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ランキング最高順位51位!『異世界に転移したので、もう我慢するのはやめました ~固有能力《自由》で好き勝手に生きる~』  作者: くんくん
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同じ場所に立って

ガルドの叫び声が谷に響いてから、しばらく。


 集まってきた竜たちがようやく散り始めた。


「見世物じゃねぇぞ!」


 鼻先を押さえながらガルドが怒鳴る。


「お前が騒ぐからだ」


 少し離れた場所から、年長の竜が返した。


「俺のせいか!?」


「ほぼ」


 レグが言う。


「お前まで言うのかよ」


 ミレアはそんな二人を眺めながら、静かに笑っていた。


 ハヤトが以前会ったときより、少し表情が柔らかい。


 その視線に気づいたガルドが、急に居心地悪そうに顔を逸らした。


「……何だよ」


「別に」


「絶対何かあるだろ」


「帰ってきたんだなと思って」


 ガルドが黙った。


 さっきまであれだけ大声を出していたのに。


「ただいま、でいいの?」


 ミレアが聞く。


「ああ」


 今度は迷わなかった。


「ただいま」


「おかえり」


 短い言葉だった。


 けれどレグは、それを聞いて嬉しそうに笑った。


     ◇


 その日の夕方。


 三人は谷の奥にある静かな場所へ移った。


 ハヤトたちも一緒だったが、最初は少し離れて座っている。


 レグが望んだからだ。


「ハヤトたちもいる」


 ガルドが尋ねたとき、レグは当然のように答えた。


「うん」


「家族の話だぞ?」


「ハヤトとセラも家族みたい」


 言われた二人の方が反応に困った。


 ハヤトがセラを見る。


「みたい、だって」


「そこで確認しないの」


 セラは照れたように笑う。


 クロもレグのすぐそばに伏せていた。


 ミレアはその様子を見てから、何も言わず頷いた。


「じゃあ、一緒に」


 ガルドだけが少し考えていたが。


「まあ……レグがいいならいいか」


「うん」


 そこでようやく話が始まった。


     ◇


 最初に謝ったのはガルドだった。


「改めて言う」


 大きな身体を伏せたまま、レグとミレアを見る。


「長く離れすぎた」


 レグは黙って聞いている。


「追ってたものはあった。危険もあった。それは本当だ」


 一度息を吐く。


「でも帰れなかった理由を、全部それにする気はねぇ」


 怖かった。


 止まれなくなっていた。


 やるべきことがあると言い続けて、帰る時期を自分から遠ざけた。


「悪かった」


 レグはすぐには返事をしなかった。


 代わりに、ミレアを見る。


「おかあさんは?」


「私も同じ」


 ミレアも逃げなかった。


「私は近くまで行ったこともあった。でも、レグを危険に巻き込むのが怖かったし……会うのも怖かった」


「二人とも同じ」


「そうね」


「何で相談しなかった?」


 今度は両親が黙った。


「そこなんだよな」


 ガルドが困ったように言う。


「俺は俺で何とかするつもりだった」


「私も」


「二人とも勝手」


「……はい」


 珍しくミレアまで少し気まずそうだった。


 レグは腕を組む。


「次は?」


「次?」


「また何かあったら」


 ガルドとミレアが顔を見合わせた。


「話す」


 先にミレア。


「連絡する」


 ガルドも続く。


「レグにも?」


「ああ」


「危ないから言わない、は?」


「なるべくしない」


「なるべく?」


 レグの目が細くなる。


「……しない」


「よし」


 完全に娘の方が強かった。


     ◇


「でも」


 レグはそこで少し声を落とした。


「レグも謝る?」


「何で?」


 ガルドが聞く。


「怒ってばっかだったから」


「怒って当然だろ」


 返事は即座だった。


 ミレアも頷く。


「怒られて当然だった」


「じゃあ謝らない」


「切り替え早ぇな」


「でも」


 レグは二人を見る。


「会えて嬉しい」


 ガルドの表情が一気に緩んだ。


「俺もだ!」


「声大きい」


「そこ今言う!?」


 ミレアが小さく笑う。


「私も」


 レグは少しだけ目を潤ませたが、今回は泣かなかった。


「これからいっぱい話す」


「ああ」


「小さい頃のことも」


「何でも聞け」


「変な話はだめ」


