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ランキング最高順位51位!『異世界に転移したので、もう我慢するのはやめました ~固有能力《自由》で好き勝手に生きる~』  作者: くんくん
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荷物の隙間

翌朝。


 竜の谷へ向かう準備は、思っていた以上に面倒だった。


「十日以上って、結構長いね」


 セラが卓の上に並べた荷物を見ながら言う。


 保存食。


 水袋。


 治療道具。


 火を起こすための道具。


 替えの布。


 簡単な調理器具。


 その他、細々としたものが増えている。


「全部持つの?」


 レグが聞いた。


「全部は無理」


 ハヤトが食料袋を持ち上げる。


「途中で補給できる場所がある前提。ただ、セインの情報が三十年前だからな」


「村、なくなってるかも」


 カイルが地図を見ながら言う。


「怖いこと言うなよ」


「事実だろ」


「じゃあもっと食べ物いる?」


 レグの目が輝く。


「何で嬉しそうなんだ」


「必要だから」


「絶対それだけじゃないだろ」


 レグは答えず、保存肉の袋をじっと見ていた。


「勝手に開けないでね」


 セラに言われ、視線だけ逸らす。


「開けない」


「今、開けようとしてた?」


「見てただけ」


「ほんと?」


「……ちょっとだけ」


「正直でよろしい」


 ハヤトは笑いながら荷物を分ける。


 長旅になるなら、誰か一人へ負担を集中させるわけにはいかない。


 自分とカイルが重いもの。


 セラには治療関係を優先。


 レグは――。


「レグも持つ」


「分かってるけど、人の姿で持てる範囲な」


「竜になったらいっぱい持てる」


「それも考えたけどさ」


 ハヤトが少し考える。


「お前、荷物括りつけて飛ぶの嫌じゃない?」


「やったことない」


「試す?」


「うん」


 数分後。


「……なんか違う」


 庭で小型の竜になったレグが、背中へ袋を括りつけられたまま振り返る。


 左右に一つずつ。


「何が?」


『かっこわるい』


「そこ?」


 セラが口元を押さえている。


「似合ってるよ」


『ほんと?』


「うん」


『じゃあいい』


「早いな!」


 ハヤトが突っ込む。


 クロがその横へ来て、背中の袋を嗅いだ。


『クロも?』


「クロには持たせないよ」


『なんで?』


「嫌がるかもしれないでしょ」


 レグがクロを見る。


『もつ?』


 クロは顔を背けた。


『いやって』


「分かりやすいな」


『レグはもつ』


「ありがとう」


 レグが少し誇らしげになる。


 そのまま庭を歩いてみる。


 一歩。


 二歩。


 袋が左右へ揺れる。


 三歩目。


 片方がずれた。


『ハヤト』


「ん?」


『おちる』


「あ」


 袋が地面へ落ちた。


 中身は布だけなので問題ない。


「固定の仕方変えるか」


『レグ、じぶんでもつ』


「いや、今練習した方がいい」


『むずかしい』


「飛ぶより?」


『飛ぶほうがかんたん』


「種族差すごいな」


 結局、荷物を背負わせる案は一旦保留になった。


 昼前には、村の人から干し肉や硬いパンを分けてもらう。


 代金を払おうとすると、一部は受け取ってもらえなかった。


「礼拝堂の件もあるからね」


 村人の女性が言う。


「うちの三人を連れ帰ってくれた分だよ」


「でも結構な量ですよ?」


 セラが恐縮する。


「遠くへ行くんだろ?」


「はい」


「なら持ってきな」


 ありがたく受け取ることにした。


 問題は、その横でレグが干し肉を一枚もらっていたことだ。


「それ旅用だよな?」


「これは、もらった」


「誰に?」


「おばちゃん」


 女性が笑う。


「一枚くらいいいよ」


「ほら」


「ほら、じゃない」


 レグはもう食べている。


「おいしい」


「早いって」


 クロが下から見上げる。


 レグの手が止まった。


「……クロも?」


 尻尾が動く。


「半分ね」


 干し肉を割る。


 クロが受け取る。


「ちゃんと分けるんだ」


 セラが少し感心する。


「家族だから」


「自分の食べ物でも?」


「……」


「今迷った?」


「家族だから」


「二回言った」


 昼からは、それぞれ別行動になった。


 セラはイリスと一緒に薬や包帯の確認。


 カイルはヴァンたちと修道院の記録を整理する。


 ハヤトはレグとクロを連れて、村の外へ出た。


「弓やる?」


「やる」


 レグが背負っていた弓を外す。


 エルナの猟師ガルドから教わったものだ。


 父親と同じ名前だったせいで、最初は妙な感じもした。


 今では別人だとはっきり分かっている。


「久しぶりだな」


「覚えてる」


「ほんと?」


「みてて」


 木から少し離れたところへ立つ。


 矢をつがえる。


 弦を引く。


 ぱっ。


 矢が飛んだ。


