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ランキング最高順位51位!『異世界に転移したので、もう我慢するのはやめました ~固有能力《自由》で好き勝手に生きる~』  作者: くんくん
第1部 自由への一歩

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第13話 龍の飯代は思ったより高い


翌朝。


ハヤトが目を覚まして最初に考えたのは、新しい盾のことだった。


二枚目の盾まで壊してしまった。


短剣もそろそろ心許ないし、革鎧も昨日の戦闘で傷が増えている。


遺跡の報酬が入ったとはいえ、このまま装備を壊すたびに買い直していたら金はいくらあっても足りない。


「今日は買い物だな」


ベッドから起き上がり、身支度を整える。


そして部屋を出たところで、もう一つ思い出した。


「……その前にレグか」


昨夜別れてから、まだ半日も経っていない。


それなのに怪我の状態が妙に気になった。


ギルドへ向かい、そのまま裏手の魔獣用厩舎へ回る。


扉を開ける。


「おはよ――」


最後まで言えなかった。


奥で丸くなっていたレグが勢いよく顔を上げたからだ。


ハヤトだと分かった瞬間、立ち上がる。


「おい、走るなって!」


昨日より後ろ脚の状態は良さそうだったが、完治には程遠い。


それでもレグは止まらない。


三本の脚を中心に使いながら、ぎこちない動きでハヤトのところまでやってくる。


そのまま頭から腹へ突っ込んできた。


「ぐっ……!」


想像以上の重さに、ハヤトが一歩下がる。


レグは気にする様子もなく身体を押しつけ、喉を鳴らしている。


「昨日の夜も会っただろ」


頭を撫でる。


角の間に手を入れると、レグは目を細めた。


どうやらここを撫でられるのが好きらしい。


「脚は?」


ハヤトがしゃがむ。


布の巻かれた後ろ脚を見ようとすると、レグは素直に身体を横へ向けた。


昨日より腫れが引いている。


治療師が言っていた通り、このままなら問題なく治りそうだ。


翼の傷も悪化していない。


「よし。ちゃんと休んでたみたいだな」


レグが短く鳴く。


その時。


厩舎の外からミレイが顔を出した。


「ハヤトさん、ちょうどよかったです」


「おはようございます」


「おはようございます。それと、お話があります」


何となく嫌な予感がした。


「また何かやりました?」


「今回はまだ何もしてません」


「今回は、って自分で言ってますよ」


ミレイが一枚の紙を差し出す。


そこには数字が並んでいた。


ハヤトは目を通す。


厩舎使用料。


治療代。


薬代。


そして――。


「餌代……高くない?」


思わず二度見した。


「竜ですから」


「昨日だけでこんなに食ったの?」


「治療師から、怪我が治るまでは栄養のある肉を多めに与えるよう指示されています」


ハヤトはレグを見る。


レグもこちらを見ていた。


「お前……」


何も知らない顔だ。


むしろハヤトが持っている紙より、腰につけた荷物袋を気にしている。


「食いすぎじゃない?」


レグが首を傾げる。


「たぶん分かってないわよ」


聞き慣れた声。


振り返ると、セラが厩舎の入口に立っていた。


「おはよう」


「おはよう。朝から財布見て絶望してるところ」


セラが紙を覗き込む。


少し黙った。


「……確かに高いわね」


「だろ?」


「でも自分で連れてきたんだから」


「分かってるよ」


後悔しているわけではない。


金が必要なら稼げばいい。


幸い、冒険者にはその手段がある。


問題は別のところにあった。


「このまま初心者向けの依頼やってても、餌代でほとんど消えそうなんだけど」


「でしょうね」


「もうちょっと稼げる依頼ないかな」


「急に現実的になったわね」


「養うものが増えたからな」


ハヤトが言うと、レグがまた身体を寄せてくる。


「お前のことだぞ」


喉元を撫でる。


レグは気持ちよさそうに目を閉じた。


まったく反省していない。


当然だが。


「とりあえず、今日は装備を買いに行く」


「私も行く」


「セラも?」


「魔術用の触媒が減ってるから補充したいの」


二人でギルドを出ようとする。


その時。


レグがついてきた。


「お前は留守番」


ハヤトが言う。


レグは止まらない。


「怪我治ってないだろ」


もう一歩。


「レグ」


少し強めに呼ぶ。


そこでようやく立ち止まった。


だが、どうにも納得していないらしい。


尾が低く垂れ、じっとハヤトを見上げている。


「すぐ戻るから」


頭を撫でる。


レグは鼻先をハヤトの腕へ押しつけたあと、渋々といった様子で藁の上へ戻った。


「完全に飼い主ね」


外へ出たところでセラが言う。


