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ランキング最高順位51位!『異世界に転移したので、もう我慢するのはやめました ~固有能力《自由》で好き勝手に生きる~』  作者: くんくん
選び取る明日

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塔の赤い光

森の奥から返ってきた鳴き声は、一つではなかった。


 低いもの。甲高いもの。遠くで重なるもの。


 レグが弓を握り直す。


「いっぱい来る」


「ああ」


 ハヤトも立ち上がった。


 さっき首輪を外した三匹だけではない。


 塔から伸びた赤い光が、もっと広い範囲へ命令を送ったらしい。


 ユアンは塔を睨んだまま、腰の道具を抜く。


「半年前は止まってた。少なくとも、こんな機能は動いてなかった」


「誰か直した?」


「その可能性が高い」


 カイルが塔の上を見る。


 赤い光はもう消えている。


 しかし最上部の窓際で、何かが動いた。


「人いる」


 セラが小さく言った。


 直後。


「そこを動くな!」


 塔から声が響いた。


 男の声。


 年齢までは分からない。


「道から離れろ! 今なら見逃す!」


 ハヤトは思わずユアンを見る。


「知り合い?」


「声だけじゃ分からん」


「工房の人?」


「俺の工房なら、あんな挨拶はしない」


 つまり味方ではなさそうだ。


 ハヤトが前へ出ようとすると、セラが腕を掴んだ。


「待って。鳴き声近くなってる」


 森の左。


 枝が揺れる。


 右側でも。


 クロがレグの前へ出て、低く唸った。


 やがて姿を現したのは、四匹。


 狼に似た獣が二匹。


 猪型が一匹。


 もう一匹は、四本脚の細長い獣。鹿に似ているが、角の根元に黒い輪が巻かれていた。


 全て首輪をつけている。


「また……」


 レグの表情が強張る。


 獣たちはすぐには襲ってこない。


 囲むように位置を取っている。


 まるで訓練されているように。


「塔から動かしてる」


 ユアンが呟いた。


「命令は?」


 ハヤトが聞く。


「多分、《近づけるな》か《戻せ》だ」


 塔の上から、再び声が飛ぶ。


「警告した! そこを離れろ!」


「そっちが先に獣をけしかけたんだろ!」


 ハヤトが返す。


「道を守っているだけだ!」


 返事はすぐだった。


 その一言に、レグが反応した。


「守る?」


 塔の男は答えない。


 代わりに、首輪の溝が一斉に赤く光った。


「来る!」


 セラの声と同時に、四匹が動いた。


     ◇


 最初に飛び込んできたのは狼型だった。


 ハヤトは剣を抜く。


 真正面から受けず、横へ。


 ベルドに叩き込まれた足運びが、もう意識しなくても少しずつ出るようになっている。


 牙が空を切った。


 反対側からもう一匹。


「ハヤト、そのまま!」


 セラの炎が地面を走る。


 細い火の線。


 獣の毛を焼くほど強くはないが、近づくには十分熱い。


 二匹目が進路を変えた。


「今なら一匹ずつ!」


 レグの矢が飛ぶ。


 獣ではなく地面。


 逃げ道を狭める。


 その隙にクロが一匹目へ回り込み、注意を引きつけた。


 ハヤトは首輪へ手を伸ばす。


「触る!」


 掴んだ瞬間、拒絶が来た。


 《管理者ではない》。


 もう慣れた感覚だ。


 《自由》で越える。


 命令の流れを探す。


 ――だが。


「……違う?」


 今までより強い。


 一本の命令ではない。


 首輪へ流れ込む何かが何度も更新されている。


「ユアン!」


「塔から直接送り続けてる! 一回切ってもまた繋がるぞ!」


「先にそれ言って!」


「今分かったんだ!」


 ハヤトが流れを断つ。


 赤い光が消える。


 一瞬だけ。


 すぐに首輪が再び光った。


「ほんとに戻った!」


 狼型の身体がまた強張る。


 ハヤトは手を離し、距離を取った。


「首輪だけじゃ駄目だ!」


 セラもすぐ状況を理解した。


「じゃあ塔止めるしかない?」


「多分!」


 問題は。


 塔までの間に四匹いる。


 さらに森の奥から、まだ鳴き声が聞こえていた。


     ◇


「俺とカイルで塔へ行く!」


 ユアンが叫んだ。


「二人で止められる?」


「中の仕組みが分かれば!」


「分からなかったら?」


「そのとき考える!」


「俺と同じじゃん!」


「うるさい!」


