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ランキング最高順位51位!『異世界に転移したので、もう我慢するのはやめました ~固有能力《自由》で好き勝手に生きる~』  作者: くんくん
第1部 自由への一歩

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第20話 金色の光


「おなか……すいた」


森の中。


倒れたホーンベアの隣で、レグはもう一度そう言った。


ハヤトはしばらく何も返せなかった。


セラも同じだった。


目の前にいるのは、昨日まで鳴き声しか出さなかった幼竜だ。


そのレグが。


今。


はっきり人間の言葉を喋った。


「レグ」


ハヤトが恐る恐る呼ぶ。


「なに?」


「普通に返事した!」


「うるさいわね!」


「いや、これ驚くだろ!」


セラも平静を装っているだけで、杖を握ったままレグを凝視していた。


レグ本人だけが、何を驚かれているのか理解していないようだ。


ハヤトの足元まで来る。


そして見上げる。


「はやと」


「うん」


「おにく」


「やっぱり飯かよ」


レグが倒れたホーンベアを見る。


それからハヤトへ視線を戻した。


「たべる?」


「それは俺に聞いてるのか、自分が食べたいのかどっちだ?」


「レグ、たべる」


「だと思った」


セラが吹き出した。


「最初から全然変わってないじゃない」


「喋れるようになっただけだな」


「せら」


今度はレグがセラを見る。


「え?」


「せら」


名前を呼ばれたセラの表情が少し緩む。


「私の名前も分かるのね」


「せら、ひ……」


「ひ?」


レグが考え込む。


「ひ、いっぱい」


ハヤトは一瞬黙った。


「火のことか?」


レグが大きく頷く。


「せら、ひ、いっぱい」


「火炎魔術師だから間違ってはいないけど……」


セラは複雑そうだった。


レグの言葉はまだ短い。


発音も少し不安定だ。


それでも会話はできている。


これまでも人間の話をかなり理解していたのだろう。


言葉として返せなかっただけらしい。


「じゃあ俺は?」


ハヤトが自分を指差す。


レグがじっと見る。


「はやと」


「それ以外」


少し考える。


「ごはん」


セラが腹を抱えた。


「なんでだよ!」


「はやと、ごはんくれる」


「俺の認識それ!?」


レグは嬉しそうに尾を振っている。


どうやら褒めているつもりらしい。


ハヤトはため息をつきながら、その頭を撫でた。


「まあ、喋れるようになったなら色々楽になるか」


「うん」


「お前、どこから来たか覚えてる?」


レグが止まった。


少し考えたあと、首を横へ振る。


「覚えてない?」


「わかんない」


「家族は?」


また首を横へ。


今度は少しだけ表情が曇ったように見えた。


ハヤトはそれ以上聞くのをやめた。


「そのうち思い出したら教えてくれ」


「うん」


過去が分からないなら、無理に掘り返す必要もない。


少なくとも今は。


レグがここにいる。


それでいい。


「さて」


セラが倒れたホーンベアを見る。


「この魔物をどうするかも大事だけど、その前に狩人を探さないと」


「あ」


ハヤトも表情を戻した。


戦闘の前。


血の跡と折れた弓を見つけている。


狩人二人は、まだ見つかっていない。


「レグ」


「なに?」


「さっき、この魔物の場所分かったよな?」


「うん」


「人間の匂いも探せる?」


レグが鼻先を動かす。


少し歩き回り、地面や木の根元の匂いを嗅いだ。


やがて。


「こっち」


迷わず森の奥へ歩き始める。


ハヤトとセラはすぐに後を追った。


「喋れると便利だな」


「ごはん」


「今は我慢」


「……おなかすいた」


「村に戻ったら好きなだけ食わせるから」


レグの歩く速度が上がった。


「絶対意味分かってるわね」


セラが呆れる。


「そこだけ理解力高すぎるだろ」


十分ほど進んだところで、レグが立ち止まった。


「いる」


前方。


大きな岩がいくつも重なり、その隙間に人が通れそうな空間がある。


「誰かいますか!」


ハヤトが声を上げる。


返事はない。


もう一度。


「ローデ村から依頼を受けた冒険者です!」


今度は。


かすかな声が返ってきた。


「……ここだ……」


ハヤトとセラが駆け寄る。


岩陰。


二人の男がいた。


一人は意識がある。


もう一人は横になったまま動かない。


「狩人ですか?」


「ああ……」


男は弱々しく頷いた。


「村から……?」


「探しに来ました」


セラが倒れている男を確認する。


「息はある」


