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ランキング最高順位51位!『異世界に転移したので、もう我慢するのはやめました ~固有能力《自由》で好き勝手に生きる~』  作者: くんくん
第1部 自由への一歩

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第16話 戦わないという選択


翌朝。


ハヤトが目を覚ますと、身体のあちこちが重かった。


「……痛え」


上半身を起こしただけで、肩と背中に鈍い痛みが走る。


昨日は三体のオーガと戦った。


その最中は夢中だったが、身体はきっちり覚えていたらしい。


少し離れた場所では、すでにバルガが装備の確認をしている。


ミーナも弓の弦を張り直していた。


「二人とも朝早いな……」


「護衛中だからな」


バルガがこちらを見る。


「動けるか?」


ハヤトは肩を回す。


痛い。


だが、剣を振れないほどではない。


「たぶん」


「その『たぶん』は信用できんな」


「じゃあ動けます」


「無理なら言え。護衛は一人で格好つける仕事じゃない」


昨日も似たようなことを教えられた。


ハヤトは素直に頷いた。


「分かりました」


「朝から素直ね」


声の方を見る。


セラが毛布を畳みながら笑っていた。


「俺だって学習するよ」


「昨日、オーガの肩に飛び乗った人が?」


「それはもう反省してる」


思い出しただけでも怖い。


勢いでやったが、足を滑らせていれば今頃ここにはいなかっただろう。


ドルフたちも起き始め、一行は簡単な朝食を済ませた。


昨日のオーガ三体については、持ち運べる牙や一部の素材だけを回収してある。


残りは場所を記録し、後ほどギルドへ報告することになった。


出発準備が整った頃。


ミーナがハヤトを呼んだ。


「せっかく《追跡》を覚えたんでしょ。ちょっと来て」


「何かある?」


「見れば分かるかもね」


野営地から少し離れた場所。


地面にはいくつもの足跡が残っている。


昨日、自分たちが倒したオーガのものとは違った。


ハヤトはしゃがみ込む。


《追跡・初級》を得たからといって、目の前に答えが表示されるわけではない。


ただ以前より、見るべき場所が分かる。


地面の窪み。


草の倒れ方。


足跡の深さ。


「……四足?」


「うん」


「結構でかいな」


「それから?」


ハヤトは周囲を見る。


一つではない。


同じ方向へ続く跡が複数ある。


「群れ?」


ミーナが頷く。


「正解」


「何の魔物?」


「そこまでは?」


ハヤトは足跡を見直した。


爪の跡。


大きさ。


だが分からない。


「無理」


「それでいいのよ。分からないのに知ったふりする方が危ないから」


ミーナが足跡の一つを指差した。


「ダイアウルフ。普通のグレイウルフより一回り大きい。少なくとも六、七匹はいると思う」


「強い?」


「一匹ならそこまで。でも群れになると面倒」


ハヤトは足跡の向きを追った。


北東。


自分たちが進む街道と、少し先で交差しそうに見える。


「これ、まずくない?」


「だから調べてる」


ミーナは立ち上がった。


二人でバルガのところへ戻る。


足跡について報告すると、バルガは地図を広げた。


「このまま行けば昼頃にここを通る」


街道の一点を指す。


「群れが近くにいる可能性は?」


「高いと思う」


ミーナが答える。


ドルフも地図を覗き込んだ。


「迂回路は?」


「ある。ただし半日近く遅れる」


バルガが別の細い道を指す。


ドルフは少し考える。


「荷物の到着予定には間に合う?」


「今日の進みが遅れるだけなら問題ない」


「なら迂回しよう」


決断は早かった。


ハヤトは少し意外だった。


「確認しに行かないんですか?」


バルガが顔を上げる。


「何をだ?」


「ダイアウルフが本当にいるか」


「いたらどうする」


「……倒す?」


「何のために?」


聞かれて、ハヤトは黙った。


今回の仕事は商隊護衛。


ダイアウルフ討伐ではない。


「昨日教えただろ」


バルガが地図を畳む。


「戦わずに済むなら、それが一番いい」


「ああ……」


分かっていたつもりだった。


だが敵の存在を知ると、どこかで「倒す」という考えが先に出てしまう。


「冒険者って魔物倒す仕事だと思ってた」


「そういう依頼も多い。だが護衛は別だ」


ドルフも笑う。


