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幻想終末の欠落者  作者: あした
【第六章】極限解放
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第六十三話 ゴミ以下

「―――弱いね、キミたちっ★」


 紅光を放つ黒大剣を肩に担ぎ、エルザは八重歯を覗かせた笑みで言い放つ。


 その対象は、肩を上下にさせて息切れしている二体の天使―――スーナとジャイガだ。


「なんであの人間は、ピンピンしてるんだ……!?」


「俺たち天使は、人間の何倍も体力があんのに、どうして……!?」


 二体の天使とは対照的に、エルザは全く疲弊していなかった。


 自分たちと同じくらいの体力を酷使したはずなのに、だ。


 天使は人間を遥かに凌駕するほどの身体能力を有しているため、体力で負けるなど絶対にありえない。


 しかし現実として、今ソレを目の前で目の当たりにしているため、動揺するのは当然のことだ。


 ……けれど、もっと不可解な点があった。


「なんで一度も―――」


「反撃して来ねえんだ!?」


 疲弊こそしているが、二体の天使は傷を負っておらず、また体を覆う白装束からも攻撃を受けた形跡もなくキレイなままだった。


 今まで一方的に二体の天使が攻撃をし続け、それをエルザは反撃することなく次々と回避していたのだ。


 その問いに、あっけらかんとした様子でエルザは答える。


「―――キミたちのリーダ―が、キミたちを使って様子見してるからだけどっ?」


「「………」」


 口をポカンと開けるスーナとジャイガ。


 ……つまり、エルザの言っていることは当たっているようだ。


 エルザから背を向け、スーナとジャイガは顔を寄せて小声で話す。


「あの人間……バカそうな顔をしてるが、一発で俺たちの作戦を見抜いたぞ……意外に頭が切れている!」


「だから、ああやってバカなそうなフリしてんだよ、俺たちを油断させるためによ……絶対!」


「何コソコソ喋ってるんだろーっ?」


 コソコソ話するスーナとジャイガに感想を零すと、エルザはその後ろで腕組みしているリブロに「ねーっ★」と話しかける。


「エルちゃん、様子見するの飽きてきたなっ★ キミもボーッと見てて暇じゃないっ? エルちゃんとぶっ殺し合おうよ―――ブロッコリーっ★」


「ブロッコリー……だと?」


 顔に影を落とし、一際低い声で言うリブロ。


 その声には、深い怒りが漏れて出ていた。


「あーあ、あの人間終わったな……」


「リブロにあの禁句を言っちまったら―――また、アレが始まっちまうぜ……」


 辟易していそうな、スーナとジャイガ。


 しかし、その口角は確かにニヤリと嬉しそうにつり上がっていた。


 そんなスーナに、リブロは腕を組んだまま指示を出す。


「スーナ! アレをやれ!」


「言われてなくても―――≪毒霧≫ッ!!」


 指示を受けたスーナは≪天生術てんせいじゅつ≫を発動し、エルザに向かって口から毒の飛沫を飛ばした。


 直線状に向かってくる毒の飛沫を、エルザは軽々と横へ回避し、


「外しちゃったねっ★」


 挑発するほど余裕があった。


 瞬間、まるで狙い通りだと言わんばかりに、リブロはニヤリと口角をつり上げる。


 攻撃が外れてしまったというのに、なぜか―――?


