↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランキング最高順位51位!『異世界に転移したので、もう我慢するのはやめました ~固有能力《自由》で好き勝手に生きる~』  作者: くんくん
第1部 自由への一歩

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/175

第15話 三体のオーガ


森の奥から現れた三体のオーガは、どれも二メートル半を優に超えていた。


太い腕。


樽のような胴体。


灰褐色の皮膚には古い傷がいくつも走り、その手には人間なら両手でも扱えそうにない棍棒が握られている。


一体だけでも厄介。


それが三体。


ハヤトは剣を握ったまま、無意識に唾を飲み込んだ。


「思ってたよりデカいな」


「感想は後だ」


バルガが大盾を構える。


先ほどまで穏やかだった男の空気が完全に変わっていた。


「ミーナ。右を頼む」


「了解」


「セラは商隊から離れすぎるな。火力はお前が一番だ」


「分かったわ」


そして最後にハヤトを見る。


「お前は俺の近くにいろ」


「俺も一体――」


「相手にしようとするな」


即座に止められた。


「オーガは力だけなら中堅冒険者を簡単に殺せる。お前はまだ、一撃受けたら終わりだ」


言い方は厳しい。


だが、間違っていない。


ハヤトは自分の盾を見る。


アイアンリザードに噛ませたものより丈夫とはいえ、あの棍棒を正面から受け止められるとは思えなかった。


「じゃあ何すればいい?」


「隙を作れ。それで十分だ」


バルガの答えは短かった。


ハヤトは頷く。


何でもできる。


それと、何でも一人でできるのは違う。


今はベテランのやり方を見る。


それも経験だ。


三体のオーガが散った。


左の一体がバルガへ。


右がミーナ。


中央の一体は、まっすぐ商隊を狙ってくる。


「来るぞ!」


バルガが前へ出た。


大盾と棍棒がぶつかる。


凄まじい音。


ハヤトは思わず眉をひそめた。


バルガの身体がわずかに沈む。


だが、止めた。


真正面から。


「すげえ……」


感心している暇はない。


中央の一体が横を抜けようとする。


ハヤトは身体強化を使った。


先回りする。


「こっちは通さない!」


オーガがハヤトを見る。


次の瞬間、棍棒が横薙ぎに飛んできた。


速い。


巨体からは想像できないほど。


ハヤトは盾で受けようとせず、身体を低くして避けた。


頭上を風が抜ける。


棍棒が近くの木へ直撃した。


太い幹が砕ける。


「……受けなくて正解だな」


二撃目。


今度は振り下ろし。


横へ飛ぶ。


地面がえぐれ、土が飛び散った。


ハヤトは剣で斬りつける。


腕。


浅い。


刃は通った。


だが、角兎やグレイウルフとは肉の厚みが違う。


オーガが吠えた。


効いてはいる。


しかし怒らせただけに近い。


「ハヤト、離れて!」


セラの声。


迷わず横へ飛ぶ。


直後。


「《炎槍》!」


炎が一直線に走った。


オーガの肩を貫く。


「グオォォッ!」


巨体がよろめいた。


だが倒れない。


「硬っ!」


「急所じゃないと無理!」


セラが次の詠唱へ入る。


そこへ別のオーガが迫った。


右側。


ミーナが相手をしていた個体だ。


「抜けた!」


ミーナの矢が背中へ刺さっている。


一本。


二本。


それでも止まらない。


「商隊を狙ってる!」


まずい。


二体同時。


ハヤトは周囲を見る。


馬車。


馬。


焚き火。


荷物。


守らなければならないものが多すぎる。


ただ戦えばいいわけではない。


バルガが言っていた意味が、今になって分かる。


「ドルフさん! 馬を下げて!」


「分かった!」


商人たちが動く。


だが馬は怯えている。


思うように進まない。


オーガがそちらへ向きを変えた。


ハヤトは地面を見る。


昼間。


ミーナに教わった足跡の見方。


敵がどこを通るのか。


何を踏むのか。


戦闘とは違う知識。


でも。


使える。


「セラ!」


「何!?」


「中央のやつ、そのまま引きつけられる?」


「やってみる!」


セラが火球を放つ。


肩を焼かれたオーガが彼女へ注意を向けた。


ハヤトはもう一体へ走る。


正面からは行かない。


オーガの進路。


少し先。


先ほど料理に使った水がこぼれた場所がある。


その近くには、鍋を洗った時の泥。


ほんの少し。


これだけでは足りない。


ハヤトは掌を向けた。


「《水生成》!」


地面を濡らす。


さらにもう一度。


魔力が削られる。


だが構わない。


土が柔らかくなる。


オーガが踏み込んだ。


一歩。


二歩。


三歩目。


巨体がわずかに沈む。


「今!」


ミーナが反応した。


矢。


狙いは目。


オーガが顔を背ける。


