 自由への一歩

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第38話 それぞれの修練


翌朝。


「じゃあ、行ってくるね」


宿の前でセラが鞄を肩に掛け直した。


治癒術院へ通い始めて三日目。初日のように何度も忘れ物を確認することはなくなったが、出発直前に鞄を一度だけ開けていたのを俺は見ている。


そこには触れないでおいた。


成長は大事だ。


「今日は何やるの?」


俺が聞くと、セラは少し嬉しそうに答えた。


「実際に治癒術を使う前の練習だって。昨日よりもう少し実践に近いことをするらしいの」


「おお。いよいよだな」


「まだ治せるわけじゃないからね?」


「分かってるって」


横にいたレグがセラを見上げる。


今日は朝から人の姿だ。


「セラ、きょうなおす?」


「だから、まだよ」


「いつなおせる?」


「それを覚えるために通ってるの」


「そっか」


レグは納得したように頷いたあと、セラの袖を軽く掴んだ。


「がんばれ」


「うん。ありがと」


セラが笑う。


「二人は今日はどうするの?」


「俺たちはギルドに行こうと思ってる」


「依頼?」


「いや。今日は訓練場を見てみる」


王都の冒険者ギルドには、冒険者向けの訓練施設が併設されている。前に依頼を探したとき、受付で教えてもらっていた。


ラーデンにも簡単な訓練場所はあったが、王都のものは規模がまるで違うらしい。


せっかく王都へ来たんだ。


依頼ばかり受けるより、今のうちにできることを増やしておくのも悪くない。


「ハヤト、また何か覚える気?」


セラが少し警戒するような顔をする。


「そのつもり」


「無茶しないでよ?」


「訓練でどうやって無茶するんだよ」


「ハヤトだから言ってるの」


「信用ないなあ」


「日頃の行い」


言い切られた。


レグまで隣で頷いている。


「お前もそっち側?」


「むちゃ、だめ」


「はいはい」


セラを見送り、俺とレグもギルドへ向かった。


    ◇


王都の冒険者ギルドには、建物の裏側にかなり広い訓練場があった。


土が踏み固められた広場には木製の人形や的が並び、その周囲では何十人もの冒険者が武器を振っている。


剣。


槍。


弓。


盾。


それだけではなく、少し離れた区画では魔術の練習まで行われていた。


「広いな」


「いっぱい」


レグも珍しそうに周囲を見回す。


ただし、今日は肉の匂いがしないため、いつもより集中している。


受付で訓練場の利用料を払い、俺たちは中へ入った。


「何する?」


レグが聞く。


「まず見る」


「みるだけ?」


「最初はな」


俺の固有能力、《自由》。


職業に縛られず、様々な技能を身につけられる。


便利な力だと思う。


実際、普通なら職業の違いで扱えないような技術でも、俺には覚えられる可能性がある。


ただし。


覚えられることと、使いこなせることは別だ。


動きを知っただけで剣の達人になるわけじゃないし、魔術の理屈を理解したからといって自由自在に使えるわけでもない。


結局、身体に馴染ませるには練習が必要だった。


その辺りは妙に現実的だ。


「……ん?」


訓練場を歩いていると、一つの区画で足が止まった。


大柄な男が、一人の冒険者を相手に指導している。


受講しているのは剣を持った若い男。


攻撃を受けるたび、何度も後ろへ下がっていた。


「力で止めようとするな!」


指導役の男が声を上げる。


「剣を壁にするんじゃねえ! 相手の力を横へ逃がせ!」


再び攻撃。


若い冒険者が剣を合わせる。


金属音。


今度は正面から受けず、相手の武器を斜めへ滑らせた。


「そうだ! それが受け流しだ!」


俺は足を止めた。


「……受け流し」


今まで俺は、攻撃を避けるか、剣で止めることが多かった。


もちろん似たような動きをしたことはある。


でも。


技術として意識したことはない。


「ハヤト」


「ん?」


「やりたい?」


レグが俺の顔を覗き込む。


「分かる?」


「かお」


最近みんなに顔で判断されている気がする。


「ちょっとな」


俺たちは近くで訓練を見学した。


相手の攻撃に正面からぶつからず、角度を変えて逸らす。


言葉で聞けば単純だ。


でも実際の動きは細かい。


足の位置。


身体の向き。


剣を合わせる角度。


力を入れる瞬間。


下手にやれば、自分の剣ごと弾き飛ばされるだろう。


しばらく見ていると、指導役の男がこちらに気づいた。


「お前もやるか?」


「いいんですか?」


「見てるだけじゃ覚えられんぞ」


確かに。


「お願いします」


俺が訓練用の木剣を受け取ると、レグが少し離れたところへ移動した。


「ハヤト」


「ん?」


「がんばれ」


「おう」


「けがしたら、セラ」


「まだ治せないって」


「そっか」


不安になる応援だ。


    ◇


結論から言うと。


「違う!」


難しかった。


「また正面で止めてるぞ!」


「いや、分かってるんですけど……!」


「分かってるだけじゃ意味ねえ!」


指導役の男が容赦なく木剣を振る。


俺は受ける。


鈍い音。


腕に衝撃が走った。


「っ……!」


「ほら、それだ! 力に力をぶつけるから腕に来る!」


頭では分かっている。


相手の剣を斜めに受けて。


そのまま横へ流す。


でも。


いざ目の前から剣が飛んでくると、反射的に止めようとしてしまう。


「もう一回!」


「はい!」


打ち込まれる。


今度こそ。


真正面で受けない。


身体を少しずらす。


木剣を斜めに。


相手の剣が触れた瞬間。


横へ――。


ガンッ!


