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ランキング最高順位51位!『異世界に転移したので、もう我慢するのはやめました ~固有能力《自由》で好き勝手に生きる~』  作者: くんくん
第1部 自由への一歩

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第12話 龍を連れて帰ったら大騒ぎになった。


遺跡を出た頃には、すでに日が傾き始めていた。


依頼の目的だった内部調査は済んだ。


アイアンリザードも倒した。


遺跡の奥で幼竜が捕らえられていたことも確認した。


成果だけを見れば、十分すぎるほどだろう。


問題があるとすれば――。


「……本当についてくるな」


ハヤトが振り返る。


数歩後ろ。


傷ついた幼竜が、当然のような顔で歩いていた。


立ち止まれば止まる。


歩き出せば、またついてくる。


ハヤトが歩調を速めれば、短い脚を懸命に動かして追いかけてくる。遅れそうになると、翼をばたつかせて地面を蹴った。飛ぶほどの力は残っていないらしく、ほんの少し身体が浮くだけだったが、それでも距離を離すまいとしているのは分かった。


「何回確認するのよ」


隣を歩くセラが呆れた声を出した。


「いや、遺跡から出たら森に帰ると思うだろ普通」


ハヤトが足を止めると、幼竜もすぐに止まった。


前脚を揃え、首を伸ばしてハヤトを見上げる。


置いていかれるのかとでも言いたげな目だった。


「もう諦めなさい」


「何を?」


「懐かれたことを」


ハヤトはもう一度、幼竜を見る。


目が合った。


幼竜は一度まばたきをすると、安心したように尾を地面へぱたりと落とした。小さく喉を鳴らし、ハヤトの足元へ鼻先を寄せる。


「……マジか」


嬉しくないわけではない。


むしろドラゴンが自分についてくるなど、少し前の自分なら大興奮していたはずだ。


ただ、実際にそうなると別の問題が出てくる。


「こいつ、街に入れるの?」


「そこなのよね」


セラも同じことを考えていたらしい。


街まで連れて帰ったとして、門番にどう説明するのか。


拾いました。


ついてきました。


悪さはしません。


犬や猫ならともかく、相手は竜だ。


信用してもらえる気がしない。


「置いていく?」


セラが聞く。


ハヤトは即座に幼竜を見る。


ちょうど後ろ脚をかばうように歩いていた。


足を止めた拍子に傷が痛んだのか、幼竜の身体がわずかに揺れる。それでも唸り声一つ上げず、ハヤトの方へ一歩だけ近づいた。


「無理だな」


「でしょうね」


「せめて怪我が治るまでは面倒見る」


ハヤトがそう言うと、幼竜は意味を理解したのか、尾の先を小さく振った。


それ以降は、本人――いや、本竜に任せればいい。


どこかへ行きたければ止めない。


そのまま一緒にいたければ、それも好きにすればいい。


「でも治療ってどうする?」


「街まで戻れば魔物を診られる治療師がいると思う」


「よかった」


「問題はそこまで歩かせることだけど」


幼竜の歩みは遅い。


遺跡まで二日かかった道のりを、同じ速度で戻るのは難しそうだった。


ハヤトは少し考え、荷物を地面へ下ろした。


必要最低限の物だけを鞄へ残す。


毛布や使わない道具をまとめ直した。


その間、幼竜はハヤトの手元をじっと見ていた。荷物を減らす理由など分からないはずなのに、何かを察したように、ハヤトの周りを小さく一周する。


「何してるの?」


「少し持ってやろうかと思って」


セラが幼竜とハヤトを交互に見る。


「持つって……それを?」


「大型犬くらいだし」


「竜よ?」


「重さに関係ある?」


試しに幼竜の前へしゃがむ。


「乗る?」


ハヤトが背中を向けると、幼竜は首を傾げた。


片方の前脚を上げ、ハヤトの肩へそっと伸ばす。だが、乗るという意味までは伝わらなかったらしい。


「通じてないわよ」


「だよな」


ハヤトが振り返ると、幼竜は慌てたように前脚を引っ込めた。


