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ランキング最高順位51位!『異世界に転移したので、もう我慢するのはやめました ~固有能力《自由》で好き勝手に生きる~』  作者: くんくん
第1部 自由への一歩

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第32話 セラの基礎審査


翌朝。


いつもより早く目が覚めた。


というより――。


「……セラ」


「なに?」


「まだ早いぞ」


窓の外は明るくなり始めたばかりだ。


それなのにセラはすでに着替えを済ませ、机の上に昨日もらった札と書類を並べていた。


「別にいいでしょ。遅れるより」


「審査までまだ時間あるだろ」


「分かってる」


「昨日もそれ確認してなかった?」


「確認した」


「じゃあ何してるの?」


「もう一回確認してるの」


緊張している。


誰が見ても分かる。


ベッドの上では、人の姿のレグが毛布にくるまったままセラを見ていた。


「セラ」


「なに?」


「きのうも、いっぱいみてた」


「……レグまで」


「なくならないよ」


「分かってるわよ!」


朝から正論を食らっている。


俺は笑いを堪えながら起き上がった。


「まあ、飯食ってから行こう。腹減ったまま審査受けても仕方ないし」


「私、そんなに食べられないかも」


「レグは?」


「たべる」


毛布から即答。


こいつだけは今日も平常運転だった。


    ◇


治癒術院に着く頃には、セラも少し落ち着いていた。


……ように見えた。


「札ある?」


俺が聞く。


「ある」


「書類は?」


「ある」


「金貨五十枚は?」


「ある。……って、なんでハヤトまで確認するのよ」


「いや、さっきから鞄触ってるから」


セラの手が止まった。


無意識だったらしい。


「……もう触らない」


「それがいい」


「セラ」


レグが横から言う。


「だいじょうぶ」


「うん」


「おわったら、ごはん」


「なんでレグの予定なの?」


「おいわい」


「まだ受かってないわよ」


「うかる?」


レグが俺を見る。


急に振るな。


「さあ」


「ハヤト!」


「いや、審査の内容知らないんだから分からないだろ」


「そこは大丈夫って言うところでしょ!」


「じゃあ大丈夫」


「今さら遅い!」


いつもの調子で怒られた。


でも。


少しだけ表情が柔らかくなった。


それなら十分だ。


    ◇


受付へ行くと、昨日と同じ女性が迎えてくれた。


「おはようございます。基礎審査ですね」


「はい」


セラが昨日受け取った札を渡す。


女性は確認すると、廊下の奥を示した。


「それではご案内します。付き添いの方はこちらでお待ちください」


「俺たちはここまでか」


「みたいね」


セラが俺たちを見る。


「行ってくる」


「おう」


レグが一歩前に出る。


「セラ」


「なに?」


「がんばれ」


「うん」


セラが俺を見る。


「ハヤトは?」


「頑張れ」


「……普通ね」


「昨日、普通に応援しろって言ってただろ」


「そうだけど」


「じゃあ何て言えばいいんだよ」


セラが少し笑った。


「もういい。行ってくる」


そのまま案内の女性について、廊下の奥へ消えていった。


俺とレグは近くの長椅子へ座る。


「ハヤト」


「ん?」


「どれくらい?」


「分からない」


「ながい?」


「たぶん」


「おなかすく?」


「さっき食っただろ」


まだ始まってすらいないのに。


先が思いやられる。


    ◇


案内された部屋には、セラを含めて六人の受験者がいた。


前に立っているのは、四十代くらいの女性。


落ち着いた雰囲気で、胸元には治癒術院の紋章が付いている。


「これから基礎審査を始めます」


部屋の空気が引き締まった。


「昨日説明を受けたと思いますが、この審査で治癒術そのものを使っていただくことはありません」


セラは小さく息を吐く。


分かっていた。


それでも改めて聞くと安心する。


「見るのは、魔力を扱うための基礎です。量の多さだけで合否を決めることもありません」


教官は机の上に置かれていた透明な石を持ち上げた。


「魔力を流すと、この石は光ります。まずは一定の明るさを保ってください」


簡単そうに聞こえる。


だが。


一人目の受験者が石へ手を置く。


光る。


強くなる。


弱くなる。


また強くなる。


思った以上に安定しない。


二人目も同じだった。


