アクアパッツァ
大収穫の夜、船の上はこれまでにない活気に満ちていた。
ミナトは船の倉庫で見つけた業務用ニンニクや1リットルのオリーブ油を前に、「これ、もはやチートだな。早く他のクラスメイトを探さないと」と頼もしさを感じながら、父親に作って好評だったあの一皿の構想を練っていた。
調理場となる甲板では、イラブチャーの準備が整っている。源児が磯でウロコと内臓を完璧に処理してくれたおかげだ。
「源児さん、イラブチャーって美味しいんですか? 見た目がカラフルなもので……」
「うまいぞ! ブダイだからな! 柔らかな白身の美味しい魚だ」
源児の太鼓判にミナトは確信を得る。
ミナトの調理は鮮やかだった。
イラブチャーの分厚い皮にニンニクを塗り込み網で焼くと、特有の臭みが消え、芳醇な香りが漂う。大きなフライパンでガーリックオイルを作り、焼いたイラブチャーと水を投入。匂い消しのサンニンと酒を加え、塩胡椒で味を調える。身を崩さぬよう裏返し、磯ハマグリを並べる。貝が開いた瞬間、サンニンを取り出し、イーチョーバーをふんだんに散らして完成だ。
さらにミナトは、オリーブ油・シークヮーサー・塩胡椒・少量の醤油でドレッシングを作り、コリコリした食感のスーナやアーサ、海ぶどうを和えたサラダを添えた。
主食のパスタも、塩胡椒とイーチョーバーでシンプルに。源児が運んできた石ミーバイは、半分をシークヮーサーと塩胡椒のマリネに、もう半分は醤油に業務用ショウガと島大根おろしを添えた薬味スタイルで仕上げた。
食卓の中央に並ぶ饗宴。「頂きます!」
さくらがスープを啜り「すごい。こんなに本格的な料理、この島で食べられるなんて!」と目を丸くする。健太はパスタをスープと絡めて夢中でかき込み、カナデはスーナのコリコリとした食感に顔をほころばせた。
「本当に美味いな! ミナト、お前料理の天才かよ!」
「あはは、お父さんの受け売りだよ」
船上は久しぶりの笑顔と活気に包まれていた。
食事が一段落したその時だった。ジャングルの暗闇から、草をかき分ける「ガサガサ……」という乾いた音が響く。
ミナトが箸を止め、源児が銛を手に闇を凝視する。草むらが割れ、現れたのは、泥だらけの制服を着た少女――西グループの凛だった。彼女は遠くから漂う焚き火の煙と灯りを見つけ、仲間を守る一心で勇気を振り絞ってやってきたのだ。
「……みんな、無事なの?」
再会に驚く南グループの面々。しかし、凛は目の前に並ぶ豪華な食事を見て目を見開いた。
「こんな……この島で、こんな料理ができるなんて……」
ミナトはすぐさま彼女に温かいアクアパッツァとパスタを差し出した。
「凛、まずはこれを食べて。温まるから」
凛は一口食べると、泣きながら「美味しい……美味しいよ……!」と嗚咽を漏らした。落ち着きを取り戻すと、彼女は震える声で現状を語り始めた。火が起こせず、森の奥で凍えながら仲間が体調を崩していること。
話を聞いたミナトは強く決意した。
(一刻も早く、残りの3人を迎えに行かないと)
南グループの温かさが、バラバラになったクラスメイトを繋ぎ止める最初の一歩になろうとしていた。