「契約してないんだけどな」


「レグはそんなの気にしてないんじゃない?」


ハヤトもそう思った。


◇


最初に向かったのは武具店だった。


以前使っていた安物とは違い、今回は少しまともな装備を選ぶつもりだ。


店内には剣、槍、斧、鎧。


壁一面に武器が並んでいる。


何度来ても少しテンションが上がる。


「盾を探してるんですけど」


店主へ声をかける。


「どんなのだ?」


「壊れにくいやつ」


「雑だな」


「この前買ったやつ、一日で壊れました」


「何と戦った?」


「アイアンリザード」


店主がこちらを見る。


「……あれを盾で受けたのか?」


「一回だけ」


「馬鹿か?」


最近よく言われる。


「今度は壊れないやつが欲しくて」


「壊れない盾なんぞねえよ。使い方を覚えろ」


正論だった。


それでも店主は何種類か見せてくれた。


大きな鉄盾。


丸盾。


木材と金属を組み合わせたもの。


ハヤトが選んだのは、以前より一回り小さい円形盾だった。


「小さくない?」


セラが聞く。


「受け止めるより逸らした方がいいって、前に教わったから」


昨日の人間相手の戦いでも、それを痛感した。


大きな盾で何でも受けるより、自分の身体を動かした方がいい。


重量も以前のものより軽い。


身体強化との相性も良さそうだった。


続いて武器。


短剣を何本か見せてもらう。


その途中で、壁に掛かっている片手剣が目に入った。


短剣より長い。


かといって大剣ほど重くもない。


「これって初心者でも使える?」


「剣術持ってるならな」


試しに握る。


思ったよりしっくりきた。


これまで短剣を使っていたのは、最初に買える武器がそれだったからだ。


別に短剣にこだわりがあるわけではない。


軽く振ってみる。


短剣とは間合いが全然違う。


「……いいな」


「買うの?」


「欲しい」


値札を見る。


一瞬だけ固まった。


「高いな」


「まともな武器なんだから当然でしょ」


以前の自分なら、ここで迷っていたかもしれない。


本当に必要か。


もう少し安いものでいいのではないか。


だが今回は違う。


命を預ける道具だ。


それに。


使ってみたい。


「これください」


財布は痛い。


でも後悔はなかった。


片手剣。


新しい盾。


防具も一部補強してもらうことにした。


店を出る頃には、遺跡で稼いだ金がかなり減っている。


「金って一瞬でなくなるんだな」


「昨日まで喜んでたのにね」


「また稼げばいい」


その言葉が自然に出た。


元の世界にいた頃なら、「使わなければ減らない」と考えていた。


今は少し違う。


必要なもの。


やりたいこと。


そこへ使うために稼ぐ。


その方が性に合っているらしい。


「次どこ行く?」


セラが聞く。


「技能書」


「やっぱり行くのね」


「もちろん」


今度は技能書を扱う店へ向かう。


戦闘技能だけでも、まだ興味のあるものは多い。


弓。


投擲。


風魔法。


土魔法。


それ以外にも、錬金、採取、解体。


棚を眺めているだけで時間が過ぎていく。


そして。


一冊の本で、ハヤトの足が止まった。


《野外料理・基礎》


セラが横から覗く。


「本当に買う気?」


「この前の肉、硬かっただろ」


「それが理由?」


「レグの飯も作れるかもしれない」


セラが少し考える。


「竜に味付けって必要なの?」


「知らない。だから試す」


本を手に取る。


職業欄には、


《料理人》推奨。


と書かれていた。


普通なら、料理人系の職業を持たない人間が技能書を読んでも、本格的な料理技能として習得するのは難しい。


だがハヤトには関係ない。


「これもください」


店主に代金を渡す。


セラが首を振る。


「剣士なのか魔術師なのか料理人なのか、もう分からないわね」


「俺も分からない」


「本人が言う?」


「別に分かる必要なくない?」


やりたいことをやる。


それで十分だった。


◇


午後。


ギルド裏の訓練場。


ハヤトは新しい片手剣を振っていた。


短剣より重い。


最初は振らされている感覚が強かったが、《剣術・初級》で身につけた基本はそのまま使える。


何十回も振る。


踏み込み。


斬り上げ。


横薙ぎ。


まだ上手いとは言えない。


それでも徐々に扱い方が分かってくる。


その後は新しい盾。


さらに《身体強化》を交えて動く。


汗だくになった頃。


ミレイが訓練場へやってきた。


「精が出ますね」


「装備買ったら使いたくなって」


「ちょうどよかったです」


その言い方に、ハヤトは剣を止めた。


「また話?」


「今回は悪い話ではありません」


ミレイが一枚の依頼書を差し出す。


掲示板に貼られているものとは違う。