セラは自分の手を見る。


火炎魔術なら、ある程度強く魔力を押し出すことには慣れている。


でも。


一定に保つ。


それは普段とは少し違う。


「次。セラさん」


「はい」


前へ出る。


石に手を置いた。


ゆっくり。


少しずつ。


そう思っていたのに――。


ぱっと石が強く光った。


「……っ」


やってしまった。


反射的に魔力を弱める。


今度は光が一気に暗くなった。


教官は何も言わない。


ただ見ている。


セラは一度、目を閉じた。


焦るな。


強くする必要はない。


火を出すわけじゃない。


ほんの少し。


必要な分だけ。


もう一度、魔力を流す。


石が光る。


今度はさっきより弱い。


でも。


揺れない。


一定の明るさを保ったまま、光り続ける。


「はい。そこまで」


セラが手を離す。


思っていた以上に緊張していたらしい。


手のひらに汗をかいていた。


教官が紙に何かを書き込む。


「最初はかなり強く出ましたね」


「はい……普段は火炎魔術を使っているので」


「なるほど」


教官が頷く。


「でも、自分で修正できています。次はもう少し細かい操作を見ます」


「はい」


一つ終わった。


でも、まだ審査は続く。


    ◇


次に渡されたのは、小さな金属板だった。


板には三つの細い線が刻まれている。


「この端から魔力を流し、線に沿って反対側まで運んでください」


今度は強さではなく、細さを見るらしい。


一気に流せば簡単だ。


でも、それでは線から外れる。


セラは指先を板へ置いた。


ほんの少しずつ。


魔力を流す。


一本目。


問題ない。


二本目。


途中で少し外れそうになり、止める。


戻す。


もう一度。


三本目。


一番細い。


思わず力が入る。


――違う。


力むから駄目なんだ。


セラは肩の力を抜いた。


魔力を押し込むのではなく。


通す。


細い道をなぞるように。


ゆっくり。


ゆっくり。


最後まで届いた。


「そこまでで結構です」


教官が板を見る。


「完全ではありませんが、十分です」


「……ありがとうございます」


セラはようやく息を吐いた。


さっきより少しだけ、自信が出てきた。


火炎魔術しか使ってこなかった自分には向いていないんじゃないか。


そんな不安が、ずっとどこかにあった。


でも。


できないわけではない。


やり方が違うだけだ。


なら。


覚えればいい。


    ◇


最後は簡単な面談だった。


なぜ治癒術を学びたいのか。


これまでどんな魔術を使ってきたのか。


治癒術を覚えたあと、どうしたいのか。


難しい質問ではない。


セラは少し考えながら、一つずつ答えた。


「私は冒険者です」


教官が頷く。


「はい」


「今まで、戦うことしかできませんでした」


自分の手を見る。


火を出す。


敵を倒す。


それならできる。


でも。


「怪我をした仲間がいても、私は見ていることしかできないことがあって」


ハヤト。


レグ。


これから先も一緒に行くなら。


自分にもできることを増やしたかった。


「だから、治せるようになりたいです」


言い終える。


教官は少しだけ笑った。


「分かりました」


それだけだった。


でも。


セラには、それで十分だった。


    ◇


玄関ホール。


俺は長椅子に座ったまま、何度目か分からないため息をついた。


「遅いな」


「ながい」


隣ではレグが俺の肩にもたれている。


人の姿なので、頭には乗れない。


「寝る?」


「ねない」


そう言いながら目が半分閉じている。


「寝ていいぞ」


「セラくる」


「来たら起こすよ」


「……ん」


数秒後。


寝た。


早い。


俺が苦笑した、そのとき。


廊下の奥からセラが出てきた。


「お」


レグの肩を軽く叩く。


「レグ。来たぞ」


「……ん」


目を開く。


セラも俺たちに気づいた。


「お疲れ」


俺が言う。


「……疲れた」


「駄目だった?」


「分かんない」


隣に座ったセラが大きく息を吐く。


「最初、失敗した」


「何したの?」


「魔力出しすぎた」


「ああ」


「何、その納得した顔」


「セラっぽいなと思って」


「教官にも似たようなこと言われたわよ」


少し不満そうだ。


でも。


本当に駄目だったと思っている顔ではなかった。


「途中からは?」


「一応できた」


「じゃあいいじゃん」


「結果出るまで分からないでしょ」


