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ランキング最高順位51位!『異世界に転移したので、もう我慢するのはやめました ~固有能力《自由》で好き勝手に生きる~』  作者: くんくん
第1部 自由への一歩

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第30話 王都の最初の一日


王都に入って、まだ十分も経っていない。


それなのに。


「ハヤト、あれ」


「さっきから指差しすぎ」


「おにく」


「全部肉に見えてるだろ」


「ちがう。あれはパン」


「ちゃんと見てるんだな」


レグは完全に浮かれていた。


人の姿のまま俺の隣を歩きながら、右を見ては立ち止まり、左を見ては袖を引っ張ってくる。


ラーデンより人も店も圧倒的に多い。


大通りだけでも、武器屋、食料品店、服屋、雑貨屋、屋台。


見える範囲に何軒あるのか数える気にもならなかった。


「ハヤト」


「今度は何」


「あれ、いいにおい」


「……確かに」


炭火で肉を焼く匂いが漂ってくる。


旅の途中でも昼は食べたが、さすがに俺も腹が減ってきた。


セラを見る。


「先に食う?」


「私も賛成」


「よし」


「やった」


レグだけ反応が早い。


匂いの元を辿ると、通り沿いに小さな食堂があった。


外まで客の声が聞こえている。


「ここでいいか」


「おにくある?」


「匂いしてるだろ」


「ある」


「じゃあ聞くなよ」


    ◇


店に入ると、ちょうど一卓だけ空いていた。


三人で座る。


レグは椅子に座るなり、隣の客が食べている皿を見た。


「レグ」


「みてるだけ」


「じっと見るな」


「おいしそう」


「分かったから」


セラがメニューらしき板を眺める。


「結構種類あるわね」


「読める?」


「読めるわよ」


「俺も読めるけど、料理名だけじゃ分からないの多いんだよ」


聞いたことのない名前がいくつか並んでいる。


適当に頼んで謎の料理が出てくるのも面白そうではあるが、初日から失敗したくはない。


「これなら分かる」


俺は焼き肉と野菜、それにパンが付いたものを指差した。


「無難ね」


「レグは?」


「それ」


即答。


「見てもないだろ」


「おにくっていった」


「……まあいいか」


結局、三人とも同じものを頼んだ。


少しして運ばれてきた皿を見て、レグの目が輝く。


「おおい」


「良かったな」


肉は思っていたより厚く、野菜もたっぷりある。


旅の途中の食事と比べれば、かなり豪華だ。


一口食べる。


「うま」


「ほんと」


セラも驚いた顔をする。


レグは何も言わない。


ひたすら食べている。


「レグ」


「ん」


「ゆっくり」


「ゆっくり」


そう言いながら全然ゆっくりじゃない。


相変わらずだ。


しばらくして。


「ハヤト」


「駄目」


「まだ言ってない」


「おかわりだろ」


「……うん」


「ほらな」


セラが笑う。


「今日はいいんじゃない? 王都初日だし」


「セラが甘やかし始めたな」


「ハヤトに言われたくない」


それは否定できない。


結局、レグは追加で肉を頼んだ。


    ◇


食事を終えて店を出る。


「次は宿だな」


「先に治癒術院じゃなくていいの?」


俺が聞くと、セラは少し迷ってから首を横に振った。


「荷物置いてからがいい」


「緊張してる?」


「……少し」


「珍しい」


「うるさい」


やっぱり緊張しているらしい。


「じゃあ宿探そう」


王都は広い。


適当に歩けばいくらでも宿が見つかりそうだが、逆に選択肢が多すぎて困る。


高すぎるところも嫌だし、安すぎて治安が悪いのも困る。


大通りから一本入ったところで、比較的落ち着いていそうな宿を見つけた。


外観も普通。


値段も普通。


中を確認すると、部屋も清潔だった。


「ここでいいんじゃない?」


セラが言う。


「俺も賛成」


「レグは?」


「ベッドある?」


「ある」


「ごはんは?」


「さっき食っただろ」


「よる」


「たぶんある」


「ここがいい」


決定理由がそれでいいのだろうか。


まあ、俺たちも文句はない。


とりあえず数日分の部屋を取った。


    ◇


荷物を置き、一息つく。


「……ベッドだ」


セラが感動したように言う。


「分かる」


数日の野営で、宿のベッドがどれだけありがたいか身に染みた。


レグはすでにベッドの上へ飛び込んでいる。


人の姿なのに。


「ふかふか」


「靴脱げ」


「……」


「レグ」


「はい」


素直に脱いだ。


そこは成長したな。


「少し休む?」


セラが聞く。


「俺はどっちでも」


「レグは?」


返事がない。


見ると、もう枕を抱えて横になっている。


「寝る気満々だな」


「さっきまで元気だったのに」


「食ったら寝る。いつも通り」


「ねてない」


「目閉じてるぞ」


「やすんでるだけ」


「それを寝るっていうんだよ」


レグは聞こえないふりをした。


セラが笑う。


そのあと少しだけ休憩して、俺たちは再び外へ出た。


もちろんレグも連れていく。


「ねむい」


「置いていく?」


「いく」


即答。


    ◇


宿の主人に道を聞きながら、中央区へ向かう。


王都の中心へ近づくほど、建物が大きくなっていった。


道も広い。


兵士の姿も増える。


「王都って感じするな」


「今さら?」


「さっきまでは商店ばっかだったから」


セラは周囲を見る余裕が少し減っていた。


目的地が近づいているのだろう。


「セラ」


「なに?」


「顔硬い」


「……分かる?」


「分かる」


「やっぱり?」


「うん」


レグまで頷いた。


「二人して言わなくていいから」


セラが頬を軽く叩く。


「別に今日、いきなり全部決まるわけじゃないだろ」


「分かってる」


「場所確認するだけでもいいし」


「分かってるって」


「ならいい」


しばらく歩く。


やがて。


「……あれじゃない?」


セラが足を止めた。


視線の先。


広い敷地を囲む白い石壁。


その向こうには、何棟もの大きな建物が並んでいる。


正面には高い門。


人の出入りも多い。


門の横には、大きな文字で名称が刻まれていた。


王都治癒術院。


セラは黙った。


俺も何も言わない。


レグも珍しく静かだった。


「……ここか」


俺が言う。


「うん」


セラの声が小さい。


「ずっと来たかったところ」


目の前にある。


金を貯めて。


王都まで旅をして。


ようやく辿り着いた場所。


「入る?」


聞く。


セラは門を見る。


少しの間、答えなかった。


「……今日は」


言いかけて止まる。


そして。


「ううん」


一度、大きく息を吸った。


「行く」


俺は笑った。


「そうこなくちゃ」


「別に逃げようとしたわけじゃないからね」


「何も言ってない」


「顔が言ってる」


「それ、俺がよく言われるやつ」


レグがセラの袖を引いた。


「セラ」


「なに?」


「だいじょうぶ」


「……レグ?」


「ハヤトもいる」


それから自分を指差す。


「レグもいる」


セラが少し驚いた顔をする。


それから笑った。


「ありがと」


「ん」


俺たちは三人で門の前へ進む。


ここから先は、セラがずっと目指してきた場所だ。


王都へ来た目的の一つ。


そしてたぶん。


俺たちにとっても、新しい何かが始まる場所になる。


「じゃあ、行くか」


「うん」


セラが頷く。


俺たちは王都治癒術院の門をくぐった。

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