結局、抱き上げることにした。


いきなり触れば嫌がるかと思ったが、幼竜は少し身体を強張らせただけだった。


ハヤトが手を伸ばすと、幼竜は一瞬だけ身を引いた。だが、逃げることはせず、鼻先をハヤトの手の甲へ押しつける。


許可を出したつもりなのかもしれない。


腹の下へ腕を回す。


「よっ……!」


持ち上がる。


幼竜の爪がハヤトの服を掴んだ。落ちまいとしているのか、あるいは離れまいとしているのかは分からない。


そしてすぐに理解した。


「重っ!」


「だから言ったでしょ」


「大型犬の重さじゃない!」


見た目以上に密度がある。


鱗も骨も、人間とはかなり違うらしい。


《身体強化》を使えば何とか抱えられるが、これで何時間も歩くのは無理だ。


十数分ごとに下ろして休む。


歩けそうなら自分で歩かせる。


そんなことを繰り返しながら、二人と一頭はラーデンを目指した。


地面へ下ろすたび、幼竜はすぐには歩き出さなかった。


ハヤトの足元へ身体を寄せ、前脚を靴に乗せる。


「もう歩けるか?」


問いかけると、幼竜はハヤトを見上げたあと、痛む脚をかばいながら一歩を踏み出した。


その姿を見て、ハヤトは歩調を合わせる。


幼竜もまた、ハヤトの足音を追うように歩いた。


その日の夜。


再び野営。


ハヤトは焚き火のそばで干し肉を取り出した。


すると。


幼竜の頭がすぐに動いた。


さっきまで伏せていた耳のような器官がぴんと立ち、鼻先が干し肉の匂いを追う。眠そうだった目も、いつの間にか完全に開いていた。


「……お前、それ覚えたな?」


視線が完全に肉へ固定されている。


ハヤトが干し肉を持った手を少し動かすと、幼竜の頭も同じ方向へ動いた。


一枚差し出す。


勢いよく咥えられた。


「俺の食料が」


幼竜は干し肉を前脚で押さえ、何度も噛みしめた。硬い肉を噛み砕くたび、尾が地面を叩く。


「自分であげたんでしょ」


「こんなに食うと思わなかった」


二枚目。


三枚目。


まだ欲しそうだ。


ハヤトが袋を閉じようとすると、幼竜は鼻先を袋へ押しつけた。前脚で袋を引き寄せようとするが、爪が布に引っかかり、袋ごと身体が少し前へ滑る。


「おい」


ハヤトが袋を取り上げると、幼竜は不満そうに喉を鳴らした。


それでも怒ることはなく、今度はハヤトの膝へ顎を乗せる。


「成長期なんじゃない?」


「ドラゴンの成長期ってどれくらい食うんだよ」


「知らないわよ」


結局、干し肉のかなりの量を持っていかれた。


ハヤトは残ったパンを見つめる。


その横で、幼竜は満足そうに腹を地面へつけていた。だが、ハヤトがパンを口に運ぶと、片目だけを開けてじっと見ている。


「……明日、何か狩ろう」


「また?」


「俺が腹減る」


セラが笑った。


食事を終える頃には、幼竜は焚き火の近くで丸くなっていた。


炎が揺れるたび、鱗の隙間が赤く照らされる。


ハヤトが少し離れた場所へ移動すると、幼竜は眠ったまま前脚を伸ばし、ハヤトの靴先へ爪を引っかけた。


「そこまで警戒しなくても逃げないぞ」


ハヤトが靴を動かさずにいると、幼竜は安心したように鼻を鳴らした。


警戒している様子もない。


ハヤトはその姿を眺める。


「名前ないと呼びにくいな」


「名前つけるの?」


「ずっと『おい』とか『竜』って呼ぶのもな」


セラも幼竜を見る。


「何か考えてる?」


「ドラゴンっぽいやつ」


「雑ね」


ハヤトは腕を組んだ。


黒に近い深緑の鱗。


小さな角。


炎を吐く。


「……クロ」


セラが無言でこちらを見る。


「何だよ」


「その鱗で?」


「ほぼ黒だろ」


「一応、深緑よ」


「じゃあミドリ?」


「もっと嫌」


「文句多いな」


本人――幼竜は気にする様子もなく寝ている。


だが、ハヤトが「ミドリ」と口にした瞬間、幼竜の尾が一度だけぱたんと地面を叩いた。


セラがそれに気づく。


「今、嫌がったんじゃない?」


「まさか」


「でも反応したわよ」


