↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランキング最高順位51位!『異世界に転移したので、もう我慢するのはやめました ~固有能力《自由》で好き勝手に生きる~』  作者: くんくん
選び取る明日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
150/175

切れた命令

二匹目の獣が、炎の壁を避けるように大きく回り込んだ。


 セラはそれを見て炎の位置をずらす。獣へ直接ぶつけるのではなく、進ませたくない場所だけを塞いでいた。火の高さも必要以上に上げていない。


「ハヤト、左!」


「見えてる!」


 飛び込んできた牙を、剣で受けるのではなく半歩外して避ける。


 ベルドに何度も言われた動きだった。


 攻撃を見てから止まるな。


 相手が攻撃しやすい場所に、自分から残るな。


 以前なら正面から受けていた。今は身体をずらし、獣が通り過ぎる瞬間に横へ並ぶ。


 首輪へ手を伸ばした。


 だが、今度は触れる寸前で獣が身体を捻る。


「速っ!」


 爪が腕を掠めそうになり、ハヤトは慌てて引いた。


 簡単ではない。


 一匹目は偶然うまく触れられただけだ。


「レグ!」


「うん!」


 弓を構えていたレグが、獣ではなくその少し前へ矢を放つ。


 地面へ刺さった矢を嫌って、獣の進路が僅かに変わった。


 そこへクロが回り込む。


 低い唸り声。


 獣がクロを見る。


 一瞬だけ動きが止まった。


「今!」


 ハヤトが距離を詰める。


 今度こそ首輪を掴んだ。


 拒絶。


 《管理者ではない》。


 さっきと同じだ。


 《自由》で、その条件だけを越える。


 赤い光が揺らいだ。


「ユアン! さっきと同じでいいんだな!」


「たぶん同じだ! 命令側から来てる流れを探せ!」


「たぶん!?」


「俺だってこんな使い方したことない!」


 役に立つのか立たないのか分からない。


 それでも、入口には立てた。


 首輪の中へ意識を向ける。


 獣自身の魔力とは別に、外から押し込まれている細い流れがある。


 さっきよりは見つけるのが早かった。


「これだ」


 切る。


 赤い光が消えた。


 獣の身体がその場で崩れそうになる。


 ハヤトが慌てて支えようとしたが、重すぎて一緒に膝をついた。


「重っ……!」


「ハヤト!」


 セラが駆け寄る。


「大丈夫。噛まれてない」


「そっちじゃなくて潰されてない?」


「そっちもぎりぎり」


 獣は意識を失ったわけではなかった。


 荒い息を繰り返しながら、伏せたままこちらを見ている。


 だが、もう襲ってこない。


「二匹目」


 レグが呟く。


 残る一匹は、炎の向こう。


 こちらへ飛びかかろうとしていたはずなのに、今は妙な動きをしていた。


 一歩前へ出る。


 止まる。


 後ろへ下がる。


 すると首輪が赤く光り、獣の身体が強張った。


「嫌がってる」


 レグの声が低くなる。


 獣は逃げようとしている。


 それでも何かに引き戻されるように、またこちらへ向きを変えさせられる。


 クロが唸るのをやめた。


 ただ、じっと相手を見ている。


「セラ。火、少し開けられる?」


「逃げ道作る?」


「うん。でも首輪が戻してくるなら、その間に俺が行く」


 セラは炎を消さず、一方向だけ細く開いた。


 森へ続く道。


 獣はすぐにそこを見た。


 一歩。


 二歩。


 走り出そうとする。


 だが、首輪がまた光る。


 苦しそうに頭を振り、無理やり振り返ろうとした。


「今行く!」


 ハヤトが走る。


 レグも矢を構えたが、撃たない。


 クロは獣の正面には立たず、横から進路を支えるように動いた。


 ハヤトは横を抜けざま、首輪へ手をかける。


 今度は一度で触れた。


 拒絶を《自由》で越える。


 命令の流れを見つける。


 三回目。


 さすがに感覚が分かってきた。


「切る!」


 赤い光が消えた。


 獣は数歩よろめいたあと、そのまま森側へ走った。


「行った!」


 レグが声を上げる。