 こんな時なのに、セラが一瞬だけ笑いそうになる。


 だがすぐ、猪型が突っ込んできた。


「来る!」


 セラの炎が大きく広がる。


 今度は正面。


 真正面から焼くのではなく、猪型の左右へ炎を立ち上げた。


 進める方向を一本に絞る。


「ハヤト!」


「分かった!」


 一直線なら避けやすい。


 ハヤトが横へ跳ぶ。


 猪型が通過した瞬間、剣の腹を後脚へ当て、勢いを崩す。


 倒れはしない。


 だが速度は落ちた。


「レグ!」


 矢が飛ぶ。


 首輪の留め具、そのすぐ横。


 当たらない。


 ただ金属へ掠り、猪型が頭を振った。


「惜しい!」


「狙った!」


「分かってる!」


 レグは次の矢をつがえた。


 その間にユアンとカイルが塔へ向かう。


 だが塔から赤い光がもう一度走った。


 今度は二人の前へ、森から別の獣が飛び出してくる。


「増えた!」


 カイルが止まる。


 これでは進めない。


 ハヤトは周囲を見る。


 セラ。


 レグ。


 クロ。


 獣。


 塔。


 首輪。


 そして、自分の《自由》。


 首輪一つずつを切っても意味がない。


 なら。


「ユアン!」


「今度は何だ!」


「塔そのものにも資格あるんだよな!」


「ある!」


「何個?」


「知らん!」


「そこ重要!」


「制御塔なんだから、技師だけじゃ動かせない! 管理側と道守り側もあるはずだ!」


 複数。


 さっきの門と同じだ。


 本来は一人では持てない役目。


 だから。


 ハヤトなら触れる可能性がある。


「俺が塔行く!」


 セラがすぐこちらを見る。


「一人で?」


「ユアンも!」


「俺も行くことになってるのか!」


「仕組み分かるのユアンだろ!」


「それはそうだが!」


「カイルはここ!」


 カイルが眉を寄せる。


「俺も行った方が読めるぞ」


「でもレグたちだけじゃ多い!」


 セラが炎を扱える。


 レグも弓がある。


 クロもいる。


 だが、敵を倒すのが目的ではない。


 生かしたまま止めるなら、人数は必要だった。


 カイルは一瞬だけ迷い、頷く。


「分かった。こっちは見る」


 ハヤトとユアンが塔へ走る。


     ◇


 道を塞いだ一匹が飛び出す。


 細長い鹿型。


 角を振りながら突っ込んでくる。


「左!」


 ユアンの声。


 ハヤトは右へ行きかけた足を止め、左へ踏み込む。


 角が横を通過した。


「なんで左分かった!?」


「右に石ある!」


「先に見えてたの!?」


「道を見るのが仕事だ!」


「便利だな!」


 そのまま塔の入口まで走る。


 扉は閉じていた。


「開けられる?」


「普通なら俺一人じゃ無理!」


「じゃあ俺!」


「待て!」


 ハヤトが手を伸ばしかけて止まる。


「何?」


「ここは普通の扉じゃない。中から制御してるなら、触った瞬間向こうに分かる」


「もうバレてるだろ」


「……確かに」


「開けるぞ!」


「やれ!」


 右手を金属板へ置く。


 すぐに拒絶。


 《管理者ではない》。


 さらにもう一つ。


 《技師ではない》。


 その奥にも。


 《道の役を持たない》。


「三つ」


「越えられるか?」


「門より分かりやすい!」


 《自由》を通す。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 条件を順番に消す。


 頭の奥へ少し圧がかかる。


 だが、前ほどではない。


 一度経験している。


 ガコン。


 扉が開いた。


 ユアンが呆れた顔をする。


「お前、慣れるの早くないか?」


「資格飛ばすところだけな!」


 二人で中へ入る。


     ◇


 塔の内部は狭かった。


 中央に螺旋階段。


 壁沿いには古い配管と、新しく追加された黒い部品。


「半年前こんなのなかった」


 ユアンが壁を見る。


「全部追加されてる」


 上。


 人の足音。


 一人ではない。


「誰か来る」


 ハヤトが剣を構える。


 階段から降りてきたのは二人。


 どちらも人間。


 一人は三十代ほどの男。


 もう一人は、それより若い女性。


 武器は持っている。


 だが鎧はない。


 冒険者には見えなかった。


「止まれ!」


 男が叫ぶ。


「塔から命令切って!」


 ハヤトも返す。


「できない!」


「なんで!」


「止めたら道が開く!」


「何が来るんだよ!」


 男は一瞬答えなかった。