「よかった……」


意識のある狩人も、脚に深い傷を負っていた。


話を聞く。


森へ入った二人はホーンベアに襲われ、逃げる途中でここへ隠れたらしい。


幸い、巨体では岩の隙間に入れなかった。


だが外へ出れば襲われる。


食料も尽きかけていた。


「もう大丈夫です」


ハヤトが言う。


「ホーンベアは倒しました」


男が目を見開く。


「……あれを?」


「三人で」


ハヤトはレグを見る。


レグが胸を張る。


「レグ、ひ、した」


「火を吐いたって言いたいらしいです」


「……竜が喋った?」


今度は狩人の方が固まった。


「今日からです」


「何だそれ……」


説明するのが面倒になってきた。


セラが応急処置をする。


治癒魔法は使えない。


だが冒険者として最低限の手当ては覚えている。


ハヤトも手伝った。


問題は、歩けない二人をどう村まで運ぶかだ。


「片方ずつ背負う?」


「距離考えなさいよ」


セラが言う。


レグが倒れている男へ近づく。


匂いを嗅ぐ。


「いたい?」


意識のある狩人が答えた。


「ああ。ちょっとな」


レグはしばらく男を見ていた。


そして。


「レグ、はこぶ?」


ハヤトとセラが同時に見る。


「お前が?」


「うん」


幼竜とはいえ、レグの身体は見た目以上に頑丈だ。


以前ハヤトが抱き上げた時も、驚くほど重かった。


力も人間より強い可能性がある。


ただ。


「怪我治ったばっかだろ」


「もう、いたくない」


レグが後ろ脚を動かしてみせる。


確かに以前のような違和感はない。


それでも無理はさせたくない。


結局、意識のない狩人は簡易担架を作ってハヤトとセラで運ぶことにした。


もう一人は肩を貸せば何とか歩ける。


レグは荷物を咥えて持つ役を買って出た。


「それなら頼む」


「うん!」


大きな鞄を咥え、得意そうに歩き出す。


「役に立つのが嬉しいのかしら」


セラが言う。


「たぶんな」


以前なら。


飯を食べる。


ハヤトについてくる。


頭へ乗る。


それだけだった。


今は少しずつ。


自分から何かをしたがるようになっている。


それが成長なのか。


竜として普通のことなのか。


ハヤトには分からない。


でも悪くない変化だと思った。


◇


村へ戻ったのは夕方だった。


狩人二人を見た瞬間。


村人たちが一斉に駆け寄ってきた。


家族らしき女性が泣きながら名前を呼ぶ。


意識を失っていた男も、村へ着く直前に目を覚ました。


命に別状はなさそうだった。


「ありがとうございます……!」


村長のロイドが何度も頭を下げる。


「二人とも生きて帰ってくるとは……」


「レグが場所見つけてくれたんです」


ハヤトが言う。


村長がレグを見る。


「この竜が?」


レグが胸を張る。


「レグ、みつけた」


周囲が静かになった。


村人たちの顔。


一斉に固まる。


「……喋った?」


レグが首を傾げる。


「しゃべる」


子供たちから歓声が上がった。


「すごい!」


「ドラゴン喋った!」


「もう一回!」


レグは突然囲まれて困惑した。


ハヤトの後ろへ隠れる。


「急に来ると怖いみたいだから、ちょっと離れて」


子供たちは素直に下がった。


すると今度はレグの方から顔を出す。


興味はあるらしい。


「かわいい!」


その一言に。


レグが固まった。


「かわいい?」


「うん!」


子供が答える。


レグはハヤトを見る。


「はやと」


「ん?」


「レグ、かわいい?」


突然何を聞かれているのか。


ハヤトは少し困った。


「まあ……かわいいんじゃない?」


レグの尾が猛烈な勢いで動き始めた。


「かわいい」


「自分で言うなよ」


「レグ、かわいい」


完全に気に入ったらしい。


セラが笑っている。


「また変な言葉覚えたわね」


◇


その日の夜。


村では簡単な宴が開かれた。


ホーンベアを討伐し。


狩人二人も救出した。


村にとっては大きな出来事だったらしい。


ハヤトたちにも料理が振る舞われる。


そして当然。


レグの前にも、山のような肉が置かれた。


目が輝く。


「レグ」


ハヤトが呼ぶ。


手を出しかけていたレグが止まる。


「何て言う?」


レグが考える。


肉を見る。


村人を見る。


「……ありがと」


「おお」


思ったより早い。


村人たちが笑顔になる。


「食べていいぞ」


「うん!」


肉へ飛びついた。


言葉を覚えても食べ方は何も変わらなかった。


ハヤトも料理を食べる。


疲れた身体に温かいスープが染みる。


「今回の依頼、結構良かったな」


セラが隣で聞く。


「何が?」