「偶然だろ」


ハヤトは少し考え直した。


「レグ」


「急にそれっぽくなったわね」


「今思いついた」


「意味は?」


「ない」


「やっぱり雑じゃない」


だが、呼びやすい。


ハヤトは眠っている幼竜へ声をかける。


「レグ」


片方の目が開いた。


幼竜は顔を上げる代わりに、ハヤトの方へ鼻先だけを向けた。


「お」


もう一度。


「レグ」


今度は頭を少し持ち上げた。


耳のような器官が動き、尾の先がゆっくり揺れる。


セラが驚いた顔をする。


「反応してる」


「決まりだな」


「そんな簡単に?」


「本人が嫌なら無視するだろ」


ハヤトが手を伸ばすと、レグは一瞬だけ迷ったあと、額をその手のひらへ押しつけた。


小さな角が手首に当たる。


痛くないように力を加減しているのか、触れたあとすぐに頭を引いた。


幼竜――レグはもう一度丸くなった。


だが、今度はハヤトの方へ身体を向けている。


少なくとも嫌ではないらしい。


翌日。


傷の状態を見ながらゆっくり進み、途中でもう一泊。


朝、ハヤトが荷物をまとめていると、レグはまだ眠そうな顔で藁の上に伏せていた。


「行くぞ」


声をかけると、レグはすぐに立ち上がろうとした。


しかし、後ろ脚に力が入らず、身体がぐらりと傾く。


ハヤトが手を伸ばすより早く、レグは前脚で地面を踏ん張った。痛みに耐えるように目を細め、それでもハヤトの方へ歩こうとする。


「無理するな」


ハヤトが抱き上げると、レグは抵抗しなかった。


代わりに、ハヤトの胸元へ鼻先を押しつけ、服を小さな爪で掴んだ。


途中で下ろすと、今度は自分から歩き出した。


昨日よりも足取りはしっかりしている。


ハヤトが振り返るたび、レグは必ず目を合わせた。


置いていかれないと分かっていても、確認せずにはいられないらしい。


三日目の昼過ぎになって、ようやくラーデンの外壁が見えてきた。


「長かった……」


ハヤトは心から呟いた。


疲労の原因は、ほとんどレグだ。


何度抱えて歩いたか分からない。


とはいえ、初日よりは後ろ脚を使えるようになっている。


回復が早いのかもしれない。


「問題はここからね」


セラが正面を見る。


街の門。


当然、門番が二人立っている。


そして向こうも、すでにこちらへ気づいていた。


正確には――レグに。


門番の一人が槍を構える。


その動きを見た瞬間、レグの身体が強張った。


ハヤトの背後へ回り込み、尾を脚に巻きつける。小さな唸り声が漏れ、鱗の隙間からかすかに赤い光が覗いた。


「止まれ!」


「ですよね」


ハヤトは大人しく立ち止まった。


「後ろの魔物は何だ!」


「幼竜です」


「見れば分かる!」


「じゃあ聞かなくても」


「ハヤト」


セラに腕をつねられた。


「痛っ」


今は余計なことを言う場面ではないらしい。


もう一人の門番まで武器を構えている。


レグはハヤトの背中に隠れたまま、槍の先から目を離さない。


ハヤトが手を後ろへ伸ばすと、レグはその手のひらへ鼻先を押しつけた。


「大丈夫だ」


声をかけると、レグの唸りが少しだけ弱まった。


「なぜ竜を連れている!」


ハヤトは少し考えた。


「遺跡で拾いました」


「竜を拾うな!」


ごもっともだった。


結局、門の前で事情を最初から説明することになった。


冒険者ギルドから遺跡調査を受けたこと。


内部でアイアンリザードを討伐したこと。


その先で捕らえられていた幼竜を発見したこと。


冒険者らしき五人組が捕獲していたこと。


そして、首輪を外したらついてきたこと。


門番二人は完全に困っていた。


「少し待て。ギルドへ確認を取る」


一人が街の中へ走っていった。


ハヤトはその場に座り込む。


するとレグもすぐに腰を下ろし、ハヤトの膝へ顎を乗せた。


「入れるかな」


「さあ」


セラが答える。


レグは人間たちに囲まれても意外と大人しかった。


