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ランキング最高順位51位!『異世界に転移したので、もう我慢するのはやめました ~固有能力《自由》で好き勝手に生きる~』  作者: くんくん
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止められた道

翌朝、中継所を出たハヤトたちは、ユアンを加えた六人と一匹で北東へ進んでいた。


 古い道は昨日までより狭い。


 石畳が残っているところもあれば、完全に土へ埋もれているところもある。それでもユアンはほとんど迷わなかった。


「よく覚えてるな」


 ハヤトが言うと、ユアンは前を向いたまま肩をすくめた。


「仕事で何度も通ってる。全部覚えてるわけじゃないけど、古い道には癖があるんだよ」


「癖?」


「水が溜まらない場所を通すとか、山を越えるときは必ず目印を置くとか。昔の連中は無茶な場所にも道を作ったけど、適当に作ってたわけじゃない」


 少し前を歩いていたカイルが振り返る。


「そういうの、記録に残ってないのか?」


「工房にはある。ただ、読むより歩いた方が早い」


「それ言ったら地図の意味なくない?」


「地図は迷ったときに見る」


「俺は迷わないために見る」


「性格出るな」


 二人の会話を聞きながら、ハヤトは少し笑った。


 昨日まではカイル一人が古い仕組みを追っていた。


 そこへ同じものを別の側から知るユアンが加わったことで、話の進み方が変わっている。


 カイルは文字や記録から読む。


 ユアンは実際に直してきた経験から見る。


 同じものを見ても、注目する場所が違った。


「ハヤト」


 隣を歩いていたセラが呼ぶ。


「前」


「見てるよ」


「さっきカイルの方ばっか見てたから」


「転ばないって」


「この前も言ってた」


「まだ引っ張る?」


「一応」


 セラはそう言いながら、自分も足元の草へ視線を落とした。


 今度はちゃんと歩く速度を落としている。


「薬草?」


「似てるだけ。これは違う」


「もう見分け早くなったな」


「まだ分かるのだけだよ」


 その返事には少し嬉しさが混じっていた。


     ◇


 昼前。


 道は切り立った岩壁の間へ入った。


 そこでユアンが足を止める。


「ここ、前は開いてたんだけどな」


「何が?」


 レグが前へ出る。


 道の先を、巨大な石板が塞いでいた。


 高さは三メートルほど。


 左右の岩壁へぴったり収まり、隙間はほとんどない。


 崩落ではない。


 明らかに人の手で閉じられている。


「扉?」


 ハヤトが近づくと、ユアンが頷いた。


「古い防壁。普段は地面の下に下がってる」


「誰かが閉めた?」


「そういうことになる」


 カイルはすでに扉の横へ移動し、刻まれた文字を読んでいる。


「新しい傷がある」


 石板の下部。


 土が擦れた跡がまだ乾ききっていない。


 ユアンの顔が少し険しくなった。


「少なくとも何年も閉じっぱなしじゃないな」


「最近?」


「数日……長くても数週間くらいだと思う」


 レグがクロを見る。


 クロは扉へ近づき、鼻を鳴らした。


 それから岩壁の右側へ移動する。


「何かある?」


 そこには小さな金属板が埋め込まれていた。


 昨日見た黒い部品より大きい。


 中央には三つの窪み。


「これで開ける?」


 レグが聞く。


 ユアンはすぐ触らず、しゃがんで状態を確認した。


「本来ならそうだ」


「本来なら?」


「三人必要なんだよ」


「三人?」


 ユアンは窪みを順番に指した。


「道を管理する者。運ぶ者。それから、技師」


 ハヤトが思わず笑う。


「めんどくさいな」


「勝手に開けられないようにしてるんだから、面倒でいいんだよ」


「ユアンは技師?」


「ああ」


「カイルは?」


「どれでもない」


「レグは?」


「竜は関係ない」


「俺は?」


 ユアンが一度ハヤトを見る。


「普通なら何にも当てはまらない」


「普通なら、ね」


 セラが小さく言った。


 全員の視線がハヤトへ集まる。


「その顔やめない?」


「昨日の今日だから」


 カイルは笑っていない。


「できると思うか?」


「条件なら、多分」


「三つ同時だぞ」


 ハヤトは金属板を見る。