「追わなくていい!」


 ハヤトが止めるまでもなく、クロも追わなかった。


 獣は森の手前で一度だけ振り返る。


 それから木々の間へ消えていった。


 誰も止めなかった。


     ◇


 残った二匹は、しばらく動けなかった。


 ハヤトたちは道の端へ移し、水を置く。


 セラが一匹ずつ様子を確認していた。


「傷は首のところが一番ひどい。あとは疲れすぎてる」


 首輪の下。


 毛が抜け、皮膚が擦れている。


 それを見たレグの顔が険しくなる。


「外す?」


「待て」


 ユアンがすぐに止めた。


「命令は切れてる。でも首輪そのものに別の仕掛けがあるかもしれない」


「まだ?」


「ああ。強制的に外したときに反応する型もある」


 レグの手が止まった。


「じゃあどうする?」


「まず調べる」


 ユアンが首輪の溝を確認し、カイルも反対側から刻印を読む。


 その間、セラは擦れた皮膚へ薬を使っていた。


 ハヤトが横から覗く。


「治癒術は?」


「少しだけ使う。でも全部はやらない」


 セラは一番深く擦れている場所だけ、弱い光で傷を整えた。


「体力落ちてるから、今無理に治しすぎない方がいいと思う。人とは違うし、どのくらい負担になるかも分からないから」


「なるほど」


「マーナさんなら、もっとちゃんと判断できるんだろうけど」


「でも前より慎重になったな」


「それはなった」


 セラは素直に頷いた。


 その横で、一匹がゆっくり目を開ける。


 レグが少し離れてしゃがんだ。


「もう襲わない?」


 当然、返事はない。


 獣はレグを見る。


 次にクロ。


 鼻を僅かに動かし、そのまま頭を下ろした。


「疲れてるだけっぽい」


 ハヤトが言うと、レグも無理に近づかなかった。


「休むなら休む」


     ◇


「見つけた」


 少しして、カイルが呼んだ。


 首輪の外側。


 細い溝の間に、小さな文字が並んでいる。


「何て書いてる?」


 ハヤトが隣へ行く。


「全部は読めない。ただ、《守る》と《戻す》はある」


「戻す?」


「命令を受けた場所へ戻す、だと思う」


 ユアンが別の部分を指した。


「こっちは受信側だな。やっぱり首輪単体で全部やってるんじゃない」


「どこかから命令来てる?」


「ああ」


 ユアンは周囲を見回した。


「この型なら、ずっと遠くから飛ばせるほど強くない。近くに中継するものがあるはずだ」


「どれくらい近く?」


「道の状態にもよるが、数時間歩く範囲だと思う」


 レグが北東を見る。


「前?」


「可能性は高い。こいつらがそっちから来たならな」


 クロが同じ方角へ顔を向ける。


 先ほどから気にしていた匂い。


 新しい足跡。


 三匹の獣。


 全部が同じ方向につながっている。


「誰かが今も使ってる」


 セラが言った。


 ユアンはすぐには頷かなかった。


「少なくとも、最近まで命令を出せる状態だった。それが人間なのか、自動で残ってる装置なのかはまだ分からない」


「自動でもこんなことする?」


 レグが首輪を見る。


「命令が残ってれば、する」


「嫌」


 短い言葉だった。


 ハヤトも同じ気持ちだった。


     ◇


 首輪を外せたのは、さらに一時間ほど調べたあとだった。


 ユアンが仕掛けを確認し、カイルが古い刻印を読み、最後にハヤトが《自由》で外すための認証だけを越える。


「そこ押すなよ」


「どこ?」


「今指置いてるとこの隣」


「怖いこと言うなよ」


「だから動かすなって」


「分かった」


 首輪の奥で、小さく音がした。


 本来なら管理側の資格がなければ開けない留め具。


 そこだけを《自由》で通す。


 ユアンの指示通りに金具を動かすと、首輪が二つに分かれた。


「外れた」


 レグの顔が明るくなる。


「もう一匹も」


「同じ型ならいける」


 二匹目はさらに早かった。


 ハヤト自身も少し驚く。


 できることが急に増えたわけではない。


 一度やったことだから、手順が分かっただけだ。


「慣れてきた?」


 セラに聞かれ、ハヤトは外した首輪を見る。