ただし、誰かが近づくたびにハヤトの身体へぴたりと寄り添う。セラがそばにしゃがむと少しだけ警戒を解くが、知らない門番が一歩でも近づけば、ハヤトの服を爪で掴んだ。


三十分ほどして。


門から勢いよく出てきた人物を見て、ハヤトは嫌な予感がした。


「ハヤトさん!」


ミレイだった。


後ろには支部長のガルドまでいる。


ミレイはレグを見た。


ハヤトを見る。


もう一度レグを見る。


「……遺跡調査でしたよね?」


「はい」


「どうして竜が増えてるんですか?」


「俺も途中までは普通の調査だと思ってたんですけど」


ミレイが額を押さえる。


ガルドは腕を組み、レグをじっと見ていた。


レグはガルドの視線を感じると、ハヤトの足元へ移動した。身体を低くし、角だけをわずかに向ける。


「幼体だな」


「分かるんですか?」


「昔、成竜を遠くから見たことがある」


「戦った?」


「馬鹿言うな。逃げた」


即答だった。


ガルドはレグへ近づく。


レグが低く唸る。


今度はハヤトの前へ出ようとした。


だが、後ろ脚が痛んだのか、途中でよろめく。


ハヤトがすぐに肩へ手を添えると、レグはその腕に身体を預けたまま、ガルドを睨み続けた。


ハヤトが前へ出ようとしたが、ガルドはすぐに止まった。


「なるほど。お前には懐いているらしいな」


「たぶん」


「契約は?」


「契約?」


セラも首を傾げた。


ガルドは呆れた顔をする。


「魔獣使いが従魔を持つ場合は、普通は契約術を使う」


ハヤトはレグを見る。


レグはハヤトの手首に鼻先を押しつけ、ガルドから目を逸らさない。


「してないです」


「なら本当に自分の意思でついてきたのか」


ガルドは少し考える。


「厄介だな」


「やっぱ街には入れない?」


「本来なら魔物をそのまま入れるのは認められん」


やはりそうなるか。


ハヤトがレグを見る。


怪我を治したい。


街へ入れなければ治療師にも診せられない。


レグはハヤトの視線を感じたのか、顔を上げた。


不安そうに目を細め、ハヤトの手の甲を舌で一度だけ舐める。


「ただし」


ガルドが続ける。


「ギルドの管理下という形なら、一時的に入れることはできる」


「本当ですか?」


「お前が責任を持て」


「もちろん」


「街中で暴れた場合、お前の責任になる。建物を焼けば弁償。人間を傷つければ、それ相応の処分もある」


ハヤトはレグへ視線を落とした。


自由にさせる。


そのつもりではいる。


だが、人間の街へ連れて入るなら話は別だ。


好きにしていいから、他人へ迷惑をかけてもいい。


そんな理屈にはならない。


「分かりました」


ガルドが頷く。


門番へ事情を説明し、特例として入街が認められた。


そして。


門をくぐった瞬間。


「竜だ!」


誰かが叫んだ。


その声に反応し、レグの翼が大きく跳ねた。


飛び上がることはできなかったが、驚いてハヤトの脚へしがみつく。ハヤトがしゃがんで背中を撫でると、レグは顔を押しつけ、周囲の人間を見ないようにした。


そこからは大変だった。


通行人が道を空ける。


店の中へ逃げ込む者までいる。


逆に、遠巻きについてくる子供たちもいた。


「ドラゴン!」


「ちっちゃい!」


「火吐くの!?」


子供の一人が近づこうとすると、レグはハヤトの背後から片目だけを覗かせた。


興味はあるらしい。


子供が足を止めると、レグも首を伸ばす。


だが、別の大人が声を上げた瞬間、すぐにハヤトの足元へ戻った。


ハヤトは頭を抱えた。


「目立つなあ……」


以前、年配の冒険者から言われた言葉を思い出す。


珍しい力は目立つ。


目立てば、欲しがる人間も現れる。


今回は、自分の能力どころではない。


ドラゴンを連れて歩いている。


「今さら気づいた?」


セラが聞く。


「もうちょっと静かに帰れると思ってた」


「無理に決まってるでしょ」


ギルドへ着いた頃には、入り口周辺にちょっとした人だかりができていた。