 木には当たった。


 ただし、狙っていた印からはかなり右。


「……」


 レグが無言で矢を見る。


「当たったな」


「ちがう」


「木には」


「ここねらった」


 もっと左を指す。


「じゃあ外れた」


「うん」


 もう一本。


 今度は少し左。


 三本目。


 かなり近づく。


「ちゃんと直してるな」


「れんしゅうだから」


 ハヤトは少し感心した。


 以前なら力でどうにかしようとしていた。


 今は外れた理由を見て、一射ずつ変えている。


「ガルドに教わったの覚えてる?」


「まっすぐ飛ばす」


「それだけ?」


「力いっぱい引かない」


「うん」


「ちゃんと見る」


「うん」


「おなかすいたら休む」


「それ教わった?」


「レグが決めた」


「だと思った」


 五本目。


 矢が印のすぐ近くへ刺さる。


「お」


「近い」


「もう一回」


「うん」


 六本目。


 今度はほぼ中央だった。


「入った!」


 レグが声を上げる。


「やったな」


「見た?」


「見てた」


「セラに言う」


「言ってこい」


 弓を持ったまま村へ戻ろうとする。


「待って待って」


「なに?」


「矢回収して」


「あ」


 戻る。


 クロはその様子を眺めていた。


 ハヤトはふと、今度の旅を考える。


 十日以上。


 山。


 川。


 地図に残っていない道。


 相手は竜。


 何があるか分からない。


 けれど。


「前より心配じゃないな」


「なにが?」


「いや。レグ、結構ちゃんとしてきたなと思って」


「前もちゃんとしてた」


「そうだな」


「ほんと?」


「半分くらい」


「半分?」


「冗談」


 レグが少し睨む。


「ハヤトもちゃんとして」


「俺?」


「うん」


「俺は大丈夫だろ」


「セラに聞く」


「それはやめよう」


「なんで?」


「結果が分かってるから」


 村へ戻ると、予想通りセラに報告された。


「ハヤトちゃんとしてる?」


「何その質問」


「レグが聞きたいって」


 セラはハヤトを見る。


 少し考える。


「前よりは」


「ほら!」


「前より?」


「そこ拾わなくていい」


 レグが笑う。


「おなじ」


「何が」


「レグも、ハヤトも前よりちゃんとしてる」


「まあ、それならいいか」


「うん」


 その日の夕方。


 カイルたち六人は家の裏に集まっていた。


 ハヤトは邪魔しない方がいいと思い、少し離れた場所から見ていた。


 明日から、また別々の道になる。


 ヴァンとイリス。


 エド。


 ノア。


 ディル。


 そしてカイル。


 六人全員が同じ方向へ進むことは、もうないかもしれない。


 それでも以前とは違う。


 誰がどこにいるか分かる。


 生きていると知っている。


「行かないの?」


 セラが隣へ来た。


「六人の話だろ」


「でもカイル、今は私たちの仲間でもあるよ」


「それもそうか」


 少し近づく。


 カイルが気づいた。


「何だ」


「別に」


「なら来るな」


「明日から一緒に行くのに冷たいな」


「今はこっちの話してる」


「分かったよ」


 離れようとすると、イリスが笑った。


「いていいよ」


「ほら」


「お前は遠慮を覚えろ」


「さっきレグと一緒に成長したって話してたのに」


「誰が言った」


「俺」


「お前の自己評価かよ」


 エドが吹き出す。


 そのまま自然に輪へ入った。


 話していたのは、これからの連絡方法だった。


「ここを拠点にするわけじゃないだろ?」


 カイルが聞く。


「ヴァンが動けるようになったら西へ行く」


 イリスが答える。


「大きい町で道具を見てもらいたい」


「腕の?」


「うん」


「ならリーネ通るか?」


「多分」


 ハヤトの耳が反応した。


「リーネ?」


「温泉の?」


 セラも同時だった。


 カイルが二人を見る。


「なんだその反応」


「いや」


「別に」


 イリスが眉を上げる。


「温泉あるの?」


「ある」


 レグがいつの間にか来ていた。


「いいところ」


「レグまで」


「牛乳もある」


「そこ大事?」


「大事」


 イリスが少し興味を持った顔になる。


「温泉か……」


「身体にも良さそうだしね」


 セラが言う。


「行けたら入ってきたら?」


「そうする」


 ヴァンが横から口を挟む。


「俺は別に――」


「入る」


 イリスが決めた。


「……はい」


 ハヤトは笑いを堪えた。


「ヴァン弱いな」


「聞こえてる」


 レグが首を傾げる。


「また温泉いく?」


「俺たちは東」


「そっか」


 少し残念そうだ。


「帰りに寄れたらな」


「ほんと?」


「道次第」


「約束?」


「約束まではしない」


「じゃあ、行けたら」


「それで」


 レグは満足した。


 夕食のあと。


 明日の荷物を最終確認する。


 保存食。


 水。


 治療道具。


