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幻想終末の欠落者  作者: あした
【第六章】極限解放
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第六十八話 本物と偽物

「レンさんの剣に黒いオーラが……!」


「もしかしてレンっち、≪魔晶術ましょうじゅつ≫が使えるよーになったの……?」


「嘘……」


 レンの黒剣には、ウツロに取り憑かれた時と同じ闇のオーラが纏っていた。


 それに三人の少女は驚愕する。


 そして―――ついに、レンが≪魔晶術ましょうじゅつ≫が使えるようになったことを理解した。


 以前のレンは、朽葉くちはアオイに対する罪悪、星無ほしなしミライに対する嫉妬、≪魔晶術ましょうじゅつ≫の使えないことへの焦燥によって、精神が不安定で≪魔晶術ましょうじゅつ≫が発動できなかった。


 しかし―――『ミライと対等になりたい』という『本当の願望』を思い出し、心の闇が晴れ、≪魔晶術ましょうじゅつ≫が可能となった。


 だが、今のレンは、そんなことに喜んでいる余裕もない。


 ただ、己の使命を果たす、強い覚悟だけしかない。


(……オレは親友ミライにしちゃいけねぇことをした。仲間を裏切った。これだけは言い訳しちゃダメだ……。オレはとんでもねぇ過ちを犯した。だから、償わねぇと……全員を逃がさねぇと!! たとえ、オレが死ぬことになっても―――ッ!!)


「空宮……あん時、お前一人に重荷を背負わしちまった。今度は、オレの番だ。絶対にお前たちを守ってみせる。―――修行もなんもしないで手に入れた≪魔晶術ましょうじゅつ≫で、な?」


 首だけを振り向かせたレンは、屈託のない笑顔を見せる。


 ミライの真似だ。


 ミライなら、この絶体絶命の窮地でも笑顔を浮かべているからこそ、レンは笑ったのだ。


 絶望に押し潰されそうな仲間に、希望が灯るように、希望が消えないように。


 ―――かつてミライが、自分にそうしてくれたように。


 軽口を叩いたレンであるが、決して恐怖していないワケではない。


 だから、その笑顔は精一杯のモノで、恐怖に飲み込まれれば表情はすぐに絶望に染まることだろう。


 けれど、それは絶対にない。


 レンには強い気持ちがある。


 ―――仲間を、友達を、親友を守り切るという想いが。


 だから、クアと天使の軍勢を見据えて言う。


「オレが時間を稼ぐ!! だからお前たちは―――その間に逃げろ!!」


「でも、そしたらレンさんは……殺されてしまうじゃないですか!? できません!! そんな見捨てるような真似なんて―――」


 瞬間、アオイの隊服の袖を誰かに掴まれた。


 振り返り、アオイは袖を掴んだ―――サクラを見る。


「レン、覚悟した。無視、ダメ……っ!」


「レンっちの言う通り、エルちゃんたちは逃げよー……。エルちゃんたちにできることは、それだけだよ……」


 悔しげに顔を歪めて涙目でアオイを見つめるサクラ、ヘラヘラせずに真剣な表情でアオイを見つめるエルザ。


 その二人の顔に、声に、感情に、アオイは納得させられてしまう。


 歯噛みした後、アオイは振り返ってレンに告げた。


「レンさん!! ワタシたちが救援を呼ぶまで、絶対に死なないでください!! 絶対にです!!」


(命張って守ることが贖罪だって思ってたのに、そんなこと言われちゃあ死にたくねぇって思っちまうだろ……っ。いや、ちげぇ……それでいいんだ。また大事なコト忘れちまってた。生きなきゃ―――夢を叶えることも、復讐を果たすことも、最後まで仲間を守り抜くことも、ミライとの約束を守ることもできねぇだろーが……)