レグは知らない人間の多さに緊張しているのか、ハヤトのすぐ後ろから離れない。


ミレイが人を追い払おうと手を振ると、レグはその動きを目で追った。


ミレイが近づくと一歩下がる。


だが、ハヤトが「大丈夫だ」と声をかけると、恐る恐る鼻先だけをミレイへ向けた。


「はいはい、見世物じゃありません!」


ミレイが人を追い払う。


「中に入ってください!」


「レグも?」


「裏の訓練場へ!」


ギルドの裏庭まで移動し、ようやく一息ついた。


レグは人だかりから離れると、すぐにハヤトの足元へ座り込んだ。


緊張が解けたのか、長く息を吐く。


そのままハヤトの靴へ顎を乗せ、目を閉じた。


そこへ魔物の治療経験があるという老人が呼ばれた。


レグは最初こそ嫌がった。


老人が道具を取り出すと、身体を低くして唸り、翼をハヤトの方へ寄せる。


ハヤトが首元を撫でると、レグは唸り声を飲み込んだ。


診察中も、ハヤトの服を前脚で掴んだまま離さない。


痛みが走るたびに爪が強く食い込む。


それでも逃げようとはせず、ハヤトの手のひらへ額を押しつけて耐えていた。


「翼は骨折しておらん」


老人が言う。


「打撲と裂傷じゃ。後ろ脚も深い傷だが、適切に処置すれば治る」


「飛べるようになる?」


「元々この大きさでは長時間は飛べんじゃろう。だが傷が治れば、いずれはな」


ハヤトは肩の力を抜いた。


一番心配していた部分だった。


その変化を感じ取ったのか、レグもハヤトの腕から力を抜いた。


治療が終わると、レグの脚と翼には薬が塗られ、簡単な布が巻かれた。


「数日は無理をさせるな」


「ありがとうございます」


老人が帰った後。


レグはしばらく動かなかった。


薬の匂いが気になるのか、翼を何度も振り返っている。


ハヤトが布を確認しようとすると、レグは嫌がるように身体を丸めた。


だが、ハヤトが手を止めると、今度は自分から翼を少し広げた。


「見せてくれるのか?」


レグは返事の代わりに、ハヤトの手へ鼻先を押しつけた。


ハヤトたちは今度こそ正式な依頼報告をすることになった。


アイアンリザード。


地下区画。


捕獲されていた幼竜。


五人の冒険者。


ミレイが一つずつ記録していく。


五人組については、ガルドが詳しく聞いてきた。


「顔は覚えているか?」


「たぶん」


「一人は大柄で全身鎧。あとは剣士が二人、弓使いが一人……」


セラが特徴を補足する。


その間、レグはハヤトの椅子の下に伏せていた。


知らない声が大きくなるたびに耳を動かす。


ガルドが机を指で叩くと、レグは顔を上げた。


ハヤトが足先で軽く触れると、すぐにまた伏せる。


ガルドの表情が険しくなった。


「心当たりがある」


「知ってるんですか?」


「ラーデン所属ではないが、この辺りで何度か問題を起こしている連中だ」


違法な魔物売買の噂もあるらしい。


ただし、証拠がなく今までは手を出せなかったという。


「今回の件は調べる。お前たちはもう関わるな」


ガルドが言う。


ハヤトは素直に頷いた。


「向こうから来なければ」


「その一言が余計だ」


セラが小声で突っ込んだ。


依頼そのものは、十分以上の成果として扱われた。


さらにアイアンリザードの討伐報酬。


持ち帰れる範囲で回収した素材。


そして遺跡の追加調査分。


受付台に積まれていく硬貨を見て、ハヤトは目を見開いた。


「……多くない?」


「命懸けでしたからね」


ミレイが言う。


確かにその通りだ。


何度死にかけたか分からない。


ハヤトは報酬をセラと分ける。


セラは自分の取り分を確認したあと、静かに財布へしまった。


その間、レグは硬貨の音に反応して顔を上げた。


一枚が台から転がり落ちると、目で追いかける。


床に落ちた硬貨が止まると、レグは前脚で触れようとした。


「それは食べ物じゃないぞ」


ハヤトが拾い上げると、レグは少し残念そうに前脚を引いた。


「今、どれくらい?」


ハヤトが聞く。


「何が?」


「金貨五十枚」


一瞬だけセラが黙る。


