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ランキング最高順位51位!『異世界に転移したので、もう我慢するのはやめました ~固有能力《自由》で好き勝手に生きる~』  作者: くんくん
第1部 自由への一歩

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第11話 その鎖はもういらない


五対二。


しかも相手は、少なくとも遺跡の奥まで辿り着ける程度には戦える冒険者たちだ。


まともに正面からぶつかれば、不利なのは考えるまでもない。


ハヤトは短剣を構えながら、広間の中を素早く見回した。


背後には傷ついた幼竜。


その首から伸びた鎖は、まだ石柱につながっている。


セラは幼竜のすぐそば。


首輪の解除術式は途中のままだ。


そして正面には五人。


先頭の大柄な男が、苛立った様子で剣を抜いた。


「最後に言う。そこをどけ」


「その前に一個聞いていい?」


「何だ」


「こいつを捕まえて、どうするつもりだった?」


男は一瞬だけ黙った。


答えたのは、横にいた細身の剣士だった。


「売るに決まってんだろ。幼竜一匹でどれだけの金になると思ってる」


やはりそういう話らしい。


ハヤトは幼竜を見る。


後ろ脚の傷。


垂れた翼。


首にはめられた金属の輪。


狩った獲物を売ること自体を責めるつもりはない。


ハヤトだって魔物を倒し、素材を換金している。


だが目の前の幼竜を見て、今さら「そういうものか」と引き下がる気にはなれなかった。


「分かった」


ハヤトは短剣を握り直した。


「じゃあ、やっぱりどかない」


大柄な男の目が細くなる。


「二人で俺たち五人を相手にする気か?」


「できれば話し合いで帰ってほしいけど」


「ふざけてんのか」


「割と本気」


隣でセラが呆れた声を出した。


「交渉下手ね」


「じゃあ代わってくれ」


「嫌よ」


どうやら任せる気はないらしい。


大柄な男が片手を上げる。


その瞬間、弓を持った男が後ろへ下がった。


ハヤトの身体に緊張が走る。


「セラ」


「分かってる」


矢が放たれた。


狙いはハヤトではない。


幼竜のそばにいるセラ。


「っ!」


セラが身を引く。


矢は石床に弾かれた。


同時に二人の剣士が前へ出る。


ハヤトは《身体強化》を使った。


身体が軽くなる。


最初の剣が振り下ろされる。


受ける盾はない。


後ろへ下がってかわし、そのまま横へ回る。


二人目が追撃。


短剣で剣を受けようとして――やめた。


武器の長さも、腕力も向こうが上だ。


まともに打ち合えば短剣ごと弾かれる。


「《水弾》!」


水の塊を足元へ撃ち込む。


予想していなかった攻撃に、剣士の動きが止まった。


その一瞬で懐へ入る。


短剣の柄を腹へ叩き込んだ。


「ぐっ……!」


男が折れる。


殺すつもりはない。


少なくとも今は。


「甘い!」


背後から声。


振り向くより先に、肩へ衝撃が走った。


もう一人の剣士に蹴り飛ばされた。


床を転がる。


「ハヤト!」


セラの声が響く。


「平気!」


痛い。


だが骨は折れていない。


立ち上がろうとしたところへ、大柄な男が迫っていた。


両手剣が横薙ぎに振られる。


ハヤトは床へ身体を投げ出すようにして避けた。


刃が髪のすぐ上を通り過ぎる。


「危なっ……!」


立ち上がる暇もなく二撃目。


今度は石床を蹴って後方へ転がった。


剣が床へ食い込み、火花が散る。


強い。


変異種やアイアンリザードとは違う。


人間は動きを考える。


こちらの癖を見て、逃げ道を潰してくる。


今までの戦いとは、まるで勝手が違った。


「右!」


セラの声。


ハヤトは考える前に左へ飛んだ。


直後、先ほどまでいた場所を矢が通過する。


「助かった!」


「前も見なさい!」


「忙しいな!」


軽口を叩きながらも、余裕はない。


その間にもセラは杖を構えていた。


「《火球》!」


炎が飛ぶ。


狙いは男たちではなく、その手前の床。


火球が弾け、炎が広がった。


「くそっ!」


男たちが足を止める。


セラは人間へ直接高火力魔法を撃つつもりはないらしい。


ハヤトと同じだ。


命まで取る必要はない。


だが相手が同じように考えてくれている保証はなかった。


「セラ! 首輪は?」


「もう少し!」


「どのくらい?」


「集中できれば一分!」


一分。


こういう時の一分は長すぎる。


「分かった。やってくれ」


「一人で大丈夫なの?」


「大丈夫じゃないけど、やるしかないだろ」


セラは一瞬迷ったが、すぐ幼竜の方へ向き直った。


杖を首輪へ近づける。


淡い光が術式の上を走り始めた。


大柄な男もそれに気づいた。


「止めろ! 首輪を外させるな!」


三人が同時に動く。


ハヤトは息を吐き、通路を塞ぐように立った。


「悪いけど、ここから先は通さない」


細身の剣士が鼻で笑う。


「盾もねえくせに格好つけんな!」


「俺も今ちょっと思った」


剣士が踏み込む。


ハヤトは攻撃を避けながら後退する。


二撃。


三撃。


少しずつ追い込まれる。


攻撃へ転じる余裕がない。


さらに横から別の男が回り込もうとする。


まずい。


二人同時は止めきれない。


ハヤトは咄嗟に掌を床へ向けた。


「《水生成》!」


大量とは言えない。


コップ数杯分程度の水が石床を濡らす。


「何を――」


細身の剣士が踏み込んだ。


足が滑る。


派手に転ぶほどではない。


だが体勢が崩れた。


ハヤトはその肩を押し、もう一人へぶつけた。