「強い相手と戦えた。二人も助けられた。報酬も出る」


「最後が本音?」


「全部本音」


「まあ、私も悪くなかったけど」


セラも少し満足そうだった。


ホーンベアとの戦い。


怖かった。


でも。


自分たちだけで倒した。


オーガの時とは違う。


あの時はベテラン二人にかなり助けられた。


今回はハヤト、セラ、レグ。


三人で。


ちゃんと勝った。


自分たちも強くなっている。


その実感があった。


「もっと強い奴とも戦ってみたいな」


ハヤトが言う。


セラが横目で見る。


「調子乗って死なないでよ」


「分かってるって」


「あなたの『分かってる』信用ないのよ」


「ひどくない?」


その時。


肉を食べていたレグが顔を上げた。


「はやと」


「ん?」


「レグも、つよい?」


ハヤトは少し笑う。


「強かったよ」


「もっと?」


「もっと強くなりたいの?」


「うん」


レグは両方の前脚を上げるような仕草をする。


「いっぱい、つよい」


「欲張りだな」


「はやと、いっぱい」


「俺?」


「はやと、いっぱいできる」


ハヤトは少し驚いた。


そんなところまで見ていたのか。


剣。


魔法。


盾。


料理。


追跡。


自分が色々なことを覚えている姿。


レグなりに理解しているらしい。


「じゃあ一緒に強くなるか」


「うん!」


レグが大きく頷いた。


セラが小さく笑う。


「私も入ってるんでしょうね?」


ハヤトが答える前に。


レグが言った。


「せらも」


セラの表情が柔らかくなる。


「ならいいわ」


三人。


それぞれ違う。


それでも最近。


一緒に行動するのが当たり前になってきている。


正式にパーティーを組んでいるわけでもない。


何か大きな使命があるわけでもない。


でも。


こういうのも悪くない。


宴が終わり。


村長が用意してくれた家で休むことになった。


ハヤトとセラには別々の部屋。


レグは当然のようにハヤトについてきた。


「お前の寝床、そっちな」


床に毛布を敷く。


レグが見る。


次に。


ベッドを見る。


「駄目」


「なんで?」


「狭いから」


「レグ、ちいさい」


「結構重い」


「……かわいい」


「それ関係ないだろ」


今日覚えた言葉を早速使い始めた。


レグがベッドの横へ来る。


前脚をかける。


「駄目だって」


「はやと」


「何」


「いっしょ」


その一言。


ハヤトは少し黙った。


まだ人間を怖がっていた頃。


レグはハヤトが離れようとすると、必死についてきた。


今でも。


一人で寝るのは少し不安なのかもしれない。


「……端っこな」


「うん!」


飛び乗ってくる。


「ぐっ!」


腹に直撃。


「もうちょっと静かに乗れ!」


レグは気にせず、ハヤトの横で丸くなる。


大きくなってきたせいで、本当に狭い。


「これ以上成長したら絶対無理だからな」


返事がない。


見る。


もう目を閉じている。


「寝るの早……」


ハヤトも横になる。


少しして。


レグの身体から、かすかな光が漏れ始めた。


金色。


昼間と同じ。


だが。


今度は消えない。


「……レグ?」


身体を起こす。


レグも目を開けた。


「はやと?」


「光ってる」


「ひかる?」


本人にも分かっていない。


光が強くなる。


レグの輪郭が見えなくなる。


「ちょ、待て待て……!」


ハヤトがベッドから飛び降りる。


金色の光が部屋いっぱいに広がった。


大きくなる。


いや。


形が変わっている。


翼が消える。


四本の脚が伸びる。


影が。


人間の形へ。


数秒後。


光が収まった。


ハヤトは固まった。


ベッドの上。


そこに幼竜はいなかった。


代わりに。


長い黒緑色の髪。


小さな二本の角。


金色の瞳。


見た目は二十歳前後ほどの、小柄な女性。


そして。


何も状況を理解していない顔。


ハヤトは反射的に毛布を掴み、その身体へかぶせた。


「……誰?」


女性が首を傾げる。


「はやと?」


聞き覚えのある声。


ハヤトの頭が止まった。


「……レグ?」


女性が嬉しそうに頷く。


「レグ」


数秒の沈黙。


そして。


自分の身体を見る。


両手を見る。


指を動かす。


目を輝かせる。


「はやと!」


「な、何だよ」


レグは毛布に包まれたまま、満面の笑みを浮かべた。


「レグ、はやとと、おなじ!」


「いや、全然状況についていけないんだけど!?」


夜のローデ村に。


ハヤトの声が響いた。

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