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ランキング最高順位51位!『異世界に転移したので、もう我慢するのはやめました ~固有能力《自由》で好き勝手に生きる~』  作者: くんくん
選び取る明日

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帰る場所の話し

主環へ戻ったのは、その日の夕方だった。


 中央の広間には、出発したときより多くの灯りが点いている。


 全部ではない。


 まだ消えたままの場所もある。


 それでも、昨日までは途切れていた線がいくつか繋がり直し、壁の地図にも白い光が増えていた。


「変わってる」


 レグが真っ先に気づいた。


「ああ」


 カイルが記録台へ近づく。


「受け入れた地域から、順番に更新されてるみたいだ」


 強制を全部消したわけではない。


 必要な緊急機能は残す。


 役目を誰かへ求めるときは、まず聞く。


 受ける者が、自分の名と期間を示す。


 危険が去れば、緊急の命令は切れる。


 それぞれの場所が受け入れた範囲だけ、仕組みが戻り始めている。


「地味だな」


 ガルドが壁を見上げる。


 ハヤトが笑った。


「俺と同じ感想じゃん」


「もっとこう、全部一気に光るかと思うだろ普通」


「思うよな」


「何でそこで仲良くなるの?」


 セラに言われ、二人とも黙った。


 レグが小さく笑う。


     ◇


 広間の奥では、ディオルとノイが待っていた。


 ノイは昨日よりずっと顔色がいい。


 セラが近づくと、向こうから先に口を開いた。


「今日はちゃんと休みました」


「本当に?」


「ディオルさんにも止められました」


 セラがディオルを見る。


「へえ」


「何だ、その反応は」


「ちゃんと止められるんだなって」


「俺を何だと思ってる」


 ノイが少し笑った。


 以前の二人とは空気が違う。


 まだ全部が片付いたわけではない。


 それでも、少なくとも「進むしかない」という張り詰め方は消えていた。


「記録庫は?」


 ディオルが尋ねる。


 カイルがまとめた紙を作業台へ広げる。


「元の記録も、後から加えられた変更も残ってた。強制だけ全部消すのは危険だった」


「やはりか」


「だから、優先設定を変えた」


 ユアンが横から説明を引き継ぐ。


 受け入れた場所。


 拒否した場所。


 保留した場所。


 まだ返事のない場所。


 全部そのまま記録されている。


「勝手には変えてない」


 レグが言った。


 ディオルの視線が彼女へ向く。


「……そうか」


「ソルドは受けた」


「ソルド?」


「道の村」


「ああ」


 ディオルも名前は知っていたらしい。


「次の道守りは、本人に聞いてから決めるって」


 ディオルは何も言わなかった。


 少しだけ目を伏せる。


「俺は」


 やがて口を開いた。


「そのやり方じゃ、足りないと思ってた」


「今は?」


 レグが聞く。


「まだ分からない」


 正直な答えだった。


「必要な人数が集まる保証はない。途中で投げ出す奴も出る。危険な場所だけ誰も引き受けないかもしれない」


「うん」


「それでも」


 ディオルはノイを見る。


「最初から断れない形にするよりは、試すべきだったんだろうな」


 レグは満足そうに頷いた。


「じゃあ試す」


「ああ」


「だめだったら?」


「また考える」


 レグの口元が少し上がった。


「ハヤトみたい」


「何で俺?」


「最近それ言う」


「否定できないけど」


     ◇


 ガルドとディオルが向き合ったのは、その少しあとだった。


「久しぶりだな」


 ディオルが言う。


「四か月ぶりだ」


 ガルドは大きな身体を伏せたまま返した。


「また来たのか」


「娘見つけた」


「見れば分かる」


「自慢していいか?」


「もう四か月前に十分聞いた」


「今の方が話増えてるぞ」


「いらん」


「なんでだ!」


 レグが父親の横から顔を出す。


「おとうさん、話すのあと」


「はい」


 即座に静かになる。


 ディオルが少しだけ目を見開いた。


「お前、そんなに素直だったか?」


「娘相手は別だ」


「四か月前は娘の話を勝手にしてただろ」


「本人いるんだから勝手にできねぇだろ」


「そこはちゃんとしてる」


 レグが頷く。


 ガルドが少し誇らしそうな顔をした。


「褒められた」


「基準低くない?」


 ハヤトが言うと、ガルドの目が向く。


「お前はあとで話あるからな」


「何の?」


「色々だ」


「怖いんだけど」


 セラが横で笑っている。


     ◇


 その夜。


 主環の広間で、今後の道を決めることになった。


 地図を中央へ広げる。


 まず北環工房へ戻る。


 ディオルとノイ。


 そしてユアンも、そこで今回の記録を整理する必要がある。


「俺は一度西路へ戻る」


 ユアンが言った。


「師匠の古い記録も見直したい。北環だけで決める話でもなくなったからな」


「また会う?」


 レグが聞く。


「道が繋がってればな」


「じゃあ会う」


「決定なんだな」


「うん」


 カイルはしばらく地図を見ていた。


「俺も北環までは行く。そのあとは……少し残るかもしれない」


「記録?」


 ハヤトが聞く。


「ああ。主環と記録庫の写しを取れるだけ取りたい」


「やっぱり好きだね」


 セラが笑う。


「ここまで来て読まずに帰れるか」


「カイルらしい」


 レグが言うと、本人は少しだけ嬉しそうだった。


 そして。


 残るのは。


 ハヤト。