その瞬間、足元への意識が完全に消えた。


泥へ深く踏み込む。


片足が滑った。


巨体が傾く。


「よし!」


ハヤトが走る。


首は届かない。


なら膝。


片手剣を両手で握り、体重を乗せて振る。


刃が膝裏へ入った。


深い。


オーガが悲鳴を上げる。


片膝をついた。


「セラ!」


「今そっちは無理!」


見れば、セラも中央の一体に追われている。


援護は期待できない。


だったら。


ハヤトは倒れかけたオーガを見る。


頭の位置が下がっている。


届く。


怖い。


普通に怖い。


人間より遥かに大きい生き物。


一発でも食らえば、たぶん終わる。


それでも。


自分から近づいた。


「《身体強化》!」


地面を蹴る。


盾を捨てる。


両手で剣を握る。


オーガがこちらを見る。


手を伸ばす。


その前に。


ハヤトは肩を足場にして跳び上がった。


「うおおっ!」


剣を首へ振り下ろす。


一撃では足りない。


刃が肉へ食い込んだまま止まる。


オーガの腕が上がる。


ハヤトは剣を手放した。


直後、巨大な手が空を切る。


地面へ落ちる。


転がる。


「ハヤト!」


ミーナの矢が飛んだ。


オーガの目へ突き刺さる。


頭が大きくのけぞった。


その拍子に、首へ食い込んでいた剣がさらに深く入る。


巨体が揺れた。


一歩。


二歩。


そして倒れた。


地面が震える。


ハヤトはしばらく動けなかった。


「……倒した?」


「まだ見るな! 残り二体!」


バルガの声。


そうだった。


戦闘は終わっていない。


ハヤトは立ち上がる。


剣は倒れたオーガの首に刺さったまま。


回収している時間はない。


短剣を抜く。


視線を巡らせる。


バルガは一体を完全に押さえている。


問題はセラ。


中央のオーガが彼女を追っている。


セラは距離を取りながら魔法を撃っているが、決定打が入らない。


「火球!」


炎が胸へ直撃。


オーガは止まらない。


「セラ!」


ハヤトが走る。


間に入ろうとするが、距離がある。


オーガが棍棒を振り上げた。


セラが後退する。


背後。


馬車。


これ以上下がれない。


「くっ……!」


セラが杖を構える。


詠唱が間に合わない。


その時。


ハヤトの視界に、地面へ伸びる一本の縄が入った。


荷馬車の固定用。


片方は馬車。


反対側は外れたまま地面へ転がっている。


考えるより先に身体が動いた。


縄を掴む。


走る。


オーガの背後へ回り込む。


「セラ! 右へ!」


セラが迷わず右へ飛ぶ。


棍棒が空振り。


その瞬間。


ハヤトは縄をオーガの片足へ回した。


「ミーナ!」


「分かってる!」


反対側からミーナが縄を引く。


二人。


全力。


普通ならオーガの力に勝てない。


だが今は、一歩踏み出した直後。


身体の重心が前へ移っている。


足を取られた。


オーガの巨体が傾く。


倒れる。


「セラ!」


今度こそ。


セラは両手で杖を握っていた。


炎が集まる。


今までより大きい。


「《炎槍》!」


倒れたオーガの喉へ。


炎が突き刺さる。


悲鳴は長く続かなかった。


二体目。


ハヤトは荒い息を吐く。


「あと一体……」


振り向く。


残る一体。


バルガが一人で相手をしていた。


いや。


正確には――。


「もう終わるぞ」


バルガが低く言った。


オーガが棍棒を振り下ろす。


大盾で受け流す。


同時に踏み込む。


槍。


穂先が顎下から入った。


深々と。


バルガが槍を引き抜く。


オーガが後ろへ倒れた。


三体目。


終わった。


今度こそ。


誰もすぐには喋らなかった。


焚き火の音。


怯えた馬の息遣い。


それだけが聞こえる。


ハヤトはその場へ座り込んだ。


「……疲れた」


セラも近くに座る。


「同感」


ミーナは倒れたオーガを確認してから戻ってきた。


「初めてにしては上出来じゃない?」


「何回か死ぬかと思いましたけど」


「それが普通よ」


バルガも近づいてくる。


ハヤトは少し身構えた。


勝手に前へ出た。


怒られるかもしれない。


だがバルガは、倒れた二体を見てから言った。


「悪くなかった」


それだけ。


ハヤトは少し拍子抜けした。


「怒られると思った」


「何をだ」


「一人でオーガに突っ込んだところとか」


「怒りたい部分はある」


「やっぱり」


「だが、商隊を守った」


バルガは馬車を見る。


被害なし。


怪我人なし。


荷物も無事。


「護衛としては、それが一番だ」


ハヤトは少しだけ嬉しくなった。


敵を倒したからではない。


依頼をちゃんと果たせた。


そのことが。


「ただし」


バルガが続ける。


「最後に肩へ乗ったのは二度とやるな」


「そこ?」


「失敗すれば踏み潰されて死んでた」


「……はい」