レグがセラを見る。


「できた?」


「一応ね」


「じゃあ、だいじょうぶ」


「なんで?」


「できたから」


すごい理屈だ。


でもセラは笑った。


「レグは簡単でいいわね」


「ん」


「褒めてないんだけど」


しばらくして。


受付から声がした。


「セラさん」


一瞬。


セラの背筋が伸びる。


「結果が出ました。こちらへどうぞ」


俺たちも一緒に立った。


受付へ向かう。


女性は一枚の書類を手にしていた。


「本日の基礎審査ですが」


セラの手がぎゅっと握られる。


俺は何も言わない。


レグも珍しく黙っていた。


「合格です」


「……」


セラが動かなかった。


「セラ?」


「聞こえた」


小さな声。


「なら何か言えよ」


「ちょっと……待って」


下を向く。


数秒。


そして。


「……やった」


顔を上げる。


笑っていた。


「やった……!」


今度ははっきりと。


レグの顔も明るくなる。


「セラ、うかった!」


「うん!」


「すごい!」


「うん!」


レグがそのままセラへ抱きついた。


「ちょ、レグ!」


驚きながらも、セラは笑っている。


俺も自然と笑った。


「おめでとう」


セラが俺を見る。


「……ありがとう」


その声だけは、少し震えていた。


    ◇


そのまま正式な入学手続きへ進んだ。


必要な書類を受け取り。


説明を聞き。


最後に。


「入学金は金貨五十枚になります」


セラが頷く。


「はい」


今度は迷わず、用意していた金貨を取り出した。


受付で一枚ずつ確認されていく。


金貨五十枚。


大きな金額だ。


セラは数えられていく金貨を、黙って見ていた。


やがて確認が終わる。


「確かにお預かりしました」


書類に印が押された。


「これで入学手続きは完了です」


セラの前へ、正式な書類が差し出される。


「ようこそ、王都治癒術院へ」


「……はい」


セラは両手で受け取った。


「よろしくお願いします」


深く頭を下げる。


その姿を見ながら。


俺はようやく実感した。


本当に入ったんだ。


セラがずっと来たかった場所に。


    ◇


治癒術院を出たあとも、セラは何度も書類を見ていた。


「また確認?」


俺が聞く。


「違う」


「じゃあ何?」


「……嬉しいから見てるだけ」


「そっか」


それなら好きなだけ見ればいい。


レグも横から覗いている。


「セラ、これからここにくる?」


「うん」


「まいにち?」


「毎日かはまだ分からないけど、授業がある日はね」


「よるは?」


「宿に帰るわよ」


レグが安心したように頷いた。


「そっか」


俺は笑う。


やっぱりそこが気になっていたらしい。


「ハヤト」


今度はセラが呼ぶ。


「ん?」


「金貨五十枚」


「ああ」


「ありがとう」


「いいよ」


「よくない」


即答だった。


「絶対返すから」


「前にも聞いた」


「じゃあ覚えてるわよね?」


「覚えてるよ」


「本当に?」


「だから、稼げるようになってからでいいって」


セラはまだ何か言いたそうだったが。


少しして。


「……分かった」


ようやく頷いた。


「でも絶対だからね」


「はいはい」


「その返事!」


「分かったって」


レグが俺たちを交互に見る。


「おわった?」


「何が?」


「おはなし」


「たぶん」


「じゃあ」


嫌な予感がした。


「おいわい?」


やっぱり。


「覚えてたのか」


「やくそく」


「誰も約束してないだろ」


「朝いった」


確かに言っていた。


セラが笑う。


「いいじゃない。今日はお祝いしようよ」


「セラまで」


「今日はいいでしょ」


それを言われたら断る理由もない。


「何食べたい?」


俺が聞く。


レグは迷いなく答えた。


「おにく」


「知ってた」


「セラは?」


「私も今日は肉でいい」


「珍しいな」


「だって、お祝いなんでしょ?」


セラが笑う。


昨日までの不安そうな顔は、もうなかった。


「じゃあ決まり」


三人で歩き出す。


王都へ来て二日目。


セラは、ずっと目指してきた治癒術院の扉を自分の力で開いた。


きっとここから。


また少しずつ。


俺たち三人の毎日も変わっていく。


そんなことを考えながら。


俺たちは、王都で最初の祝いの店を探しに向かった。

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