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ランキング最高順位51位!『異世界に転移したので、もう我慢するのはやめました ~固有能力《自由》で好き勝手に生きる~』  作者: くんくん
第1部 自由への一歩

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第17話 ただいま、レグ


ラーデンへ戻ったのは、日が傾き始めた頃だった。


乗合馬車を降りるなり、ハヤトは大きく伸びをする。


「やっぱ馬車は楽だな……」


行きは三日かけて商隊と歩いた道も、帰りはずいぶん早かった。


護衛依頼は無事達成。


オーガ三体の討伐までついてきた。


疲れてはいるが、悪くない仕事だったと思う。


「まずギルド?」


セラが聞く。


「いや」


「宿?」


「肉屋」


即答すると、セラが呆れたようにため息をついた。


「本当に買うのね」


「約束したからな」


「レグが理解してたとは思えないけど」


「俺が覚えてる」


結局、二人はギルドへ向かう前に市場へ寄った。


いつもより少し上等な肉を選び、ついでに骨付きの大きな塊も買う。


値段を聞いた時は少し迷ったが、オーガの討伐報酬が入る予定だと思えば許容範囲だった。


「それ、人間が食べても普通に高いやつよ」


「三日留守番したご褒美」


「どんどん甘くなってるわね」


「気のせいだ」


紙に包まれた肉を抱え、ギルドへ向かう。


建物が見えてくるにつれて、ハヤトの足は自然と速くなっていた。


自分でも少し可笑しい。


三日しか離れていない。


それでも、今ごろどうしているのか何度も考えた。


怪我は悪化していないか。


ちゃんと飯を食べているか。


知らない人間に怯えていないか。


「そんな急がなくても逃げないわよ」


後ろからセラが言う。


「急いでない」


「歩く速さ、さっきの倍になってるけど」


ハヤトは返事をしなかった。


ギルドの扉を開ける。


受付にいたミレイがこちらへ気づいた。


「あ、お帰りなさい」


「ただいま。レグは?」


挨拶より先に聞いてしまった。


ミレイが笑う。


「元気ですよ。かなり」


「かなり?」


「行けば分かります」


嫌な予感がする。


ハヤトはそのまま裏手の厩舎へ向かった。


扉を開ける。


「レグ?」


一瞬、何も見えなかった。


藁の山。


水桶。


餌皿。


いつも寝ていた場所にはいない。


「……あれ?」


次の瞬間。


頭上から何かが落ちてきた。


「うおっ!?」


反射的に身体を縮める。


背中へ重み。


続けて肩。


そして――。


ずしり。


「重っ!」


頭の上に何かが乗った。


セラが入口で固まる。


それから、盛大に笑い出した。


「ちょっ……レグ!?」


頭上から聞き慣れた喉の音。


ハヤトが両手を上げて触れてみる。


鱗。


小さな角。


間違いなくレグだった。


どうやら厩舎の梁へ登って待っていたらしい。


「なんで上にいるんだよ!」


返事の代わりに、尾がハヤトの背中を叩く。


「降りろって。重い!」


レグは降りない。


むしろ前脚をハヤトの頭の左右に引っかけ、しっかり固定してきた。


「痛い痛い! 爪!」


セラは壁へ手をついて笑っている。


「似合ってるわよ」


「どこがだよ!」


「新しい帽子」


「こんな重い帽子あるか!」


声を聞きつけたのか、ミレイまでやってくる。


その手には餌皿。


「ああ、やっぱりそうなりましたか」


「やっぱり?」


「この三日、よく梁に登ってたんですよ」


「怪我してたよね?」


「もうかなり良くなってます」


ミレイがレグの後ろ脚を見る。


包帯は外されていた。


傷跡はまだ残っているが、歩くにはほとんど問題ないらしい。


翼の方も、昨日から短い距離なら浮けるようになったという。


「回復早すぎない?」


「竜ですから」


便利な言葉だった。


レグはようやくハヤトの頭から肩へ移動した。


それでも降りる気はない。


首元へ頭を擦りつけ、喉を鳴らしている。


「……寂しかった?」


ハヤトが聞く。


レグの尾が一度だけ動いた。


分かっているのかは分からない。


だが、その様子だけで十分だった。


「ただいま」