 セラ。


 レグ。


 ガルド。


 クロ。


「竜の谷へ行く」


 レグが言った。


 ガルドも頷く。


「俺も一度帰る」


「一度?」


 ハヤトが聞く。


「ああ」


「また出る気?」


「まだ全部終わったわけじゃねぇだろ」


 各地の古い仕組み。


 返事を保留した場所。


 まだ命令返しが残っている施設。


「でも」


 ガルドはレグを見る。


「次は勝手に何年も消える気はねぇ」


「ほんと?」


「連絡する」


「何日ごと?」


「そこまで決めんのか!?」


「大事」


「……場所による」


「じゃあ行く前に言う」


「ああ」


「帰る日も」


「分かった」


「怪我したら」


「それまでいるのか!?」


 レグがじっと見る。


「……言います」


 ハヤトは思わず笑った。


「完全に管理されてるな」


「お前は黙れ」


     ◇


「それで」


 ガルドが今度はハヤトを見る。


 嫌な予感がした。


「何?」


「お前とセラは何なんだ」


「急だな!」


 セラまで固まった。


「昨日から気になってた」


「何が?」


「距離」


「距離?」


「近ぇ」


 セラの頬が少し赤くなる。


 ハヤトは返事に困った。


 昨日。


 好きだと言った。


 セラも好きだと答えた。


 一緒にいたいとも。


 なら。


「付き合ってる……でいいんだよな?」


 思わずセラを見る。


「何で私に確認するの?」


「いや、ちゃんと言ってなかったから」


「好きって言って、一緒にいたいって言って、それで違ったら逆に何?」


「ですよね」


 ガルドの顔が険しくなる。


「おい」


「何?」


「何でそんな軽く確認してんだ」


「今日決まったばっかなんだよ!」


「今日!?」


「おとうさんうるさい」


「いや待てレグ! これは大事だ!」


「レグ関係ない」


「お前と一緒に旅してる男だぞ!」


「セラと付き合うのに?」


「……あ」


 ガルドが止まった。


 少し考える。


「確かにお前関係ねぇな」


「でしょ」


「でも気になる!」


「それは自由」


「何か腹立つなその言い方!」


 ハヤトはもう笑うしかなかった。


     ◇


 少しして。


 騒ぎが落ち着いた頃。


 ガルドがハヤトの隣へ来た。


 レグはセラと少し離れたところで話している。


「ハヤト」


「何?」


「さっきは悪かった」


「別にいいけど」


 意外だった。


 もっと絡まれると思っていた。


「ミレアの記録に、お前のことも書いてあった」


「無茶するって?」


「それも」


「他は?」


「レグに、決めさせるようになったって」


 ハヤトは少し黙った。


「最初は違った?」


「多分」


「そうか」


 ガルドは娘の方を見る。


「俺ができなかったことだ」


「何が?」


「そばにいて、選ばせること」


 守るために離れた。


 怖くて戻れなかった。


 ガルド自身がさっき認めたことだ。


「だから」


 大きな目がハヤトへ向く。


「ありがとな」


「……急にちゃんとしたこと言うじゃん」


「殴るぞ」


「何で!」


「照れるだろうが」


「知らないよ!」


 声が大きくなり。


 向こうでレグが振り返った。


「おとうさん!」


「何もしてねぇ!」


「うるさい」


「はい」


 また静かになった。


     ◇


「ハヤト」


 今度はセラが呼ぶ。


 ガルドは何も言わず離れていった。


「何話してたの?」


「秘密」


「珍しい」


「男同士の話」


「急にそれっぽく言う」


 セラが隣へ座る。


 肩が触れる。


 もう、お互いに避けない。


「竜の谷のあと」


 セラが言った。


「うん」


「トルカ、行きたい」


「行こう」


 迷わず答えた。


 セラが少し笑う。


「今度は早いね」


「俺も行きたいから」


「理由は?」


「セラがいる」


「それ昨日も聞いた」


「じゃあもう一個」


「なに?」


「マーナさんに会ってみたい」


「なんで?」


「セラに色々教えた人だから」


 少し興味がある。


 それに。


「俺も何か習えるかもしれないし」


「治癒?」


「使えるけど、全然ちゃんと知らないから」


 セラは少し考えた。


「それはいいかも」


「ただし」


「うん?」


「セラより上手くなったらどうする?」


「そんな簡単にならないでしょ」


 即答された。


「《自由》あっても練習いるもんな」


「そういうこと」


「じゃあ一緒に教わる」


 セラの顔が少し明るくなる。


「それ、楽しそう」


 ハヤトも同じだった。


     ◇


 夜が深くなる。


 明日からは。


 来た道を戻る。


 でも。


 同じ旅ではない。


 ガルドがいる。


 ハヤトとセラの関係も変わった。


 レグには、帰れる場所がまた一つはっきり増えた。


 北環へ。


 そのあと竜の谷へ。


 さらに先はトルカ。


 その次はまだ分からない。


 レグが地図を見ながら言った。


「帰るところいっぱい」


 ガルドが隣から覗く。


「面倒か?」


「ううん」


 レグは首を横に振った。


「いい」


 それから。


 ハヤトとセラを見る。


「行くところもいっぱい」


「ああ」


 ハヤトも地図を見る。


 帰る場所と。


 これから行きたい場所。


 どちらか一つを選ぶ必要はない。


 今は。


 その全部へ続く道があった。

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