二人がもつれる。


「これ、本当に便利だな」


敵を倒せるほどの威力はない。


けれど、使い方次第で役には立つ。


改めてそう思った直後。


「よそ見するな!」


大柄な男。


速い。


避けきれない。


ハヤトは短剣を横に構えた。


金属同士がぶつかる。


重い衝撃が腕を抜け、肩まで響いた。


「ぐ……!」


短剣が弾かれる。


手から離れ、床を滑っていった。


丸腰。


男が剣を振り上げる。


さすがにこれはまずい。


後ろへ逃げようとした瞬間。


低い唸り声が広間に響いた。


大柄な男が止まる。


ハヤトも振り返った。


幼竜だ。


さっきまで弱々しく伏せていた幼竜が、立ち上がっていた。


その首元で、金属の輪に刻まれた紋様が明滅している。


「あと少し……!」


セラの額には汗が浮かんでいる。


術式の光が一つずつ消えていく。


男が焦った。


「どけ!」


ハヤトへ肩からぶつかる。


体格差に押され、ハヤトは横へ弾き飛ばされた。


大柄な男がセラへ向かう。


「セラ!」


間に合わない。


男が剣を振り上げた。


その瞬間。


乾いた金属音が広間に響いた。


幼竜の首輪が外れる。


鎖が床へ落ちた。


「外れた!」


セラが叫ぶ。


幼竜は一瞬だけ、自分の首元を確かめるように頭を振った。


次に見たのは、剣を持って近づいてくる男だった。


口が開く。


「待っ――」


男の言葉より早く、炎が噴き出した。


大柄な男は咄嗟に横へ飛ぶ。


炎そのものは直撃しなかった。


だが剣を握る手元と床が焼かれ、男は武器を取り落とす。


幼竜が吠えた。


小さな身体から出たとは思えない声が、石造りの広間に響く。


残る四人が固まった。


ハヤトも正直、少し驚いた。


「……怒ってるな」


「当たり前でしょ」


セラは疲れたように息を吐いた。


首輪を外された幼竜は、逃げなかった。


ハヤトとセラの前へ出る。


男たちとの間に立ち、低く唸っている。


その姿を見て、大柄な男が歯噛みした。


「くそ……!」


武器はある。


人数もまだ向こうが多い。


それでも状況は変わった。


傷ついているとはいえ、竜が一頭加わった。


しかも広間という狭い場所で炎を吐かれれば、無事では済まない。


細身の剣士が男へ小声で言う。


「もういいだろ。ここで全員焼かれたら洒落にならねえ」


「だが、あれを売れば――」


「死んだら金も使えねえよ!」


大柄な男は幼竜を睨み続けていた。


やがて舌打ちし、落とした剣を拾う。


「……覚えてろ」


ハヤトは反射的に答えそうになったが、やめた。


こういう時まで余計なことを言う必要はない。


五人は少しずつ距離を取り、そのまま階段へ向かった。


足音が完全に聞こえなくなるまで、誰も動かなかった。


静寂。


ハヤトはようやく肩の力を抜く。


「終わった……?」


「たぶんね」


セラも杖を下ろした。


ハヤトは床に落ちた短剣を拾う。


刃を確認する。


欠けてはいない。


「人間相手って嫌だな」


「今さら?」


「魔物の方が分かりやすい」


襲ってくるなら戦う。


逃げるなら追わない。


魔物との戦いは、ある意味単純だった。


人間は違う。


殺したくないと思えば、こちらの選択肢まで狭くなる。


「もっと練習しないとな……」


今日の戦いでは、完全に実力不足だった。


《自由》があっても、覚えられるだけ。


使いこなせなければ意味がない。


その事実を改めて思い知らされた。


「ハヤト」


セラの声に顔を上げる。


幼竜がこちらを見ていた。


もう唸っていない。


ただ静かに、ハヤトを見ている。


「……自由になったぞ」


言葉が通じるかは分からない。


それでもハヤトはそう言った。


「もう好きなところに行っていい」


幼竜の首には、もう鎖がない。


捕まえておく理由もない。


森へ帰るのか。


どこか別の場所へ行くのか。


それは幼竜自身が決めればいい。


ハヤトは少し離れ、道を開けた。


「ほら」


幼竜は動かない。


「出口、あっちだから」


まだ動かない。


代わりに一歩だけ近づいてきた。


「……ん?」


もう一歩。


ハヤトの目の前まで来る。


そして鼻先を、ハヤトの腹へ押しつけた。


「何これ」


セラが少し笑う。


「懐かれたんじゃない?」


「さっき干し肉やったから?」


「それだけじゃないと思うけど」


ハヤトは恐る恐る幼竜の頭へ手を伸ばした。


途中で止める。


嫌がるならやめるつもりだった。


だが幼竜は逃げない。


そっと触れる。


鱗は思ったより温かかった。


「お前、どうする?」


幼竜が小さく喉を鳴らす。


答えは分からない。


ただ、ハヤトが一歩動くと幼竜もついてきた。


右へ。


ついてくる。


左へ。


またついてくる。


ハヤトはセラを見る。


「……これ、もしかして」


「そうみたいね」


「俺についてくる気?」


幼竜は当然答えない。


代わりに、ハヤトの鞄へ鼻先を押しつけた。


干し肉が入っている場所だった。


「飯目的じゃねえか」


セラが声を上げて笑った。


ハヤトもつられて笑う。


まあ、それでもいい。


鎖でつながれているわけではない。


嫌になれば、いつでもどこへでも行ける。


それなら。


「好きにしろ」


ハヤトは幼竜の頭を軽く撫でた。


「俺も好きにするから」


幼竜が小さく鳴いた。


こうして。


遺跡調査に来ただけだったはずのハヤトたちの帰り道には、一頭分の足音が増えることになった。

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