「……まだ全然」


「でも増えた?」


「増えたわ」


口元がほんの少しだけ緩んでいた。


それならいい。


ハヤトは自分の報酬を見る。


まず新しい盾を買う。


それから装備も少し強くしたい。


技能書も欲しい。


料理も覚えてみたい。


やりたいことが、また増えた。


「ところで」


ミレイが言う。


「一番大事な問題が残っています」


「まだ何か?」


ミレイがレグを見る。


裏庭で寝そべっている。


ハヤトの声に反応して、レグは顔だけを持ち上げた。


「その子、どこで飼うんです?」


ハヤトは固まった。


完全に忘れていた。


「宿……」


「無理です」


「ですよね」


セラが肩を震わせている。


レグは二人の顔を交互に見た。


何か困ったことが起きていると感じたのか、ハヤトの足元へ移動し、靴に鼻先を押しつける。


「笑ってないで助けてくれよ」


「だって考えてなかったの?」


「街に入ることで頭いっぱいだった」


結局。


ガルドの許可を取り、しばらくギルド裏の魔獣用厩舎を借りることになった。


もちろん無料ではない。


厩舎へ移されると、レグは入り口で立ち止まった。


中を覗き込み、藁の匂いを嗅ぐ。


ハヤトが先に入ると、レグもすぐに後を追った。


ハヤトが外へ出ようとすると、レグは慌てて立ち上がり、三本の脚で追いかけようとする。


「ここにいるって」


ハヤトが戻って頭を撫でると、レグはようやく伏せた。


「金が入った瞬間、どんどん消えていく……」


ハヤトは財布を見る。


セラが横から言った。


「竜を拾うって、そういうことなんじゃない?」


「犬より絶対金かかるよな」


「犬を飼ったことあるの?」


「ない」


「じゃあ比べられないでしょ」


その日の夕方。


必要な手続きを終え、ハヤトは厩舎へ向かった。


レグは藁の上で横になっている。


近くには、治療師から指定された肉と水。


ハヤトが入ると、すぐに頭を上げた。


眠っていたはずなのに、ハヤトの足音だけは聞き分けたらしい。


尾が藁を叩き、身体を起こそうとする。


「ちゃんと休んでろよ」


ハヤトが近づくと、レグは起き上がるのをやめた。


代わりに、前脚だけを伸ばしてハヤトの方へ寄せる。


隣へ座る。


レグが身体を寄せてくる。


ずしりと重い。


ハヤトの脇腹へ頭を押しつけ、しばらく動かない。


「お前が来てから、金かかって仕方ないんだけど」


レグは気にする様子もない。


ハヤトが立ち上がろうとすると、レグは服の裾を爪で引っかけた。


「まだいるって」


ハヤトが座り直すと、レグは安心したように目を細めた。


「でもまあ……」


ハヤトは小さな頭を撫でた。


レグは目を閉じ、撫でられるたびに角の間を少しだけハヤトの手へ押しつける。


「面白くなってきたな」


遺跡へ行って。


強い魔物と戦って。


竜を拾って帰ってきた。


十日前の自分に話しても、絶対に信じないだろう。


そして明日は。


新しい装備を見に行く。


技能書も探す。


セラと次の依頼も選ぶ。


レグの餌代まで稼がなければならなくなった。


やらなければならないことは増えた。


それなのに、不思議と嫌ではない。


誰かに押しつけられた予定ではないからだ。


全部、自分で選んだものだった。


ハヤトは立ち上がる。


するとレグも反射的に顔を上げた。


「よし。明日からまた稼ぐか」


レグが小さく鳴く。


ハヤトが出口へ向かうと、レグは藁の上から身を起こし、じっとその背中を見つめた。


「お前の飯代もな」


返事の代わりに、レグは鼻先をハヤトの手へ押しつけた。


ハヤトが手を引くまで、離れようとしない。


ようやく手を離すと、レグはその場で丸くなった。


だが、目だけは最後までハヤトを追っていた。


異世界生活は。


どうやら、ますます賑やかになっていくらしい。

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