「ホント、バカだな……オレ。ミライと一緒じゃねぇか……」


 呟き、そっと涙を流すレン。


 その表情は微笑を浮かべていた。


 恐怖を押し殺すために無理やり口角を上げていない、柔らかな微笑みだった。



「―――あぁ、ゼッテェ死なねぇ!!」



 涙を振り切り、レンは言い放つ。


 同時に、エルザ、アオイ、サクラの三人は振り返って走り出した。


「お前たち、あのゴミどもを逃がすな……殺せ」


「「「はっ」」」


 クアが命令すると、三体の側近の天使が≪天生術てんせいじゅつ≫を発動する。


 突き出した両手から炎、水、風が放たれた。



「させるかよ!! ≪虚空ノ剣(ロスト・ヴェイン)≫―――ッ!!」



 叫び、レンが三つの≪天生術てんせいじゅつ≫を闇の剣で横一文字に薙ぎ切ると―――消失した。


 100体以上の天使たちが驚愕すると、


「ほう……術を消失させる剣か。面白い」


 興味深そうに顎に手を当て、クアが言った。


「さぁ……ドンドン来いよ。全部―――消してやっから……」


「そうか、では試してみよう」


 クアは片手を突き出す。


 術が放たれると警戒し、レンは黒剣を正眼に構えた。


「―――≪灰槍はいそう≫」


 突き出した手の平から、灰の槍が次々と放たれる。


「うおおおおおおおおおおおおおお!!」


 雄叫びを上げ、悉くレンはその灰の槍を消失させていく。


「やるではないか。では―――本気でいくぞ」


 次の瞬間、先ほどとは桁違いの速度で灰の槍が放出される。


 それはまるで、弾丸のような速さ。


 とても肉眼では追いつけず、何事にも反応できるようにしていたレンの頬を掠める。


 その結果、灰の槍を防げず、後ろから少女の三つの悲鳴が重なる。


 一本だと思われていた灰の槍は、三本放出されていたのだ。


 反射的に悲鳴のした方へ振り返れば―――灰の槍で心臓を貫かれた、エルザ、サクラ……アオイが、大量の血をそこから流しながら倒れていた。


「……あ」


 レンはその場で両膝をついて、≪魔装≫の発動ができず、カランと黒剣を手放した。


「……なんで、オレは、逃がし、たかったのに。どうして、オレが、先に、死んで、ないんだ。オレは、みんなを、守ることも、罪滅ぼしすら、できなかったのか……?」


「罪滅ぼしだと? 何を言っている。人間(貴様)が生まれた時点で、その存在自体が罪なのだ。故に、どんなに贖罪をしようとも、貴様らの罪は消えることはない―――未来永劫にな」


 いつの間にか背後に立っていたクアは、灰の槍を握っていた。


 そしてその槍で、容赦なくレンの心臓を貫いた。


 ゴボッ、とレンは口から血を吐き出し、無様にうつ伏せに倒れる。


 その時にはもう、役目を終えた灰の槍は霧散していた。


 口から血を流し、それを上回るほどの心臓からの出血で、冷たいアスファルトの道路を赤に染め上げる。


 血溜まりに浸かって、レンが最初に感じたのは熱。


 皮膚の中では心地いい暖かさなのに、体外に出れば血はこんなにも熱かった。


 けれども、急激に冷えていく。


 それほどまで出血したから。


 だが、その冷たさもすぐに曖昧になる。


 感覚が徐々に亡くなってきたから。


 微かに光が残った虚ろな瞳に映る視界はボヤけ、手足の感覚もあやふやで地面の硬さも何も感じない。


 聞こえる息遣いも遠くに感じる。


 いよいよ、五感が死にそうになる。


 それに伴い、意識が急速に遠のいていく。


 激痛も、息苦しさも、凍えるような極寒も、もう何も感じない。


 全ての苦痛から解放された。


 死に近づくことが、死ぬことそのものが―――神様が最期を迎える人間に与えた、祝福のように思える。


 ……でも、レンはそうは思えないし、思わない。


(バチが、当たったんだ……ミライを傷つけたから。だから、オレは、なんにもできねぇまま、死ぬんだ……。ミライ、ごめん……約束守れそうになかったよ。…………………………ごめん)


 ただただ後悔で己を苛み、直後、瞳の光は完全に消え失せる。


 レンは死んだ。


 レンは成れなかった。


 レンの生涯は、本物の希望を夢見るだけの―――偽物の希望で終わった。


 血溜まりで濡れた赤い足で、クアはレンの死体を仰向けに変える。


「絶対に逃がすとホザいておきながら、それを果たすことができずに無様に死ぬとは……なんたる矛盾」


 死んだレンの顔を、心底つまらなそうに、ゴミを見るような眼差しでクアは見下ろす。


 一切の光が入っていない死んだレンの瞳。


 それが気に食わなくて、目障りだった。


 クアは片足を軽く上げる。


 そこから、レンの鮮血が一滴零れ落ちた。


 刹那、



「―――だから人間は、ゴミなんだ」



 クアはレンの顔を足で踏み潰した。


(なんだ……!?)


 しかし、レンの眼前で踏み潰そうとした足が止まる。


 何か嫌な気配を感じて、クアはサッと振り返った。


 そこには、右腕を失った少年がいた。


(あれは、黒髪のゴミが抱きかかえていた……人間か?)


 クアは、その少年に心当たりがあったようだ。


 その少年はキョロキョロと、周囲を見渡す。


「あれぇ? きょうかぁん。サクラちゃん。エルザちゃん。アオイちゃん」


 絶命した、教官と、仲間と、トモダチの名を呼び、


「―――レン」


 視線を前に戻して、レンを見つめた。


「みんなぁ。ねてるぅ。チぃいっぱいだして『イタイ』のにぃ。あれぇ―――おそらいっちゃったのぉ?」


 レンから教えてもらった『痛み』から……全員が寝ているのではなく、死んだことを理解した。


 かつてのように笑ったり、怒ったり、呆れたり、驚いたりせず、ピクリとも動かない死体たち。


 その時、少年の表情と感情にある変化が生じる。




「ぜんぶキミがやったのぉ? ―――スゴぉい! ぼくとあそぼぉ!」




 キラキラとした純粋無垢な瞳で、本当に心の底から楽しそうな笑顔で、興奮する少年はクアを遊びに誘う。


 ―――純白は穢されない。


 ―――無垢な心は色褪せない。



 トモダチの死如きでは―――希望(星無ミライ)は、決して消えない。



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