「こっちとしては、商品も人間も無事に着けばそれが一番だからな」


なるほど。


ハヤトは地図を見る。


戦えるから戦う。


それも自由なのかもしれない。


だが、戦わないと決めるのも自分だ。


何でもできることと、何でもやらなければならないことは違う。


「勉強になるな」


ハヤトが呟く。


「まだ新人なんだから、いっぱい勉強しなさい」


ミーナに肩を叩かれた。


「はい、先生」


「誰が先生よ」


◇


一行は予定していた街道を外れ、森の縁を大きく回る道へ入った。


こちらは道幅が狭い。


荷馬車四台では進むだけでも時間がかかる。


ところどころ木の根が地面へ張り出し、そのたびに御者たちが速度を落とした。


ハヤトは先頭近くを歩きながら、地面を確認していた。


《追跡》を覚えたばかりということもあり、今まで気にもしなかった跡が妙に目につく。


小さな獣。


鳥。


人間。


古い馬車の轍。


「面白いな」


「何が?」


隣を歩いていたセラが聞く。


「昨日までただの地面だったのに、今は結構いろんな情報がある」


「技能を覚えたから?」


「それもあるけど、見方を教えてもらったからだと思う」


《自由》があるから、自分は普通なら習得できない技能にも手を出せる。


でも。


知らないことは、知らない。


教わらなければ気づけないことも多い。


ハヤトは前を歩くミーナを見る。


何でも覚えられるからといって、何でも一人で身につけられるわけではないらしい。


その方がいい。


誰かに教えてもらうのも、案外面白かった。


昼前。


ミーナが突然手を上げた。


商隊が止まる。


「どうした?」


バルガが聞く。


ミーナは少し先の地面へ近づいた。


ハヤトも後を追う。


そこには、新しい足跡。


昨日見たものより大きい。


そして数が多い。


「ダイアウルフ?」


ハヤトが尋ねる。


ミーナが頷く。


「たぶん同じ群れ」


足跡は迂回路を横切り、森の奥へ続いていた。


「こっちまで来てたのか」


「でも今はいない」


ミーナはしゃがんだまま、しばらく周囲を調べた。


「夜明け前くらいね。このまま西へ抜けたみたい」


バルガが地図を見る。


「なら進める」


一行は再び動き出した。


戦闘はない。


派手な出来事もない。


でも。


ハヤトは妙な満足感を覚えていた。


足跡を見つけた。


危険を知った。


避けた。


それで全員が無事なら、十分成果なのだ。


◇


夕方。


予定より少し遅れたものの、一行は次の野営地へ到着した。


昨日とは違い、何事もない。


ハヤトは少し拍子抜けしていた。


「今日は戦わなかったな」


夕食を作りながら言う。


セラが横で野菜を切っていた。


「不満?」


「いや」


少し考えてから首を振る。


「むしろ、こういう日もいいな」


「昨日が濃すぎたのよ」


「それはある」


鍋の中では肉と野菜が煮えている。


今回はセラも手伝っていた。


料理技能はないらしいが、切るくらいならできると言って参加している。


「その大きさバラバラじゃない?」


「食べれば同じよ」


「料理向いてないな」


「火炎魔術師に何求めてるの?」


「火加減」


「燃やすわよ」


「料理を?」


「あなたを」


ハヤトは笑った。


こういう何でもないやり取りも、最近増えた。


最初に会った頃のセラなら、ここまで付き合ってくれなかっただろう。


スープが完成する。


商人たちへ配る。


今日も評判は悪くない。


ハヤトが自分の分を食べていると、ふとレグのことを思い出した。


「今頃何してるかな」


「またレグ?」


「飯食ってるかなって」


「ミレイが面倒見てくれてるでしょ」


「分かってるんだけどさ」


今日で二日目。


明日の夕方にはラーデンへ戻れる予定だ。


帰った時、どんな反応をするのだろう。


尻尾を振るのか。


それとも飯だけ見るのか。


「帰ったら肉買っていくか」


「甘やかしすぎじゃない?」


「留守番のご褒美」


セラは呆れた顔をする。


「完全に親馬鹿ね」


「親ではない」


「じゃあ何?」


答えに詰まった。


飼い主。


それも少し違う気がする。


契約しているわけではない。


レグが勝手についてきて、自分もそれを受け入れただけだ。


「……仲間?」


口にしてみる。


一番しっくりきた。


セラが少し笑った。


「なら、それでいいんじゃない?」


「だな」


◇


三日目。