頭を撫でる。


レグは目を細める。


しばらくそうしてから、ハヤトは持っていた包みを見せた。


「土産あるぞ」


レグの目が開いた。


首元から肉へ視線が移る。


「お前、切り替え早いな」


今度はセラだけでなく、ミレイまで笑った。


◇


肉を焼く前に、依頼報告を済ませることになった。


レグを置いていこうとしたものの、今度は素直についてくる。


結局、肩に乗せたまま受付へ向かった。


以前なら人の多さを警戒してハヤトの背後へ隠れていたが、三日間ギルドで過ごしたことで多少慣れたらしい。


それでも知らない冒険者が近づけば、ハヤトの首へ顔を寄せる。


「完全に定位置になってない?」


セラが聞く。


「肩が死ぬ」


「嬉しそうだけど」


「それは別問題」


受付台へ書類を並べる。


商隊護衛。


オーガ三体の討伐。


交易町ルベールで発行された達成証明。


ミレイは一つずつ確認していった。


「問題ありません。護衛依頼達成です」


「よし」


「それからオーガの討伐報酬と素材代ですね」


硬貨が追加される。


予想していたより多い。


ハヤトは思わず数え直した。


「こんなにもらえるの?」


「三体ですから。それに今回は商隊を守りながらの討伐です」


セラも自分の取り分を確認している。


ハヤトが視線を向けると、彼女はすぐ気づいた。


「何?」


「治癒術院の金」


「……また聞くの?」


「気になるだろ」


セラは財布へ硬貨をしまった。


「まだ五十枚には遠いわ。でも、この調子なら前に思ってたほど無理じゃない」


最初に聞いた時とは明らかに違う。


以前のセラにとって金貨五十枚は、諦める理由だった。


今は目標になっている。


「じゃあ稼がないとな」


「あなたはまずレグの餌代でしょ」


ハヤトの肩で、レグが小さく鳴いた。


「聞いてた?」


もう一度鳴く。


「絶対都合のいいところだけ分かってるだろ」


ミレイが笑いながら書類をまとめる。


「それと、お二人にはギルドから評価加算が入っています」


「評価?」


「今回の護衛依頼で、ベテラン冒険者から良好な報告が届いています」


どうやらバルガとミーナが、かなり具体的に報告してくれたらしい。


依頼の遂行。


商隊への被害なし。


オーガ戦での対応。


危険を回避する判断。


ミレイが説明を続ける。


「このまま実績を重ねれば、近いうちに一段上の依頼も正式に受けられるようになります」


ハヤトは少し考えた。


「それって強い魔物の依頼も増える?」


「増えますね」


「報酬も?」


「増えます」


「やる」


「そこだけで決めないでください」


横でセラが笑う。


「レグの飯代」


「分かってるわよ」


ミレイは苦笑しながらも、表情を少し真面目なものへ変えた。


「ただ、忘れないでください。受けられる依頼が増えるということは、それだけ危険も増えるということです」


ハヤトは頷く。


バルガから言われたことを思い出した。


強くなったから、戦わなければならないわけではない。


それは分かっている。


だからといって、戦うこと自体を避けたいわけでもなかった。


強い相手へ挑戦して勝つ。


それは普通に楽しい。


オーガを倒した時だって、怖かったのと同じくらい達成感があった。


「大丈夫」


ハヤトは言う。


「戦いたい時は戦うし、逃げた方がいい時は逃げる」


セラが横から口を挟む。


「たまに突っ込むけどね」


「それは減らす」


「なくすとは言わないのね」


「そこまで約束すると嘘になる」


ミレイは額を押さえた。


「せめて死なない程度にしてください」


「善処します」


「その言葉、一番信用できません」


◇


報告を終えた後。


ハヤトは約束通りレグのために肉を焼いた。


以前覚えた《料理・初級》を使い、今回は自分たちが食べても美味いくらいには仕上げる。


肉が焼ける匂いが広がるにつれ、レグが落ち着かなくなっていく。


地面に座る。


立つ。


また座る。


ハヤトを見る。


肉を見る。


「まだ」


レグが座る。


数秒後。


少しずつ前へ進む。


「まだって言っただろ」


止まる。


セラが横で腕を組んだ。


「完全に分かってるわね」


「俺もそう思う」


皿へ肉を乗せ、十分に冷ます。