「獣だ」


「今獣けしかけてるのそっちだろ!」


「違う!」


 若い女性が声を上げた。


「この子たちは守ってるの!」


「首輪で?」


 ハヤトの言葉に、二人の表情が固まる。


「嫌がってても戻してたぞ」


「それでも必要なの」


 女性は迷いながらも、そう言った。


「ここを守るには」


 ユアンが一歩前へ出る。


「誰に教わった。その首輪の使い方」


 男の目がユアンの道具へ向く。


「……技師か」


「答えろ」


「北環工房」


 ユアンの表情が変わった。


「まだ残ってるのか」


「知ってる?」


 ハヤトが小声で聞く。


「名前だけ」


 男は階段の上へ手をかけたまま言う。


「この先の道は危険だ。獣を置かなきゃ、人が死ぬ」


「だから縛る?」


 今度はレグの声ではない。


 ハヤト自身が聞いた。


 男は言い返せなかった。


 代わりに女性が答える。


「じゃあどう守るの?」


 その問いに。


 ハヤトもすぐには答えられなかった。


     ◇


 外では、まだ獣たちが動いている。


 時間はない。


「とりあえず命令だけ止めて」


 ハヤトが言う。


「無理だ」


「何で?」


「一度止めたら、再起動には資格が三つ必要になる」


「管理、技師、道守り?」


 男が驚く。


「何で知ってる」


「さっき扉で使った」


「……は?」


 ハヤトは自分を指した。


「俺、一人で三つ通せる」


 沈黙。


 女性が本気で意味が分からない顔をしている。


「嘘だ」


「扉開いてるだろ」


「……」


 ユアンが横から続ける。


「こいつ、本当にやる。俺が見た」


「お前が再起動できる?」


「たぶん」


「たぶん?」


「仕組みはユアンが教えてくれれば」


「お前、本当に何なんだ……」


「その質問、最近多いな」


 ハヤトは階段の上を見る。


「今の命令止めて。必要ならあとで守る方法考える。少なくとも、嫌がってる獣を無理やり戦わせるのは一回やめよう」


 男は迷っている。


 女性も。


「今なら、また戻せる」


 ハヤトは続けた。


「本当に必要なら、そのとき改めて動かせる。俺がいる間なら」


 それが正しいかは分からない。


 でも。


 止めたら二度と使えないという理由で、今の命令を続ける必要はなくなる。


 男が歯を食いしばった。


「……上に来い」


「止める?」


「見せる。自分で見て、それでも止めるって言えるなら止めろ」


 ユアンとハヤトは目を合わせた。


「罠?」


「分からん」


「行く?」


「ここまで来て帰るのか?」


「だよな」


 二人は階段を上がる。


     ◇


 最上階。


 中央には、大きな円形の装置があった。


 黒い継ぎ片。


 古い石。


 新しい金属。


 全部が無理やり一つに繋がれている。


 中央から赤い光が伸び、森のいくつもの場所へ細く枝分かれしていた。


「これが命令」


 ユアンの顔が険しくなる。


「ひどい繋ぎ方だ」


「動いてる」


 男が答える。


「それで十分だ」


「十分じゃない。これじゃ受信側に負荷が行く」


「だから首輪が傷ついてた?」


 ハヤトが聞く。


「それもある」


 ユアンが装置へ近づく。


「命令を強く押しすぎてる。長く使えば、獣の方が先に壊れる」


 女性の顔色が変わった。


「そんな……」


「知らなかったのか?」


「北環工房の人は、問題ないって」


 ユアンが黙る。


 そこで。


 ハヤトは装置の奥に、別のものを見つけた。


 古い石板。


 赤い光とは違う。


 淡い白。


「これ何?」


 ユアンが覗き込む。


「元の機能だ」


「元?」


「この塔は本来、獣へ命令する場所じゃない」


 表面の文字。


 ユアンではなく、後から上がってきたカイルが読んだ。


「《道を閉じるとき、守る者へ知らせる》」


 ハヤトが振り返る。


「知らせる?」


「命令じゃない」


 カイルはさらに読む。


「《来るか否かは、守る者に任せる》」


 レグの《呼ぶ》と同じだった。


 元は。


 呼ぶだけ。


 選ぶのは相手。


 それが。


 今は首輪を通して、強制する形へ変えられている。


 男も女性も、言葉を失っていた。


「これ」


 ハヤトが赤い光を見る。


「一回止めよう」


 今度は。


 二人とも反対しなかった。

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