「どこまでが変な話だ!?」


「レグが失敗したやつ」


「それ一番面白――」


 ミレアの視線がガルドへ向く。


「言わねぇ」


 即座に撤回した。


     ◇


 話が少し落ち着いたところで、ミレアがハヤトたちを見る。


「それで」


「はい?」


 なぜかハヤトが緊張した。


「二人は?」


「二人?」


「あなたとセラ」


 セラまで固まる。


 レグがすぐ答えた。


「付き合った」


「レグ!?」


「言っていいでしょ?」


「いいけど本人より先に言う!?」


 ミレアが少し驚いたあと。


「そう」


 微笑んだ。


「よかった」


「反応それだけ?」


 ハヤトが思わず聞く。


「もっと何か必要?」


「いや、ガルドがうるさかったから……」


「おい!」


 名前を出された本人が反応する。


「俺は普通だ!」


「普通の父親でもないのに何であんな絡んできたんだよ」


「レグと何年も旅してた男だから気になるだろ!」


「セラと付き合ってるんだけど!」


「分かってる!」


 また始まった。


 ミレアがガルドを見る。


「うるさい」


「……悪い」


 レグが満足そうに頷いた。


「おかあさん強い」


     ◇


 その夜。


 谷では小さな宴のようになった。


 ガルドが帰ったことを知った竜たちが、次々に顔を出したからだ。


 食べ物も増えた。


 話も増えた。


 何より。


 ガルドの声が増えた。


「昔こいつがな――」


「おとうさん」


「何も言ってねぇ!」


「今から言う顔」


「顔で止めるな!」


 レグは忙しい。


 怒ったり。


 笑ったり。


 ミレアへ質問したり。


 ルクアに父親を紹介したり。


 クロにも何度も食べ物を運んでいた。


 ハヤトは少し離れたところで、その様子を見ていた。


「終わったな」


 隣からセラの声。


「うん」


「今度こそ」


「うん」


 レグの家族の話。


 長かった。


 捨てられたのかもしれないと思っていたところから始まり。


 守るために離れたことを知り。


 ミレアと会い。


 最後にガルドまで見つけた。


 全部が綺麗に消えたわけではない。


 何年も離れていた時間は残る。


 怒りも。


 寂しさも。


 でも。


 これから埋めていける。


「ハヤト」


「ん?」


「私たちも、明日話す?」


 少しだけ緊張した。


「これからのこと?」


「うん」


「いいよ」


 竜の谷のあと。


 トルカ。


 その先。


 今度は二人で決めると言った。


「今日は?」


「今日はレグの日でしょ」


 セラは前を見る。


 ガルドに何かを言われて、レグがまた怒っている。


 次の瞬間には笑っている。


「そうだな」


     ◇


 翌朝。


 ハヤトが目を覚ますと、レグはもう外にいた。


 ガルドとミレア。


 三人で谷の端に座っている。


 クロも一緒。


 邪魔しない方がいいかと思ったが。


「ハヤト!」


 レグが手を振った。


「来る?」


「いいの?」


「うん」


 ハヤトはセラも呼び。


 二人でそちらへ向かった。


「何してた?」


「これからの話」


 レグが答える。


「決まった?」


「ちょっと」


 まず。


 ガルドとミレアはしばらく竜の谷に残る。


 離れていた間のことを整理する。


 谷の《閉じる》の修復についても、ガルドが持っている知識を共有する。


「それと」


 ガルドが続ける。


「北環と連絡取れる道を一本ちゃんと残す。何かあったとき、何年も分からなくなるのはもう無しだ」


「いいじゃん」


「お前に褒められると何か腹立つな」


「何でだよ」


 ミレアが無視して続ける。


「私も白い森の整理が終わったら、ここを中心にするつもり」


「じゃあ二人ともここに住む?」


 レグが聞く。


「しばらくは」


 ミレアが答えた。


「その先は、そのとき決める」


 レグは嬉しそうに頷く。


「レグは?」


 ハヤトが尋ねた。


「今日と明日はここ」


「二日だけ?」


「もうちょっといるかも」


 ガルドがすかさず口を挟む。


「もっといろ!」


「決めるのレグ」


「……はい」


「そのあと」


 レグはハヤトとセラを見る。


「一緒に行く」


「トルカまで?」


「うん」


「本当にいいの?」


 セラが確認する。


「お父さんたちと、もっといたくない?」


「いたい」