「痛っ!」


結局弾かれた。


木剣が手から落ちる。


少し離れたところで見ていたレグが笑った。


「ハヤト、へた」


「お前な……!」


「ははは!」


指導役まで笑っている。


「連れの嬢ちゃんに言われてるぞ」


「もう一回お願いします」


「いいねえ。そのくらいじゃねえとな」


悔しい。


できそうなのにできない。


こういうのは嫌いじゃない。


むしろ。


やりたくなる。


木剣を拾う。


もう一度。


次。


また次。


何度も失敗する。


腕が痛くなり、握力も落ちてくる。


それでも繰り返しているうちに、少しずつ感覚が変わってきた。


正面から受けるんじゃない。


相手の力を利用する。


俺が全部止める必要はない。


十数回目。


男の木剣が振り下ろされる。


俺は一歩だけ身体をずらし、剣を合わせた。


触れる。


押される。


そこで力まない。


剣先を横へ滑らせる。


男の木剣が俺の身体の横を抜けた。


「……お?」


できた。


俺も一瞬、動きを止める。


「今の?」


「今のだ」


男が笑う。


「やっと一回だな」


「一回か……」


「一回できたからって、次もできると思うなよ」


「ですよね」


その通りだった。


次は普通に失敗した。


    ◇


昼前まで練習して。


成功率は、せいぜい三回に一回くらい。


いや。


実戦で同じようにできるかと聞かれれば、もっと低いだろう。


それでも。


最初よりは確実に分かってきた。


訓練を終える頃。


自分の中に、新しい感覚が馴染み始めているのが分かった。


受け流し。


《自由》によって、その技能を身につけるための道は開いた。


けれど。


「全然完成してないな」


俺が呟くと、指導役の男が笑った。


「当たり前だ。半日で完成されたら、こっちの立場がねえよ」


「ですよね」


「でも筋は悪くない。時間あるときにまた来い」


「はい。ありがとうございました」


礼を言って離れる。


レグが待っていた。


「おわった?」


「ああ」


「つかれた?」


「結構」


「じゃあ」


「飯だろ」


「ん」


そこだけは読める。


歩き出そうとしたところで。


「レグ」


「なに?」


俺は木剣を一本取って渡した。


「ちょっとやってみる?」


「これ?」


「そう」


レグは木剣を持つ。


軽く振る。


「どう?」


「おもくない」


「じゃあ俺に打ってみろ」


「いいの?」


「ああ。軽くな」


「わかった」


俺は構える。


ちょうど復習にもなる。


レグも木剣を構え――。


次の瞬間。


ぶんっ、と音がした。


「待て待て待て!」


慌てて避ける。


木剣が俺の目の前を高速で通過した。


「軽くって言っただろ!」


「かるくした」


「それで!?」


レグが首を傾げる。


「もっと?」


「もっと弱く!」


「むずかしい」


今度は俺が言う番だった。


「お前も練習必要じゃん」


「……」


レグが少し不満そうになる。


「ハヤト」


「なに?」


「もう一回」


「やる気出た?」


「こんどはできる」


俺は笑った。


「じゃあ来い」


その後。


なぜか俺の受け流し練習は、レグの力加減の練習にもなった。


    ◇


その頃。


治癒術院でも、セラは朝から魔力制御の練習を続けていた。


机の上には、水を張った浅い器が置かれている。


「魔力を流してください。ただし、水面を大きく揺らさないように」


教官の言葉に従い、セラは器へ手を近づけた。


魔力を流す。


水面が揺れる。


「……また」


昨日よりはいい。


でも。


まだ強い。


火炎魔術なら、強く出ることは長所だった。


今はそれが邪魔になる。


セラは一度魔力を止めた。