残りの道中でも、大きな問題は起きなかった。


小型の魔物を数匹見かけたが、商隊を襲う様子はなく、そのまま通り過ぎる。


昼過ぎ。


遠くに街壁が見えてきた。


ラーデンほど大きくはないが、街道を行き交う馬車の数は多い。


「目的地ですか?」


ハヤトが聞く。


ドルフが頷く。


「交易町ルベールだ」


今回の商隊が向かう町。


ラーデンと北部をつなぐ中継地点らしい。


ただしハヤトたちの仕事は、この町までだった。


「到着!」


ドルフの声に、商人たちから安堵の息が漏れる。


ハヤトも肩の力を抜いた。


三日。


終わってみれば、初日のオーガ戦以外はかなり穏やかな護衛だった。


でも。


それでいいのだ。


誰も死なず。


荷物もなくならず。


商隊は無事に到着した。


ドルフがハヤトたち四人へ向き直る。


「本当に助かった。特に初日のオーガ三体は危なかった」


「俺一人じゃ何もできませんでしたよ」


ハヤトが答える。


実際そうだった。


「それでもだ」


ドルフは笑った。


「また頼むことがあるかもしれん。その時はよろしくな」


「報酬次第で」


「そこは即答で任せろと言え!」


「レグの飯代があるんで」


また笑いが起こった。


護衛依頼は正式に完了。


ルベールの冒険者ギルドで証明書を発行してもらうことになった。


建物へ入る。


ラーデンのギルドと大きな違いはない。


受付に書類を出す。


女性職員が確認する。


そして。


「神崎ハヤト……さん?」


名前を見たところで、受付嬢が顔を上げた。


「はい」


「ラーデンの?」


「そうですけど」


受付嬢の視線がハヤトとセラを行き来する。


「もしかして、幼竜を連れて帰った冒険者ですか?」


ハヤトは固まった。


セラが横で笑いを堪えている。


「……なんでここまで知ってるんです?」


「商人さんたちの間で話題になってますよ」


遺跡から幼竜を救出した新人冒険者。


剣と魔法の両方を使う。


職業を持っていない。


話が少しずつ広がっているらしい。


「やっぱり竜って目立つんだな……」


「今さら?」


セラに言われる。


受付嬢が続けた。


「それに、今回オーガ三体を倒したんですよね?」


「四人で、です」


「十分すごいと思いますけど」


また一つ増えた。


ハヤトは頭を掻く。


有名になりたいわけではない。


静かに暮らしたいというわけでもないが、誰にでも知られるのは少し落ち着かない。


「まあいいか」


口にしかけて。


少しだけ考える。


嫌だから我慢する。


仕方ないから受け入れる。


そういう意味ではない。


噂そのものは止めようがない。


だったら、自分は自分でやりたいことをやればいい。


「……仕方ないか」


言い直した。


セラが気づいたのか、少しだけこちらを見る。


しかし何も言わなかった。


依頼完了の証明を受け取る。


報酬はラーデンへ戻ってから清算される。


バルガとミーナとは、ここで別れることになった。


二人は別の仕事を受けてから戻るらしい。


「世話になりました」


ハヤトが頭を下げる。


「こっちも面白かった」


ミーナが笑う。


「次会う時までに《追跡》をもう少しまともにしときなさい」


「はい、先生」


「だから誰が先生よ」


バルガはハヤトの肩を一度叩いた。


「強くなるのはいい」


「はい」


「だが、強くなったから戦わなきゃならんわけじゃない。それは忘れるな」


ハヤトはその言葉を少しだけ考えた。


「覚えときます」


今の自分には、かなり大事な言葉に思えた。


二人と別れ。


ハヤトとセラはラーデン行きの乗合馬車へ向かう。


「歩いて帰らないの?」


セラが聞く。


「もう依頼終わっただろ」


「それで?」


「早くレグに会いたい」


セラが数秒黙った。


「親馬鹿」


「違うって」


ハヤトは馬車へ乗り込む。


三日間の初めての指名依頼。


オーガ三体。


新しい技能。


ベテラン冒険者から教わったこと。


そして初めて、自分の名前が知らない町まで届いていると知った。


少しずつ。


本当に少しずつだが。


ハヤトの異世界での生活は、最初の頃とは違うものになり始めていた。


ただ本人が考えているのは――。


「帰りに肉屋寄れるかな」


「結局それなのね」


留守番している一頭への土産のことだった。

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