「バカが! ゴミ、それで回避したつもりか―――≪風迅≫ッ!!」


 リブロは腕を突き出し、その手の平から螺旋に渦巻く風が放出される。


 それは、エルザを目掛けてではなく―――エルザが避けた毒の飛沫だった。


 その風によって、毒の飛沫がこの屋上一面に蔓延する。


 これでは、エルザだけではなく、天使側も攻撃を受けることになる。


 いくら天使といえど、同族の放った毒には侵されるからだ。


 そのため、スーナとジャイガは毒の発生源から逃げるために、後方のリブロの元まで瞬時に移動し、


「―――≪土丸つちまる≫ッ!!」


 ジャイガが≪天生術てんせいじゅつ≫を発動して、ドーム状の土塊を生成して毒から身を守った。


「いつもの、お決まりのパターンだな」


「ああ。毒で身動き止めて、苦しめて―――最後はリブロが風で切り刻む。さすがに、コレは避けられねえだろ。アイツ、死んだぜ? つーか、これやんの何回目だよ?」


「いちいちゴミを処理した回数など気にするな。……もう、毒は消えたはずだ。今すぐ僕は、あのゴミを切り刻みたい。さっさと術を解除しろ」


「へいへい」


 適当に返事をして、ジャイガは≪天生術てんせいじゅつ≫を解除すると土塊がバラバラになる。


 天使たちの周囲に土の破片が散乱し、夜風が流れ、毒々しい紫の霧はキレイに無くなっていた。


 足元を見ずに、リブロは土の破片を蹴って歩き、術を発動するが中断した。


「……ゴミは、どこだ?」


 エルザの姿が、この屋上から消えていた。


 辺りを見回しても、どこにもいない。


 まだ不思議な点があり、その部分をスーナは指を差して告げる。


「あんなところに―――穴なんてあったか?」


「そうかー? ここボロいし、元々あったんじゃねーの?」


「いや、そんなはずは……」


「―――ああ、スーナの言う通りだ。バカが間違っている」


「誰がバカだ!? 知性の塊だろうが!」


 リブロにバカ呼ばわりされて、ジャイガは知性の欠片もないセリフで言い返した。


 何やら確信を得ているリブロに、未だ確信を得ていないスーナは尋ねる。


「じゃあ、あの穴は一体……」


「そんなの決まっている。そんなことをできるのは―――あのゴミだけだ」


「バカな!? なんの音もしなかったぞ!?」


「それはそうだ。バカが生成した土の壁は、≪毒霧≫の侵入を許さないくらい、バカみたいに分厚いからな。それで僕たちには聞こえなかったんだ」


「はあ!? 俺のせいかよ!?」


 自分を指差し、戦犯者扱いされたことにジャイガはイラつく。


「おい、逃げられたってことか……。マズいぞ、このままだと救援を呼ばれて―――!」


「それはないな。あのゴミの眼は、血に飢えている……。アレは僕と―――同類だッ!!」


 リブロはバッと振り返ると、視線の先の上空に―――紅光を放つ黒大剣を握る、エルザがいた。


 リブロの言う通りにエルザは穴を空けて毒の霧を回避し、そして三体の天使を殲滅すべく、廃墟を蹴ってここまで跳び上がったのだ。


 リブロは、エルザが逃げずに殺しに来ることを確信していた。


『じゃあ―――始めよっか?』


 そう告げた時の、狂気に鋭く光る真紅の双眸は、エルザが『血』と『殺し合い』を求めていることを物語っていた。


 ソレによって、自分と同じ匂いを感じ―――必ず殺すために自分たちの前に現れることをリブロは確信したのだ。


 スーナとジャイガも振り返ると、驚愕に目を見開いてエルザを見上げた。


 狂気の笑みを浮かべるリブロと、余裕そうな微笑を浮かべるエルザの視線が交錯する。


 チッ、とリブロは舌打ちをする。


 今のエルザの表情からは、何も狂気を感じない、気配さえない、狂気の塵さえ纏っていない。


 ―――それは、リブロの神経を逆撫でにした。


「ゴミ! お前の狂気は、血に飢え、殺しを欲し―――憎悪に満ちているッ!! 今すぐソレを、この僕に見せてみろッ!!」


 リブロが、エルザと同類だと感じのたのは、『血』と『殺し合い』よりも―――真紅の双眸に燃え上がる『憎悪』だった。


 感情のままに叫び、リブロは両手を広げる。


 その手の平から、螺旋に渦巻く風が放出された。


 そして、



「その狂気を、僕の狂気で叩き潰してやるッ!! ≪螺旋風迅らせんふうじん≫―――ッ!!」



 両手を突き出し、二つを風を合体させ、最大の術を放つ。


 螺旋の風は、荒れ狂う暴風となりて、エルザを木っ端微塵にすべく襲いかかる。


 それに合わせて、


「≪毒霧≫ッ!!」


「≪土丸つちまる≫ッ!!」


 スーナが口から毒の霧を、ジャイガが両の手の平から土塊を飛ばす。


 それらの術は、リブロの暴風に吸い寄せられ、強化を促した。




「へー、そーなんだっ★ ―――やれるもんなら、やってみなよ」




巨大ぶっ殺しジャイアント・キリング≫、とゾッとするほど低い声で言い、エルザは目をかっぴらいて狂気に歪んだ笑みを浮かべる。


 黒大剣の剣身が巨大化する。


 40メートルある、この廃墟の高さと同じくらいに伸び、それに合わせて横幅も長くなり、厚さも増していた。


 さすがのエルザでも重たかったのか、ゆっくりとした動きで超巨大化した黒大剣を振りかぶる。


 ブゥン、と木々を揺らすほどの風圧を発した直後、三体の天使との合体術である暴風が眼前にまで迫ってきた。


 エルザは超巨大黒大剣を振り下ろし、暴風と衝突。


 そして―――切り裂いた。


 切り裂かれていく暴風を呆然と見上げる、スーナ、ジャイガ……リブロの三体の天使。


 迫りくる、黒大剣を見つめて、


(そんな……僕が敗れるなんて。そこまであのゴミは、憎悪しているというのか……? そんなゴミに処分される僕は―――ゴミ以下……?)