 一つなら越えた。


 石柱も。


 分岐の案内も。


 でも三つを同時に求められたことはない。


「やってみないと分からない」


 そう答えると、レグが少し嬉しそうな顔をした。


「ハヤトっぽい」


「褒めてる?」


「うん」


「ならいいけど」


 ユアンがため息をついた。


「一応言っとくが、失敗したら扉が壊れるとかはない。ただ、強く押し返されることはある」


「押し返される?」


「魔力が逆流する」


 セラの表情が変わる。


「それ危ないじゃん」


「無理だと思ったらすぐ離す」


 ハヤトが答えると、セラは少し考えたあと頷いた。


「分かった。でも変だと思ったらすぐ止めて」


「了解」


     ◇


 最初にユアンが右端の窪みへ手を当てた。


 淡い光が一つ灯る。


「これが技師」


「一個ついた」


 レグが覗き込む。


「残り二つ」


 ハヤトは中央へ手を置いた。


 まず、何もせず魔力を流す。


 すぐに拒まれた。


 運ぶ者ではない。


 昨日と同じ。


 《自由》を重ねる。


 境目が消えた。


 二つ目の光が灯る。


「いけた」


 ユアンが呟く。


「問題は最後だ」


 左端。


 道を管理する者。


 ハヤトは空いている左手を当てる。


 こちらは違った。


 拒まれる。


 だが、さっきより重い。


「……固いな」


 セラがすぐ反応する。


「無理そう?」


「いや。越えられそうではある」


 《自由》を使う。


 境目へ触れる。


 その瞬間、二つ目の光が揺れた。


「ハヤト」


「分かってる」


 一つを越えたまま、別の一つを越える。


 頭の中で二つの扉を同時に押さえているような感覚。


 できないわけではない。


 でも、今までとは違う。


「これ……ちょっと面白いな」


「今楽しむところ?」


 セラの声が飛ぶ。


「いや、何ていうか」


 ハヤトは集中したまま笑う。


「別々の役目を同時に持つのが、本来駄目なんだと思う」


「だから三人必要なんだろ」


 ユアンが答える。


「多分」


 普通なら、運ぶ者は運ぶ者。


 道を見る者は道を見る者。


 一人で両方を満たす前提では作られていない。


 でも。


 ハヤトには関係ない。


「なら」


 息を吐く。


「両方やればいい」


 《自由》がもう一段深く通った。


 三つ目の光が灯る。


 石板の奥で、低い音が響いた。


「開く!」


 レグが一歩下がる。


 巨大な石板がゆっくり地面へ沈んでいく。


 完全に下がるまで十秒ほど。


 その向こうに、北東へ続く道が現れた。


「……ほんとに一人で二つ通したな」


 ユアンが呆れたようにハヤトを見る。


「結構きつかったけど」


「どこか痛い?」


 セラがすぐ近づいてくる。


「痛くはない。ちょっと疲れたくらい」


 実際、魔力を大きく使った感覚はない。


 ただ、頭が少し重い。


 セラは顔色を確認してから、無理に治癒術を使おうとはしなかった。


「少し休もう」


「まだ歩けるよ」


「歩けるのと休まなくていいのは別」


 マーナの言葉が完全に染みついている。


 ハヤトは笑って岩壁へ背を預けた。


「分かりました」


 ユアンはまだ金属板を見ていた。


「技師と運び手と道守り。三つ別々に認識してるのに……」


「変?」


「変どころじゃない」


 レグが得意そうに言う。


「ハヤト、すごい」


「珍しく真っすぐ褒めたな」


「でも剣は練習中」


「最後いらない」


 セラが吹き出した。


     ◇


 休憩を終え、扉の向こうへ進む。


 道はそれまでより整っていた。


 使われなくなった古道というより、誰かが今も最低限の手入れをしているように見える。


「草が少ない」


 セラが言う。


「誰か通ってるな」


 ユアンの声も低くなる。


 地面には複数の足跡。


 一人ではない。


 靴の形も違う。


「何人?」


 レグが尋ねる。


 カイルとユアンがしゃがんで確認する。


「少なくとも三人」


「もっといるかもな」


 その少し先。


 木の幹に、新しい切り傷があった。


 一本。


 さらに十歩先に二本。


 規則的。


「目印?」


 ハヤトが聞くと、ユアンは首を横に振った。


「工房の印じゃない」