「入口開けるところだけは」


「中身は?」


「全然」


「じゃあユアンとカイル必要」


「そういうこと」


 カイルが苦笑する。


「俺たち、鍵開けた後の説明係みたいになってきたな」


「重要だろ。俺だけだったら今頃どっか壊してるかもしれない」


「自覚があるならいい」


 ユアンは外した首輪を布へ包んだ。


「これは持っていく。工房で調べる」


「一個は残せない?」


 レグが聞く。


「調べたい?」


「クロのと比べたい」


 ユアンは少し考え、一つをカイルへ渡した。


「勝手に動かすなよ」


「ハヤトに言っとけ」


「なんで俺!?」


 今度はセラまで笑った。


     ◇


 二匹の獣が立てるようになったのは、昼をかなり過ぎてからだった。


 最初に一匹。


 次にもう一匹。


 クロが少し離れて立っている。


 片方が近づき、クロの匂いを嗅いだ。


 クロも相手の鼻先へ顔を寄せる。


 しばらく。


 それだけ。


 仲間になるわけでもない。


 ついてくるわけでもない。


 やがて二匹は森へ向かった。


「行くの?」


 レグが声をかける。


 一匹だけ振り返る。


 そして、そのまま森へ消えた。


 レグは追わなかった。


「クロみたいに来ない」


「来る理由ないからな」


 ハヤトが言う。


 レグは少し考え、頷いた。


「自分で行った」


「ああ」


 クロの尻尾が一度動いた。


     ◇


 出発を再開したのは午後になってからだった。


 予定よりかなり遅れている。


 だが、誰も急ごうとは言わなかった。


 ユアンが先頭を歩き、その隣でカイルが地図を見る。


「この先に昔の監視所がある」


「そこが命令の中継?」


 ハヤトが尋ねると、ユアンは首を傾げた。


「可能性はある。ただ、俺が前に通ったときは止まってた」


「いつ?」


「半年くらい前」


「じゃあ最近動いた?」


「それを確かめる」


 森の中。


 さっきまでより、全員の警戒が少し強くなっている。


 レグがハヤトの横へ来た。


「ハヤト」


「ん?」


「さっきすごかった」


「首輪?」


「うん」


「三匹目はちょっと慣れた」


「何でもできる?」


 ハヤトは少し笑った。


「できない」


「でも首輪できた」


「触れるところまではな。ユアンがいなきゃ外し方分からなかったし、カイルがいなきゃ何が書いてるかも分からない」


「でもハヤトいないと触れない」


「今回はな」


 レグはしばらく考えた。


「じゃあ、みんないるといっぱいできる」


「そういうことかもな」


「レグもいた」


「矢、助かったよ」


「セラも」


「火なかったら二匹まとめて来てた」


「クロも」


「一匹支えてたな」


 レグは満足そうに頷いた。


「じゃあ強い」


 誰が、とは言わなかった。


 ハヤトも聞かなかった。


     ◇


 夕方近く。


 道の先に、低い石造りの塔が見えた。


 三階ほどの高さ。


 壁には蔦が絡んでいる。


「監視所?」


 カイルが尋ねる。


「そう」


 ユアンの歩みが止まる。


「でも、おかしい」


「何が?」


「半年前は上が崩れてた」


 全員が塔を見る。


 確かに古い。


 だが、最上部には新しい木材で補修された屋根があった。


 さらに。


 塔の脇。


 小さな煙が上がっている。


「人いる?」


 レグが弓へ手を添える。


「いるな」


 ハヤトも剣へ手を置いた。


 まだ敵とは限らない。


 そのとき。


 塔の上で何かが光った。


 一度。


 赤。


 ユアンの表情が変わる。


「伏せろ!」


 全員が身を低くする。


 直後。


 ハヤトたちの横を何かが走り抜けた。


 攻撃ではなかった。


 細い赤い光が森の奥へ伸びていく。


 レグが振り返る。


「今の」


 ユアンは塔を見たまま答えた。


「命令を送った」


 遠く。


 森の中から。


 獣の鳴き声が、いくつも返ってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。