「これ何です?」


「指名依頼です」


ハヤトは目を瞬いた。


「俺に?」


「正確には、ハヤトさんとセラさんのお二人に」


少し離れた場所で魔術書を読んでいたセラも顔を上げる。


「私たちに?」


「遺跡の件がギルド内で少し話題になりまして」


アイアンリザードの討伐。


幼竜の救出。


そして無事に帰還したこと。


どうやら自分たちが思っていた以上に評価されたらしい。


ハヤトは依頼書を読む。


《商隊護衛》


ラーデンから北へ向かう商隊の護衛。


片道三日。


ただし目的地までは行かず、危険区域を抜けるまで同行すればいい。


報酬を見る。


「……高い」


今までの依頼より、明らかに一段上だった。


ミレイが頷く。


「最近、北街道周辺でオーガの目撃情報が出ています」


「オーガ」


名前くらいは想像できる。


たぶん大きくて強い。


「危険度は?」


「グレイウルフとは比較になりません。ただし、必ず遭遇するわけでもありません。今回の目的は魔物討伐ではなく護衛です」


セラが依頼書を受け取る。


「他の護衛は?」


「ベテラン冒険者が二人。そこにお二人を加えた四人体制です」


ハヤトは少し安心した。


自分たちだけで高難度の仕事を任されたわけではない。


経験者と一緒なら、学べることも多い。


それに。


もう一度報酬を見る。


頭の中に、朝渡された餌代の請求書が浮かんだ。


「やる」


「早いわね」


セラが言う。


「レグの飯代」


「そこ?」


「かなり大事」


セラは依頼書へ目を落とす。


少し考えてから頷いた。


「私も受ける。治癒術院の資金、貯めたいし」


目的は違う。


だが二人とも金が必要なのは同じだった。


「では受注で処理しますね。出発は三日後です」


ミレイが依頼書を受け取る。


三日。


それならレグの治療経過も見られる。


新しい武器を練習する時間もある。


ハヤトは片手剣を見る。


少しずつ。


できることが増えている。


その分、欲しいものも増えた。


金もかかる。


やることも増える。


けれど。


それを忙しいとは思わなかった。


全部、自分が欲しくて手を伸ばしたものだからだ。


その日の夕方。


ハヤトは料理の技能書と、安い肉を持って厩舎へ向かった。


レグは姿を見るなり立ち上がった。


「今日は飯作ってみるぞ」


レグの目が肉へ向く。


「俺じゃなくてそっちかよ」


尻尾が勢いよく藁を叩く。


簡単な焚き火台を借り、技能書を開く。


肉の筋を切る。


火を強くしすぎない。


焼く前に少量の水を使い、固くなるのを防ぐ。


書かれていることを一つずつ試した。


《灯火》で火をつけ、《水生成》で必要な水を出す。


「……俺の魔法、料理に便利すぎない?」


戦闘とはまるで関係ない。


でも、こういう使い方も嫌いではなかった。


しばらくして肉が焼き上がる。


昨日までとは明らかに匂いが違う。


レグがそわそわし始めた。


「待て待て、熱いから」


皿へ移し、少し冷ます。


その間もレグは落ち着かない。


前脚を一歩。


ハヤトを見る。


もう一歩。


肉を見る。


「まだ」


止まる。


「……言葉、結構分かってる?」


レグが首を傾げた。


十分冷ましたところで皿を置く。


「よし」


次の瞬間。


レグが肉へ飛びついた。


「速っ!」


あっという間に一枚消える。


二枚目。


三枚目。


途中で一度だけ顔を上げ、ハヤトを見る。


それから尻尾が激しく動いた。


「うまい?」


レグが喉を鳴らす。


たぶん好評だ。


ハヤトも一切れ食べてみる。


「……お」


昨日の野営で焼いた肉より、ずっと柔らかい。


普通にうまい。


その瞬間。


頭の中に、技能を習得した時特有の感覚が走った。


技能《料理・初級》を習得しました。


「きた」


剣。


魔法。


盾。


身体強化。


そして料理。


我ながら方向性が分からない。


でも。


ハヤトは笑った。


「まあ、いいか」


言ってから、一瞬だけ止まる。


元の世界で何度も使った言葉だった。


嫌なことを飲み込む時。


諦める時。


自分に言い聞かせるための言葉。


今は少し違う。


何者になるか決めなくてもいい。


やりたいことが多すぎてもいい。


その意味での――まあ、いいか。


レグが空になった皿を舐めている。


「もっと?」


勢いよく顔が上がった。


「……やっぱ飯代、稼がないとな」


三日後。


ハヤトとセラは、初めての指名依頼へ向かうことになる。


そしてその仕事で。


神崎ハヤトという変わった冒険者の名前は、少しずつラーデンの外へも広がり始めることになる。

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