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ランキング最高順位51位!『異世界に転移したので、もう我慢するのはやめました ~固有能力《自由》で好き勝手に生きる~』  作者: くんくん
選び取る明日

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選び取る明日

町へ着いた頃には、空の半分以上が夕暮れに染まっていた。


 遠くから見たときは小さな町に思えたが、中へ入ってみれば宿屋も食堂もあり、街道沿いには商人の荷車が何台も停まっている。


 町の名はトルカ。


 周囲に広がる畑と、街道を行き交う荷を相手に成り立っている町らしい。


「肉のにおいする」


 宿を探していたレグが、いきなり進路を変えた。


「そっちは宿じゃないぞ」


 ハヤトが呼び止めると、レグは食堂の前で足を止める。


「先にごはん」


「荷物置いてから」


「近い」


「何が?」


「ごはん」


「宿も近いから」


 レグは少し考え、食堂とハヤトを見比べた。


 結局、渋々戻ってくる。


「セラも宿?」


「当たり前でしょ。私も荷物重いし」


 そう言って、セラは肩に掛けた鞄を持ち直した。


 その動きを見ていたハヤトと目が合う。


 一瞬。


 セラが先に視線を逸らした。


「……何?」


「いや、何も」


「なら見ないで」


「見てないって」


「見てた」


 レグが横から言う。


「お前はいいから宿探せ」


「なんで?」


「なんでも」


 後ろを歩いていたカイルが、小さく笑った。


「随分分かりやすくなったな」


「何が?」


「何でもない」


「お前までそれ使うな」


 結局、街道から一本入ったところにある宿へ入った。


 部屋を取って、荷物を置く。


 そのあとは当然のように、レグが最初に見つけた食堂へ向かった。


     ◇


 翌朝。


「今日はどうする?」


 朝食を終えたところで、セラが尋ねた。


 ハヤトはパンをちぎりながら首を傾げる。


「どうするって?」


「次の行き先」


「ああ」


 決めていなかった。


 白い森を出るときも。


 この町へ向かうときも。


 ひとまず補給できる場所へ行こう。それだけだった。


 レグがすぐ口を挟む。


「おとうさんの方?」


「今すぐは行かないって決めただろ」


「うん」


「なら、まず情報集め」


 カイルが卓の上へ地図を広げる。


 北東。


 ミレアから聞いた、ガルドが向かった可能性のある地域。


 そこだけ、カイルの地図は極端に情報が少ない。


「道そのものがないわけじゃない。ただ、この先は古い地図と今の地図でかなり違う」


「じゃあ新しい地図探す?」


 セラが聞く。


「それもする。商人にも話を聞きたい」


「何日くらい?」


「二、三日いてもいいんじゃないか」


 ハヤトがそう言うと、レグは意外そうな顔をした。


「急がない?」


「急いでないからな」


「おとうさんいるかも」


「いるかもしれない。でも、どこか分からないまま突っ込んでも仕方ないだろ」


「うん」


 以前なら、そこで「じゃあ探しながら行く」と言っていたかもしれない。


 今のレグは素直に頷いた。


「じゃあ何する?」


「とりあえず町見るか」


「ごはん?」


「朝食ったばっかだろ」


「お昼の見る」


「早い」


 セラが笑う。


「私は冒険者組合があるなら、一回見てみたいかな」


「依頼?」


「それも」


 少し歯切れが悪い。


 ハヤトが聞き返そうとすると、セラはもう席を立っていた。


「行けば分かる」


「なんだそれ」


「早く」


「はいはい」


     ◇


 トルカの冒険者組合は、それほど大きくなかった。


 受付が二つ。


 依頼板が一枚。


 酒場を兼ねた待合には、朝から数人の冒険者がいる。


 レグは入った瞬間に依頼板へ向かった。


「これ」


「読める?」


「ちょっと」


「何て書いてある?」


「……畑」


 ハヤトが横から読む。


「畑を荒らす角兎の駆除だな」


「やる?」


「お前、何でもやりたがるな」


「弓使える」


「ああ、なるほど」


 確かに練習にはなる。


 ただ、その前にカイルは受付で地図について話を聞き始めていた。


 ハヤトもそちらへ行こうとして。


「セラ?」


 足が止まる。