「そんなの嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だああああああああああ!!」


 自分の本当の価値を知り、それを全否定したくて喚き、醜く顔を歪めるリブロ。


 けれど、リブロを蝕む苦痛は終わりを迎える。



「―――うっさいんだよ、ゴミ。ぶっ死んじゃえええええええええええええッ!!」



 狂気に笑う、エルザの特大の罵声と共に。


 エルザの振り下ろした一刀は、廃墟ごと破壊して、三体の天使を撃破した。


 崩壊を遂げた廃墟から、大きな煙が立ち込み、それに紛れて黒い塵が宙に舞い上がる。


 空中で術を解き、エルザは着地。


 それから、黒大剣を背中に背負って、


「ふーっ★ 思いっきりぶっ殺せて、エルちゃんスッキリーっ★」


 満足そうな顔で、手の甲で額をゴシゴシ拭いた。


 本当に疲れているのか、ファッション疲れなのか怪しいが……。


 ふと、視線を横へ向けると、


「あれーっ★ アオイっちとサクラっちじゃんっ★」


 放心状態のアオイとサクラを見つけた。


 二人の元へ、エルザは駆け寄る。


「二人も天使倒せたんだねっ★ さすが、エルちゃんの完璧な采配のおかげだねっ★」


「は、ははは、その通りですね……。ワタシたち、エルザさんの加勢にここへ来ましたが……」


「必要、なかった……」


「そーだったんだっ★ 心配してくれて、ありがとっ★ でも、エルちゃんは最強無敵なので、助太刀などいらないのですっ★ ニャハハハハハッ★」


 両手を腰に当て、エルザは高笑いした。


 そして、小首を傾げてキョトンとした顔で尋ねる。


「どころで、なんで二人とも―――さっきまで変な顔でボーッとしてたのっ?」


「い、いえ……単独で三体も天使を倒すなんて、相変わらずエルザさんスゴいなーって感心してたんですよ! ねっ、サクラさん!」


「………(こくこく)」


 アオイは勢いよくサクラに顔を向けて同意を求めると、何度もサクラは頷いた。


 その二人を見たエルザは、


「なーんだっ★ ニャハハハハハッ★」


 もう一度、高笑いを再開した。


 ……しかし、真相はこうだった。


「ワタシたち、三人がかりでボロボロの廃墟を壊したというのに……」


「エルザ、頑丈な廃墟、簡単に破壊……ショック」


 夜のシャドウを討伐するために、アオイ、サクラ、レンの三人は、ボロボロの廃墟を壊した。


 しかし、エルザが破壊した廃墟は、頑丈で、なおかつ単独だった。


 そのことを比較して……アオイとサクラは大きなショックを受けていた。



「―――おんぶしてくれて、ありがとうございます。エルザさん」


「ううん、全然いーよっ★」


 黒大剣を片手で握り、エルザはアオイをおんぶして走っていた。


 エルザは、並走するサクラに顔を向けて、


「サクラっち―――チビだから、おんぶできないもんねっ★」


「チビ、心外……!」


 八重歯を覗かせた笑みで告げるエルザに、サクラはジト目で睨み上げる。


 けれど、エルザはその眼差しに怯むことはない。


 アオイは二人のやり取りに「あはは……」と苦笑いすると、


「エルザさん、あの天使たちを倒す時―――何か叫んでいましたよね? 一体、何があったんですか?」


「あー、ちょっとムカつくことされたんだよねっ★」


「珍しい。エルザ、ムカつく」


「何にムカついたんですか?」


 アオイの質問に、エルザは前を向いたまま答える。


「―――あのブロッコリー、エルちゃんの特等席をなんの断りもなく使ったことっ★」


「「特等席……?」」


 アオイとサクラは、同時に疑問の声を発して眉をひそめた。


 が、どうやら、リブロ=ブロッコリーという解釈は一致していたのか、それには特に疑問を持たなかった。


「あの天使たち、なんか偉そーに上から登場してきたじゃんっ? それで信号機の上に降りた、ゴミゴミうるさいブロッコリー天使なんだけどさ―――あそこの信号機、エルちゃんの特等席なんだよねっ★ だから、スッゴいムカついたっ★」


 ところでさっ、とエルザはアオイに尋ねる。


「アオイっち、体重軽すぎないっ? ガリガリっ★ ド貧乳っ★」


「気にしてること言わないでくださ~~~~~~~~~~いっ!!」


 残酷なエルザの言葉に、アオイはコンプレックスを鋭い刃で刺激され……涙目になって叫んだのだった。


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