 クロが止まる。


 鼻を上げる。


 今度は明らかに警戒していた。


 背中の毛が少し立っている。


「クロ」


 レグが声を落とす。


 前方。


 森の奥。


 何かが動いた。


 すぐ消える。


「人?」


 セラの手に小さな炎が灯った。


 いつもの治癒の光とはまったく違う。


 赤く、鋭い。


 ハヤトは剣へ手を伸ばしながら、少しだけ距離を取る。


「無理に追わない。向こうが出てくるなら見る」


 レグも弓を構える。


 カイルは短剣。


 ユアンは腰の棒状の道具を抜いた。


 しばらく。


 何も起きない。


 風だけが葉を揺らす。


「行った?」


 レグが聞いた、その直後だった。


 右側の茂みから何かが飛び出した。


 黒い獣。


 狼に似ている。


 ただし、クロとは違う。


 首に。


 黒い輪がある。


「下がって!」


 セラの声と同時に、獣が飛びかかる。


 ハヤトが剣を抜く。


 正面から受ける――その瞬間、ベルドの言葉が頭に浮かんだ。


 打たれてから動くな。


 半歩ずれる。


 牙が横を抜ける。


 そのまま剣の腹で胴を押し、地面へ転がした。


「殺さないで!」


 レグが叫ぶ。


「分かってる!」


 獣はすぐ立ち上がる。


 目が普通ではない。


 焦点が合っているのに、こちらを見ていない。


 首輪の溝が赤く光っている。


「命令受けてる!」


 ユアンが声を上げた。


「止められる?」


「首輪を外せば――」


 獣が再び飛ぶ。


 今度は二匹。


 森の左右から現れた。


「セラ!」


「分かってる!」


 セラが腕を振る。


 炎が地面を走った。


 獣へ当てるのではなく、その前へ壁を作る。


 二匹が反射的に止まった。


 火の扱い。


 迷いがない。


 治癒術を学んでいても、ここがセラの得意分野だ。


「今!」


 レグの矢が飛ぶ。


 首輪ではない。


 一匹の足元。


 進路を変えさせる。


 クロが反対側へ回り込み、低く唸った。


 三匹。


 首輪。


 命令。


 ハヤトは一瞬考えた。


 首輪を壊す?


 違う。


 中身が分からない。


 なら。


「ユアン!」


「何だ!」


「この首輪、資格ある?」


 ユアンの目が見開かれる。


「……ある!」


「何の?」


「制御側の認証!」


 それだけ聞けば十分だった。


 ハヤトは一匹目へ向かって走る。


「ハヤト!?」


 セラの声。


「ちょっと試す!」


「ちょっとで済ませて!」


 獣が牙を剥く。


 ハヤトは左へ避ける。


 ベルドに教わった足。


 すれ違いざま、首輪へ手を伸ばす。


 触れた。


 瞬間。


 強い拒絶。


 《管理者ではない》。


「やっぱり!」


 《自由》を通す。


 条件が消える。


 首輪の赤い光が一瞬だけ揺らいだ。


「何すればいい!?」


「命令を切れ!」


 ユアンが叫ぶ。


「どうやって!?」


「分からん!」


「そこは分かっててくれよ!」


 獣が暴れる。


 ハヤトは手を離さない。


 使える。


 でも使い方が分からない。


 まさにいつもの《自由》だ。


 なら。


 できることを探す。


 押す。


 切る。


 止める。


 感覚を探る。


 首輪から何かが流れ込んでいる。


 獣へ向かって、一方的に。


「これか……!」


 その流れだけを断つ。


 ハヤトが意識した瞬間。


 赤い光が消えた。


 獣の身体から力が抜ける。


 倒れる――前に、クロが下へ入り込むように支えた。


「一匹!」


 レグが叫ぶ。


 残り二匹。


 ハヤトは息を整える。


「同じならいける!」


「一人で全部やろうとしない!」


 セラが炎を広げ、二匹を分断する。


「右は止める! 左行って!」


「了解!」


 レグが矢で逃げ道を限定する。


 クロは倒れた一匹から離れずにいる。


 カイルとユアンは首輪の動きを見ていた。


 一人ではない。


 ハヤトが何でもできるわけでもない。


 でも。


 普通なら触れない場所へ、手だけは届く。


 それで十分だった。


 ハヤトは二匹目へ向かって駆けた。

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