 正直だった。


「でもハヤトたちとも行きたい」


 どちらかを選ぶ必要はない。


「また帰ってくる」


 ガルドの顔を見る。


「だめ?」


「駄目なわけあるか」


 今度は。


 ガルドもすぐに答えた。


「帰ってこい。好きなときに」


「うん」


「でもたまには連絡――」


「分かってる」


「まだ最後まで言ってねぇ!」


     ◇


「クロも?」


 ミレアが黒い獣を見る。


 クロはレグの横に座っている。


「一緒」


 レグが答える。


 クロの尻尾が一度動いた。


「聞いてないけど?」


 ハヤトが言う。


 レグがクロを見る。


「行く?」


 クロは立ち上がり。


 レグの隣へ寄った。


「行く」


「今のは分かりやすいな」


 ガルドが笑う。


     ◇


 少しして。


 ミレアとレグは谷の奥へ向かった。


 母娘で話したいことがあるらしい。


 クロもついていく。


 残ったのは。


 ハヤト。


 セラ。


 そしてガルド。


「何?」


 ハヤトが聞く。


 ガルドがずっとこちらを見ている。


「いや」


「絶対何かあるでしょ」


「セラ」


「はい?」


「こいつでいいのか?」


「おい!」


 セラは少し考えるふりをした。


「今のところは」


「今のところ!?」


「冗談」


「最近みんな冗談多くない?」


 ガルドが大きく笑う。


「いいじゃねぇか」


「何が?」


「そういう相手がいるのは」


 急に普通のことを言う。


「ガルドは?」


 ハヤトが聞き返した。


「ミレア?」


「……あいつは別だ」


「何が別?」


「色々だ!」


「逃げた」


「逃げてねぇ!」


 セラが笑っている。


 ガルドは少し不満そうだったが。


 やがて谷の奥を見る。


 ミレアとレグが歩いていった方角。


「まあ」


 声が少しだけ小さくなる。


「これから話す」


 それで十分だった。


     ◇


 昼前。


 今度はハヤトとセラだけで谷の外れへ出た。


 風が気持ちいい。


 遠くに山が続いている。


「さて」


 セラが言う。


「話す?」


「話そう」


「まずトルカ?」


「俺は行きたい」


「私も」


 最初は簡単だった。


「どれくらいいる?」


 そこで止まる。


「セラ次第?」


「それ禁止」


 即座に返された。


「ですよね」


「ハヤトは?」


 ハヤトは考える。


「俺も何か習いたい」


「治癒?」


「それも。あと、ベルドのところももう一回行きたい」


「ああ」


「前より動けるようになったし、続き教えてほしい」


「じゃあ結構いたい?」


「一週間とかじゃ足りないかも」


 セラが嬉しそうに笑う。


「私も」


「ならしばらくトルカ?」


「うん」


「宿暮らし?」


 セラが少しだけ考える。


「長くいるなら部屋借りる?」


 ハヤトが止まる。


「部屋?」


「二部屋ね」


「……ああ」


「何考えた?」


「何も」


「顔」


「何も考えてないって」


 完全に見抜かれている。


 セラは少し笑ったあと。


「でも」


「ん?」


「ずっと二部屋かは分からないけど」


 今度はハヤトが黙った。


「それって」


「今はそこまで」


「はい」


 前にも聞いた言葉だった。


 でも。


 あのときより距離は近い。


     ◇


「その先は?」


 セラが尋ねる。


「トルカのあと」


「まだ分からない」


「うん」


「でも」


 ハヤトは遠くを見る。


 以前は。


 行きたい場所がなければ、適当に進んでいた。


 それが嫌だったわけではない。


 今も旅は好きだ。


「また知らないところ行きたい」


「私も」


「レグも多分言う」


「絶対言う」


 二人で笑う。


「じゃあ」


 セラが手を差し出した。


「とりあえずそこまでは一緒」


 ハヤトはその手を取る。


「そこから先も一緒に考える」


「うん」


「自由に?」


「二人で」


 握った手を。


 セラが少しだけ強く握り返した。


 帰る場所は増えた。


 立ち止まれる場所もできた。


 それでも。


 まだ知らない場所へ行きたい。


 今度は。


 一人で好きに歩くためではなく。


 一緒に行きたい相手と、行き先を選ぶために。

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