 地図。


 修道院で写した記録。


 ミレアの鱗。


 そして、レグの弓。


「足りないものある?」


 セラが聞く。


 ハヤトは荷物を見る。


「多分大丈夫」


「多分?」


「カイルは?」


「問題ない」


「レグ?」


「おやつ」


「保存食あるでしょ」


「おやつはべつ」


「別じゃない」


「別」


「そこは譲らないんだ」


 結局、村でもらった小さな焼き菓子を数個だけ追加した。


 レグは嬉しそうに自分の袋へ入れる。


「クロの分も」


「それ猫……じゃなくて犬系に食べさせていいやつか?」


「クロは狼に近いでしょ」


 セラが袋を確認する。


「甘いからやめとこう」


「そっか」


 レグは素直に戻した。


 夜。


 全員が寝静まったあと、ハヤトは荷物の音で目を覚ました。


「ん……」


 見ると、レグが自分の袋を開けている。


「何してる?」


「起きた?」


「今起きた」


「明日の確認」


「こんな時間に?」


「忘れものあるかも」


 意外だった。


「珍しいな」


「ちゃんとする」


「昼の話気にしてる?」


「ちょっと」


 袋の中から順番に出す。


 弓の手入れ道具。


 布。


 小さな水袋。


 焼き菓子。


 さらに。


「それ何?」


 木の小さな輪。


 ハヤトが見覚えのないものだった。


「これ?」


「うん」


 レグが見せる。


 古くはない。


 新しく削った木だ。


「今日つくった」


「自分で?」


「エドに教えてもらった」


「何に使うの?」


 レグは少し照れたように見えた。


「おもちゃ」


「クロの?」


「レグの」


「自分用!?」


「昔のなくしたらいやだから、持ってこなかった」


「修道院に置いてきたやつ?」


「うん」


 母親と父親の思い出が残った、噛み跡だらけの木の輪。


 あれはそのまま残した。


「だから新しいの?」


「うん」


 レグは木の輪を一度噛んだ。


「……ほんとに噛むんだ」


「こうだった気がする」


 歯を離す。


 そこには小さな跡がついていた。


「旅の途中で増えそうだな」


「いっぱいにする」


「ガルドにまた取られるかもよ」


「今度は取らせない」


「会えたらな」


 レグが頷く。


「会えたら」


 以前のように、「絶対会う」とは言わなかった。


 それでも暗い顔はしていない。


 ハヤトは木の輪を袋へ戻す。


「忘れ物なし?」


 レグが確認する。


「俺に聞く?」


「うん」


「じゃあ最後に一個」


「なに?」


「寝ること」


「……」


「明日長いぞ」


「わかった」


 レグは大人しく布団へ戻った。


 少しして。


「ハヤト」


「ん?」


「明日から、長い?」


「多分な」


「たのしい?」


「それは行ってみないと」


「そっか」


 静かになる。


 やがて小さな声が続いた。


「でも、みんないるからいい」


「ああ」


 それから返事はなかった。


 眠ったらしい。


 翌朝。


 ノルドの村の入口。


 ハヤト、セラ、レグ、カイル。


 そしてクロ。


 荷物を背負い、東を向く。


 見送りには、カイルの昔の仲間たちも来ていた。


「帰ってこいよ」


 エドが言う。


 カイルが顔をしかめる。


「縁起でもない言い方するな」


「今度は場所分かってるからな」


 イリスが笑う。


「連絡くらいして」


「ああ」


 ヴァンはまだ壁へ寄りかかっている。


「谷に入ったら勝手に古いもの触るなよ」


 カイルが睨む。


「お前に言われたくない」


「それは認める」


「認めるんだ」


 ノアが笑う。


 ディルは片手を上げた。


「俺たちも身体戻ったら出る」


「今度は消えるなよ」


 カイルが言う。


「お互いな」


 短い挨拶だった。


 それで十分らしい。


 レグも全員へ手を振る。


「またね」


「ああ」


「今度、温泉の話聞かせろ」


 イリスが言う。


「いいよ!」


「そこ一番元気に返事するんだ」


 セラが笑った。


「じゃあ」


 ハヤトが東を見る。


「行くか」


「うん」


 歩き始める。


 村が少しずつ遠ざかる。


 レグは一度だけ振り返った。


 全員まだ立っている。


 カイルは振り返らなかった。


 その代わり、しばらくして小さく息を吐いた。


「どうした?」


 ハヤトが聞く。


「何でもない」


「寂しい?」


「違う」


「なら?」


 カイルは少しだけ笑った。


「戻る場所が増えたと思っただけだ」


 ハヤトは何も言わなかった。


 その答えは、よく分かる。


 前を歩くレグが振り返る。


「はやく!」


「今行く!」


 東へ続く道。


 地図には、途中からほとんど何も描かれていない。


 それでも今度は、行き先だけははっきりしていた。


 竜の谷。


 そこへ向かう新しい旅が始まった。

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