言われると急に怖くなる。


あの時は必死だった。


今もう一度やれと言われても、たぶん無理だ。


ミーナが笑う。


「まあ、あんたらしいんじゃない?」


「知り合ってまだ一日ですよね?」


「十分分かったわ」


セラが頷く。


「私もそう思う」


「なんで二人ともそんな納得してるんだよ」


少しずつ緊張が解ける。


商人たちも馬車から出てきた。


ドルフが最初に駆け寄ってくる。


「無事か!」


「俺たちは」


「馬車も全部無事だ!」


ドルフは安堵したように大きく息を吐いた。


「本当に助かった」


ハヤトは周囲を見る。


三体のオーガ。


倒れている。


自分たちがやった。


まだ実感がない。


「これ、素材とか売れる?」


ハヤトが聞く。


バルガが一瞬黙る。


「お前、切り替え早いな」


「レグの餌代が」


セラが吹き出した。


ミーナまで笑う。


「命懸けで戦った直後に竜の飯代?」


「現実的な問題なんです」


オーガは討伐証明だけでもかなりの報酬になるらしい。


皮や牙にも価値がある。


持ち運べる量には限界があるが、商隊の荷馬車へ多少積ませてもらえることになった。


ハヤトは少し安心した。


「これで何日分だろ」


「もう完全に保護者じゃない」


セラが言う。


「拾った責任があるからな」


「レグが勝手についてきたんじゃなかった?」


「……そうだった」


笑い声が上がる。


◇


戦闘の後始末が終わる頃には、夜もかなり深くなっていた。


見張りを増やし、消えかけた焚き火を起こし直す。


幸い、オーガの血の匂いを警戒しているのか、それ以上魔物は現れなかった。


ハヤトは焚き火のそばに座り、片手剣の手入れをしていた。


首に刺さった剣は回収できた。


刃には小さな欠け。


買ったばかりなのに。


「また修理代か……」


「今度は壊さなかっただけ成長じゃない?」


隣へセラが座る。


「褒められてる気がしない」


「褒めてるわよ」


少し沈黙。


セラが炎を見る。


「今日、怖かった?」


意外な質問だった。


「めちゃくちゃ」


ハヤトは即答した。


「そうは見えなかったけど」


「余裕あるように見えた?」


「少し」


「全然なかった」


剣を布で拭く。


「逃げたいとは何回も思ったよ」


「じゃあ、なんで逃げなかったの?」


ハヤトは馬車を見る。


眠っている商人たち。


見張りをしているバルガとミーナ。


「仕事だったから……ってのもあるけど」


少し考えた。


「俺が逃げたら、後で嫌な気分になりそうだったからかな」


「それだけ?」


「それで十分じゃない?」


世界を救うためではない。


英雄になりたいからでもない。


目の前で困っている人間がいて。


逃げたら自分が嫌になる。


だから残った。


その程度だ。


セラは小さく笑った。


「やっぱり変な人ね」


「またそれ?」


「褒めてる」


「便利な言葉だな」


二人で少し笑う。


ハヤトは夜空を見る。


三体のオーガ。


昨日までなら、名前を聞いただけで危険だと思っていた相手。


今日。


仲間と力を合わせて倒した。


一人では無理だった。


バルガが止め。


ミーナが狙い。


セラが仕留める。


自分はその間をつないだ。


「何でもできるってさ」


ハヤトが言う。


「一人で何でもやるって意味じゃないんだな」


セラが横を見る。


「急にどうしたの?」


「なんとなく」


《自由》がある。


職業制限がない。


だから自分は何でも覚えられる。


でも。


強い奴と戦う時。


誰かを守る時。


必要なのは、自分一人の技能だけじゃない。


それが今日、少し分かった。


「まあ、覚えたいものは全部覚えるけど」


「結局そこは変わらないのね」


「そこ変えたら俺じゃないだろ」


セラは呆れながら笑った。


その時。


ハヤトの頭の奥で、小さな感覚が弾けた。


久しぶりの感覚。


技能を習得した時と同じ。


技能《追跡・初級》を習得しました。


ハヤトは瞬きをした。


「……お」


「どうしたの?」


「《追跡》覚えた」


セラが固まる。


「今日だけで?」


「ミーナに教わってたからかな」


「普通そんな簡単じゃないわよ」


「《自由》のおかげ?」


「知らないわよ!」


少し離れた場所からミーナが振り返った。


「何の話?」


ハヤトが答える。


「《追跡》覚えました」


数秒。


「……は?」


今日何度目か分からない反応だった。


ハヤトは笑う。


また一つ。


できることが増えた。


明日は何を覚えるのか。


どこへ行くのか。


何が待っているのか。


まだ分からない。


でも。


今はそれでいい。


焚き火へ薪を一本追加する。


炎が大きくなる。


商隊護衛は、まだ初日。


目的地までの道のりは、あと二日残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。