 セラが見ていたのは依頼板ではない。


 組合の奥。


 半開きの扉の向こうに、簡素な寝台が並んでいる。


 一人の男が腕に包帯を巻かれ、その隣では女性が治癒術を使っていた。


「治療所?」


 ハヤトが尋ねる。


 近くにいた受付の女性が答えた。


「小さいものですけどね。この辺、今は収穫期なので怪我人が多くて」


「組合で治療するんですか?」


「冒険者だけじゃないですよ。町の治療院が手いっぱいのときは、ここにも回ってきます」


 奥で治療していた女性が、額の汗を拭う。


 年齢は五十前後だろうか。


 一人治療を終えると、すぐ別の男が入ってきた。


「忙しそうだね」


 ハヤトが言っても、セラは返事をしなかった。


 視線が治癒術を追っている。


 傷口そのものではない。


 術の使い方。


 魔力を流す位置。


 手の動き。


「気になる?」


 声をかけると、セラがようやくこちらを見た。


「ちょっと」


「見たことないやつ?」


「治癒術自体は普通。でも……あの人、傷を全部治してない」


「治してないの?」


「うん」


 セラはもう一度、奥を見る。


「出血を止めて、傷が開かないところまでで術を止めてる。多分、残りは自然に治すつもり」


「何で?」


「分からない」


 だから気になる。


 そういう顔だった。


 しばらくすると、治療していた女性がこちらに気づいた。


「何か用かい?」


「あ、すみません」


 セラが一歩下がる。


「見てただけで」


「治癒術師?」


「一応使えます」


「一応、ねえ」


 女性はセラの腰にある冒険者証を確認した。


「ちょうどいい。暇なら手伝ってくれない?」


「え?」


「昼まででいい。今朝、荷馬車がひっくり返ってね。あと五人来る」


 セラが完全に不意を突かれた顔をした。


「私が?」


「治せるんだろ?」


「治せますけど……」


 セラがハヤトを見る。


 視線が合った。


 ハヤトは少し待ってから聞く。


「やりたい?」


「……」


 セラはすぐには答えなかった。


 奥の治療所を見る。


 もう一度ハヤトを見る。


「予定は?」


「ない」


「地図は?」


「カイルがやってる」


「レグは?」


 二人で依頼板の方を見る。


 レグは角兎の依頼を剥がそうとして受付に止められていた。


「勝手に取るなって言われてる」


「……元気そうだね」


「かなり」


 セラが笑った。


 それでもまだ、少し迷っている。


「でも、みんなで来たのに」


 その言葉を聞いて、ハヤトは首を傾げた。


「別に一日くらい別々でよくない?」


「そうだけど」


「セラがやりたいならやればいいだろ」


 言ってから。


 少しだけ考え直す。


「いや」


「何?」


「俺は、やってみたらいいと思う」


 セラが瞬きをする。


「何その言い直し」


「好きにすれば、だけだと何か違うかなって」


「……」


「興味あるんだろ?」


「ある」


「ならそれでいいじゃん」


 セラはしばらく黙っていた。


 やがて。


「じゃあ、手伝う」


 奥の女性へ向き直る。


「昼まででもいいですか?」


「十分。こっち来な」


「はい」


 セラは二、三歩進んだところで振り返った。


「ハヤト」


「ん?」


「終わるまでどっか行ってていいよ」


「言われなくても」


「でも昼には戻ってきて」


「分かった」


 一瞬だけ。


 白い森へ行く前より自然に、二人とも笑った。


     ◇


 その後、ハヤトとレグは角兎の駆除依頼を受けた。


 クロも一緒。


 カイルは町に残る。


「俺も畑行かないの?」


 カイルが聞くと、ハヤトは地図を指した。


「お前、そっちの方が行きたいだろ」


「まあ」


「なら頼む」


「分かった」


 全員が別々。


 こんな日は珍しい。


 畑へ向かう道で、レグが聞いてきた。


「セラ、いない」


「昼には戻る」


「うん」


「寂しい?」


「ちょっと」


「俺も」


「ハヤト、セラ好き?」


 足が止まりかけた。


「急だな!」


「なんで?」


「なんでって」


 レグは普通に歩いている。


 悪意も、からかうつもりもない。


「セラいないと寂しいって言った」


「レグもだろ」


「レグはセラ好き」


「そういう意味じゃなくてな」


「違う好き?」


「……弓の練習しようか」


「逃げた」