「焦らなくていいですよ」


教官が静かに言う。


「治癒術は、力の強さよりも相手に合わせることが大切です」


「相手に合わせる……」


「はい。十の力が必要な相手に百を流しても、良い治療にはなりません」


セラは水を見る。


必要な分だけ。


昨日から何度も聞いている言葉だ。


もう一度。


ゆっくり。


指先から魔力を流す。


水面に小さな波紋が広がる。


今度は大きく揺れない。


「そのまま」


教官の声。


セラは集中する。


少しでも気を抜けば、魔力が強くなる。


でも。


止めない。


細く。


一定に。


やがて教官が言った。


「はい。十分です」


魔力を止める。


水面が静かになる。


「……できた」


小さな声だった。


「昨日よりかなり良くなっていますよ」


「本当ですか?」


「はい。この調子なら、近いうちに初歩の治癒術へ進めるでしょう」


セラの顔が明るくなる。


「はい!」


    ◇


夕方。


俺とレグが宿へ戻ってしばらくすると、セラも帰ってきた。


「ただいま」


「おかえり」


「おかえり」


俺とレグが答える。


セラは鞄を置くと、すぐにこちらを見た。


「聞いて」


珍しく自分からだ。


「なに?」


「先生に、近いうちに治癒術の練習へ進めそうって言われた」


「おお!」


「ほんと?」


レグも目を輝かせる。


「うん。まだ確定じゃないけどね」


そう言いながら。


明らかに嬉しそうだった。


「すごいじゃん」


「でしょ?」


珍しく素直に自慢した。


レグがセラの前へ手を出す。


「なおして」


「怪我してないでしょ」


「ためす」


「まだ使えないってば!」


いつものやり取りが始まる。


俺は笑いながらベッドへ座った。


「ハヤトは?」


セラが聞く。


「何が?」


「訓練場行ったんでしょ?」


「ああ」


俺は今日覚え始めた受け流しについて話した。


最初は全然できなかったこと。


何度も弾き飛ばされたこと。


最後には少しだけ成功するようになったこと。


そして。


「レグも練習した」


レグが言う。


「何を?」


「ちから、よわくする」


セラが俺を見る。


「……何させたの?」


「木剣で軽く打ってって言ったら、普通に俺を吹っ飛ばしかけた」


「ハヤト!」


「避けたから大丈夫だって」


「無茶するなって朝言ったばっかりじゃない!」


「俺もあんな威力で来ると思わなかったんだよ」


「ハヤトがわるい」


レグまで裏切った。


「お前が振ったんだろ!」


部屋にセラの笑い声が響く。


俺も。


セラも。


レグも。


まだ途中だ。


セラは治癒術を覚え始めたばかり。


俺の受け流しだって、実戦で使えるかどうかも怪しい。


レグも人の身体と力加減に慣れている途中。


それでも。


少しずつ。


できることは増えている。


王都へ来てから、それぞれ違う時間を過ごすことも増えた。


だけど夜になれば。


結局こうして三人で同じ部屋に集まり、今日あったことを話している。


「明日も訓練するの?」


セラが聞く。


「どうしようかな」


「ハヤト」


レグが言う。


「ん?」


「またやる」


木剣を振る真似をする。


どうやら妙に気に入ったらしい。


「じゃあ明日も行くか?」


「ん」


「私は授業」


「終わったら合流すればいいじゃん」


「そうね」


それぞれのやることがある。


それぞれ覚えたいものもある。


でも。


向かう場所まで別々になったわけじゃない。


俺はそれが、なんとなく心地よかった。


王都での生活にも。


少しずつ、俺たちなりの形ができ始めていた。

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