「よし」


その一言でレグが飛びついた。


「待ってる意味あった?」


セラが呆れる。


「ちゃんと『よし』までは待っただろ」


「ギリギリね」


肉はすぐに消えていく。


一枚目。


二枚目。


三枚目。


かなり買ったはずなのに、減るのが早い。


「……オーガ一体分の報酬、何日持つんだろ」


「怖い計算やめなさいよ」


ハヤトも自分用に焼いた肉を食べる。


レグがこちらを見る。


「これは俺の」


見続ける。


「お前もう食っただろ」


視線が動かない。


「……一口だけな」


切り分けて渡す。


セラが呆れた。


「甘すぎ」


「目がな」


「何?」


「ずるいんだよ」


レグは肉を飲み込み、満足したのかハヤトの足元へ身体を寄せる。


そして、そのまま前脚を膝へ乗せた。


次に後ろ脚。


「おい」


よじ登る。


「待て、何する気だ」


腹。


胸。


肩。


そこから再び――頭。


ずしり。


「だから重いって!」


セラがまた笑い出す。


レグは気にせず、ハヤトの頭の上で丸くなろうとしている。


「無理無理、そこ寝床じゃないから!」


尾が額の前へ垂れてくる。


「前見えない!」


ギルド裏に笑い声が響く。


最初は傷だらけで、人間を見るだけで怯えていた幼竜。


今はハヤトの頭の上でくつろごうとしている。


随分変わった。


「……まあ、元気ならいいか」


頭上のレグが喉を鳴らす。


セラがにやりとする。


「その『まあ、いいか』は?」


ハヤトも気づいた。


元の世界では、諦めるために使っていた言葉。


今は違う。


「これは本当に、まあいいか」


「重いんでしょ?」


「重い」


「降ろせば?」


ハヤトは少し考える。


レグの身体から伝わる温かさ。


楽しそうに揺れている尾。


「……もうちょっとだけ」


セラが笑った。


◇


翌日。


昼前のギルド。


ハヤトは依頼掲示板の前にいた。


護衛依頼を終えたばかりだ。


今日は休んでもいい。


むしろ普通なら休むべきなのだろう。


だが、身体は思ったほど疲れていない。


何か面白そうな仕事がないか。


眺めるだけのつもりだった。


その時。


一枚の依頼書に目が止まる。


《ガルネ山麓・魔物討伐》


山麓近くの村で、最近大型魔物による被害が増えている。


家畜が襲われ、森へ入った狩人も二人戻っていない。


討伐対象は未確定。


ただし現場に残された痕跡から、かなり大型の魔物と推測される。


報酬。


高い。


かなり高い。


「何見てるの?」


後ろからセラ。


ハヤトは依頼書を指差した。


「これ」


セラが読む。


表情が少し変わる。


「対象不明?」


「みたいだな」


「危険度高そうね」


「うん」


ハヤトはもう一度依頼書を見る。


未知の魔物。


被害の出ている村。


報酬。


そして。


今の自分が、どこまで戦えるのか。


確かめてみたい。


そんな気持ちもあった。


「受けたい?」


セラに聞かれる。


ハヤトは素直に頷いた。


「受けたい」


「理由は?」


「人が困ってるのもある。報酬もいい」


「他には?」


少しだけ笑う。


「強そうだから、戦ってみたい」


セラは呆れるかと思った。


だが。


「まあ、今回は私も少し分かるわ」


意外な返事だった。


「オーガ戦、嫌じゃなかったでしょ?」


「怖かったけどな」


「私も」


セラが依頼書を取る。


「でも勝った時は、ちょっと気持ちよかった」


ハヤトは笑った。


「じゃあ行く?」


「まず詳細を聞く」


「そこは冷静だな」


「誰かさんが勢いで決めるからね」


二人で受付へ向かう。


ハヤトの肩にはレグ。


怪我が治ったばかりなので、今回連れていくかどうかはまだ分からない。


ただ。


依頼書を覗き込むように首を伸ばす姿を見て、ハヤトは何となく思った。


こいつも置いていかれる気はないんだろうな、と。


ガルネ山麓。


そこで待っているものが何なのか。


まだ誰も知らない。


けれど今度のハヤトは、ただ危険を避けるためではなく。


自分から強敵へ挑むことを選ぼうとしていた。

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