「どこでそんな言葉覚えた」


「セラ」


「絶対嘘だろ」


 レグが笑った。


 畑に着く頃には、ハヤトも諦めて笑っていた。


     ◇


 角兎は、思ったより素早かった。


 一匹目。


 レグの矢は外れる。


 二匹目。


 足元。


 三匹目で、ようやく矢が胴の横を掠めた。


「惜しい!」


「今の当たった?」


「掠っただけ」


「半分当たり」


「前にも聞いたな、それ」


 クロが逃げる角兎の進路へ回り込む。


 追い詰めるのではない。


 畑から森側へ逃げるよう、自然に道を塞いでいる。


「クロ、うまい」


「昔の道番ってこういうのも得意だったのかもな」


 レグが弓を引く。


 今度は急がない。


 呼吸。


 足。


 弦。


 放つ。


 矢が、角兎のすぐ前の地面へ刺さった。


 驚いた角兎が進路を変え、森へ飛び込んでいく。


「……外れた」


「でも畑から出した」


「倒してない」


「依頼、追い払うだけでもいいって言ってたぞ」


「じゃあ成功?」


「一匹はな」


 レグの顔が明るくなる。


「次」


「元気だな」


 畑の持ち主に礼を言われる頃には、太陽が真上近くまで上がっていた。


「セラのとこ戻る」


 レグが言う。


「そうだな」


「お昼も」


「そっちが本命じゃない?」


「どっちも」


     ◇


 組合へ戻ると、治療所の前は朝より静かになっていた。


 セラは最後の一人を診ている。


 横には、朝の女性。


「そこまででいい」


「でも傷、まだ」


「塞ぎすぎると、今度は身体の方が追いつかない」


「魔力を使いすぎるから?」


「それもある。治した場所が全部元通りになったと思って、本人がすぐ動くのも困る」


 セラは腕を組んで考えている。


「治せるから全部治す、じゃないんですね」


「必要な分だけ治す。それも治癒術だよ」


 女性が答えた。


 セラの顔が変わった。


 納得したというより。


 まだ知りたい。


 そんな顔。


 ハヤトは声をかけずに待った。


 やがて治療が終わる。


「お疲れ」


 セラがこちらを見る。


「戻ってたんだ」


「今」


「依頼は?」


「レグが一匹追い払った」


「倒した?」


 レグが胸を張る。


「追い払った」


「そこは正直なんだ」


「成功」


「うん。成功だね」


 女性が片付けながらセラへ言った。


「明日も町にいる?」


「多分」


「なら午前中だけ来る?」


 セラが止まる。


「いいんですか?」


「働いてもらうんだから、こっちが聞いてるんだよ」


「でも」


「覚えたいなら、見てくだけよりやった方が早い」


 セラは反射的にハヤトたちを見る。


 そして。


 途中で止めた。


 少しだけ笑う。


「……明日も来ます」


 自分で答えた。


「じゃあ朝ね」


「はい」


 女性が奥へ戻っていく。


 ハヤトはセラを見る。


「決めるの早かったな」


「駄目?」


「いや」


「じゃあいいでしょ」


「うん」


 セラは少し嬉しそうだった。


「二日くらい、この町いてもいい?」


「俺はいい」


 レグもすぐ頷く。


「弓やる」


「俺も地図集めたい」


 戻ってきたカイルも異論はない。


「じゃあ決まりだな」


 ハヤトが言うと、セラがこちらを見る。


「ハヤトは?」


「俺?」


「みんな理由あるけど」


 考えていなかった。


 セラは治癒術。


 レグは弓。


 カイルは地図。


 クロはどこへ行ってもクロだ。


「俺は……」


 少し考える。


「何か探す」


「何それ」


「予定ないんだから仕方ないだろ」


 セラが笑う。


「じゃあ明日、一人だね」


「別に平気だよ」


「寂しい?」


「……ちょっと」


 セラの笑みが深くなる。


「素直になったね」


「誰のせいだと思ってる」


「知らない」


 今度はセラが先に歩き出した。


 昼飯を探すレグがすぐ後を追う。


 カイルは集めた地図を抱えている。


 ハヤトも、その後ろへ続いた。


 急ぐ理由はない。


 だから足を止める。


 何もしないためではなく。


 それぞれが今、やってみたいことを選ぶために。


 第三部の旅は、そんな寄り道から始まった。

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